Monthly Archives: 6月 2012

有期労働契約30(本田技研工業事件)

おはようございます。

さて、今日は、不更新条項と継続雇用に対する期待利益に関する裁判例を見てみましょう。

本田技研工業事件(東京地裁平成24年2月17日・労経速2140号3頁)

【事案の概要】

Y社は、四輪車、二輪車、耕うん機等の製造・販売等を目的とする会社である。

Xは、平成9年12月、期間契約社員としてY社に入社し、パワートレイン加工モジュールに所属して業務に従事した。

Xは、それ以降も、同業務に従事し、Y社との間で有期雇用契約の締結と契約期間満了・退職を繰り返してきたところ、平成20年12月末、1年間の有期雇用契約が満了したとしてY社から雇用契約の更新を拒絶された。

【裁判所の判断】

雇止めは有効

【判例のポイント】

1 Y社は、期間契約社員に対し、約1年ごとに有期雇用契約を更新せずに終了させ、慰労金や精算金を支払って一旦雇用契約関係を解消した上、再入社希望者について改めて選考した上で再度入社する機会を与え、改めて入社手続を行っていたこと、期間契約社員のほとんどが5年以内に雇用契約を終了させており、期間契約社員が一般的に長期間継続してY社に雇用されて勤務するという実態は存在しないこと、Xが長期間Y社で雇用されたのは、自らの意思に基づいてそれを望んだ結果でしかないこと、有期雇用契約の更新手続は、前契約期間中に新契約書を作成して取り交わす等新たな有期雇用契約の締結事実を明確にしており、自動更新とはいい難いこと、以上の事実が認められ、これらの事実によれば、X・Y社間の有期雇用契約が実質的に期間の定めのない雇用契約と異ならない状態にあったと認めることはできない

2 Xが、Y社との間で、自らの意思に基づいて不更新条項を定める本件雇用契約を締結したことは明らかであり、また不更新条項が公序良俗違反であるとはいい難い。

3 Xは、有期雇用契約に基づき、平成9年12月から平成20年12月末までの11年余もの長期にわたり、有期雇用契約の締結、契約更新、契約期間満了・退職、一定期間経過後の再入社・新規有期雇用契約の締結を繰り返してY社の業務に従事してきたこと、Y社は、平成20年9月、この頃既に一部の期間契約社員の雇止めを実施せざるを得ず、またリーマンショックによる深刻な世界経済の停滞等の事態が生じつつあったにもかかわらず、Xに対し、契約更新の上限期間を1年間から3年間に延長する本件直前雇用契約を締結したこと、XはこれまでのY社に再入社して同年6月から平成21年5月末ころまでの1年間の継続勤務ではなく、平成23年5月末ころまでの約3年間Y社での勤務を継続できると期待したこと等によれば、Xが、本件直前雇用契約を締結した平成20年9月の時点において、自動車業界の最大手の1つであるY社の経営状態に不安を覚えずに、安堵感を抱き、また本件直前雇用契約の満了日の翌日である同年12月1日以降もなお引き続き平成23年5月末日ころまでY社での勤務を継続できると期待したことは、やむを得ないというべきであって、Xが、本件直前雇用契約の期間中、Y社に対して抱いた有期雇用契約の継続に対する期待は合理的である

4 Xが、本件雇止めになることについて、これを粛々と受け入れ、継続雇用に対する期待利益と相反する内容の不更新条項を盛り込んだ本件雇用契約を締結し、さらには平成20年12月には、本件退職届をも提出したのであり、本件雇止めに対して何らの不満や異議を述べたり、雇用契約の継続を求める等を全くしていないのであるから、Y社の説明会が開催された同年11月時点において、本件雇用契約の期間満了後における雇用契約の更なる継続に対する期待利益を確定的に放棄したと認められる

5 Xが、本件雇用契約の期間満了後における雇用継続に対する期待利益を有しているとは認められないのであるから、本件雇止めについては、解雇権濫用法理の類推適用の前提を欠くものといわざるを得ない。

上記判例のポイント4は、非常に参考になります。

裁判所は、Xの雇用契約の期間満了後における雇用継続に対する期待利益を認めませんでした。

その理由として、契約更新できなくなった事情等をY社が真摯に労働者に説明し、労働者がそれを理解して不更新条項付き労働契約を締結したことをあげています。

本件では、Y社が、労働者に理解を求めるべく説明を尽くしたこと、相談窓口を設け、上司の面談を設定するなど、相応の手続を尽くしたという事情を評価したものだと思われます。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

本の紹介97 菜根譚(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 

さて、今日は本の紹介です。
中国古典の知恵に学ぶ 菜根譚
中国古典の知恵に学ぶ 菜根譚

この本も、前回同様、5年程前の本です。

前回の本と同じようなタッチで書かれています。

とても読みやすいです。

この本は、今から400年程前に、中国の学者によって書かれたもので、日本には、江戸時代末期に伝わったそうです。

ちなみに、この本の題名「菜根譚」とは、「人よく菜根を咬みえば、すなわち百事なすべし」(堅い菜根をかみしめるように、苦しい境遇に耐えることができれば、人は多くのことを成し遂げることができる)という言葉に由来しているそうです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

質素で無欲な人は、派手で欲の強い人から疎まれるものであり、慎み深く厳しい人は、勝手気ままでだらしのない人からは嫌われるものである。
嫌がられるからといって、人の上に立つ人間は自分の信念を曲げてはいけないが、その信念を無理に人に押しつけてもいけないのである。
」(105頁)

「人の上に立つ人間は・・・その信念を無理に人に押しつけてもいけない」という部分がいいですね。

意識しないと、他人に、自分の信念を押しつけがちですよね。

人それぞれ信念が違いわけですから、「人の上に立つ人間」は、気をつけなければいけません。

また、そもそも信念などというものは、人から強要されて持つものではありません。

部下や従業員にも、自分と同じ信念を持ってほしいと願う方もいると思います。

でも、強要しても仕方がありませんよね。

もし、上司が部下や従業員に、信念を共有してほしいと思うのであれば、それは、言葉ではなく、態度で示すべきだと思います。

共感できる信念であれば、自然と共有されていくのではないでしょうか。

むしろ、信念が異なる部下を認める寛容さが必要なのだと思います。

解雇72(三枝商事事件)

おはようございます。

さて、今日は、不動産営業事務員の解雇と賃金に関する逸失利益の範囲に関する裁判例を見てみましょう。

三枝商事事件(東京地裁平成23年11月25日・労判1045号39頁)

【事案の概要】

Y社は、不動産業、自社ビル賃貸・売買、農業等を目的とする会社である。

Xは、平成22年5月、Y社との間で期間の定めのない雇用契約を締結し、不動産営業事務員として、電話・来客対応、不動産営業事務を行ってきた。

Y社は、Xを、営業成績が悪かったことなどを理由に口頭で解雇の意思表示をした。

これに対し、Xは、Y社が行った不当解雇により著しい生活上の不利益を被ったとして不法行為に基づく損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

解雇は不法行為に該当する。

不法行為に基づく逸失利益として、賃金の3か月分相当額の損害賠償請求を認めた。

慰謝料の請求は認められない。

【判例のポイント】

1 いわゆる解雇権濫用法理を成文化した労契法16条により労働者は、正当な理由のない解雇により雇用の機会を奪われない法的地位を保障されているものと解されるが、ただ、同条は、あくまで使用者に原則として「解雇の自由」(民法627条1項。解雇自由の原則)が保障されていることを前提とする規定である。そうすると、かかる原則の下に行われた当該解雇が同条に違反したとしても、そのことから直ちに民法709条上も違法な行為であると評価することはできず、当該解雇が民法709条にいう「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害」する行為に該当するためには、労契法16条に違反するだけでなく、その趣旨・目的、手段・態様等に照らし、著しく社会的相当性に欠けるものであることが必要と解するのが相当である

2 確かに、不動産営業担当社員としてのXの仕事ぶりには問題があったようであり、このことが本件解雇の背景にあることは否定し難い。また本件解雇の意思表示それ自体もややXのもの言いに触発された面もある。
しかし仮にそうであったとしてもY社は、Xに対し、試用期間終了後も解約権を行使することなく、不動産営業担当の正社員として雇用し続けているのであるから、試用期間終了後1か月も経過しないうちに全く職種の異なる他部門への配置換えを検討することは性急に過ぎる上、本件配転打診は、1割以上の減給だけでなく、別居・転勤を伴う配転命令の打診であって、Xに対して、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるおそれの強いものであったといわざるを得ない
そうだとするとXが本件配転打診をにべもなく拒絶したことはむしろ当然のことであり、これに加え、本件解雇に至るまでの経緯やその後の対応等を併せ考慮すると客観的にみて本件雇用契約を直ちに一方的に解消し得るほどの解雇事由が認められないことは明らかであって、してみると何ら解雇を回避する方法・手段の有無が検討されないまま行われた本件解雇は、余りに性急かつ拙速な解雇というよりほかなく、労契法16条にいう「客観的に合理的な理由」はもとより、社会通念上も「相当」と認められないことは明らかであって、著しい解雇権の濫用行為に当たるものというべきである
このように考えると本件解雇は、労契法16条に違反するだけでなく、不法行為法上も著しく社会的相当性に欠ける行為であると評価することができ、したがって、民法709条にいう「他人(X)の権利又は法律上保護される利益を侵害」する行為に該当する。

3 ここで「過失」とは、予見可能性を前提とした結果回避義務違反の行為をいうものと解されるところ、Y社社長は、長年にわたって使用者の代表者として従業員の労務管理を経験してきたものと推認される代表取締役であって、本件についても、その経験に基づき使用者として通常払うべき法令等の調査・注意義務を尽くしていたならば、本件解雇のような性急かつ拙速な解雇は許されないものであることを認識することは可能であったというべきである(予見可能性)。
にもかかわらず、Y社社長は、これを怠り、解雇を回避するための手段・方法を検討することなく、その場の勢いでもって本件解雇の意思表示を行ったものであるといわざるを得ず(結果回避義務違反)、したがって、Y社には本件解雇が侵害行為に当たることにつき少なくとも「過失」が認められることは明らかである

4 一般に同法に違反する違法な解雇を受けた労働者が、従前の業務への復帰を諦め、当該解雇によって失った賃金についての逸失利益等の損害賠償を求めることは、決して希なことではなく、むしろ通常よく散見される事象ではあるが、ただ本件解雇(不法行為)と相当因果関係を肯定することができる上記賃金に関する逸失利益の範囲については、特段の事情が認められない限り、通常、再就職に必要な期間の賃金相当額に限られるものと解すべきである

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介96 賢人の知恵(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は本の紹介です。
バルタザール・グラシアンの 賢人の知恵
バルタザール・グラシアンの 賢人の知恵

5年ほど前の本ですが、読み返してみました。

あの頃は、どんな気持ちでこの本を読んでいたんだろうな~などと、どうでもいいことを考えてしまいます。

いっぱい線が引いてあります(笑)

この本の著者は、17世紀のスペインで活躍した方だそうです。

今読んでも何の違和感もないのがすごいです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

すべてを手にするのは不幸なことだ。思いこがれるものがないと精神は活力を失い、すべて達成してしまえば、どれもが灰と化してがっかりする。
精神を生き生きと保つには、情熱と好奇心が必要なのだ。満足しすぎることは不運だ。望むことが何もないと、今度はあらゆることが心配の種になるからだ。欲望がなくなったとき、心配が始まるのだ。
」(217頁)

まあ、そうなんでしょうね。

すべてを手にすることは、ずっとないのかもしれませんが、目標を達成した後は、今のようなバイタリティーはなくなると思います。

そう考えると、目標を達成しようと、がんばっているときが一番楽しいのかもしれません。

今はまだ欲望がたくさんありますので、心配はあまりありません。

やるべきことがたくさんあるため、余計なことを心配している時間がありません。

10年後、20年後にこのブログを読んだとき、「あの頃は、よくがんばっていたな~」と振り返ることができるように、今は、めいっぱいの活力と情熱で、仕事をしていきますよ。

競業避止義務16(山口工業事件)

おはようございます。

さて、今日は、退職した支社長の未払賃金請求と背任行為への損害賠償に関する裁判例を見てみましょう。

山口工業事件(東京地裁平成23年12月27日・労判1045号25頁)

【事案の概要】

Y社は、建築工事業、とび・土木工事業等を業とする会社である。

Xは、Y社の東京支社長の地位にあった者である。

Xは、Y社と取引関係にあるA社の東京支店長という肩書の名刺を作成し、A社から業務を受託して月額10万円(合計350万円)の金員を受け取っていた。

Xは、名刺の作成については、業務委託先の名刺を作成しておけば円滑に業務が進む旨を述べてY社社長の承諾を得ていたが、金員の受け取りについては、Y社社長に報告していなかった。

その後、Xは、Y社を退職した。Y社社長は、Xの退職に不明朗な点を感じ、東京支社の調査を行ったところ、上記状況が判明した。

Y社社長は、東京支社の収支に関してXに問い合わせたが、Xへの電話で感情的になって「お前は1000万円の使い込みをしたんだ。告訴する。警察にも言っている。お前の家族をがたがたにしてやる。出て来い。こら。」などと怒鳴った。

またXの仕事上の知人への電話で「Xについては在籍中、横領の事実が明らかになったため解雇した。横領金額は1700万円である。警察に告訴する。このような人とは一緒に仕事はしない方がよい。」などとXを非難する発言をした。

Xは、Y社に対して、同社を退職後に、未払いとなっていた平成21年3月分の給与を求めるとともに、Y社社長に対して、同人から脅迫的言動を受けたり、名誉を毀損する発言をされたなどとして、不法行為に基づく損害賠償を請求した。

これに対し、Y社は、Xに対し、在職中の背任行為について、不法行為に基づく損害賠償請求をする反訴を提起した。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、給与の支払うように命じた。

Y社社長はXに対し、慰謝料として20万円を支払うように命じた。

XはY社に対し、約435万円を支払うように命じた。

【判例のポイント】

1 ・・・Xは、上記金員については、Y社との間の業務委託契約以外の業務を行ったことに対するアルバイト料であると主張するが、何らの客観的な裏付けもなく、その内容も不自然というほかないものであって、信用することはできない。したがって、これは、Y社とA社との間の業務委託契約に関連して受け取ったものであると推認すべきものであるが、本来、Y社の東京支社長としてY社の利益を最大限に図るべき立場にあるXが、単に形式的、対外的な意味で他社の名刺を所持するというだけでなく、業務委託契約の相手方である業者から定期的に定額の報酬を受け取り、実質的にも当該業者の利益のために行動するというのは、明らかにY社との関係で利益相反行為であるというべきであって、背任行為に当たるというべきである

2 また、XはA社以外の取引先業者からも金員を受領しているところ、これらも、XがY社社長に秘してY社の売上の一部を自らに還元させていたと認められるもので、このような点からも、Xが背信的な意図の下に行動していたことが窺われるところである。さらに言えば、Xの退職に当たっての行動も、明らかにY社の取引先業者を、自らが立ち上げる新規事業の取引先として丸ごと奪う意図に出た行動と理解するほかはなく、この点も、XのY社に対する背信的意図を基礎付けるものである
以上のように、XがA社から月額10万円の金員を受け取っていた行為は、Y社に対する背信行為であって、不法行為に当たると認められるところ、これらの金員については、Xが、Y社とA社との間の業務委託契約の趣旨に従い、A社の在日米軍関係の入札関連業務を誠実に履行し、Y社の利益を最大限図るべく行動していれば、Y社に帰属したはずの利益であると推認するのが相当であるから、その全額がY社の損害に当たるというべきである

3 XがY社に対し背信行為を行っており、Xがそれに関してY社社長に真摯に説明しようとしなかったことは、その限度において事実ではあるものの、X及びその家族にことさら恐怖感を与える言動をすることは許されるべきではないし、仕事上の知人に対し、Xの経済的信用を損なうことを意図して、Y社の金員を横領した旨流布することは社会通念上その相当性を逸脱した行為というべきであって、Xに対する不法行為に当たるというべきである。
Y社社長の上記言動によりXが精神的苦痛を被ったことが認められるところ、その言動の態様、それに対応するXの対応、それまでのXの行状、言動が流布した範囲等を総合考慮すれば、上記精神的苦痛に対する慰謝料としては、20万円を相当と認める。

Xが訴訟を提起したわけですが、結果として、XがY社に支払う金額のほうが大きくなってしまいました。

会社に無断で取引先から定期的にお金を受け取っている行為は、本件では、会社に対する利益相反行為であり、背信行為にあたると判断されています。

自分の立場を利用して、取引先からお金を受け取ってしまうと、このようなトラブルにつながりますので、やめましょう。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

本の紹介95 Think Simple(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます もう一週間、終わりですね。

とはいえ、土、日も法律相談がいっぱい入っています がんばります!

写真 12-06-20 12 12 03←先日、事務所の近くの「銀杏亭」で久しぶりにお昼ごはんを食べました

肉野菜定食。 味付けがうますぎます!! おすすめです。 

今日は、午後から、損保会社主催のセミナーでお話をしてきます。

テーマは、「弁護士の見解!~労災問題に対する対策の現状~」です。

過労死、過労自殺、メンタルヘルス等について会社としてどのようにして対策を講じていくべきかをわかりやすく説明したいと思います。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は本の紹介です。
Think Simple―アップルを生みだす熱狂的哲学
Think Simple―アップルを生みだす熱狂的哲学

スティーブ・ジョブズと長年仕事をしてきた著者が、「シンプル」の効力について述べている本です。

最初から最後までアップルのことが書かれています。

ジョブズに関する本をいくつか読みましたが、読めば読むほど、ジョブズと一緒に働いていた人は、大変だっただろうなと思います(笑)

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

シンプルであることは、複雑であることよりもむずかしい。物事をシンプルにするためには、懸命に努力して思考を明瞭にしなければならないからだ。だが、それだけの価値はある。なぜなら、ひとたびそこに到達できれば、山をも動かせるからだ。-スティーブ・ジョブズ」(307頁)

確かに、複雑なものよりシンプルなものの方が美しいですよね。

サービス内容や機能について、凝ろうと思えば、いくらでも凝ることができます。

凝れば凝るほど、どんどん複雑になっていくわけです。

でも、それって、たいていの場合、自己満足のような気がします。

その複雑さ、顧客は本当に求めているんでしょうか。

凝ること自体は決して悪いことではありません。

大切なのは、凝った結果、複雑になった状態をいかにシンプルな形に持っていけるかだと思います。

顧客が商品を見たときに、「なんだかめんどくさそうだな。」「結局、なんのことだかわからんよ」と思ってしまうようでは、本末転倒ですよね。

「シンプルは、いいことだ」という意識を持って、最後の詰めを行うことが大切です。

何も考えていないシンプルさと、凝りまくった後でシャープにした結果のシンプルさは、やはり見る人が見れば、その違いに気づいてくれると信じています。

解雇71(トムス事件)

おはようございます。

さて、今日は、整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

トムス事件(札幌地裁平成24年2月20日・労経速2139号21頁)

【事案の概要】

Y社は、無地衣料及び無地の衣料にオリジナルのデザインをプリントする加工衣料の製造、企画及び販売を業とする会社であり、東京都内に本社を置くほか、国内では、札幌、仙台、埼玉、名古屋、大阪、広島及び沖縄に支店を、中国では、上海及び青島に連絡事務所を置いている。

Xは、平成18年3月、Y社との間で、雇用期間の定めなく、就業場所をY社札幌支店とし、業務内容を営業事務職とする雇用契約を締結した。

Y社は経営の合理化、効率化の必要にせまられ、その方策として「コンタクトセンター」を設置して全国の無地衣料に関する業務を集約し、また、加工衣料に関する業務についても大きな支店への移管を進めた。

その結果、X一人が執り行っていた札幌支店の営業事務職は大幅に業務量が減少することになったため、Y社は、Xに対し、東京本社に転勤するよう命じたが、Xは、これを承諾しなかった。

そこで、Y社は、Xを整理解雇した。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Y社は、国内外の競合による価格競争によって売上単価が低下する一方、中国の綿花価格及び人件費の上昇により、利幅が少なくなり、従前増収を続けていたのが、平成22年には減収に転じたことなどから、経営の合理化、効率化の必要に迫られ、その方策として、「コンタクトセンター」を設置して全国の無地衣料に関する業務を集約し、また、加工衣料に関する業務についても大きな支店への移管を進め、それに伴い、他に業務を移管した支店の営業事務職を減員することとし、その一環として、札幌支店については、無地衣料に関する業務も仙台支店に移管し、その結果としてX一人が執り行っていた札幌支店の営業事務職は大幅に業務量が減少することから、これを廃することにしたことが認められる
しかるに、Xは、C営業本部長及びD取締役から、東京本社に転勤するという提案を受け、さらにその旨の配転命令(辞令)を受けたのに、これを承諾しなかったのであるから、本件解雇については、Y社の就業規則所定の解雇事由があるといわざるを得ない。

2 Xは、本件解雇について、人選の合理性が認められないと主張するが、Y社札幌支店で営業事務職を執り行っていたのはXのみであり、その営業事務職を廃することにしたのであるから、およそ人選の余地はなかったといわざるを得ない

3 また、Xは、手続が妥当性を欠いていたと主張するところ、Xが勤務地限定採用社員であることを肯定したC営業本部長の言辞はいささか適切でないといえるものの、これについてはその後D取締役が相応の説明をしている上、そもそも、Xが異動を予定しない社員であるということと事業の縮小・休止等によりXを解雇するということは、直接には関係しないことであって、前者に関する説明が適切でないとしても、後者の手続が妥当性を欠くということにはならないというべきである。その他、本件解雇の手続が違法であるといえるような事情を認めるべき証拠は存在しない。

整理解雇の事案で、これほど短い判決理由は見たことがないというくらいあっさりとした判決です。

しかも解雇は有効との判断ですから、従業員側からすれば、納得しにくいでしょうね。

解雇回避努力についてもう少しちゃんと判断したほうがいいと思いますがいかがでしょうか。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介94 超凡思考(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は本の紹介です。

超凡思考
超凡思考

3年程前の本ですが、もう一度、読み直してみました。

非常に読みやすく、内容的にもとてもいい本だと思います。

著者は、岩瀬大輔さんと伊藤真先生です。

岩瀬さんは、ライフネット生命保険の副社長です。

伊藤先生は、弁護士で司法試験等の資格試験の「伊藤塾」塾長でもあります。

岩瀬さんも司法試験には合格されているのですが、法曹業界には入らず、コンサルタント会社等で活動されていた方です。

さて、この本で、「いいね!」と思ったのはこちら。

どんなに狭いニッチな分野であっても、そこを極めれば、必ず道は拓けるものだと実感しました。・・・何かを選ぶとき、人はわかりやすい花形の人気分野を求めがちですが、地味でも、専門性の高い、狭い分野で秀でたほうが目立てます。すぐに専門家になれなくても、与えられた仕事で『誰にも負けない』切り口を意識的に作ることです。どんな職業でも役割でも、まずは目の前の仕事においてこだわる。はじめはニッチで小さくても徐々に大きく広がるものだから。」(45~46頁)

これは、特にチャレンジャーの方が持つべき発想です。

まずは、狭い分野でその道を極める。

その分野では、誰にも負けないところまで掘り下げるわけです。

いろいろと他の分野に目がいってしまいがちですが、そこはじっと我慢です。

とにかく1つの分野に力を集中させることが重要ですね。

もう一つの視点としては、普通の仕事を他の人とは違う切り口、角度から取り組むということです。

常に人と違う視点を意識することが大切だと思います。

「もっといい方法はないか」「もっと新しいサービスは提供できないか」ということを考え、形にする。

こんな楽しいことはありません。

裁量が広く与えられ、自分の判断でチャレンジできる人生って、エキサイティングですよね。

どんどんリスクをとって、これからもチャレンジしていきたいです。

不当労働行為42(衛生事業所労組(街宣活動)事件)

おはようございます。

さて、今日は、組合の街宣活動と不法行為に関する最高裁判決を見てみましょう。

(なお、本件判例は、不当労働行為に関する判例ではありませんが、便宜上、不当労働行為のカテゴリーとしました。)

衛生事業所労組(街宣活動)事件(最高裁平成24年1月31日・労判1045号97頁)

【事案の概要】

A社の衛生事業所の代表取締役であるXが、その労働組合の組合員であるY1ら7名に対し、Y1らがした街宣活動とビラの配布によって平穏な生活を営む権利が侵害され、名誉を毀損されたとして、不法行為に基づき、Y1ら各自に対し、損害賠償請求をした。

なお、Y2を除くY1ら6名は、A社の従業員である。

1審は、本件街宣活動のうち本件和解前のものは、Xの平穏な生活を営む権利を侵害するものであったと認定し、また、Xの社会的評価を低下させるものであったと認定した。
そして、本件各表現による名誉毀損は、正当な組合活動として違法性を阻却されるものではないと判断し、慰謝料50万円及び弁護士費用5万円を損害として認めた。

2審は、本件街宣活動及び名誉毀損については、1審と同じ判断を下したが、正当な組合活動として違法性が阻却されるかについては、一審判決を取り消し、正当な組合活動としてY1らに不法行為は成立しないとした。

【裁判所の判断】

上告棄却、上告受理申立不受理
→街宣活動は違法とはいえず、不法行為は成立しない。

【判例のポイント】(原審の判断)

1 本件街宣活動のうち本件和解前のものは、A社周辺、市役所周辺及びX宅近辺区域を中心として、自動車を停止させることなく進行しながらなされたものであって、その態様からすると、A社の営業区域であるB市内において、地域住民に広く労使紛争の実態を訴え、有利な紛争解決を図ることを目的としたものであったと認められ、X宅の平穏をことさら害するような目的の下に、X宅を狙い撃ちにしたものであるとは認められない
また、上記目的を達成するのに必要な音量を超過し、Xやその家族に受忍限度を著しく超えるような騒音被害を与えたとも認められず、X宅近辺区域における街宣活動の継続時間がそれ程長いものであったとは考えられず、その時間帯も夜間や早朝に及ぶことはなかったこと、更には、X自身は労使紛争について第三者であるとはいえず、純粋な第三者に比して受任すべきは範囲はより広いといえることを総合すれば、本件和解前の本件街宣活動は、社会通念上、正当な組合活動の範囲を超えた違法なものであったとは認められない
したがって、本件街宣活動のうち本件和解前のものは、それがXの平穏な生活を営む権利を侵害したからといって、正当な組合活動として違法性が阻却され、Y1らは不法行為責任を負わない。

2 労働組合の活動として配布されているビラに通常見られる表現方法であるといえるし、その配布回数及び配布場所についても、正当な組合活動としての社会通念上許容される範囲を逸脱しているということはできない。したがって、本件各表現及び本件ビラ記載のいずれについても、少なくとも真実相当性の要件を充たすものということができるし、また、その表現方法等の点に照らしても、本件街宣活動及び本件ビラ配布による名誉毀損は、社会通念上正当な組合活動としての範囲を超えておらず、Y1らに不法行為は成立しないというべきである

組合活動として許容される範囲がよくわかります。

憲法上保障されている権利ですから、かなり広範に認められていることがわかります。

使用者側としても、組合活動として許容される範囲がかなり広いということを理解しておくほうがよろしいかと思います。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介93 一流の人たちがやっているシンプルな習慣(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は本の紹介です。
一流の人たちがやっているシンプルな習慣
一流の人たちがやっているシンプルな習慣

帯には、こう書かれています。

本書を読む前に、わかってもらいたいことがある。それは、超一流の人たちが毎日やっていることは、特別なことではないということ。誰でもできるということ。

多くの本で書かれていることですが、特別なことをやる必要はないわけです。

誰にでもできることを誰にもできないくらいやれば、成功します。

もう、本当にそれだけだと思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

・・・勝者・敗者を決める大きな要素は、スタートの思い切りである。出だしに躊躇した人は、まずいい成績を残せない。・・・ビジネスでも同様で、躊躇ない出だしは非常に重要である。多くの情報を集めたうえで自分を信じて決断をしたなら、それ以上心配することは意味がないのだ。『負けたらどうしよう』『失敗したらどうしよう』こういう無意味な思考回路は捨て去ることだ。」(194~195頁)

いろんな人が、表現を変えて、同じことを言っていますね。

これを読んですぐに思い浮かんだのは、マクドナルド社長の原田さんの言葉です。

決定したらすぐ実行しろではなく、決定しなくてもいいからすぐ実行だ!

いい言葉ですよね。

だいたいお話をしていると、決断力・実行力がある人かどうかはわかります。

そういう人の特徴は、リスクを積極的にとれるということです。

「負けたらどうしよう」、「失敗したらどうしよう」という後ろ向きな発言をする人は、好きではありません。

そんなことを悩んでいる暇があったら、少しでも勝てるように、成功するように、準備をするべきです。

準備こそ命です!

考えても仕方がないことに悩んでいる時間があるなら、準備をしましょう。