Category Archives: 解雇

解雇79(日本通信事件)

おはようございます。

さて、今日は、データ通信サービス会社社員3名に対する整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本通信事件(東京地裁平成24年2月29日・労判1048号45頁)

【事案の概要】

Y社は、データ通信サービス、テレコムサービス事業を行う、従業員数約100名(整理解雇前)の会社である。

Y社は、業績の悪化から、法人営業の拠点であった西日本支社を閉鎖するとともに、直ちに利益を生まないプロダクトマーケティング部と指定事業者準備プロジェクトを廃止することを決定し、廃止される部門の人員を主たる対象として、連結ベースで約50名、単体で32名に対して退職勧奨を行ったが、Xらはこれに応じなかった。

そこで、Y社は、Xらを整理解雇した。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 そもそも企業が、その特定の事業部門の閉鎖・廃止を決定することは、本来当該企業の専権に属する企業経営上の事項であって、これを自由に行い得るものというべきであるが、これを自由に行い得るものというべきであるが、ただ、このことは、上記決定の実施に伴い企業が使用者として当該部門の従業員に対して自由に解雇を行い得ることを当然に意味するものではない。わが国の労働関係が、いわゆる終身雇用制を原則的な形態として形成されたものであることは紛れもない事実ではあるが、そうした終身雇用制を前提とするか否かにかかわらず、労働者は、雇用関係が将来にわたって安定的に継続するものであることを前提として、自らの生活のあり方を決定するのが通例であるところ、整理解雇は、労働者に何ら落ち度がないにもかかわらず、使用者側の経済的な理由により、一方的に労働者の生活手段を奪い、あるいは従来より不利な労働条件による他企業への転職を余儀なくさせるものであって、これを無制限に認めたのでは著しく信義に反する結果を招きかねないばかりか、労働者の生活に与える影響は深刻である

2 ・・・このように考えるならば、本件整理解雇の効力を判断するに当たっては、同解雇が、労使間の包括的な利益衡量により、就業規則64条3号にいう「事業の縮小その他会社の都合によりやむを得ない事由がある場合」に該当するか否かを判定する必要があるところ、整理解雇は、その特性等からみて、使用者は他の解雇にもまして労働者の雇用の維持をに努め、可能な限り、その不利益を防止すべき義務を負っているものというべきであり、そうだとすると上記判断には、いわゆる比例原則が妥当し、整理解雇(余剰人員の削減)という手段とその目的との間の「適合性」(整理解雇が期待された会社経営上の成果の実現を促進するか。適合性の原則)、「必要性」(整理解雇が目的を達成する上で最終的な手段か。必要性の原則)及び「適切性」(整理解雇が目的との関係で適切な均衡を保っているか。適切性の原則)の各観点からの検討が不可欠である。

3 そうだとすると、上記就業規則64条3号にいう「事業の縮小その他会社の都合によりやむを得ない事由がある」ものといい得るためには、上記適合性の原則に基づくものとして(1)当該整理解雇(人員整理)が経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づくか、ないしはやむを得ない措置と認められるか否か(要素(1)=整理解雇の必要性)、上記必要性及び適切性の原則に基づくものとして(2)使用者は人員の整理という目的を達成するため整理解雇を行う以前に解雇よりも不利益性の少なく、かつ客観的に期待可能な措置を行っているか(要素(2)=解雇回避努力義務の履行)及び(3)被解雇者の選定が相当かつ合理的な方法により行われているか(要素(3)=被解雇者選定の合理性)という3要素を総合考慮の上、解雇に至るのもやむを得ない客観的かつ合理的な理由があるか否かという観点からこれを決すべきものと解するのが相当である。

4 なお、整理解雇につき労働協約又は就業規則上いわゆる人事同意約款又は協議約款が存在するにもかかわらず労働組合の同意を得ず又はこれと協議を尽くさなかったときはもとより、そのような約款等が存在しない場合であっても、当該整理解雇がその手続上信義に反するような方法等により実行され、労契法16条の「社会通念上相当であると認められない場合」に該当するときは解雇権を濫用したものとして、当該整理解雇の効力は否定されるものと解されるが、これらは整理解雇の効力の発生を妨げる事由(再抗弁)であって、その事由の有無は、上記就業規則64条3号所定の解雇事由が認められた上で検討されるべきものであり、上記就業規則所定の解雇事由=「客観的に合理的な事由」(抗弁)の有無の判断に当たり考慮すべき要素とはなり得ないものというべきである

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇78(日本ユニ・デバイス事件)

おはようございます。

さて、今日は、整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本ユニ・デバイス事件(さいたま地裁平成24年4月26日)

【事案の概要】

Xは、平成18年8月、Y社と雇用契約を締結し、A社の工場内で製造業に従事していた。

Xは、形式的な6か月の更新を繰り返していたが、ある時更新をしなくなった。しかし、Xは、そのまま何ら変わることなく、労働に従事していた。

その後、Y社は、平成20年12月、Xら従業員に対し、平成21年3月末をもって辞めてもらう旨を口頭で通知した。

Xを含む従業員は、Y社と面接を行ったが、Xを含めて半数以上が不採用となり、Xは、平成21年1月末に整理解雇された。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 民法629条1項は、更新後の契約につき、民法627条による解約の申し入れが出来る旨を規定していることに加えて、賃貸借契約についても民法629条1項と同様の規定(民法619条1項)があるが、黙示の更新後の賃貸借契約は期間の定めのない契約になるものと解されていることからすると、条文の文言及び他の規定との整合性という観点からは、雇用契約が黙示に更新された場合においても、更新後の契約は期間の定めのない契約になるというのが自然の解釈といえる。さらに、当事者の意思についてみても、雇用契約において黙示の更新がなされるときとは、労働者は雇用期間が満了したにもかかわらず労務を継続する一方で、使用者は期間雇用という契約形態の基礎をなし、かつ通常容易になし得る更新手続きをしないまま労働者による労務の継続を黙認しているという点において、当事者間で期間の定めが重視されているとは言い難い。したがって、雇用契約につき黙示の更新がなされた場合における、更新後の契約は、期間の定めがない契約になると解するのが相当である
これに対してY社は、更新後の契約は期間の定めを含めて従前と同一の条件になると主張する。しかしながら、このような解釈は更新後の契約につき民法627条による解約の申し入れが出来るとされていることと整合しないし、賃貸借と雇用とで同様の規定について異なる解釈をすることを合理的に説明することも困難である。また、解雇権濫用法理等が雇用契約の拘束力に一定の変化をもたらしたことは否定できないにしても、そのことが直ちに民法の規定の解釈にまで影響を及ぼすものとは考え難い

2 整理解雇は、Xの責めに帰すべき理由によるものではないことに鑑み、本件解雇の有効性は、人員削減の必要性、解雇回避努力の履行の有無、被解雇者選定基準の妥当性、解雇手続の妥当性等を総合的に考慮した上で、本件解雇がY社の経営上の措置として社会通念上相当であるといえるか否かという観点から判断すべきである。

3 解雇回避努力については、確定的ではなかったにしろ、将来的に受注増加により、雇用を確保し得る可能性は否定されていなかったのであり、解雇をすることなくXら従業員の雇用を継続することができた可能性もあるにもかかわらず、解雇に先だってこのような可能性について具体的な検討がなされた事実は認められない。
その他に、Y社の経営上必要な人員削減の内容について、経営の見通しに関する数値等を根拠とした具体的な検討がなされた形跡は証拠上認められない
また、Y社は、解雇通告と同時に、Xら従業員に対して何ら具体的取り決めのないワークシェアリングの提示をしたが、ワークシェアリングの内容に関する具体的な検討や交渉が行われたものとは認められない。また、ワークシェアリングの提示は、解雇通告と同時ないしその後に行われており、本件解雇に先だって検討されたものとは認められない

4 被解雇者選定基準の妥当性については、Y社が重視したとする協調性や体力という点について、基本的には面接におけるやり取りに基づいて評価されているが、これらの資質は面接における短時間のやり取りの中で容易に判断し得るものではなく、その他客観的な資料が用いられたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、恣意的な判断が介在する余地があったものといわざるを得ず、その判断が客観的な基準に基づいて適正になされたものとは認められない

5 手続の妥当性については、経営状況等について説明会を開催したり、書面を示して説明するなどして人員削減の必要性等につきXら従業員の理解を得ようとした事実は認められない

6 ・・・Xが一貫してY社への復帰を求めていたのは当裁判所に顕著な事実であるところ、その間の生活を維持するためにXに一定の収入が必要であったことは明らかであるから、Xが新就労先に就職することは、XがY社への復帰を求めることと直ちに矛盾するものではない。

非常に参考になる裁判例です。

6か月の期間の定めのある契約が黙示の更新により、期間の定めのない雇用契約となるかについて、裁判所は、肯定しています。

整理解雇の有効性に関する判断についても、その判断方法は参考にすべき点がとても多いですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇77(日本航空運航乗務員解雇事件)

おはようございます。

さて、今日は、会社更生手続中の航空会社の運航乗務員に対する整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本航空運航乗務員解雇事件(東京地裁平成24年3月29日・労経速2144号3頁)

【事案の概要】

Y社は、その子会社、関連会社とともに、航空運送事業及びこれに関連する事業を営む企業グループを形成し、国際旅客事業、国内旅客事業等の航空運送事業を展開する会社である。

Y社は、平成22年1月、会社更生手続開始の申立をした。

管財人は、更生手続開始決定後終結前に、Y社の就業規則所定の解雇事由(「企業整備等のため、やむをえず人員を整理するとき」)に該当するとして、Y社の運航乗務員である機長、副操縦士を整理解雇した。

【裁判所の判断】

整理解雇は有効

【判例のポイント】

1 会社更生法上、労働契約は双方未履行双務契約として、管財人が解除又は履行を選択し得る(同法61条1項)が、管財人は、労働契約上の使用者としての地位を承継している以上、管財人の上記解除権は、解雇と性格づけられるところ、権利濫用法理(労働契約法16条)は、管財人が行った本件解雇についても当然に適用され、本件解雇は使用者の経営上ないし経済上の理由によって行われた解雇なのであるから、上記の解雇権濫用法理の適用に当たっては、人員削減の必要性の有無及び程度、解雇回避努力の有無及び程度、解雇対象者の選定の合理性の有無及び程度、解雇手続の相当性等の当該整理解雇が信義則上許されない事情の有無及び程度という形で類型化された4つの要素を総合考慮して、解雇権濫用の有無を判断するのが相当であり、このことは当該更生手続が、いわゆる事前調整型(プレパッケージ型)の企業再建スキームとして利用されたものであるか否かにより結論を異にする根拠はないのであり、本件更生手続が機構の支援と会社更生手続を併用して事業廃止を回避した事前調整型企業再建スキームであることは結論を左右するものではない

2 Xは、平成22年12月時点で、Y社は更生計画を大きく上回る営業利益を計上している等から本件解雇は回避することは経営上十分可能であったと主張するが、本件解雇は更生計画の遂行(会社更生法209条1項)として行ったものであり、更生計画を上回る収益が発生したとしても、このような収益の発生を理由として、更生計画の内容となる人員削減の一部を行わないことはできない

3 Y社は、本件解雇に先立ち、平成20年10月に賃金の5%減額を行い、平成22年4月~同年12月の間に基準内賃金及び代表的な手当の各5%減額等を行い、これによりJALIの運航乗務員の平成22年度の賃金水準は平成17年度の75%の水準まで低下したこと、平成22年3月~8月の間、2度にわたり特別早期退職を募集して約374名の運航乗務員が応募したこと、同年9月~同年12月9日の間に、4度にわたり希望退職を募集して、稼働ベースで279名の運航乗務員が応募したこと、同月10日~同月27日の間に、希望退職を募集して、稼働ベースで12名の運航乗務員が募集したことから、Y社は本件解雇に先立ち、一定の解雇回避努力を行ったことが認められる

4 Y社は、平成22年9月29日~同年12月24日の間、運航乗務員を組合員とする日本航空乗員組合及び日本航空機長組合との間で、それぞれ13回の団体交渉・説明を行ったこと、本件解雇の対象者に対しても、所定退職金の他に、平均約350万円の特別退職金と所定解雇予告手当の趣旨も含む賃金5か月分の一時金を支給して、その不利益を緩和する措置を採ったことを併せ考慮すると、本件解雇の過程において、整理解雇が信義則上許されないとする事情は認められない

先日、紹介した日本航空(整理解雇)事件と同じ結論です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇76(クレディ・スイス証券(休職命令)事件)

おはようございます。

さて、今日は、休職命令・休職延長命令の有効性と解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

クレディ・スイス証券(休職命令)事件(東京地裁平成24年1月23日・労判1047号74頁)

【事案の概要】

Y社は、総合的に証券・投資銀行業務を展開している会社である。

Xは、大学卒業後、複数の証券会社勤務を経て、平成16年、Y社に入社した。

Y社は、平成21年当時、通常の営業活動に基づく経営資源の投入コストを前提とした場合、コア・アカウント(重要顧客)のY社に対する評価が5位以内であれば、損益分岐ラインを十分に超える売上手数料を稼ぐことができ、収益を維持することができるものと考えていたため、Y社は、全コア・アカウントのY社に対する評価を5位以内にすることを、株式営業部の営業担当の必達の目標として設定し、全営業担当者に対し周知した。

同年5月、株式本部長Aは、平成21年度第1四半期のXが担当する4つのコア・アカウントのうちの2つのランキングが6位であったことから、Xに対して、役職に求められる成果が発揮できない場合に、改善すべき点を示した警告書を交付し、人事部を交えてそのパフォーマンスの改善を定期的に進捗確認し、必要に応じて指導を行うための業務改善命令を発令することとし、これを伝えるためにXと面談のうえ、人事部のBヴァイスプレジデントを通じて、Xに対して警告文を手渡した。

また、A本部長は、Xに対し、業務改善プロセス下で改善に至らず同じ結果に至のであれば、退職して別の道を進むという選択肢もあるのではないかと告げ、同席していたBヴァイスプレジデントが、Xに対し、一般的な退職手続について説明した。

これに納得しなかったXは、Y社内に入るためのアクセスカードを返却したうえで帰宅した。

Xは、弁護士を通じて、Y社に対し、復職を求めた後、交渉がなされたが、合意に至らず、Y社はXに対し、平成22年6月、解雇する旨を通知した。

解雇理由は、Y社の就業規則所定の「従業員の労働能力が著しく低下し、又は勤務成績が不良で改善の見込みなく就業に適さないと会社が認めたとき」に準ずるやむを得ない事由であった。

【裁判所の判断】

休職命令・休職延長命令は無効

解雇は無効

Y社に対して慰謝料100万円の支払を命じた

【判例のポイント】

1 本件休職命令が、その期間、原則として無給扱いとなり、勤続年数に通算されないという不利益が労働者側にあることに照らすと、Y社の就業規則の規定は、Y社に対し、無制限の自由裁量による休職命令権を付与したものと解することはできず、合理性が認められないような場合には、当該命令は無効である

2 本件業務改善プロセス期間における一連のY社の対応がパワーハラスメントに当たるとのXの見解が一方的で事実無根であると評価することはできず、Xの同見解に基づく留保付きの職場復帰命令に従う旨の意思表示は、職場復帰命令が、就業規則の合理的な規定に基づく命令である限りという留保であって、パワーハラスメントに関する見解の相違問題とは切り離して、職場復帰問題を解決しようとするX側の姿勢をみて取ることができるので、このようなX側の態度をもって、実質的な職場復帰命令の拒否に該当するものと評価することはできないことから、本件休職命令・本件休職延長命令は無効である

3 Xは、本件警告書の交付時点で平成21年代2四半期の評価期間が50日程度残っていた他の顧客については、評価が上昇し、5位必達の目標を達成することができていることに照らすと、4社のうち1社の同四半期におけるY社に対する評価が低いことをもって本件解雇の理由とすることは、改善可能性に関する将来的予測を的確に考慮した解雇理由であるということができず、合理性を欠く

4 賞与請求権は、使用者が労働者に対する賞与額を決定して初めて具体的な権利として発生するものと解するのが相当であり、本件の賞与に関する定めは、極めて一般的抽象的な規定にとどまるものであるといわざるを得ず、個別具体的な算定方法、支給額、支給条件が明確に定められ、これらが労働契約の内容(Y社の債務)になっているものとは認められず、また、前記の賞与の定め方や、これまでのXに対する支給額の変動の激しさに照らすと、X主張のような賞与に対する期待が法的に保護されたものと認めることはできない。

5 Xのメールアドレスを抹消したことや、Xが長期休職するとの通知を顧客にしたこと、Xを解雇したとの告知を他の従業員にしたことについては、特に、Xが、本件業務改善プロセスに基づき2回目の面談から程なくして代理人を選任し、Y社と復職交渉をするに至っていることに照らすと、もう少し穏便な対応策やアナウンスの仕方があったと思われるのであり、その限りにおいて、違法性を有することから、Xは、上記認定の限りにおいて、精神的苦痛を被ったとして、慰謝料として100万円が相当である。 

休職命令の合理性の判断は、とても難しいです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇75(日本航空(整理解雇)事件)

おはようございます

さて、今日は、会社更生手続中の航空会社の客室乗務員に対する整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本航空(整理解雇)事件(東京地裁平成24年3月30日・労経速2143号3頁)

【事案の概要】

Y社は、その子会社、関連会社とともに、航空運送事業及びこれに関連する事業を営む企業グループを形成し、国際旅客事業、国内旅客事業等の航空運送事業を展開する会社である。

Y社の会社更生手続中である、平成22年12月、更生管財人は、Xらに対し解雇予告通知をしたが、その際の整理解雇対象者は客室乗務職108名であったが、その後希望退職の募集等を行い、最終的には、客室常務職員数は84名となった。

Xらは、更生管財人を被告として(会社更生手続終了後に被告が受継した)、本件解雇の無効を主張し争った。

【裁判所の判断】

整理解雇は有効

【判例のポイント】

1 Y社は、会社更生手続下でされた本件解雇については、会社清算・破産手続下でされた整理解雇の場合と同様に、いわゆる整理解雇法理を機械的に適用すべきではないと主張する。
しかしながら、(1)会社更生手続は、窮境にある株式会社について、更生計画を策定するなどして、債権者、株主その他の利害関係人の利害を適切に調整し、もって当該株式会社の事業の維持更生を図ることを目的とする再建型の倒産処理手続であり、更生手続開始の決定時点で破綻した更生会社を観念的に清算する手続であるとはいっても、清算型の倒産処理手続である会社清算・破産手続とは異なり、事業の継続を前提としており、直ちに労働社の就労が拒否されるわけではないこと、(2)清算型の倒産処理手続下において労働者を解雇する場合であっても、当該解雇には解雇制限規定(労働基準法19条)及び解雇予告規定(同法20条)の適用があると解される上、会社更生手続や民事再生手続のような再建型の倒産処理手続においては、労働社の労働基本権に配慮する趣旨で、更生管財人が労働協約を解除することができない旨の特則(会社更生法61条3項、民事再生法49条3項)が置かれていること、(3)(2)と同様の趣旨で、労働契約は、継続的給付を目的とする双務契約であるにもかかわらず、反対給付不履行の場合の履行拒絶禁止規定が適用されない旨の特則(会社更生法62条3項、民事再生法50条3項)が置かれていることに鑑みると、会社更生手続下でされた整理解雇については、労働契約法16条(解雇権濫用法理)の派生法理と位置付けるべき整理解雇法理の適用があると解するのが相当である。もっとも、整理解雇法理適用の要件を検討するに当たっては、解雇の必要性の判断において使用者である更生会社の破綻の事実が、重要な要素として考慮されると解すべきである

2 本件解雇の効力を判断するに当たっても、本件解雇にいわゆる整理解雇法理の適用があるとの前提で、以下、(1)人員削減の必要性の有無、程度、(2)解雇回避措置の有無、程度(解雇回避措置実施の有無、内容等)、(3)人選の合理性の有無(本件人選基準の合理性等)、(4)解雇手続の相当性(労使交渉の経緯、不当労働行為性等も含む。)を具体的に検討し、これらを総合考慮するのが相当である。

3 整理解雇による被解雇者(本件Xらを含む客室乗務職及び運航常務職ら約160名)を残すことが経営上不可能ではなかった旨の当時のY社の代表取締役会長の発言は、苦渋の決断としてやむなく整理解雇を選択せざるを得なかったことに対する主観的心情を吐露したにすぎないものと評価するのが相当であって、客観的状況に照らせば、会長の発言があったことをもって、人員削減の必要性を否定することはできない。

4 Y社は、再三にわたる希望退職措置の方法で任意の退職者を募集し、一連の希望退職措置においては、一旦倒産状態に陥った更生会社であるにもかかわらず、退職金の割増支給を含む非常に手厚い退職条件を提示した上、併せて、その当時、採用可能な各種の解雇回避措置を実施する等、Y社が本件解雇に先立ち行った解雇回避措置は、いずれも合理的なものであり、総合して破格の内容のものであるということができるから、Y社は、本件解雇に当たって十分な解雇回努力を尽くしたものと認めるのが相当である

5 本件解雇に当たって採用された本件人選基準((1)休職者基準、(2)病欠日数・休職日数基準、(3)人事考課基準、(4)年齢基準を併用し、(1)から(4)までを順に適用するもの)のうちの病欠日数・休職日数基準、年齢基準は、いずれも使用者であるY社の恣意の入る余地の少ない客観的なものであったし、人事考課基準についてはそもそも該当者がなく、休職者基準、病欠日数・休職日数基準については、過去の 病欠歴を基にY社に対する将来の貢献度を推定する基準として合理的であるということができるし、年齢基準についても、若年層に厚い人員構成への転換を図るべく、Y社に対する将来の貢献度とともに、解雇対象者の被害度を客観的に考慮した結果として設定されたものであって、合理性があるものと評価される。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇74(学校法人尚美学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、前勤務先でのパワハラ等不告知を理由とする普通解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人尚美学園事件(東京地裁平成24年1月27日・労判1047号5頁)

【事案の概要】

Xは、Y大学の教授である。

Xの経歴は、昭和50年、厚生省(当時)に入省し、その後、環境庁などを経て、平成15年8月、厚労省を辞職し、16年から財団法人A財団常務理事兼事務局長の職にあった。

Xは、Y大学に対し、以前に勤務先においてパワハラ及びセクハラを行ったとして問題にされたことを告知しなかったことなどを理由に、Y大学が、Xを解職(普通解雇)した。

Xは、転職の理由について、「役所の仕事がもう限界である」「理事会がないと辞めることができるかどうか分からない」と話したが、Y大学から、事件を起こしたことはないかとか、パワハラ・セクハラ等の問題はないか等の質問はなかった。

【裁判所の判断】

解雇は無効

慰謝料請求は否定

【判例のポイント】

1 ・・・しかしながら、採用を望む応募者が、採用面接に当たり、自己に不利益な事項は、質問を受けた場合でも、積極的に虚偽の事実を答えることにならない範囲で回答し、秘匿しておけないかと考えるのもまた当然であり、採用する側は、その可能性を踏まえて慎重な審査をすべきであるといわざるを得ない。大学専任教員は、公人であって、豊かな人間性や品行方正さも求められ、社会の厳しい批判に耐え得る高度の適格性が求められるとのY社の主張は首肯できるところではあるが、採用の時点で、応募者がこのような人格識見を有するかどうかを審査するのは、採用する側である。それが大学教授の採用であっても、本件のように、告知すれば採用されないことなどが予測される事項について、告知を求められたり、質問されたりしなくとも、雇用契約締結過程における信義則上の義務として、自発的に告知する法的義務があるとまでみることはできない

2 Xは、転職の理由につき「役所の仕事がもう限界である。」と述べたことが認められるが、転職の理由は、その本質からして主観的であり、仮に客観的には辞職しなければ更に責任を追及されるような状況にあったとしても、これを虚偽と言い切ることは困難である。また、Xが「自分は辞めたいが平成18年2月か3月の理事会がないと辞めることができるかどうか分からない。」と述べたことについても、手続上の問題や業務上の必要性を述べたものと回することもできなくもなく、仮に客観的には既に辞職が決まっていたとしても、これを虚偽と言い切ることはできない。
このような言辞や、健康上の理由である旨の言辞がXからあったのであれば、心身とも職務に耐え得る健康状態なのかや、現在の仕事の状況を聞いたり、Y社がXに内定を出してもXが本件財団を退職できずに辞退されるかもしれないという問題があるのであるから、Xが辞職を望んでいるのに辞職できない可能性がある理由を質問するなりして、職場の人間関係のトラブルによる可能性はないかなどといった見地から検討したりすることも考えられたのであって、そのような質問をした上でその回答内容に虚偽があれば格別、これらの言辞のみをもって、信義則に違反するものということはできない

3 Xが、Xの言動につき、それがセクハラ・パワハラに該当するのではないかと申し立てられたことをY社に告げなかったことなどにつき、信義則上の義務違反は認められず、社会的評価の低下等は採用以前から存在した可能性が現実化したもので、Y社が採用時に看過し又は特にそのことを問題にしなかった問題から派生して、問題が生じたとしても、「簡単に矯正することもできない持続性を有する素質、能力、性格等に基因して、その職務の円滑な遂行に支障があり、または支障を生ずる高度の蓋然性が認められる場合」に該当するとして、専任教員勤務規程第18条3号の事由の存在を理由に、Xを普通解雇することはできないといわざるを得ない

4 解雇された従業員が被る精神的苦痛は、当該解雇が無効であることが確認され、その間の賃金が支払われることにより慰謝されるのが通常であり、これによってもなお償えない特段の精神的苦痛を生じた事実があったときに初めて慰謝料請求が認められると解するのが相当である
・・・Xは縷々主張するが、手続が不公正であるとか、処分が恣意的なものであるとかということもできないのであって、その他本件に現れた一切の事情を総合勘案すると、賃金の支払以上に慰謝料の支払を相当とする特段の事情があるとはいえないから、本件解雇につき、Y社の不法行為に基づく損害賠償債務は認められない。

この裁判例では、採用面接等で前職でのセクハラ・パワハラ問題等を申告しなかったのは、労働者の信義則上の告知義務に違反しないとされています。

会社の方が、質問しない項目について、労働者が積極的に自己に不利益な事項について告知することまで求められていないそうです。

この裁判例を前提とする限りでは、会社のほうで、面接時に労働者に質問する事項をたくさん用意しておく必要がありますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇73(日本通信事件)

おはようございます。

さて、今日は、整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本通信事件(東京地裁平成24年2月29日・労経速2141号9頁)

【事案の概要】

Y社は、JASRAQ上場会社で、データ通信サービス、テレコムサービス事業等を業とする会社である。

Xらは、Y社の従業員である。

Y社は、平成22年10月頃から、Xらを含む30数名の従業員に対し、個別に退職勧奨を行ったが、Xらは、これに応じなかった。

そこで、Y社は、就業規則64条3号に基づき、Xらを解雇した。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 就業規則にいう「事業の縮小その他会社の都合によりやむを得ない事由がある」ものといい得るためには、(1)当該整理解雇(人員整理)が経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づくか、ないしはやむを得ない措置と認められるか否か(整理解雇の必要性)、(2)使用者は人員の整理という目的を達するため整理解雇を行う以前に解雇よりも不利益性の少なく、かつ客観的に期待可能な措置を行っているか(解雇回避努力義務の履行)及び(3)被解雇者の選定が相当かつ合理的な方法により行われているか(被解雇者選定の合理性)という3要素を総合考慮の上、解雇に至るのもやむを得ない客観的かつ合理的な理由があるか否かという観点からこれを決すべきと解するのが相当である。

2 人員の調整は、解雇以外の方法、配転・出向、一時帰休、採用停止、希望退職の募集、退職勧奨等によっても行うことができ、ここに解雇回避努力義務を尽くしたか否かという要素が問題になるところ、かかる使用者の解雇回避努力義務に対しては、上記比例原則のうち必要性の原則(最終の手段原理)が最もよく妥当し、使用者は、整理解雇を実施する以前において、当該人員整理の必要性の程度に応じて、客観的に期待可能なものであって、解雇よりも不利益性の少ない措置(解雇回避措置)をすべて行うべき義務を負っている

3 解雇回避努力義務は、単に一事業(プロジェクト)や事業部門に限定すべきではなく、企業組織全体を対象に(1)希望退職の募集や(2)配転・出向の可能性を検討するのが原則であるところ、Y社は、本件整理解雇(人員整理)の実行以前にY社組織全体を対象とした希望退職の募集や配転出向の可能性も検討していないが、これらはY社にとって受忍の限度を超えるものというべきことからすると、これらの点から、直ちにY社が解雇回避に向け社会通念上相当と評価し得る程度の営業上の努力を怠ったものということはできない

4 Y社は、Xらに対し、解雇回避措置の一環として可能な限り本件退職勧奨の対象者を絞り込むとともに、金銭面で有利な退職条件を提示することができるよう、社会通念上相当と認められる程度の費用捻出策等を講じるべき義務を負っていたものというべきところ、高額な役員報酬等のカット・削減分を原資として、本件退職勧奨の対象従業員を絞り込むとともに、金銭面で有利な退職条件を提示することができるよう一定の配慮を行った形跡は全く窺われず、本件退職勧奨において、100万円にも満たない程度の退職条件を示し、これに応じなかったXらに対して本件整理解雇を断行しているのであって、これではY社は、本件整理解雇手続において、社会通念上相当と認められる程度の費用捻出策を講じたものとはいえない

5 被解雇者選定の合理性は、被解雇者を選定するための整理基準の内容と基準の適用の2つの要素からなっているが、本件整理解雇においては、非採算部門に所属する従業員という極めて抽象的な整理基準が存在しただけであり、整理基準の合理性に関しても、本件退職勧奨に応じなかったXら3名を指名した上、その各人の個別具体的な事情に配慮することなく、本件整理解雇を断行したものということができ、被解雇者の選定手続きとしては余りに性急かつ画一的なものであって、慎重さに欠けるものといわざるをえず、本件整理解雇における被解雇者選定の合理性には疑問を挟む余地がある

6 本件整理解雇は、その必要性の程度こそかなり高いものということができるものの、解雇回避努力義務は十分に尽くされたものとはいい難く、また、被解雇者選定の合理性についてもやむなしとするほどの客観的かつ合理的な理由があるとは認められず、したがって、本件整理解雇は、就業規則64条3号にいう「事業の縮小その他会社の都合によりやむを得ない事由がある」場合には当たらないものというべきであり、本件整理解雇は、労契法16条所定の「客観的に合理的な理由」を欠き、解雇権を濫用するものとして無効である。

3要素説ですね。 手続の適正については、考慮要素になっていません。

4要素説でも、手続面が不十分ということで整理解雇が無効になることはほとんどありません。

たいていは、解雇回避努力が足りないということで無効になります。

この裁判例は、総論部分(判例のポイント1)が充実しているので、参考になります。

また、被解雇者選定の難しさがわかります。 

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇72(三枝商事事件)

おはようございます。

さて、今日は、不動産営業事務員の解雇と賃金に関する逸失利益の範囲に関する裁判例を見てみましょう。

三枝商事事件(東京地裁平成23年11月25日・労判1045号39頁)

【事案の概要】

Y社は、不動産業、自社ビル賃貸・売買、農業等を目的とする会社である。

Xは、平成22年5月、Y社との間で期間の定めのない雇用契約を締結し、不動産営業事務員として、電話・来客対応、不動産営業事務を行ってきた。

Y社は、Xを、営業成績が悪かったことなどを理由に口頭で解雇の意思表示をした。

これに対し、Xは、Y社が行った不当解雇により著しい生活上の不利益を被ったとして不法行為に基づく損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

解雇は不法行為に該当する。

不法行為に基づく逸失利益として、賃金の3か月分相当額の損害賠償請求を認めた。

慰謝料の請求は認められない。

【判例のポイント】

1 いわゆる解雇権濫用法理を成文化した労契法16条により労働者は、正当な理由のない解雇により雇用の機会を奪われない法的地位を保障されているものと解されるが、ただ、同条は、あくまで使用者に原則として「解雇の自由」(民法627条1項。解雇自由の原則)が保障されていることを前提とする規定である。そうすると、かかる原則の下に行われた当該解雇が同条に違反したとしても、そのことから直ちに民法709条上も違法な行為であると評価することはできず、当該解雇が民法709条にいう「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害」する行為に該当するためには、労契法16条に違反するだけでなく、その趣旨・目的、手段・態様等に照らし、著しく社会的相当性に欠けるものであることが必要と解するのが相当である

2 確かに、不動産営業担当社員としてのXの仕事ぶりには問題があったようであり、このことが本件解雇の背景にあることは否定し難い。また本件解雇の意思表示それ自体もややXのもの言いに触発された面もある。
しかし仮にそうであったとしてもY社は、Xに対し、試用期間終了後も解約権を行使することなく、不動産営業担当の正社員として雇用し続けているのであるから、試用期間終了後1か月も経過しないうちに全く職種の異なる他部門への配置換えを検討することは性急に過ぎる上、本件配転打診は、1割以上の減給だけでなく、別居・転勤を伴う配転命令の打診であって、Xに対して、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるおそれの強いものであったといわざるを得ない
そうだとするとXが本件配転打診をにべもなく拒絶したことはむしろ当然のことであり、これに加え、本件解雇に至るまでの経緯やその後の対応等を併せ考慮すると客観的にみて本件雇用契約を直ちに一方的に解消し得るほどの解雇事由が認められないことは明らかであって、してみると何ら解雇を回避する方法・手段の有無が検討されないまま行われた本件解雇は、余りに性急かつ拙速な解雇というよりほかなく、労契法16条にいう「客観的に合理的な理由」はもとより、社会通念上も「相当」と認められないことは明らかであって、著しい解雇権の濫用行為に当たるものというべきである
このように考えると本件解雇は、労契法16条に違反するだけでなく、不法行為法上も著しく社会的相当性に欠ける行為であると評価することができ、したがって、民法709条にいう「他人(X)の権利又は法律上保護される利益を侵害」する行為に該当する。

3 ここで「過失」とは、予見可能性を前提とした結果回避義務違反の行為をいうものと解されるところ、Y社社長は、長年にわたって使用者の代表者として従業員の労務管理を経験してきたものと推認される代表取締役であって、本件についても、その経験に基づき使用者として通常払うべき法令等の調査・注意義務を尽くしていたならば、本件解雇のような性急かつ拙速な解雇は許されないものであることを認識することは可能であったというべきである(予見可能性)。
にもかかわらず、Y社社長は、これを怠り、解雇を回避するための手段・方法を検討することなく、その場の勢いでもって本件解雇の意思表示を行ったものであるといわざるを得ず(結果回避義務違反)、したがって、Y社には本件解雇が侵害行為に当たることにつき少なくとも「過失」が認められることは明らかである

4 一般に同法に違反する違法な解雇を受けた労働者が、従前の業務への復帰を諦め、当該解雇によって失った賃金についての逸失利益等の損害賠償を求めることは、決して希なことではなく、むしろ通常よく散見される事象ではあるが、ただ本件解雇(不法行為)と相当因果関係を肯定することができる上記賃金に関する逸失利益の範囲については、特段の事情が認められない限り、通常、再就職に必要な期間の賃金相当額に限られるものと解すべきである

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇71(トムス事件)

おはようございます。

さて、今日は、整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

トムス事件(札幌地裁平成24年2月20日・労経速2139号21頁)

【事案の概要】

Y社は、無地衣料及び無地の衣料にオリジナルのデザインをプリントする加工衣料の製造、企画及び販売を業とする会社であり、東京都内に本社を置くほか、国内では、札幌、仙台、埼玉、名古屋、大阪、広島及び沖縄に支店を、中国では、上海及び青島に連絡事務所を置いている。

Xは、平成18年3月、Y社との間で、雇用期間の定めなく、就業場所をY社札幌支店とし、業務内容を営業事務職とする雇用契約を締結した。

Y社は経営の合理化、効率化の必要にせまられ、その方策として「コンタクトセンター」を設置して全国の無地衣料に関する業務を集約し、また、加工衣料に関する業務についても大きな支店への移管を進めた。

その結果、X一人が執り行っていた札幌支店の営業事務職は大幅に業務量が減少することになったため、Y社は、Xに対し、東京本社に転勤するよう命じたが、Xは、これを承諾しなかった。

そこで、Y社は、Xを整理解雇した。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Y社は、国内外の競合による価格競争によって売上単価が低下する一方、中国の綿花価格及び人件費の上昇により、利幅が少なくなり、従前増収を続けていたのが、平成22年には減収に転じたことなどから、経営の合理化、効率化の必要に迫られ、その方策として、「コンタクトセンター」を設置して全国の無地衣料に関する業務を集約し、また、加工衣料に関する業務についても大きな支店への移管を進め、それに伴い、他に業務を移管した支店の営業事務職を減員することとし、その一環として、札幌支店については、無地衣料に関する業務も仙台支店に移管し、その結果としてX一人が執り行っていた札幌支店の営業事務職は大幅に業務量が減少することから、これを廃することにしたことが認められる
しかるに、Xは、C営業本部長及びD取締役から、東京本社に転勤するという提案を受け、さらにその旨の配転命令(辞令)を受けたのに、これを承諾しなかったのであるから、本件解雇については、Y社の就業規則所定の解雇事由があるといわざるを得ない。

2 Xは、本件解雇について、人選の合理性が認められないと主張するが、Y社札幌支店で営業事務職を執り行っていたのはXのみであり、その営業事務職を廃することにしたのであるから、およそ人選の余地はなかったといわざるを得ない

3 また、Xは、手続が妥当性を欠いていたと主張するところ、Xが勤務地限定採用社員であることを肯定したC営業本部長の言辞はいささか適切でないといえるものの、これについてはその後D取締役が相応の説明をしている上、そもそも、Xが異動を予定しない社員であるということと事業の縮小・休止等によりXを解雇するということは、直接には関係しないことであって、前者に関する説明が適切でないとしても、後者の手続が妥当性を欠くということにはならないというべきである。その他、本件解雇の手続が違法であるといえるような事情を認めるべき証拠は存在しない。

整理解雇の事案で、これほど短い判決理由は見たことがないというくらいあっさりとした判決です。

しかも解雇は有効との判断ですから、従業員側からすれば、納得しにくいでしょうね。

解雇回避努力についてもう少しちゃんと判断したほうがいいと思いますがいかがでしょうか。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇70(日本基礎技術事件)

おはようございます。

さて、今日は、適格性不足等を理由とする試用期間中の解雇の成否に関する裁判例を見てみましょう。

日本基礎技術事件(大阪高裁平成24年2月10日・労判1045号5頁)

【事案の概要】

Y社は、建築コンサルタント、地盤調査、地盤改良・環境保全工事などを業とする会社である。

Xは、Y社に平成20年4月から新卒者(試用期間6か月)として勤務したが、試用期間中である同年7月29日、Y社で勤務する技術社員としての資質や能力等の適格性に問題があるとして、解雇の意思表示を受けた。

Xは、本件解雇は無効であると主張し、争った。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xは、試用期間中の解雇であっても普通解雇の場合と同様に厳格な要件の下に判断されるべきであると主張するが、解約権の留保は、採否決定の当初においては、その者の資質、性格、能力その他適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行い、適切な判定資料を十分に蒐集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解されるのであって、今日における雇用の実情にかんがみるときは、一定の合理的期間の限定の下にこのような留保約款を設けることも、合理性を有するものとしてその効力を肯定することができるというべきである。それゆえ、留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものといわなければならない(最高裁昭和48年12月12日大法廷判決)。

2 6か月の試用期間のうち、4か月弱が経過したところではあるものの、繰り返し行われた指導による改善の程度が期待を下回るというだけでなく、睡眠不足については4か月目に入ってようやく少し改められたところがあったという程度で改善とまではいかない状況であるなど研修に臨む姿勢について疑問を抱かせるものであり、今後指導を継続しても、能力を飛躍的に向上させ、技術社員として必要な程度の能力を身につける見込みも立たなかったと評価されてもやむを得ない状態であったといえる

3 Xとしても改善の必要性は十分認識でき、改善するために必要な努力をする機会も十分に与えられていたというべきであるし、Y社としても本採用すべく十分な指導、教育を行っていたといえるから、Y社が解雇回避の努力を怠っていたとはいえないし、改めて告知・聴聞の機会を与える必要もない

試用期間中の解雇が有効と判断されたケースです。

適格性不足による解雇なので、解雇をためらうところですが、判例のポイント2のような事情がある場合、裁判所は解雇を有効と判断してくれることもあるわけですね。

また、当該従業員に対する弁明の機会についての判断も参考になります。

なお、このケースでも、会社は、Xに対して繰り返し指導を行っています。

たいした指導もせずに解雇すると、無効になりますので、ご注意ください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。