Daily Archives: 2012年6月13日

配転・出向・転籍14(N事件)

おはようございます。

さて、今日は、京都工場から横浜所在の本社への配転命令に関する裁判例を見てみましょう。

N事件(京都地裁平成23年9月5日・労判1044号89頁)

【事案の概要】

Y社は、自動車・電気その他の部品に対するコーティング加工を行う会社である。

XとY社は、平成18年6月に労働契約を締結し、Xは、京都工場で製造課長として勤務をするようになった。

Y社は、平成21年8月、Xに対し、客先や京都工場の部下からXに対する苦情がでていると述べ、解雇すると述べた。

Xは、解雇の撤回を求めるとともに、労働組合に加入し、団体交渉を申し入れた。

Y社は、本件解雇を撤回するとともに、Xに横浜市所在の本社勤務を命じる配転命令をした。

Xは、本件配転命令の撤回を求めて本社での勤務をせず、これに対し、Y社はXが本件配転命令に反して本社で勤務をしなかったことから、給与を支払わなかった。

【裁判所の判断】

配転命令は無効

【判例のポイント】

1 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働することを合意するものであるところ(労働契約法6条参照)、使用者は、企業目的を達するため、変化する顧客のニーズや経済情勢に合わせて、あるいは労働者の能力開発や育成などをしながら企業を効率的かつ合理的に運営することが必要となり、そのためには、従業員から提供される労働力について、その種類、態様、場所を適正に配置することが必要となるから、通常、使用者が一定の配転命令権を有することは明示あるいは黙示に労働契約において予定されており、多くの場合、就業規則にその旨の定めがされている。
他方、就業規則に配転に関する定めがない場合であっても、それをもって直ちに配転命令権がないということはできないが、配転命令の内容が多様で、労働者の社会生活上、職務上の負担やキャリア形成に与える影響も様々であることや、労働契約の内容は労働者及び使用者が対等な立場で自主的交渉において合意することにより締結し、変更されるべきであること(労働契約法1条、3条1項参照)にかんがみると、Y社が主張するように、労働契約を締結したことにより使用者が包括的な配転命令権を取得するということはできないのであり、労働契約締結の経緯・内容や人事異動の実情等に照らして、当該労働契約が客観的に予定する配転命令権の有無及び内容を決すべきである。
そして、本件配転命令は、住居の移転を伴う配転を命じるものであるところ、このような配転命令は、使用者が配慮すべき仕事と家庭の調和(労働契約法3条3項)に対する影響が一般的に大きなものであるから、その存否の認定判断は慎重にされるべきものであると考える

2 Y社の就業規則には、諸規則や上長の指示命令に従うことを定めた32条があるが、その文言に照らすと、これをもってY社の配転命令権の根拠とすることはできず、他に配転命令権に関する定めが一切ないと認められる。そして、Y社の求人広告においても、Xの採用面接においても、勤務地が京都工場であるとされていた上、転居を伴う異動の可能性があることについての説明が全くされていない。また、Xの採用は、長期人材育成を目的とした新卒者の採用ではなく、管理職としての即戦力を重視して、当初から京都工場で勤務するために行われた中途採用であって、本社で採用された後に京都工場に配置されたものではない。加えて、転居を伴う配転実績も、本件配転命令が発令されるまでに、約20年前に1件、約12年前に1件の合計2件あったのみであり、Y社の企業規模を考慮しても極めて少ないといわざるを得ない
これらのことからすると、本件労働契約において転居を伴う配転が客観的に予定されていたとはいえず、Y社に本件配転命令をする権限があったとは認められない

3 これに対し、Y社は、Y社がXの雇用維持を考慮して解雇を回避し、配転命令としたにもかかわらず、配転命令が無効であるとなれば、(1)解雇権濫用法理を前提とする日本の雇用システムにおいて矛盾となること、(2)整理解雇の4要素のうち解雇回避努力において配転の可能性の考慮が求められていることと相反することを指摘する。
・・・しかしながら、一般的な配転命令権が認められない場合であっても、使用者が個々の場面で配転に対する労働者の個別の同意を得る努力をすることで、解雇を回避することは可能なのであり、解雇権濫用法理や整理解雇における解雇回避努力の要請も、それを前提にしていると解されるから、当裁判所の考え方も、解雇権濫用法理を前提とする日本の雇用システムと矛盾したり、整理解雇の解雇回避努力において配転の可能性の考慮が認められていることと相反するものではない。かえって、上記の極限的な場面を想定することで、労働者の社会生活上、職務上の負担に影響する配転命令権を安易に認めるのは相当とは思われない

配転命令に関する裁判所の考え方がよくわかります。

京都から横浜への転居が必要となる配転ということもあり、比較的厳しい判断がされています。

上記判例のポイント3は、思考方法として参考になりますね。

解雇回避努力との関係でどのように考えたらよいかは、会社側とすれば当然悩ましい問題です。

裁判所は、「極限的な場面を想定することで・・・配転命令権を安易に認めるのは相当とは思われない」と判断しています。

会社側としては、どのような判断が妥当かを適切に判断するのはとても難しいと思います。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行いましょう。