Category Archives: 不当労働行為

不当労働行為320 不当労働行為に基づく組合の損害賠償請求が一部認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間がんばりましょう!

今日は、不当労働行為に基づく組合の損害賠償請求が一部認められた事案について見ていきましょう。

川上屋事件(岐阜地裁令和6年7月5日・労判ジャーナル152号20頁)

【事案の概要】

本件は、①X組合が、Y社の不当労働行為により非財産的損害を被ったと主張して、Y社に対し、不法行為に基づく損害賠償として110万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めるとともに、②X2が、Y社の安全配慮義務違反によって中等症うつ病エピソード等を発症するに至ったと主張して、Y社に対し、債務不履行に基づく損害賠償として185万3703円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、X組合に対し、33万円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X2に対し、22万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 とりわけ先行配転命令の一部撤回及びその後本件配転命令に至るまでの人員配置の経緯等に照らせば、a店の喫茶部門から本店の製造部門への本件配転命令について、合理的な必要性があったとは認め難い。このことに加え、従前からのXらとY社の緊張関係、Y社による本件誓約書の徴求、安全衛生委員会の不開催(被告は、開催する時間的余裕がなかった旨主張するが、平成28年1月から同年7月までに計5回開催された同委員会がその後全く開催されなくなったことにつき、合理的な説明がされたとはいい難い。)といった経緯も考慮すれば、Y社による本件配転命令は、前訴判決の認定・判断のとおり、X組合の運営に介入してXらの影響力を低下させようとするものであって、労働組合法7条3号所定の支配介入に当たると認めるのが相当である。
そして、そのような本件配転命令について、X組合との関係で故意・過失や違法性を否定すべき特段の事情があることはうかがわれない。
以上によれば、本件配転命令は、故意又は過失によりX組合の法的利益を違法に侵害するものとして、不法行為にあたるというべきである。

2 X2は、本件要請書の内容に納得がいかず、他の従業員らが本当にそのように認識しているのかどうか、確かめようとしたものと解される。このような行為は、本件要請書に係る申告者に不安感等を抱かせかねず、ひいては以後のハラスメント申告等を思いとどまらせかねないものであって、問題がないとはいえないものの、申告者探しであるとまで断ずることも困難であり、当該申告者との関係で、その「プライバシー」(就業規則72条6項)を侵害するとか、「相談をしたこと…を理由として不利益な取扱い」(同項)をするとか、「職権等の立場または職場内の優位性を背景にして…人格や尊厳を侵害」(就業規則69条14項)するものであるなどと評価することはできず、懲戒事由にあたるとは認め難い

不当労働行為による組合等に対する損害賠償額のある程度の相場がわかります。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為319 変形労働時間制導入の撤回等に関する団体交渉およびその後の対応が不当労働行為に該当するとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、変形労働時間制導入の撤回等に関する団体交渉およびその後の対応が不当労働行為に該当するとされた事案を見ていきましょう。

フォーブル事件(広島県労委令和5年11月2日・労判1310号163頁)

【事案の概要】

本件は、変形労働時間制導入の撤回等に関する団体交渉およびその後の対応が不当労働行為に該当するかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 Y社は、組合の要求や主張に対し、変形労働時間制を導入できるとする具体的な根拠として、要件を具備していることや、導入する理由及び必要性等について、C労基とのやり取りなども踏まえて具体的に説明すべきであった。

2 変形労働時間制の解釈等に係る組合の主張は、その根拠が提示されておらず、組合独自の解釈に基づくものと評価し得ることは否定できない。
しかし、仮にそうであったとしても、組合に導入を納得させることまでは求められておらず、また、組合の要求や主張に対応する回答としては、導入できるとする具体的な根拠やC労基の見解、導入の理由や必要性などをもって説明すべきであり、それは可能であった。

3 以上のとおり、本件団体交渉におけるY社の対応は、組合に対して、導入できるとする具体的な根拠や導入の理由及び必要性等について十分な説明等を行うことなく、自己の主張を一方的に述べるだけのものといえ、不誠実であったと認められる。

上記命令のポイント2は団体交渉独特の考え方であり、非常に重要な視点ですので是非、しっかりと理解しておきましょう。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為318 緊急事態宣言期間中における法人の対応が団交拒否にあたらないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、緊急事態宣言期間中における法人の対応が団交拒否にあたらないとされた事案を見ていきましょう。

社会福祉法人賛育会ほか事件(東京都労委令和5年9月19日・労判1304号82頁)

【事案の概要】

本件は、緊急事態宣言期間中における法人の対応が正当な理由のない団交拒否にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

正当な理由のない団交拒否にはあたらない

【命令のポイント】

1 団体交渉は、労使双方が同席し、対面で自己の意思を円滑かつ迅速に相手に直接伝達することによって、協議、交渉を行うことが原則であり、労使双方の合意がある場合又は直接話し合う方式をとることが困難であるなど特段の事情がある場合を除いては、書面の回答のみによって団体交渉が誠実に実施されたことにはならないというべきである。

2 病院における新型コロナウイルス感染及びクラスター発生の抑止のために緊急事態宣言発令中は対面の団体交渉を実施しないとした法人の対応は、当時の状況下においては、医療機関として相応の合理性のある対応であったというべきであり、直接話し合う方式の交渉を行うことを困難とする特段の事情があったものと認められる
加えて、組合による3年6月4日付団体交渉申入れに対し、法人が緊急事態宣言が同月20日で解除される見込みであるとして翌21日に団体交渉に応ずる旨を回答し、同日に団体交渉が開催されていること、第4次緊急事態宣言が9月30日をもって終了した際は10月15日に団体交渉が開催されていることから、法人は、緊急事態宣言が終了した際は比較的早期に、対面での団体交渉に応じていたことが認められる

妥当な判断です。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為317 職種変更、賞与不支給等の不当労働行為該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、職種変更、賞与不支給等の不当労働行為該当性に関する事案を見ていきましょう。

ヒガシトゥエンティワン事件(大阪府労委令和5年8月18日・労判1302号91頁)

【事案の概要】

本件は、職種変更、賞与不支給等が不当労働行為に該当するかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 会社と組合との間の労働協約には、「組合員を大量に異動させるとき及び組合役員を異動するときは労使協議会で協議の上行う」と規定があるところ、会社は、令和2年職種変更組合員17名を総合職に職種変更するに当たり、労使協議会を開催していないのであるから、かかる会社の対応は、本件労働協約違反とみるのが相当である。

2 会社は、労使関係が緊張関係にある中で、運転職以外の従業員については、令和3年度夏季賞与を支給する一方で、運転職のみ支給しなかったのであるから、会社の行為は、運転職が組合の組合員であるが故になされたものであるとみるのが相当である。

上記命令のポイント1のように組合との間で労働協約を締結している場合には、その内容に反する行為はできませんので注意しましょう。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為316 従業員の勤務中の死亡について組合からの団交申入れに対し、会社が、組合員であったことの確認を求め、組合がこれを拒否したため団交が開催されなかった事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、従業員の勤務中の死亡について組合からの団交申入れに対し、会社が、組合員であったことの確認を求め、組合がこれを拒否したため団交が開催されなかった事案を見ていきましょう。

JR東日本運輸サービス事件(群馬県労委令和5年9月27日・労判1300号87頁)

【事案の概要】

本件は、組合が、Y社の従業員であったXが勤務中に死亡したことについて、その勤務状況の説明等やY社の従業員に対する安全配慮義務等を交渉事項とする団体交渉を申し入れたところ、会社は、Xが組合員であったことの確認を組合に求め、組合がこれを拒否したため団交が開催されなかった事案である。

【労働委員会の判断】

本件申立てを棄却する。

【命令のポイント】

1 労組法7条2号において規定する「使用者が雇用する労働者の代表者」とは、「現に使用者と雇用関係にある労働者の代表者」を意味し、労働組合がそれに該当する。
しかし、本件ではXは死亡前に組合に加入したことがないことは前記認定事実のとおりであり、また、Y社の従業員の中には組合の組合員が存在しないことが認められる。
したがって、組合は、労組法7条2号に規定する「使用者が雇用する労働者の代表者」に該当するとはいえない。

あまり見かけない論点ですが、労組法7条2号の規定からすれば、上記の判断となりますね。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為315 団交拒否が不当労働行為にあたらないとされた事案(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、団交拒否が不当労働行為にあたらないとされた事案を見ていきましょう。

有田川漁業協同組合事件(埼玉県労委令和5年5月25日・労判1297号161頁)

【事案の概要】

本件は、組合が令和4年6月22日に団体交渉を申し入れたのに対し、Y社が本件申立てまでにおいて団体交渉に応じなかったことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたらない。

【命令のポイント】

1 本件申立てに至るまで、Y社は、組合からの団体交渉申入れに関して、その都度文書により対応しており、団体交渉そのものを拒絶する意思を示したとするような事実は認められない。その後も、Y社は、交渉日時や交渉方法について組合とのやり取りを継続し、交渉日時を調整して、令和4年8月30日、組合の希望通りリモート方式による団体交渉に応じている。また、当該団体交渉の日程を調整するに当たり、Y社が殊更開催を先延ばしにしようとした意図も認められない
したがって、本件申立時点では、まだ団体交渉は開催されていなかったものの、組合からの団体交渉申入れに対し、Y社がこれを正当な理由なく拒否したとまでは言えず、Y社の対応が労組法7条2号の不当労働行為に該当するとは認められない。

理由を読むかぎり、使用者側に団交拒否の姿勢は見られません。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為314 団体交渉において組合が要求している資料を提示しなかったことが不誠実団交にあたるとされた事案(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、団体交渉において組合が要求している資料を提示しなかったことが不誠実団交にあたるとされた事案を見ていきましょう。

夢kitchen事件(奈良県労委令和5年1月23日・労判1298号99頁)

【事案の概要】

本件は、団体交渉において組合が要求している資料を提示しなかったことが不誠実団交にあたるかが争点となった事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる。

【命令のポイント】

1 就業規則は、同法89条により事業所に常時10人以上の労働者を使用する場合には、その作成及び労働基準監督署への届出が義務づけられており、賃金台帳及びタイムカードは、同法第109条により一定期間の保存が義務付けられている。
これらの就業規則、賃金台帳及びタイムカードはいずれも団体交渉の主要な議題であった組合員の時間外労働について交渉するに当たって重要な基礎資料となるものである。Y社は、タイムカードは店長主催の会議での要望を受けて廃棄したと主張するが、そうした事情があるからといって保存義務のある書類の保存期間が経過する前にこれを廃棄することは到底許されない
以上のことから、これらの書類の提示を組合が要求したにもかかわらず、Y社が提示しなかったことには合理的な理由がなく、労組法7条2号の不誠実団交に該当すると判断するのが相当である。

廃棄したという主張がまかり通りのであれば、都合の悪い資料は全部廃棄したことにするでしょう。

そんなことが認められているのは、どこかの国の官僚と政治家くらいなものです(皮肉)。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為313 住宅手当支給区分の変更が不当労働行為にあたるか(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、住宅手当支給区分の変更が不当労働行為にあたるかが争われた事案について見ていきましょう。

ENEOS(旧エクソンモービル・住宅手当変更)事件(中労委令和4年6月1日・労判1295号103頁)

【事案の概要】

本件は、配偶者死亡による「既婚者」から「単身独立生計者」への住宅手当支給区分の変更が不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたらない

【命令のポイント】

1 会社には、支給区分上の「扶養家族を有する者」について適用する特例措置を定めた運用ルールが存在する。運用ルールとは、独身の非管理職従業員で扶養者を有する者について、その被扶養者が就職などの理由により扶養から外れた場合、当該従業員が元被扶養者と同居する場合に限って、「単身独立生計者」ではなく「扶養家族を有しない既婚者」扱いとする、というものである。
運用ルールは、Xのような、「扶養家族を有しない者」に該当していた者が配偶者を亡くして、元被扶養者と同居しているケースを想定したものではなかった。しかし会社は、Xに配慮し、運用ルールの趣旨に鑑み、Xのケースにもこれを適用してよいと判断し、「元被扶養者と同居して生計を共にする」という要件で、「既婚者」から「単身独立生計者」に変更をしないで「既婚者」の区分のまま住宅手当の支給を認めることとした(運用ルールの取扱い)。
このような運用ルールの取扱いは、運用ルールの趣旨を従業員に有利となるように更に推し進めるものであり、合理的なものといえる。
運用ルールの取扱いを多くの従業員に統一的に適用する以上、会社が「生計を共にする」という要件を、住民票により判定できる「世帯」を基準として判断することは社会通念に合致しており、会社の上記判断は不合理なものとはいえない。

特にXに対して不利益を当たる意図・目的が客観的に認められないことから、不当労働行為該当性が否定されています。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為312 組合員がグループLINEを使用して社内の友人に組合への加入を勧誘するメッセージを送信したこと等を理由として減給の懲戒処分としたことが不当労働行為にあたるとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、組合員がグループLINEを使用して社内の友人に組合への加入を勧誘するメッセージを送信したこと等を理由として減給の懲戒処分としたことが不当労働行為にあたるとされた事案を見ていきましょう。

カンプロ事件(茨城県労委令和4年10月20日・労判1295号101頁)

【事案の概要】

本件は、組合員がグループLINEを使用して社内の友人に組合への加入を勧誘するメッセージを送信したこと等を理由として減給の懲戒処分としたことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 Xによる本件グループLINEへの本件メッセージの送信は、組合への加入勧誘を行う目的でなされたものであり、その内容が事実に反している部分があるが、Xに殊更、虚偽の事実を送信したとの認識がなく、また、Y社の信用・信頼を失墜させることについて、あえて意図した証拠はない。加えて、本件メッセージが拡散した事実は認められない。また、本件処分は、懲戒処分としては重すぎるものと判断せざるを得ず、懲戒処分は、Xに対する不利益取扱い(労組法7条1号)に当たる。

2 本件処分がなされることは、組合員はもちろん、従業員が組合への加入や何らかの関与を行った場合には、本件処分のような懲戒処分等がなされるおそれを抱かせ、ひいては、従業員の組合への不加入、組合員の脱退などの組合の活動・運営を阻害するおそれがある。よって、本件処分は、XによるY社従業員に対する組合への加入勧誘行為に干渉するものであり、組合に対する労組法7条3号の支配介入に当たる。

上記命令のポイント1のような事情がある場合、会社としては、何らかの懲戒処分を検討することは理解できるところですが、減給は重すぎる(相当性に欠く)という判断です。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為311 救済申立てが申立期間を徒過していることを理由に却下された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 

今日は、救済申立てが申立期間を徒過していることを理由に却下された事案を見ていきましょう。

ジェコー事件(埼玉県労委令和4年10月20日・労判1295号100頁)

【事案の概要】

本件は、申立人Xに対するパワハラ・セクハラを議題とした団体交渉において、Y社が事実をねつ造して回答し、Xを職場離脱の常習者に仕立て上げ、Xに精神的な虐待をしたことが、労組法7条1号及び3号の不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

申立て却下

【命令のポイント】

1 労組法27条2項は、救済申立期間を行為の日から1年としており、これは、行為の時点から長期間経過することにより、証拠収集や事実認定が困難となり、救済命令を出したとしても実益がないか、又はかえって労使関係の安定を阻害するおそれもあるとして定められた客観的な期間というべきである。
本件救済申立てに係るY社の行為としては、令和2年5月21日付けで文書を発出したことが最後であり、本件救済申立ては令和3年8月20日になされているから、本件救済申立てがY社の行為の日から1年を超えてなされているのは明らかである。

この論点の場合、ほとんど例外なく、「継続する行為」に該当するか否かが争われます。

「継続する行為」であるときは、その終了した日から1年となるため、起算日を遅らせることができるからです。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。