Daily Archives: 2012年6月11日

管理監督者28(HSBCサービシーズ・ジャパン・リミテッド(賃金等請求)事件)

おはようございます。 

さて、今日は、管理監督者性と未払残業代等の請求に関する裁判例を見てみましょう。

HSBCサービシーズ・ジャパン・リミテッド(賃金等請求)事件(東京地裁平成23年12月27日・労判1044号5頁)

【事案の概要】

Y社は、A銀行東京支店等の関連会社から受託した業務を行う外国法人であり、Xは、人材紹介会社の紹介を受け、平成19年12月にY社に入社すると、A銀行東京支店へ出向という形で、個人金融サービス本部に勤務していた。

Xは、採用時に、期間の定めのない労働契約が締結され、年俸は1250万円とされたが、3か月の試用期間満了時に、Y社から本採用を拒否された。

Xは、Y社に対し、未払残業代とその付加金等を請求した。

これに対し、Y社は、Xは労基法41条の管理監督者であるか、仮にそうでないとしても割増賃金を年俸に含める合意が成立していたなどと主張し争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定
→未払残業代として約325万円の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 労働基準法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体の立場にある者をいい、管理監督者か否かは、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきである。そして、管理監督者と認められるためには、(1)職務の内容が、少なくともある部門の統括的なものであって、部下に対する労務管理上の決定等について一定の裁量権を有していること、(2)自己の出退勤を始めとする労働時間について裁量権を有していること、(3)一般の従業員に比してその地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられていることが必要であると解される

2 管理監督者に当たるか否かの判断は、管理監督者に当たるとされた労働者について、労基法の定める時間外労働等に関する規制の適用がすべて排除されるという重大な例外に係る判断であるから、管理監督者の範囲は厳格に画されるべきであるところ、インターネットバンキング担当のVPというXの職務上の地位や権限は、上記規制の適用が排除されても、当該労働者の保護に欠けるところがないと断定できるほど高次のものでなかったことは明らかである

3 年俸の中に時間外労働等に対する割増賃金が含まれるとする合意については、年俸のうち割増賃金に当たる部分とそれ以外の部分とを明確に区別することができる場合に限り、その有効性を認めることができると解されるところ(最高裁昭和63年7月14日・労判523号6頁)、XとY社との間の契約においては、そのような明確な区分がされているものとは認められないから、法定時間外労働等に対する割増賃金について、これを年俸に含むとする旨の合意は、労基法37条に反し無効であると言わざるを得ない
なお、Y社は、(1)Xに過重労働はないこと、(2)Xは年俸1250万円という高額の報酬を受けていること、(3)X自身も年俸とは別に割増賃金が支給されるものとは考えていなかったこと等の事情に照らせば、年報に含む旨の合意の効力が認められるべきである旨をも主張するが、独自の見解であって採用の限りではない。

4 さらに、Y社は、いわゆる法内残業については、これを年俸に含むものとしても何ら労基法に定職するものではないから、年俸に含む旨の合意により、Y社には法内残業に係る賃金の支払義務はないとも主張する。
・・・このような法内残業について、年俸に含む旨の合意の効力を認めても、何ら労基法に反する結果は生じないから、法内労働に対する賃金につき、これを年俸に含むものとする旨の合意は有効であって、Y社には、法内残業に対する賃金の支払義務はないものと解するのが相当である
なお、この点については、就業規則の最低基準効(労働契約法12条)との関係も問題となり得るが、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められるY社の賃金規程によれば、Y社においては、Xのように年俸制で採用された従業員に対しては、所定時間外労働及び所定休日労働に対する割増賃金は支払われないものとされていることが認められるから、法内残業に対する賃金が年俸に含まれる旨の合意の効力を認めても、就業規則との抵触は生じない。
以上によれば、年俸に含む旨の合意は、法定時間外労働、法定休日労働及び深夜労働については無効であるが、いわゆる法内残業に対する限度では有効であるということができる

この事件、本人訴訟みたいですね。

管理監督者性については、いつもどおり、否定されています。

年俸制と残業代の関係については、既に判例がありますので、特に目新しい点はありません。

今回、参考になるのは、上記判例のポイント4の法内残業に関する考え方ですね。

年俸に法内残業に対する賃金を含めるという合意は有効であるようなので、その点について、書面で明確に合意をしておくことをおすすめいたします。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。