解雇75(日本航空(整理解雇)事件)

おはようございます

さて、今日は、会社更生手続中の航空会社の客室乗務員に対する整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本航空(整理解雇)事件(東京地裁平成24年3月30日・労経速2143号3頁)

【事案の概要】

Y社は、その子会社、関連会社とともに、航空運送事業及びこれに関連する事業を営む企業グループを形成し、国際旅客事業、国内旅客事業等の航空運送事業を展開する会社である。

Y社の会社更生手続中である、平成22年12月、更生管財人は、Xらに対し解雇予告通知をしたが、その際の整理解雇対象者は客室乗務職108名であったが、その後希望退職の募集等を行い、最終的には、客室常務職員数は84名となった。

Xらは、更生管財人を被告として(会社更生手続終了後に被告が受継した)、本件解雇の無効を主張し争った。

【裁判所の判断】

整理解雇は有効

【判例のポイント】

1 Y社は、会社更生手続下でされた本件解雇については、会社清算・破産手続下でされた整理解雇の場合と同様に、いわゆる整理解雇法理を機械的に適用すべきではないと主張する。
しかしながら、(1)会社更生手続は、窮境にある株式会社について、更生計画を策定するなどして、債権者、株主その他の利害関係人の利害を適切に調整し、もって当該株式会社の事業の維持更生を図ることを目的とする再建型の倒産処理手続であり、更生手続開始の決定時点で破綻した更生会社を観念的に清算する手続であるとはいっても、清算型の倒産処理手続である会社清算・破産手続とは異なり、事業の継続を前提としており、直ちに労働社の就労が拒否されるわけではないこと、(2)清算型の倒産処理手続下において労働者を解雇する場合であっても、当該解雇には解雇制限規定(労働基準法19条)及び解雇予告規定(同法20条)の適用があると解される上、会社更生手続や民事再生手続のような再建型の倒産処理手続においては、労働社の労働基本権に配慮する趣旨で、更生管財人が労働協約を解除することができない旨の特則(会社更生法61条3項、民事再生法49条3項)が置かれていること、(3)(2)と同様の趣旨で、労働契約は、継続的給付を目的とする双務契約であるにもかかわらず、反対給付不履行の場合の履行拒絶禁止規定が適用されない旨の特則(会社更生法62条3項、民事再生法50条3項)が置かれていることに鑑みると、会社更生手続下でされた整理解雇については、労働契約法16条(解雇権濫用法理)の派生法理と位置付けるべき整理解雇法理の適用があると解するのが相当である。もっとも、整理解雇法理適用の要件を検討するに当たっては、解雇の必要性の判断において使用者である更生会社の破綻の事実が、重要な要素として考慮されると解すべきである

2 本件解雇の効力を判断するに当たっても、本件解雇にいわゆる整理解雇法理の適用があるとの前提で、以下、(1)人員削減の必要性の有無、程度、(2)解雇回避措置の有無、程度(解雇回避措置実施の有無、内容等)、(3)人選の合理性の有無(本件人選基準の合理性等)、(4)解雇手続の相当性(労使交渉の経緯、不当労働行為性等も含む。)を具体的に検討し、これらを総合考慮するのが相当である。

3 整理解雇による被解雇者(本件Xらを含む客室乗務職及び運航常務職ら約160名)を残すことが経営上不可能ではなかった旨の当時のY社の代表取締役会長の発言は、苦渋の決断としてやむなく整理解雇を選択せざるを得なかったことに対する主観的心情を吐露したにすぎないものと評価するのが相当であって、客観的状況に照らせば、会長の発言があったことをもって、人員削減の必要性を否定することはできない。

4 Y社は、再三にわたる希望退職措置の方法で任意の退職者を募集し、一連の希望退職措置においては、一旦倒産状態に陥った更生会社であるにもかかわらず、退職金の割増支給を含む非常に手厚い退職条件を提示した上、併せて、その当時、採用可能な各種の解雇回避措置を実施する等、Y社が本件解雇に先立ち行った解雇回避措置は、いずれも合理的なものであり、総合して破格の内容のものであるということができるから、Y社は、本件解雇に当たって十分な解雇回努力を尽くしたものと認めるのが相当である

5 本件解雇に当たって採用された本件人選基準((1)休職者基準、(2)病欠日数・休職日数基準、(3)人事考課基準、(4)年齢基準を併用し、(1)から(4)までを順に適用するもの)のうちの病欠日数・休職日数基準、年齢基準は、いずれも使用者であるY社の恣意の入る余地の少ない客観的なものであったし、人事考課基準についてはそもそも該当者がなく、休職者基準、病欠日数・休職日数基準については、過去の 病欠歴を基にY社に対する将来の貢献度を推定する基準として合理的であるということができるし、年齢基準についても、若年層に厚い人員構成への転換を図るべく、Y社に対する将来の貢献度とともに、解雇対象者の被害度を客観的に考慮した結果として設定されたものであって、合理性があるものと評価される。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。