Category Archives: 労働時間

労働時間44 勤務時間中の業務外チャット時間も労働時間なの?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、過度の私的なチャットの利用は懲戒解雇事由に相当するが、費やした時間は労働時間とみなされるとされた裁判例を見てみましょう。

ドリームエクスチェンジ事件(東京地裁平成28年12月28日・労経速2308号3頁)

【事案の概要】

本訴事件は、XがY社に対し、平成26年7月8日付け懲戒解雇(予備的に普通解雇)は無効であり、Xは、同年8月11日付けで退職したものであるとして、労働契約に基づき、未払賃金等+遅延損害金、時間外労働に対する割増賃金+遅延損害金の支払いを求める事案である。

反訴事件は、Y社がXに対し、Xの業務中における業務外チャット時間が長時間であり、これを労働時間から控除すると給与が過払いであるとして、不当利得返還請求権に基づき、既払給与金15万8821円+遅延損害金、Xが社内のチャットにおいてY社に対する信用毀損行為をしたとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき300万円+遅延損害金の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

Y社はXに対し、未払残業代として235万1993円+遅延損害金を支払え

XはY社に対し、30万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 本件チャットは、その回数は異常に多いと言わざるを得ないし、概算で同時分になされたチャットを1分で算定すると1日当たり2時間、30秒で換算しても1時間に及ぶものであることからすると、チャットの相手方が社内の他の従業員であること、これまで上司から特段の注意や指導を受けていなかったことを踏まえても、社会通念上、社内で許される私語の範囲を逸脱したものと言わざるを得ず、職務専念義務に違反するものというべきである。
もっとも、職務専念義務違反(業務懈怠)自体は、単なる債務不履行であり、これが就業に関する規律に違反し、職場秩序を乱したと認められた場合に初めて懲戒事由になると解するべきである。

2 ・・・このように、本件チャットの態様、悪質性の程度、本件チャットにより侵害された企業秩序に対する影響に加え、Y社から、本件チャットについて、弁明の機会を与えられた際、Xは、本件チャットのやり取り自体を全部否定していたことからすれば、Y社において、Xは本件懲戒事由を真摯に反省しておらず、Xに対する注意指導を通してその業務態度を改善させていくことが困難であると判断したこともやむを得ないというべきである。

3 チャットの私的利用を行っていた時間を労働時間とみることについては、ノーワーク・ノーペイの原則との関係で問題を生じうるが、チャットの私的利用は、使用者から貸与された自席のパソコンにおいて、離席せずに行われていることからすると、無断での私用外出などとは異なり、使用者において、業務連絡に用いている社内チャットの運用が適正になされるように、適切に業務命令権を行使することができたにもかかわらず、これを行使しなかった結果と言わざるを得ない(Y社代表者も「管理が甘かった」旨述べている。)。

4 Y社は所定労働時間内になされたチャットと所定労働時間外になされたチャットの時間を区別して主張立証するものではないこと、所定労働時間外になされたチャットの態様をみても、いずれも同僚との間でなされたチャットであり、私語として許容される範囲のチャットや業務遂行と並行して行っているチャットとが混然一体となっている面があること、そのため明らかに業務と関係のない内容のチャットだけを長時間に亘って行っていた時間を特定することが困難であることを考慮すれば、所定労働時間外になされたチャットについても、Y社の指揮命令下においてなされたものであり、労働時間に当たるというべきである。

5 本件チャット(信用毀損)は、経理課長の地位にあり、Y社の経理状況を把握しているXにおいて、Y社が平成26年8月か9月には倒産するという事実を摘示するものであるところ、Y社の信用について、社会から受ける客観的評価を低下させるものであり、社内のチャット内での発言とはいえ、チャットに参加していない他の従業員への伝播可能性も十分肯定でき、現に従業員間で伝播していたことからすれば、Y社の信用及び名誉が毀損されたものと認められる。したがって、本件チャット(信用毀損)は、不法行為を構成すると認められる。

上記判例のポイント4を読むと、いかに日頃の労務管理が大切かがよくわかります。

裁判になってからではできることは限られています。

日頃から顧問弁護士等に相談をして予防法務を徹底することを強くおすすめします。

労働時間43 黙示の指揮命令の有無と労働時間該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、労基法上の労働時間に基づく未払時間外割増賃金等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

武藤事件(東京地裁平成28年9月16日・労判ジャーナル58号51頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社に対し、時間外及び休日労働並びに所定労働時間を超えた法定労働時間内の労働を行ったと主張して、労働契約に基づいて、割増賃金約228万円及び法内残業分の未払賃金49万1054円等の支払を求めるとともに、労働基準法114条に基づいて、付加金約210万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社代表者は、本件雇用契約書を取り交わすに当たり、従業員に対し、通常業務として、催事が開催される際に従業員が自らの商品の搬入、陳列、販売及び搬出を行うことを命じたことはない旨の陳述・供述をしており、X本人も、当然に自分が行うものであると思っていた旨の陳述・供述をしているにとどまることからすると、他に特段の事情のない限り、Xが通常業務として自ら商品の搬入、陳列、販売及び搬出を行うことをY社から義務付けられていたと認めることはできないところ、本件全証拠を検討してみても、特段の事情があると認めるに足りる証拠はないこと等から、たとえXが所定労働時間外に自ら商品の搬入、陳列、販売及び搬出を行うことがあったとしても、当該行為がY社の指揮命令下に置かれていたものと評価することはできず、これに要した時間が労基法32条の労働時間に該当するということはできないから、Xの割増賃金及び法内残業分の未払賃金の請求並びに付加金請求は、いずれも理由がない。

労働者自身も明示の指揮命令の存在を認めていないようです。

そうすると、裁判所に黙示の指揮命令の存在を認定してもらうほかありませんが、ここはクリアできなかったようです。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間42(阪急バス事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、バス助役の仮眠時間につき労基法上の労働時間に当たらないとされた裁判例を見てみましょう。

阪急バス事件(大阪地裁平成27年8月10日・労経速2281号9頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結し、バス助役として勤務しているXが、時間外労働を行ったが割増賃金が支払われていないとして、平成23年1月から同年11月までについてはY社の違法な労務管理によって損害を被ったとして不法行為に基づき、同年12月から平成25年9月までについては雇用契約に基づき、その支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、62万1341円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、付加金として62万1341円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 確かに、助役は、最終バスの点呼を行い、門の施錠や構内の点検を終了した後から始発バスの準備までの間、伏尾台営業所の事務室内にある仮眠室で仮眠することとされていたのであるから、滞在場所については場所的な拘束がなされていたといえる。
また、確かに、助役が仮眠室に泊まり込むことで、何らかの緊急事態等が発生した場合には、迅速な対応をとることが可能となることからすれば、仮眠時間中においても、労務提供の可能性が皆無であったとまではいうことができない
しかし、助役は、門の施錠や構内の点検終了後から、始発バスの準備までの間に、日常の業務として何らかの業務に従事することを求められていたわけではなく、実際のXら従業員の状況をも併せ考慮すると、門の施錠や構内の点検終了後から、始発バスの準備までの時間において、労働契約上の役務の提供が義務付けられていたと評価することは困難であり、仮眠時間中に、仮眠室においてすごしていた不活動仮眠時間については、原則として、労働からの解放が保障されており、労働契約上の役務の提供が義務付けられていなかったと評価することができる(なお、仮眠時間が労働時間に当たらないとしても、例外的に作業が必要となり、実際に作業に従事した時間については時間外労働として賃金の支払が必要となることは当然である。)。
したがって、本件における仮眠時間について、労基法上の労働時間に当たると認めることはできない。

2 Xが主張する損害は未払賃金相当額であるところ、Y社がXの労働時間を適正に把握しておらず、その結果、Xの割増賃金について一部が未払となっていたとしても、Xとしては、正しい労働時間を前提とした割増賃金を計算し、未払となっている割増賃金の不払を請求することができるのであるから、割増賃金の一部が未払であることをもって、Y社が労基法上の罰則を受けたり、Xとの関係で債務不履行責任を負うことはともかく、Xとの関係で直ちに不法行為を構成すると解することはできない。

約461万円の請求に対して約62万円という結論です(付加金も同額認められています)。 

大星ビル管理事件最高裁判決の考え方を踏襲しています。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間41(北九州市・市交通局(市営バス運転手)事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、待機時間の労働時間性と未払賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

北九州市・市交通局(市営バス運転手)事件(福岡地裁平成27年5月20日・労判1124号23頁)

【事案の概要】

本件は、北九州市交通局に雇用され、市営バスの運転手として勤務するXらが、Y社に対し、時間外割増賃金の一部が未払であると主張して、未払時間外割増賃金及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXらに対し、各未払残業代を支払え。

*X1:85万6087円、X2:74万2700円、X3:80万0300円、X4:72万8600円、X5:121万5371円、X6:78万5100円、X7:91万1250円、X8:108万1250円、X9:82万7500円、X10:121万1507円、X11:92万1800円、X12:95万5350円、X13:100万9010円、X14:36万6300円

【判例のポイント】

1 労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない時間(「不活動時間」という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである。そして、不活動時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れていることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。
したがって、不活動時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である。

2 Xら乗務員は、調整時間中において、乗客の有無や周囲の道路状況等を踏まえて、適切なタイミングでバスを移動させることができるよう準備を整えておかなければならず、また、バスの移動業務がない転回場所やバスの移動業務を終えた後においては、実作業が特になければ休憩をとることができるものの、バスから離れて自由に行動することまで許されているものではなく、一定の場所的拘束性を受けた上、いつ現れるか分からない乗客に対して適切な対応をすることができるような体制を整えておくことが求められていたものであるから、乗務員らは、待機時間中といえども、労働からの解放が保障された状態にはなく、使用者の指揮監督下に置かれているというべきである
よって、本件の事実関係の下においては、転回時間であるか待機時間であるかを問わず、調整時間の全てが労基法上の労働時間に該当するというべきである。

最高裁の考え方からすれば、結論としてはやむを得ないですね。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間40(ビソー工業事件)

おはようございます。

今日は、警備員らの仮眠・休憩時間の労働時間該当性と差額賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

ビソー工業事件(仙台高裁平成25年2月13日・労判1113号57頁)

【事案の概要】

Xらは、A社との間で労働契約を締結し、同社が保安・防災等の業務を受託していた宮城県立B病院で警備員として勤務していたが、Y社が、A社に替わって平成19年4月1日以降の上記業務を落札してこれを受託したことから、同年3月末日頃、Y社との間で、労働契約を締結し、同年4月1日以降、Y社の従業員として同種の勤務を続けていた。

本件は、Xらが、Y社に対し、Y社との労働契約上は仮眠時間や休憩時間とされていた時間帯について、実際には労働からの解放が保障されておらず、労働時間に当たるのに、その点を踏まえた適正な賃金の支払を受けられなかったと主張して、平成19年4月分から平成21年12月分までの適正な賃金と実際に支払われた賃金との差額相当額につき、主位的に労働契約に基づく未払賃金として、予備的に賃金支払拒否を理由とする不法行為に基づく損害賠償として、各々請求した事案である。

原審は、Xらの主位的請求について、仮眠・休憩時間も全部労働時間に当たると判断してXらの請求を大筋で認めた

これに対し、Y社のみが控訴をし、Xらは不服申立てをしなかった。

【裁判所の判断】

仮眠・休憩時間が全部労働時間に当たるとした原審を破棄

予備的請求は棄却

【判例のポイント】

1 実作業に従事していない仮眠・休憩時間とされている時間帯であっても、労働からの解放が保障されていない場合には、労働基準法上の労働時間に当たるというべきであり、その時間帯に労働契約上の役務の提供を義務付けられていると評価される場合には、労働者は労働からの解放を保障されているとはいえず、使用者の指揮命令下に置かれているということができ、使用者に賃金の支払義務が生じる。しかし、他の従業員が業務に従事していて仮眠・休憩時間中に実作業に従事する必要が生じることが皆無に等しいなど、実質的に実作業への従事が義務付けられていないと認めることができるような事情がある場合には、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているとは評価できず、労働基準法上の労働時間に当たらないと解するのが相当である(大星ビル管理事件最高裁平成14年2月28日、大林ファシリティーズ(オークビルサービス事件)最高裁平成19年10月19日)。

2 本件係争期間中に仮眠・休憩時間中の警備員が例外的に実作業に従事した頻度が前記の程度にとどまっていたことにも照らすと、仮眠、休憩時間中の警備員が常時、守衛室や仮眠室でも業務に従事する態勢を要求されて緊張感を持続するよう強いられてはいなかったというべきである。
以上によれば、本件係争期間において仮眠・休憩時間中に実作業に従事した事例は極めて僅かであり(その中には必ずしも客観的に当該警備員が実作業に従事する必要性はなかったが、他の警備員への配慮等から引き受けたものもあったと見受けられる。)、例外的に実作業に従事した場合には実作業時間に応じた時間外手当を請求することとされていたのであって、Xら警備員に対しては、仮眠・休憩時間中に守衛室又は仮眠室で業務に従事する態勢を要求されていなかったのである。そうすると、Y社は、一般的、原則的に仮眠・休憩時間中も業務に従事する義務をXらに課していたものではなく、Xらも一般的にこのように義務付けられていると認識していたとは認められない。したがって、本件において、仮眠・休憩時間中に実作業に従事することが制度上義務付けられていたとまではいえないし、少なくとも仮眠・休憩時間中に実作業に従事しなければならない必要が皆無に等しいなど、実質的にXらに対し仮眠・休憩時間中の役務の提供の義務付けがされていないと認めることができる事情があったというべこである。

3 これに対し、Xらは、B病院は大規模医療機関で急患等の非常事態がいつ発生するか予測不可能であり、警備業務もこれに即時対応することが求められていて、B病院も本件仕様書で常時4人以上が実作業に対応できる態勢をとるよう定めていたのであって、Xらは仮眠・休憩時間中も緊張を強いられていたと主張する。しかし、上記のような突発的な業務に備えて、監視警備等業務に当たる警備員以外に仮眠・休憩時間帯ももう1人の警備員が守衛室で待機し、巡回警備業務中も必要があればこれに応じる態勢がとられていたこと、本件仕様書も4人以上が常時業務に従事することまで義務付けるものではなく、基本的に上記のような態勢によって対応が可能であったと認められること、Xらはシャワーを浴び、着替えをして仮眠室で仮眠をとっており、休憩時間中は必ずしも守衛室での待機が義務付けられていなかったことなど先に認定説示したところからすれば、Xらが仮眠・休憩時間中も常時緊張を強いられていたと認めるのは困難であり、上記主張は採用することができない。

労基法上の労働時間性の問題の中でも、この警備員等の仮眠・休憩時間の問題は、業務内容について丁寧に主張立証しなければ、結論がどちらに転ぶかわかりません。

この事案でも一審と二審で結論が異なっています。

労使ともに注意が必要な分野です。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間39(ヒロセ電機(残業代等請求)事件)

おはようございます。

今日は、変形労働時間制・事業場外労働適用の有無と残業代等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ヒロセ電機(残業代等請求)事件(東京地裁平成25年5月22日・労判1095号63頁)

【事案の概要】

本件は、Y社において勤務していたXが、時間外労働に対する賃金及び深夜労働に対する割増賃金と付加金の支払いを求めるとともに、内容虚偽の労働時間申告書等をXに作成、提出させたとして不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社の就業規則70条2項によれば、時間外勤務は、直接所属長が命じた場合に限り、所属長が命じていない時間外勤務は認めないこと等が規定されている。
また、平成22年4月以降の時間外勤務命令書には、注意事項として、「所属長命令の無い延長勤務および時間外勤務の実施は認めません。」と明記されていること、かかる時間外勤務命令書についてXが内容を確認して、「本人確認印」欄に確認印を押していることが認められる。
・・・以上からすると、Y社においては、就業規則上、時間外勤務は所属長からの指示によるものとされ、所属長の命じていない時間外勤務は認めないとされていること、実際の運用としても、時間外勤務については、本人からの希望を踏まえて、毎日個別具体的に時間外勤務命令書によって命じられていたこと、実際に行われた時間外勤務については、時間外勤務が終わった後に本人が「実時間」として記載して、翌日それを所属長が確認することによって、把握されていたことは明らかである。
したがって、Y社における時間外労働時間は、時間外勤務命令書によって管理されていたというべきであって、時間外労働の認定は時間外勤務命令書によるべきである

2 Y社の旅費規程には、出張(直行、直帰を含む)の場合、所定就業時間勤務したものとみなすと規定されており、出張の場合には、いわゆる事業場外労働のみなし制(労基法38条の2)が適用されることになっている。実際にも、Xの出張や直行直帰の場合に、時間管理をする者が同行しているわけでもないので、労働時間を把握することはできないこと、直属上司がXに対して、具体的な指示命令を出していた事実もなく、事後的にも、何時から何時までどのような業務を行っていたかについて、具体的な報告をさせているわけでもないことが認められる。Xも、出張時のスケジュールが決まっていないことや、概ね1人で出張先に行き、業務遂行についても、自身の判断で行っていること等を認めている(X本人)。なお、Xは、Y社がXに指示していた業務内容からして必要な勤務時間を把握できたはずであると主張しているが、かかる事実を認めるに足りる具体的な事実の指摘はなく、Xの主張を認めるに足りる証拠はない。
以上からすると、Xが出張、直行直帰している場合の事業場外労働については、Y社のXに対する具体的な指揮監督が及んでいるとはいえず、労働時間を管理把握して算定することはできないから、事業場外労働のみなし制(労基法38条の2第1項)が適用される

3 Xは、出張や直行直帰の日については、事前に訪問先や業務内容について具体的な指示を受け、指示どおりに業務に従事していたと主張する。しかしながら、Xの訪問先や訪問目的について、Xが指示を受けていたことは認められるが、それ以上に、何時から何時までにいかなる業務を行うか等の具体的なスケジュールについて、詳細な指示を受けていた等といった事実は認められず、Xの事業場外労働について、Y社の具体的な指揮監督が及んでいたと認めるに足りる証拠はない。

労働時間に関し、非常に参考になる裁判例です。

使用者側のみなさんは、是非、この裁判例を参考にして社内規程の作成、運用をしてみてください。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間38(ワールドビジョン事件)

おはようございます。 

さて、今日は、元従業員らの事業場外みなし時間制適用の可否について見ていきましょう。

ワールドビジョン事件(東京地裁平成24年10月30日・労判1090号87頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXらが、労基法37条所定の時間外労働を行ったとして、Y社に対し、時間外手当等の請求をした事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、X1に約120万円、X2に約70万円、X3に約120万円、X4に160万円を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、Xらは営業職であって勤務時間については自己責任で決めていたものであって、労働時間を算定し難いものであるから、労基法38条の2第1項による事業場外みなし規定の適用があると主張するが、Xら提出にかかる出勤表には、Y社事務所に出勤した場合の始業時刻、終業時刻のみならず、外勤により直行、直帰した場合の場所のみならず時刻(出発等の時刻と思われる。)等についても記載されているものであって、Y社が、従業員からこれらの出勤表の提出を受けることにより、Xらの労働時間を管理していたことは明らかである。この点に加え、Y社において、Xらの労働時間の算定が困難であることを基礎付ける事情についてそれ以上の主張、立証がないことに照らすと、Xらに労基法38条の2の事業場外みなし規定が適用される旨のY社主張を採用することはできないというべきである。

2 Y社は、残業については事前申告がなされた場合にのみ時間外手当が支払われることになっていると主張するが、正社員雇用勤務規則にも、明確にかような事前申告制を定める規定は存在しないことからすれば、Y社の主張を採用することはできない。
また、出勤表から認められる時間外労働の状況に照らすと、Xらの残業は恒常的な状況にあり、Y社もこのような状況を当然認識していたと認められるにもかかわらず、それを禁止したり抑制することなく推移した結果、そのような状態が継続していたものと認められるもので、Xらは、Y社の黙示の業務命令の下で時間外労働等を行っていたと認めるのが相当であって、この点からもY社の主張を容れる余地はない。Y社は、Xらの労働時間についてはその自主性に任せていたものであるとも主張するが、使用者には、従業員の労働時間を管理すべき義務があることにも照らすと、その自主性に委ねていることを理由に、時間外手当等の支払義務を免れると解することはできない

最高裁の考えからすれば、出勤表で労働時間を管理できていた以上、事業場外みなし労働時間性の適用を肯定することは難しいでしょうね。

また、使用者側とすれば、上記判例のポイント2は参考にすべき点ですね。

「自主性に任せていた」との主張は、使用者が労働時間を把握する義務を負っていることからすると、なかなか難しいわけです。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間37(八重椿本舗事件)

おはようございます。 

さて、今日は、化粧品等販売会社従業員に対する雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

八重椿本舗事件(東京地裁平成25年12月25日・労判1088号11頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対して、①未払の早出出勤(始業時刻前の出勤)手当、休日出勤手当、賞与の支払いを求めるとともに、労働基準法114条に基づく付加金の支払いを求める事案、②不法行為に基づいて、未払の早出出勤手当、残業手当、休日出勤手当、賞与相当額の損害賠償を求める事案、③主位的には正社員を定年退職した後に嘱託社員としての地位を有することの確認を求め、予備的には期間雇用の契約社員としての地位を有することの確認を求めるとともに賃金と遅延損害金の支払いを求める事案、④Xが発明考案したにもかかわらず、Y社がXの了解を得ずに公開技報(自分の発明の権利化を希望しないが、他人に権利化されることを防止したい者が、自分の発明内容を公表するための刊行物)に公開したため、Xが特許申請をすることができなくなった一方、Y社がXの発明を導入し不当に利得を得ているとして、不当利得の返還を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、残業手当として12万9722円+付加金として同額を支払え

その余の請求は棄却

【判例のポイント】

1 そもそも、労働基準法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであり、使用者の指揮命令下にあるか否かについては、労働者が使用者の明示又は黙示の指示によりその業務に従事しているといえるかどうかによって判断されるべきである。
そして、終業時刻後のいわゆる居残残業と異なり、始業時刻前の出社(早出出勤)については、通勤時の交通事情等から遅刻しないように早めに出社する場合や、生活パターン等から早く起床し、自宅ではやることがないために早く出社する場合などの労働者側の事情により、特に業務上の必要性がないにもかかわらず早出出勤することも一般的にまま見られるところであることから、早出出勤については、業務上の必要性があったのかについて具体的に検討されるべきである

2 本件では、Y社の始業時刻は8時30分であるところ、Xは常にそれよりも1時間も早い、7時30分前後に出社していたとのことであるが、そもそも1時間も早く職場に来る必要性があったことを認めるに足りる証拠はない。また、X自身、タイムカード打刻後、食堂でいろいろと話をすることがあったとか、常時やらなければならない仕事があったわけでもないと述べている(X本人)。さらに、Y社は、平塚労基署からXの上長が早出出勤しているときは、早出出勤の必要性があったとして、早出出勤分の残業代を支払うよう指導を受け、これに従い、6万0340円の時間外手当を支払っている。
そうすると、Xが残業代を請求している早出出勤については、労働時間に該当すると認めるに足りる証拠はないものといわざるを得ず、Xの請求は認められない。

3 2年の短期消滅時効(労働基準法115条)にかかる早出出勤手当、残業手当、休日出勤手当、賞与相当額を不法行為に基づいて請求するについては、Xにおいて、Y社の不法行為の内容、それによってXのいかなる権利が侵害され、Xがいかなる損害を被ったのか、不法行為と損害との因果関係の存在、Y社の故意又は過失を主張立証する必要がある
ところで本件においてXは、・・・単なる時間外割増賃金の債務不履行を述べているだけであって、不法行為責任の発生根拠について具体的な主張立証がなされているとは認めがたい。・・・以上からすると、Xの不法行為に基づく損害賠償請求は認められない。

使用者側は、早出出勤について労基法上の労働時間性が争点となった場合には、上記判例のポイント1の視点を明確に主張すべきです。

タイムカードの打刻時間をそのまま労働時間算定の証拠とされないようにしなければなりません。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間36(レガシィほか事件)

おはようございます。

さて、今日は、税理士資格を有さず、税理士名簿への登録も受けていなかった者の業務は専門業務型裁量労働制の「税理士の業務」とはいえないとされた裁判例を見てみましょう。

レガシィほか事件(東京高裁平成26年2月27日・労経速2206号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社ら双方に雇用されていたXが、Y社らに対し、時間外労働についての割増賃金の未払があるなどとして、割増賃金、遅延損害金、付加金等を求めた事案である。

Y社らは、Xには裁量労働制が適用されるなどと主張して争った。

なお、一審は、裁量労働制の適用を否定し、Y社らに対し、約200万円の割増賃金の支払+20万円の付加金の支払いを命じた。

【裁判所の判断】

遅延損害金について、14.6%(賃確法6条1項)を商事法定利率の6%に変更した。

付加金の支払を命じた一審の判断を変更し、付加金の支払いは命じなかった。

その余は控訴棄却

【判例のポイント】

1 賃確法6条2項は、賃金の支払遅滞が「天災地変その他のやむを得ない事由で厚生労働省令で定めるものによるものである場合」に同条1項を適用しないとしていて、これを受けた賃確法施行規則6条は、厚生労働省令で定める遅延利息に係るやむを得ない事由として、天災地変(1号)、事業主が破産手続開始の決定を受け、又は賃金の支払の確保等に関する法律施行令2条第1項各号に掲げる事由のいずれかに該当することとなったこと(2号)、法令の制約により賃金の支払に充てるべき資金の確保が困難であること(3号)、支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し、合理的な理由により、裁判所又は労働委員会で争っていること(4号)、その他前各号に掲げる事由に準ずる事由(5号)を規定している。本件では、Xの時間外労働の割増賃金支払の前提問題として、専門業務型裁量労働制がXに適用されるか否かが争点の一つとなっていて、その対象業務の解釈が争われているところ、この点に関する当事者双方の主張内容や事実関係に照らせば、Y社らがXの割増賃金の支払義務を争うことには合理的な理由がないとはいえないというべきである。したがって、Xの未払割増賃金に対する遅延損害金については、商事法定利率によるべきこととなる。

2 本件に顕れた一切の事情、特に、賃確法6条1項及び同法施行令1条による年14.6%の割合による遅延損害金の支払い請求の当否について判断したところを考慮すると、本件においては、Y社らに対し、労働基準法114条所定の付加金の支払いを命じるのは相当ではない。

一審判決については、こちらを参考にしてください。

上記判例のポイント1は非常に重要です。

使用者側としては、是非、この裁判例を参考にして争ってみてください。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間35(エンゼル事件)

おはようございます。

 

今日は、マンションの管理人らの時間外労働等の賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

エンゼル事件(新潟地裁長岡支部平成25年10月24日・労経速2195号9頁)

【事案の概要】

本件は、リゾートマンションの管理組合から管理業務の委託を受けていたY社に雇用されていたXらが、雇用期間中、時間外労働及び時間外かつ深夜労働をしたとして、Y社に対し、平成23年9月10日までの未払に係る労働基準法所定の時間外労働等に係る賃金及び付加金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xらが、Y社から本件マンションの管理業務として、本件マンション出入口、駐車場出入口及び南側避難経路部分等の除雪をするよう指示され、8時前あるいは降雪量の多い日は17時以降も除雪業務に従事したことがあったが、Y社がXらに対し降雪量等に応じて8時前ないし17時以降に除雪作業に従事するよう業務として指示していたことを明らかにする証拠はなく、また、Xらが8時前あるいは17時以降に除雪作業に従事した日が具体的にいつであったのかを認めるに足りる証拠もない。そうすると、XがY社の業務として8時前あるいは17時以降に除雪作業をしたと認めることはできないというべきである

2 ・・・17時から本件大浴場の営業終了までの時間は、Xらは自由に過ごすことができ、管理人として行うことを指示された業務はなく、物理的・時間的に一切の拘束を受けていなかったのであるから、17時から本件大浴場の営業終了までの時間については、上記の指示された作業をしていた時間についてのみ時間外労働をしたと認めることができるというほかない

3 Xらは、本件大浴場営業日において、Y社に業務として指示されて、営業開始が8時30分の日は6時30分頃から1階管理人室内にあるボイラーの点火スイッチを押す点火作業及びモニターで点火を確認する作業を15分以内とみられる短時間、営業終了が20時、21時ないし22時である日はその後ボイラーの点火スイッチを切って消火するとともに本件大浴場を巡回して設備の異常がないかを点検し、消灯と施錠を行う作業を30分以内とみられる短時間それぞれしていたことが認められる

4 Y社は、平成23年9月までに、Xらが主張する時間外労働等のうち、本件大浴場が営業する日については、・・・支払ったところ、この支払額は、Xらが請求する平成21年8月11日から平成23年9月10日までの賃金支給日に支給すべき時間外労働等の時間及び賃金額(更には遅延損害金)に見合うものといえる。そうすると、XらにはY社に対する時間外賃金等の請求権は存在せず、したがって付加金請求権も存在しないということができる。

時間外労働に関する指揮命令の存在と時間外労働の存在を立証しきれていないので、このような判断になっています。

現実には、労働時間をちゃんと管理していない会社において、労働者が正確に時間外労働を立証することは極めて困難です。

確かに立証責任は労働者(原告)側にあるわけですが、ある程度、立証責任を緩和しないと、労働時間の管理をちゃんとやらない会社のほうが訴訟では有利になるというのもいかがなものかと思います。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。