Category Archives: 有期労働契約

有期労働契約94 有期雇用契約の更新回数の上限設定が有効とされる場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、特任教員の雇止めについて更新期待の合理的理由が否定された裁判例を見てみましょう。

学校法人Y大学事件(札幌高裁令和元年9月24日・労経速2401号3頁)

【事案の概要】

Y社は、Y大学を設置、運営している。Xは、Y社と、Y社がXをY大学の特別任用教員として雇用する旨の有期労働契約を締結した。本件労働契約はその後6回にわたって更新されたが、Xは、平成29年3月31日をもってその更新を拒絶された。本件は、Xが、同拒絶は労働契約法19条2号に違反すると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、同年4月1日から本判決の確定に至るまで、毎月21日限り、賃金月額38万1000円+遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、Xの請求をいずれも棄却した。これに対して、Xは控訴するとともに、当審において、非常勤講師としての賃金月額21万0560円+遅延損害金の支払請求を予備的に追加した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Xは、ロシア語の教職課程では、有期労働契約の教員が専任教員として教職課程の担当になったことは過去になかったことから、教職課程の担当となることを依頼されたXは、平成29年度以降も雇用継続への期待を持つことになった旨主張する。
しかし、Xが主張するような過去の事例と有期労働契約を締結しているXの労働契約の更新の問題とは客観的にみて関連性を欠くといわざるを得ない。加えて、本件教職課程の完成年度は平成28年度までであるから、Xが本件教職課程の専任教員となったことが平成29年度以降における本件労働契約の更新を期待することの合理的理由となるものではない。

2 Xは、平成26年3月19日の本件説明会におけるA3理事の説明は、雇用継続への期待を抱かせるものであった旨主張する。
しかし、A3理事は、本件説明会において、平成29年度以降の雇用の可能性に対する質問に対して、Xを含む特任教員の雇用継続は平成28年度末、すなわち平成29年3月31日までを念頭に置いており、同日までは雇用の継続が確実であるが、労働契約が1年ごとに更新される以上、2年後、3年後の雇用の継続を約束することはできない旨回答しているこのようなやり取りの経緯からすれば、A3理事が平成29年3月末で契約を打ち切ると断言しなかったからといって本件労働契約の更新を期待させることの合理的な理由となると評価することはできない

本件は、5年の雇用上限設定がされている事例です。

当初より雇用期間の上限を設定し、かつ、恣意的な運用をしていない場合には、雇止めは有効と判断されることが多いです。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約93 勤務内容不良で有効に雇止めをするためには?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、雇止めの有効性が争われた裁判例を見てみましょう。

シェーンコーポレーション事件(東京高裁令和元年10月9日・労判ジャーナル95号30頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、Xとの間で、期間を平成27年3月1日から平成28年2月28日までの1年間とする有期労働契約を締結してXを雇用し、1度、契約を更新したが、その後、契約更新を拒絶したため、Xは、労働契約法19条により契約が更新されたものとみなされると主張して、Y社に対し、労働契約上の地位の確認を求めるとともに、平成29年3月分以降、判決確定の日までの賃金等の支払を求めた。

原判決は、Xの請求を棄却したため、Xが控訴した。

【裁判所の判断】

原判決取消し
→請求認容

【判例のポイント】

1 労働契約法19条2号該当性について、Y社は、従業員講師とは一律に1年間の有期労働契約を締結しているが、契約の更新を希望する講師との間では、遅刻が多かったり、授業の質が低いなどの事情がある場合を除き、通常は契約の更新をしており、Xとの間でも、平成27年3月1日に1年間の有期労働契約を締結し、その後、Xから授業観察の申出を拒否されたり、前日の午後11時29分になってから翌日のストライキを通知されたり、Xの授業を観察した上司が7項目について改善必要との講評をしたとの事情があったものの、その後の平成28年3月1日、Xと契約を更新し、このような経緯からすると、Xにおいて本件雇用契約の契約期間の満了時に同契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があったと認めるべきである。

2 Xが有給休暇として取得した休暇について、正当な理由のない欠勤であったと認めることはできず、また、Y社は、Xの勤務内容が不良であるとして、種々の主張をするが、いずれも雇止めをするかどうかの判断に際して重視することを相当とするようなものとは認められないから、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないといわざるを得ず、Y社は、本件雇用契約の内容である労働条件と同一の労働条件により契約締結の申込みを承諾したものとみなされるから、Xは、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び平成29年4月から本判決確定の日まで毎月15日限り25万7800円の賃金の支払を求めることができる。

雇止めの理由として小さいミス等をいくつ積み重ねても、結局、取るに足らない場合には合理的な理由にはなりません。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約92 提訴前の記者会見と名誉毀損、信用毀損(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、育児休業取得後になされた有期労働契約への変更、雇止めが有効と判断された裁判例を見てみましょう。

ジャパン・ビジネスラボ事件(東京高裁令和元年11月28日・労経速2400号41頁)

【事案の概要】

本件乙事件は、語学スクールの運営等を目的とする株式会社であるY社が、育児休業を取得し、育児休業期間が終了するXとの間で平成26年9月1日付けで締結した契約期間を1年とする契約社員契約は、Y社が期間満了により終了する旨を通知したことによって、平成27年9月1日、終了したと主張して、Xに対し、Y社に対する労働契約上の権利を有する地位にないことの確認を求めた事案である。
本件甲事件本訴は、Xが、Y社に対し、ア(ア)一審原告が一審被告との間で平成26年9月1日付けでした労働契約に関する合意によっても、Y社との間で平成20年7月9日付けで締結した期間の定めのない労働契約(以下「本件正社員契約」という。)は解約されていない、(イ)仮に、本件合意が本件正社員契約を解約する合意であったとしても、①均等法及び育介法に違反する、②Xの自由な意思に基づく承諾がない、③錯誤に当たるなどの理由により無効であり、本件正社員契約はなお存続すると主張して、本件正社員契約に基づき、正社員としての労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成26年9月分から平成27年8月分までの未払賃金合計448万8000円+遅延損害金、イ 仮に、本件合意によって本件正社員契約が解約されたとしても、XとY社は、本件合意において、Xが希望すればその希望する労働条件の正社員に戻ることができるとの停止条件付き無期労働契約を締結したと主張して、Xの希望した所定労働時間の短縮された無期労働契約に基づき、正社員としての労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成26年10月分から平成27年8月分までの未払賃金合計337万4800円+遅延損害金の支払を求め、ウ 仮に、XのY社に対する正社員としての地位が認められないとしても、Y社がした本件契約社員契約の更新拒絶(本件雇止め)は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないと主張して、本件契約社員契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、同月から弁済期である毎月20日限り賃金1か月10万6000円+遅延損害金の支払を求め,エ Y社が、Xを契約社員にした上で正社員に戻すことを拒んだことやこれに関連する一連の行為は違法であると主張して、不法行為に基づき、慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の合計330万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。
 本件甲事件反訴は、Y社が、Xに対し、Xが平成27年10月に行った記者会見の席において、内容虚偽の発言をし、これによりY社の信用等が毀損されたと主張して、不法行為に基づき、慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の合計330万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Xの控訴及びXの当審における追加請求(正社員復帰合意に基づく地位確認請求、債務不履行による損害賠償請求及び信義則違反を理由とする不法行為による損害賠償請求)をいずれも棄却する。

2 Y社の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1) Y社は、Xに対し、5万5000円+遅延損害金を支払え。
    Xのその余の甲事件本訴各請求(当審における追加請求を除く。)をいずれも棄却する。
(2)ア Xは、Y社に対し、55万円+遅延損害金を支払え。
    Y社のその余の甲事件反訴請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 正社員と契約社員とでは、契約期間の有無、勤務日数、所定労働時間、賃金の構成(固定残業代を含むか否か、クラス担当業務とその他の業務に係る賃金が内訳として区別されているか否か。)のいずれもが相違する上、Y社における正社員と契約社員とでは、所定労働時間に係る就業規則の適用関係が異なり、また、業務内容について、正社員はコーチ業務として最低限担当するべきコマ数が定められており、各種プロジェクトにおいてリーダーの役割を担うとされているのに対し、契約社員は上記コマ数の定めがなく、上記リーダーの役割を担わないとの違いがあり、その担う業務にも相当の違いがあるから、単に一時的に労働条件の一部を変更するものとはいえない。
 そうすると、Xは、雇用形態として選択の対象とされていた中から正社員ではなく契約社員を選択し、Y社との間で本件雇用契約書を取り交わし、契約社員として期間を1年更新とする有期労働契約を締結したもの(本件合意)であるから、これにより、本件正社員契約を解約したものと認めるのが相当である。

2 このようなY社による雇用形態の説明及び本件契約社員契約締結の際の説明の内容並びにその状況、Xが育児休業終了時に置かれていた状況、Xが自ら退職の意向を表明したものの、一転して契約社員としての復職を求めたという経過等によれば、本件合意には、Xの自由な意思に基づいてしたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するものといえる
 したがって,本件合意は、均等法9条3項や育介法10条の「不利益な取扱い」には当たらないというべきである。

3 Y社代表者の命令に反し、自己がした誓約にも反して、執務室における録音を繰り返した上、職務専念義務に反し、就業時間中に、多数回にわたり、業務用のメールアドレスを使用して、私的なメールのやり取りをし、Y社をマタハラ企業であるとの印象を与えようとして、マスコミ等の外部の関係者らに対し、あえて事実とは異なる情報を提供し、Y社の名誉、信用を毀損するおそれがある行為に及び、Y社との信頼関係を破壊する行為に終始しており、かつ反省の念を示しているものでもないから、雇用の継続を期待できない十分な事由があるものと認められる
 したがって、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を有し、社会通念上相当であるというべきである。

4 本件記者会見は、本件甲事件本訴を提起した日に、X及びX訴訟代理人弁護士らが、厚生労働省記者クラブにおいて、クラブに加盟する報道機関に対し、訴状の写し等を資料として配布し、録音データを提供するなどして、Y社の会社名を明らかにして、その内容が広く一般国民に報道されることを企図して実施されたものである。
そして、報道機関に対する記者会見は、弁論主義が適用される民事訴訟手続における主張、立証とは異なり、一方的に報道機関に情報を提供するものであり、相手方の反論の機会も保障されているわけではないから、記者会見における発言によって摘示した事実が、訴訟の相手方の社会的評価を低下させるものであった場合には、名誉毀損、信用毀損の不法行為が成立する余地がある
Xは、記者会見は、報道機関に対するものであるから、記者らにとっては、記者会見における発言は、当事者が裁判手続で立証できる範囲の主張にすぎないと受け止めるものである、訴状を閲覧した報道機関からの取材に応じることと何ら変わるものではないなどと主張する。
しかしながら、Xらは、報道機関からの取材に応じるのとは異なり、自ら積極的に広く社会に報道されることを期待して、本件記者会見を実施し、本件各発言をしており、報道に接した一般人の普通の注意と読み方を基準とすると、それが単に一方当事者の主張にとどまるものではなく、その発言には法律上、事実上の根拠があり、その発言にあるような事実が存在したものと受け止める者が相当程度あることは否定できないし、実際、Y社に対しては、マタハラ行為をしたとして苦情のメールがあったところでもある。そして、Xらは、本件記者会見において本件各発言をしたことが認められるから、その発言内容を事実として摘示したものというべきである。

非常に注目を集めている事件の控訴審判決です。

最高裁がどのような判断をするのか気になるところです。

上記判例のポイント3、4は、賛否両論あるところですが、重要な点なので、押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約91 定年後再雇用従業員に対する雇止め(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、定年後再雇用のタクシー運転手の雇止めが有効とされた裁判例を見てみましょう。

すみれ交通事件(横浜地裁令和元年9月26日・労経速2397号30頁)

【事案の概要】

本件は、一般乗用旅客自動車運送事業を営む特例有限会社であるY社において勤務し、又は勤務していたXら7名のうち、①X7を除くXら6名が、Y社に対し、Y社から年次有給休暇の取得を妨害されたとして、雇用契約上の債務不履行に基づき、すでに喪失した年次有給休暇の日額報酬相当分及び年次有給休暇を使用できずに欠勤した日数の日額報酬相当分の損害賠償+遅延損害金の各支払、②X2が、Y社に対し、X2に対する雇止めが違法無効であると主張して、不法行為に基づき300万円の慰謝料+遅延損害金の支払、③X7が、Y社に対し、X7に対する就労拒否が違法無効であると主張して、不法行為に基づき300万円の慰謝料+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、X2が平成27年5月16日に危険運転を行い、これに対する反省が見られないことを理由に本件雇止めを行っているところ、X2は、同日、Z6バイパス上において、観光バスの前に割り込む形で車線変更を行い、観光バスがパッシングしたことに対して運転車両を急減速させるなど、危険運転と評価されてもやむを得ない運転行為に及んでおり、これについて警察から注意を受けた際も、自らの非を認めず謝罪や反省をしなかったことが認められる。この点に関しX2は、パッシングされて観光バスに故障等の異変が生じたかと思い、様子を伺うために減速したに過ぎないなどと述べて危険運転の存在を争うが、故障等のトラブルが生じた際にパッシングをして前方の車両に合図を送るというのはいかにも不自然な経緯を述べるものであり、信用できない。むしろ、X2の車両が観光バスの直前に入り込む形で左側車線から車線変更をしていることや、観光バスがあえてドライブレコーダーを解析してX2の車両を特定し、警察に通報したという経緯を踏まえると、X2の運転行為が相応に危険なものであったことが推認される

2 さらに、Z1の供述によれば、X2は、この運転行為が発覚した際、観光バスがパッシングしたから急ブレーキをかけたことを認める発言をしていたとのことであり、労働契約期間満了通知書にも同様の記載が認められることからすれば、X2においても、自らの運転行為が危険なものであったことを認識しながら、謝罪を拒んだものと認められる

3 以上に加えて、X2がB賃乗務員となった後の交通事故発生率が比較的高く、とりわけ本件雇止め直前の雇用期間中の平成26年9月と11月に立て続けに事故を惹起していること、それにもかかわらず前記危険運転行為に及び、これについて反省や今後事故を回避するための方策を真摯に検討する様子が伺えない点を踏まえると、Y社が、今後X2の運転により重大な事故等が発生することを危惧し、前記運転行為について真摯な謝罪や反省がなければ契約の更新を行うことはできないと判断したことは、やむを得ないというべきである。

解雇や雇止めの合理的理由の有無を考える場合、当該従業員の非違行為等の程度とともに、その後の反省、改善に対する姿勢等も加味することになります。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約90 法定外年休を含む計画年休の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、法定外年休をも対象とする計画年休制度の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

シェーンコーポレーション事件(東京高裁令和元年10月9日・ジュリ1540号4頁)

【事案の概要】

Xは英会話学校を経営するY社と平成27年3月1日から期間1年の有期労働契約を締結し、講師として複数の学校で勤務した。Xの契約は1回更新されたが、2回目の更新はなされなかった。これに対する労働契約上の地位確認及び未払賃金請求が原審で棄却されたため、Xが控訴した。

Y社就業規則17条は「勤続6か月に達した講師には、年間20日間の有給休暇を与える。ただし、・・・5日を超える有給休暇(15日間)については、取得する時季を指定して一斉に取得する計画年休とし、その時季は、講師カレンダーに示される。」と規定していた(計画的年休制度)。法定の年休とそれを超える部分である会社有給休暇との区別はなく、計画年休協定(労基法39条6項)も締結されていなかった(平成28年10月に講師代表3名とY社が協定を締結したが、この3名は一般の従業員を除く講師のみの投票で選ばれており、かつ事業場である学校毎ではなく複数校をまとめたエリア毎の代表であった。)。

【裁判所の判断】

原判決取消し、Xの請求認容

【判例のポイント】

1 Y社では講師の希望があれば遅刻が多いあるいは授業の質が低いなどの事情がある場合を除き通常は契約の更新をしている。・・・このことからすれば、Xには本件当時「契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があった。

2 労基法39条6項の要件を満たす労使協定は締結されていないので、法定年次有給休暇について、その時季をY社が指定することはできず、Xを含む従業員が自由にその時季を指定することができた。会社有給休暇については労基法の規律を受けず、Y社が時季指定を行えるが、法定分についてY社は時季指定できない。そしてY社は、法定年次有給休暇を区別することなく15日を指定しており、そのうちどの日が会社有給休暇に関する指定であるかを特定することはできない
したがって、上記の指定は、全体として無効というほかなく、年間20日の有給休暇の全てについて、Xがその時季を自由に指定することができる。計画的年休として指定された14日はY社がXの就労を免除したものとなる。Xが有給休暇として取得した休暇は正当な理由のない欠勤には該当しない

あまり見たことがない論点ですが、このように解さざるを得ないと思います。

有期労働契約89 有期雇用契約において契約更新の上限設定が有効とされる場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、雇止め無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

地方独立行政法人大阪市民病院機構事件(大阪地裁令和元年8月29日・労判ジャーナル93号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務していた元職員Xが、大阪市との間で、平成24年4月1日、期間の定めのある労働契約を締結し、これを平成25年3月31日までは2か月ごと、同年4月1日以降は1年ごとに継続的に更新(平成26年10月1日に法人が設立されて以降は法人との間で更新)してきたところ、平成30年4月1日以降の契約更新を拒否されたため、Xが、労働契約法19条2号により労働契約は更新したものとみなされると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに未払賃金等の支払、また、Y社が上記更新拒絶により故意又は過失によりXの権利ないし法律上保護に値する利益を侵害したとして、不法行為に基づき、慰謝料等130万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 XとY社との間において、その契約上更新の回数や通算雇用期間が定められ、本件契約においては更新がないと定められており、そのため、Xがそれを超えてY社と労働契約を締結するには、他者と同様に採用募集に応募して、改めて採用試験を受けてこれに合格する必要があったことにとどまらず、X自らが課長と平成30年度の労働契約に関して協議した際、「来年度も状況が変わらず非常勤のままであれば更新しません」と述べたため、そのことをきっかけに、Y社は、労働条件を変えて(看護職員と同じ時給に上げて)手話通訳者の募集を行ったところ、Xもこれに応募して採用試験を受験したものの、Xは不合格となったところ、Xが、有期雇用職員として更新ないし再契約して無期転換しても正規職員となれないためか、駆け引きとして「非常勤のままであれば更新しません」とべた結果、それを信じたYがXの穴を埋めるためにこれまでとやり方を変えて人員募集を行い、好条件に惹かれて好成績者を含む複数の応募があり、その採用試験の結果、Xが不合格となったものであるから、その結果はX自らの言動に由来するものと言わざるをえず、そのような状況でXが本件契約の更新を期待したとしてもそれが合理的な理由があるとはいえず、本件雇止めは有効である。

2 Xが本件試験に合格できると期待したとしても、そのような期待は法律上保護に値せず、また、Y社に故意又は過失も認められないから、Xの損害賠償請求にも理由がない。

契約当初より、更新上限回数等が定められている場合には、それを超えた更新に関する期待は法的に保護されないのが原則です。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約88 約23年間にわたる契約更新と雇止めの有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、雇止めの有効性に関する裁判例を見てみましょう。

ユニオン事件(大阪地裁令和元年6月6日・労判ジャーナル92号36頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で、平成5年2月頃、期間の定めのある労働契約を締結し、これを約3か月ごとに継続的に更新してきたXが、同年9月10日以降の契約更新を拒否されたため、労働契約法19条により労働契約は更新したものとみなされると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成28年10月以降の未払賃金(月額20万円)及び賞与(35万円)等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ・・・本件契約が、社会通念上、期間の定めのない契約と同視できる状態であったとは認められないが、他方、XとY社との間で、多数回、約23年にわたって有期労働契約の更新が繰り返されており、このような更新が繰り返されてきた契約と本件契約では、雇用期間、勤務時間、賃金額等労働条件が大きく異なるとしても、直ちにXの契約更新に対する期待が消滅するとまではいえない。

2 短期間(約2か月)にXによるミスが6件あり、うち4件が取引先からのクレームに至るものであり、取引先からの信用を失わせる上、その対応のために多大な労力や費用を要するものであったこと、これらのミスを受けてY社の総務部業務グループにおいてXも出席する苦情発生対策会議が開催され、その原因の確認や改善策の導入が行われたものの、その後も、苦情発生対策会議から間もなく、短期間(約1か月)の間に、運送便の手配忘れ等の同様のミスが少なくとも5件続いたこと、これらのミスについては、他の従業員の二重チェック等により発見されなければ、納品の遅れや二重納品等によって取引先からのクレームに至りかねないものであったこと、受注書の紛失や運送便の手配忘れ等、そのミスの内容からしても、Xの経験が不足しているためというよりはその不注意によるものと考えられること、これらの事情に加え、労働契約法19条により更新したものとみなされるのが従前更新を繰り返した短時間労働者としての契約ではなく本件契約であることも考量すると、仮に、本件契約が更新されるとXが期待することに合理的な理由があったとしても、本件雇止めは、客観的に合理的な理由がないとはいえず、また、社会通念上相当でないともいえないから、本件雇止めが無効であるとはいえない

上記判例のポイント2は、解雇や雇止め事案のあてはめとして参考になります。

どのような点を主張立証すればよいのかがよくわかると思います。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約87 雇止めが有効と判断される場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も一週間がんばりましょう。

今日は、雇止めの有効性が争われた裁判例を見てみましょう。

沢井製薬事件(大阪地裁平成30年12月20日・労判ジャーナル87号99頁)

【事案の概要】

本件は、医薬品の製造販売等を目的とするY社との間で期間の定めのある労働契約を締結していたXが、平成29年4月1日以降の労働契約の更新を拒否されたところ、労働契約法19条により労働契約を更新したものとみなされるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、労働契約に基づき、平成29年5月1日から本判決確定の日まで、毎月27日限り、約21万円の賃金等の支払を求めるとともに、Xの上司であったY社の従業員が長期間にわたり業務上の合理性なくXに仕事を与えなかった(安全への配慮を怠った)ため、Xがうつ病に罹患して精神的苦痛を被ったとして、債務不履行(民法415条)に基づき、慰謝料100万円等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、勤務時間中、多数の従業員がいる中で、同僚の態度に怒って「なめとんのか」などと大声を発しただけでなく、詰め寄って両手でシャツの襟辺りを上に引き上げたのであって、殴るなどの行為には及ばなかったものの、無抵抗の者に一方的にそのような行為を行い、他の同僚に2人がかりで引き離されるまでそれを止めず、この点、eが舌打ちしたなど同人に全く非がないわけではないにしても、思わず声を荒げてしまったというだけであればともかく、更に詰め寄ってシャツの襟辺りを掴むといった身体に対する有形力の行使まで許容されるものではなく、明らかに過大な対応といわざるを得ず、これによって直接被害を受けたeの精神的ショックは大きく、また、このような事態を目撃した同僚が受けた衝撃も大きかったことは容易に推察されるから、本件暴行は重大なものであったといわざるを得ず、Xが本件暴行後に謝罪していること等を考慮しても、Xが本件契約の更新を期待することについて合理的な理由があるとはいえず、また、仮にその期待に合理的な理由があるとしても、Y社による本件契約の更新申込拒絶は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であるといえる。

事案の程度としては雇止めの有効性に関する評価のしかたが微妙なケースがあります。

それでもなお、このまま契約を継続することはできないと判断する場合には、訴訟を覚悟しつつ雇止めもしくは解雇をせざるを得ないことがあります。

その場合は、事前の準備をしっかりして、訴訟に臨む必要があります。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約86 育休後の有期雇用契約への変更、その後の雇止めは許されるか?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、育児休業後の有期雇用契約への変更、その後の雇止め等が無効とされた裁判例を見てみましょう。

フードシステム事件(東京地裁平成30年7月5日・労経速2362号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に期間の定めなく雇用され、事務統括という役職にあったXが、自身の妊娠、出産を契機として、Y社の取締役であるC及びY社の従業員から、意に反する降格や退職強要等を受けた上、有期雇用契約への転換を強いられ、最終的に解雇されたところ、上記降格、有期雇用契約への転換及び解雇がいずれも無効であるとして、主位的請求として、Y社に対し、事務統括としての雇用契約上の権利を有する地位にあること及び25日間の年次有給休暇請求権を有することの確認、平成28年10月から本判決確定まで、別紙1記載の金員の支払を求めるとともに、解雇後の月例賃金、事務統括手当月額1万円及び賞与として毎年7月に20万円、毎年12月に40万円の支払+遅延損害金の支払を求めるとともに、上記解雇等がXに対する雇用契約上の就労環境整備義務違反又は不法行為に当たるとして、Y社らに対し、民法415条及び民法709条等に基づき、連帯して、解雇時までの未払事務統括手当相当額合計18万5000円、未払賞与相当額合計180万円及び慰謝料300万円の合計498万5000円の支払+遅延損害金の支払を求め、さらに、期間の定めのない雇用契約であることが否定された場合の予備的請求として、有期雇用契約に基づき、Y社に対し、有期雇用契約上の権利を有する地位、年次有給休暇日数の確認、平成28年10月から本判決確定まで、別紙2記載のとおりの雇止め以降の賃金の支払+遅延損害金の支払を求めるとともに、主位的請求と同様に、上記雇止め等が債務不履行又は不法行為に当たるとして、Y社らに対し、民法415条又は709条等に基づき、連帯して、慰謝料300万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Xが、Y社に対し、事務統括たる期間の定めのない雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

Y社は、Xに対し、本件解雇以降の月例賃金(月額21万2286円)及び事務統括手当(月額1万円)の支払、並びに、不法行為に基づく損害賠償としてイ社yろう50万円等を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは雇用形態または雇用契約上の地位の確認を求める訴えを提起しているものの、この点が確定されたとしても、年次有給休暇の肯否及び日数について確定するためには、Xの継続勤務年数がY社とXとの間の雇用契約に引き継がれたかという点についても判断する必要があるから、雇用契約上の地位とは別に、Xの年次有給休暇請求権の有無を確定して紛争を抜本的に解決するためには、同請求権を直接確認の対象としてその存否を既判力をもって確定することが有効かつ適切というべきである。

2 労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、当該合意は、もともと所定労働時間の短縮申出という使用者の利益とは必ずしも一致しない場面においてされる労働者と使用者の合意であり、かつ、労働者は自らの意思決定の基礎となる情報を収集するの応力にも限界があることに照らせば、当該合意の成立及び有効性についての判断は慎重にされるべきである。そうすると、上記短縮申出に際してされた労働者に不利益な内容を含む使用者と労働者の合意が有効に成立したというためには、当該合意により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者が当該合意をするに至った経緯及びその態様、当該合意に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等を総合考慮し、当該合意が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要であるというべきである。

3 Xが、Xに対し、第1子出産後の平成26年4月に復職する際、時短勤務を希望したことについて、実際には嘱託社員のままで時短勤務が可能であったものであり、育児休業法23条に従い、嘱託勤務のままで所定労働時間の短縮措置をとるべきであったにもかかわらず、パート契約でなければ時短勤務はできない旨の説明をした上で、Xの真に自由な意思に基づかないで、嘱託社員からパート社員へ雇用形態を変更する旨のパートタイム契約を締結させ、事務統括から事実上降格したことは、同法23条の2の禁止する不利益取扱いに当たり、不利益の内容や違法性の程度等に照らし、Xに対する不法行為を構成する。

4 次に、Cが、Xの第2子妊娠に際し、D課長を通じて、Xの産休、育休取得を認めない旨を伝えたことに加え、Xは引き続きY社において就労を希望しており、その希望に反することを知りながら、平成27年3月30日、多くの従業員が出席し、Xも議事録係として出席した定例会において、Xが同年5月20日をもって退職する旨発表したことはCにおいて、第1子出産後の復職の際にパートタイム契約に変更しなければ時短措置を講じることができないとの態度をとり、更に第2子についての産休、育休取得を認めない態度を示していたこと等の事情を総合すると、Xに対して退職を強要する意図をもってしたものであると認められるから、産前産後の就業禁止を定める労基法65条に違反するとともに、妊娠出産に関する事由による不利益取扱いの禁止を定める男女雇用機会均等法9条3項にも違反する違法な行為であり、不利益の内容や違法性の程度等に照らし、Xに対する不法行為を構成する

このような事件では、判決により支払を命じられた金額よりも、レピュテーションの問題の方がはるかに大きなダメージがあります。

適切に労務管理を行うことは、今後ますます重要性を増してくることは言うまでもありません。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約85 定年後再雇用について労使協定に定める基準を充足しないことを理由とする雇止め(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、定年後再雇用について労使協定に定める基準を充足しないことを理由とした雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

エボニック・ジャパン事件(東京地裁平成30年6月12日・労経速2362号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の正社員であるXが、平成27年3月31日付けで60歳の定年により退職し、雇用期間を1年間とする有期雇用契約により再雇用された後、「定年退職後の再雇用制度対象者の基準に関する労使協定」所定の再雇用制度の対象となる物の基準を充足しないことを理由として、平成28年4月1日以降は同契約が更新されず、再雇用されなかったことについて、実際には同基準を充足していたことなどから、労働契約法19条2号により、同一の労働条件で同契約が更新されたとみなされること、平成27年分及び平成28年分の業績賞与の査定等に誤りがあることなどを主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本件雇止め以降の未払基本給(バックペイ)並びに前期業績賞与の未払分の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 Y社においても、就業規則16条2項により、継続雇用制度としての定年退職後の再雇用制度が設けられ、平成24年改正法による改正前の高年法9条2項に沿って、継続雇用制度の対象者を限定するための本件労使協定が平成18年4月25日に締結されていた。少なくとも平成24年改正法の施行前については、Y社における60歳定年後の再雇用制度が単一のものであったことは明らかである。
そして、平成24年改正法の施行にあわせ、就業規則16条2項については、特別支給年金年齢到達前の再雇用契約について、本件再雇用基準の適用を制限する趣旨の改正がなされたものの、本件労使協定については、平成24年改正法の施行前後において変更されていないのであるから、本件労使協定は、上記改正後の就業規則16条2項の基準に達しない部分を除いて、特別支給年齢到達前の再雇用契約に対しても効力を有するものと解される(労働契約法12条、13条)。
以上によれば、Y社の正社員として勤務した後に平成27年3月31日に定年退職し、本件再雇用契約を締結したXについては、同契約が65歳まで継続すると期待することについて、就業規則16条2項及び本件労使協定の趣旨に基づく合理的な理由があるものと認められ、CGMも、本件労使協定1条について、本件再雇用基準に該当する限りにおいては必ず再雇用するという趣旨の規定であると述べている。そして、本件再雇用契約の終期である平成28年3月31日の時点において、Xは、本件人事考課基準を含む本件再雇用基準に含まれる全ての要素を充足していたから、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当とは認められないものといえ、労働契約法19条2号により、同一の労働条件で本件再雇用契約が更新されたものと認められる

2 高年法それ自体が私法的効力を有していないとしても、高年法の趣旨に沿って設けられた就業規則16条2項及ぶ本件労使協定が私法的効力を有することは明らかであり、これらの解釈に当たり高年法の趣旨が参照されることに支障があるとはいえない。また、労働契約法19条は適用対象となる有期雇用契約の類型等を特に限定しておらず、他の同種の従業員全員が有期雇用であるとか、定年後の再雇用であるといった理由により、その適用自体が否定されるものではないから、同②の指摘は失当である。

3 高年法9条1項は、高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保することを目的としているのであり、平成24年改正法は、継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みを廃止したうえで、同法の施行の際、同法による改正前の9条2項に基づく措置を実施している事業主のみを対象として本件経過措置を設けたに過ぎない。また、本件無期雇用契約の下でのXの基本給は月額83万3000円であったところ、本件再雇用契約の下でのXの基本給(月額50万円)は、その約6割に減額されていたものであるし、上記において説示したとおり、Xは、本件人事考課基準を充足していた。さらに、年収280万円という金額は、本件労使協定が一般的に定めた定年後再雇用における賃金の最低水準に過ぎないところ、かかる最低水準を上回る労働条件が本件再雇用契約において定められていたのであるから、労働基準法19条2号の要件を充足する以上は、本件再雇用契約の内容である労働条件と同一の労働条件で同契約が更新されるという効果が生じることは否定し得ないものである。

継続雇用制度の運用については、労働人口の減少、高齢化に伴い、ますます重要度が高まってきます。

適切な運用をしていかないと、訴訟リスクが高まりますのでご注意ください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。