Daily Archives: 2012年7月18日

不当労働行為44(カネサ運輸事件)

おはようございます。

さて、今日は、組合員である長距離トラック運転手に対する配車差別と不当労働行為・不法行為に関する裁判例を見てみましょう。

カネサ運輸事件(松山地裁平成23年10月31日・労判1047号91頁)

【事案の概要】

Y社は、一般区域貨物自動車運送事業などを目的とする会社である。

Xは、平成8年、Y社において運転手として勤務していたAとともに労働組合を結成し、その後、執行委員長となった。

本件組合結成後、Y社は、XおよびAに対して、長距離トラックの配車をほとんどしないようになったため、組合は、愛媛県の労働委員会に対してあっせんの申請をし、XおよびAに対する配車を、他の従業員と同様に原則として輪番制とする旨の協定をした。

しかし、Y社は、その後も、Xに対し、配車について他の従業員とは異なる取扱いを継続しており、Xは、現在長距離トラックの配車を受けていない。

Xは、Y社に対し、本件配車差別は不当労働行為に該当するとして、不法行為に基づき、Xが平等に配車されれば受けられたはずの賃金等の不足分として約550万円、慰謝料として100万円の支払を求めた。

【裁判所の判断】

配車差別は、不当労働行為にあたり、不法行為を構成する
→約550万円の財産的損害及び慰謝料として30万円の支払を命じた

【判例のポイント】

1 Y社がXに対し配車に関してAを除く他の従業員と異なる取扱いをするようになったのは、Xが本件組合を結成し、本件組合がY社に団体交渉を申し入れるようになった後のことであり、XがD会長にその意に反する発言をするたびにXに対する不利益な取扱いが顕著になっていったことは明らかである。したがって、Y社の取った上記取扱いは、Xが本件組合の組合員であることや、労働組合の正当な行為をしたことの故をもってされたものというべきであり、労働組合法7条1号に反するものとして違法性を有し、Xに対する不法行為を構成するものと認めるのが相当である。

2 Y社は、Xが高齢であり、体力的・能力的に長距離運転は困難であると判断されるから、Y社がXに配車をしないのには合理的な理由があると主張する。しかし、加齢に伴う体力、能力の低下には個人差があることは明らかであり、Xは、Y社による上記不利益な取扱いを受けるようになった平成18年5月ころは53歳であったと認められるところ、当時Xが長距離トラックの運転手として通常要求される体力、能力において不足していたことを窺わせる合理的な根拠、証拠は見当たらない。かえって、Xは、配車上の不利益な取扱いを受けるについて、Y社から体力的・能力的にみてどのような問題があるのか具体的な指摘を受けたことはないこと、Xはこれまでに大事故を起こしたり、行政処分を受けたことはないことが認められるから、Y社の上記主張は採用できない

3 そのほか、Y社は、Xに配車をしない理由として、Xが車両整備やトラックの駐車方法や荷物の返品処理などで仕事上問題を起こしており、今後荷主や取引先等に対する会社の信用を失墜しかねないこと、Xが他の従業員らとの協調性に欠けるためY社の業務に支障をきたしかねないことなどを挙げるが、いずれも十分な根拠、証拠を欠き、採用できない。むしろ、証人Dは、Xに配車しなかった一番の理由はXの人間性であり、人間性とは、職場において協調性がないということであると供述する一方、Xに協調性がないということは最近になって気付いたと供述しており、供述態度(原告代理人の質問に対し、押し黙って答えない。)にも照らすと、D会長がXに不利益な取扱いをするようになったのは、Xが本件組合を結成し組合活動を開始したことを嫌悪したことによるものであることは明白であるというべきである

4 Y社は、電話代手当と食事手当は、それぞれ使途目的を定められて支給されるものであり、労働の対価たる賃金ではないと主張するが、弁論の全趣旨によれば、Y社は、従業員に対し、これらについてその支給を明らかにするために領収書を提出させたり、精算を求めたりしたことはないことが認められるから、これらも所定の地域への乗務に就いた場合には決まった額を当然に支払うことが予定されている性質のものとみることができ、Xの損害を算定するに当たっての計算の基礎となる手当に含ませるのが相当である

Xに対する配車上の不利益取扱いに関する会社側の主張するは、いずれも合理性がないということで、採用されていません。

また、会社側の証人(会長)の証言も反対尋問で崩されています。

全体的に見て、不当労働行為性を否定することはなかなか難しいと思います。

電話代手当と食事手当に関する争点については、上記判例のポイント4が参考になります。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。