Category Archives: 解雇

解雇39(メッセ事件)

おはようございます

さて、今日は、経歴詐称を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

メッセ事件(東京地裁平成22年11月10日・労判1019号13頁)

【事案の概要】

Y社は、労働者派遣事業を目的とする会社である。

Xは、Y社との間で、雇用期間を1年とする雇用契約を締結し、平成20年5月からY社において就労し始めた。

Y社は、アメリカで経営コンサルタントをしていたとする略歴書を信用してXを採用した。しかし、当時のY社の代表取締役Y1は、本件雇用契約締結後、Xが会議において他の従業員に対し強く意見を述べた際、その発言内容が理解しがたかったことなど、Xの態度や発言等から、Xが従前経営コンサルタントをしていたとの経歴に疑問を感じるようになった。

そこで、Y1は、インターネットでXの氏名を検索したところ、食品菓子販売大手のA社の役員を中傷するファックスを流したために、平成16年6月、自称経営コンサルタントX容疑者を逮捕した、などと記載された記事を発見した。

Y1は、平成20年5月、Xに対し、本件記事記載の人物がX本人かを確認したところ、Xは、これを認め謝罪するとともに自身は無罪であると主張した。

Y1は、Xの経歴詐称は、本件雇用契約締結の動機づけを覆すものであるからXを解雇しようと考えたが、Xが円満に退職することを望み、30万円を一括して支払うことを条件にXに対して退職勧奨をしたが、Xは退職条件について記載した書面の交付を求め続けた。

そこで、Y社は、Xを懲戒解雇した。

Xは、本件懲戒解雇は無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 雇用関係は、労働力の給付を中核としながらも、労働者と使用者との相互の信頼関係に基礎を置く継続的な契約関係であるといえることからすると、使用者が、雇用契約の締結に先立ち、雇用しようとする労働者に対し、その労働力評価に直接関わる事項や、これに加え、企業秩序の維持に関係する事項について必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負うものというべきである。したがって、労働者が前記義務に違反し、「重要な経歴をいつわり採用された場合」、当該労働者を懲戒解雇する旨定めた本件就業規則の規定は合理的であるといえる。

2 Xは、信用毀損被告事件で起訴されたことはないから、同起訴を理由としてした本件解雇は無効である旨主張する。
確かに、本件解雇通知書には、信用毀損罪で起訴された旨記載されていることが認められる。しかし、本件解雇の事由に該当するXの所為は、本件服役等の期間中について、渡米して経営コンサルタント業務に従事していた旨及び「賞罰なし」との虚偽の記載をした本件履歴書を提出したことであるところ、当該事実について、本件解雇通知書の記載内容に誤りはない。さらに付言すると、本件前科の罪名は名誉毀損罪であり、信用毀損罪による未決勾留中に求令状起訴されたことからすると、被疑事実と本件前科の犯罪事実は、同一の社会的事象について法的評価が変更されたものと推認され、犯状は異なるものではないから、前記罪名が異なることによって、経歴詐称の程度、悪質性等が左右されるものでもないといえる。

3 労働者が雇用契約の締結に際し、経歴について真実を告知していたならば、使用者は当該雇用契約を締結しなかったであろうと客観的に認められるような場合には、経歴詐称それ自体が、使用者と労働者との信頼関係を破壊するものであるといえることからすると、前記のような場合には、具体的な財産的損害の発生やその蓋然性がなくとも、「重要な経歴をいつわり採用された場合」に該当するというべきである

4 Xは、Y社に対し、本件服役等について秘匿したのみならず、その間、渡米して経営コンサルティング業務に従事していたと自己の労働力の評価を高める虚偽の経歴を記載した本件略歴書及び本件履歴書を提出したことが認められ、その態様は悪質であるといえる。また、Y社は、本件服役等の事実が発覚した後、Xに対し、弁解の機会を与え、さらに、30万円の支払を提示して自主退職の機会も与えたことが認められ、本件解雇に至るまでに相当な手続を履践したといえる。これに対し、Xは、本件前科について無罪である旨主張しながら、その根拠となる資料をY社に提示することを拒否し、また、Y社からの退職勧奨に対し、退職条件について協議するでもなく、退職条件を記載した文書の送付に拘泥するなど、経歴詐称発覚後のXの対応も、Y社との信頼関係を破壊するに足りるものであったといえる。

本件は、本人訴訟のようです。控訴はしていません。

本件事実を見る限り、悪質性が極めて高いので、懲戒解雇は相当であると考えます。

インターネットで情報が半永久的に残ってしまい、それを誰でも簡単に確認できてしまう現代特有の問題ですね。

本件裁判例では、冒頭で、労働者が負うべき真実告知義務の範囲について判断しています。

典型的には、学歴、職歴、前科、年齢などの詐称が問題となります。

それ以外の事項について、詐称があった場合、懲戒処分の対象となるか否かは、ケースバイケースです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇38(小野リース事件)

おはようございます。

さて、今日は、幹部従業員に対する勤務態度・飲酒癖を理由とする解雇に関する最高裁判例を見てみましょう。

小野リース事件(最高裁平成22年5月25日・労判1018号5頁)

【事案の概要】

Y社は、建設機械器具の賃貸等を業とする会社である。

Xは、Y社に雇用され、営業部次長、営業部長を務めた上、平成19年5月には、統括事業部長を兼務する取締役に就任した。

Xは、Y社に雇用された当時から、糖尿病に罹患していて、アルコールの分解能力が健康な人より低く、医師から飲酒を控えるように指導されていたにもかかわらず飲酒を続けていた。そのため、Xは、酒に酔った状態で出勤したり、勤務時間中に居眠りをしたり、同行訪問、社外での打合せ等と称し、嫌がる部下を連れて温泉施設で昼間から飲酒をしたり、取引先の担当者も同席する展示会の会場でろれつが回らなくなるほど酔ってしまったりすることがあった。

Xの勤務態度や飲酒癖について、従業員や取引先からY社に対し苦情が寄せられていたが、Y社の社長は、Xに対し、飲酒を控えるよう注意し、居眠りをしていたときには社長室で寝るように言ったことはあるが、それ以上に勤務態度や飲酒癖を改めるよう注意や指導をしたことはなかった。

Xは、19年6月、取引先の担当者と打合せをする予定があったのに出勤しなかった。

社長は、Xに代わって取引先の担当者と打合せをしたが、その後、取引先の紹介元であり、Y社の大口取引先でもある会社の代表者から、Xを解雇するよう求められた。Xは、同日の夜、社長と電話で話をした際、酒に酔った状態で「(自分を)辞めさせたらどうですか。」と述べた。

社長は、Xの上記発言を退職の申し出ととらえ、退職を承認した。

Y社は、Xが自主的に退職願を提出しなかったため、Xを解雇した。

Xは、本件解雇は、違法であるとして、損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

請求棄却

【事案の概要】

1 本件解雇の時点において、幹部従業員であるXにみられた本件欠勤を含むこれらの勤務態度の問題点は、Y社の正常な職場機能、秩序を乱す程度のものであり、Xが自ら勤務態度を改める見込みも乏しかったとみるのが相当であるから、Xに本件規定に定める解雇事由に該当する事情があることは明らかであった。

2 そうすると、Y社がXに対し、本件欠勤を契機として本件解雇をしたことはやむを得なかったものというべきであり、懲戒処分などの解雇以外の方法を採ることなくされたとしても、本件解雇が著しく相当性を欠き、Y社に対する不法行為を構成するものということはできない。

最高裁の判断は妥当であると考えます。

ちなみに、一審、二審ともに、Xの勤務態度は普通解雇事由に該当するが、Y社が解雇理由となり得ることを警告したり、そのことを理由とする懲戒処分をすることで改善が図れるか見極めることをすべきであったにもかかわらず、これらの手段を講じることなく本件解雇をしたことから、相当性を欠くと判断し、不法行為と認めました。

できることなら、下級審が示しているような手続をとるべきだったと思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇37(スカンジナビア航空事件)

おはようございます。

さて、今日は、変更解約告知に関する裁判例を見てみましょう。

スカンジナビア航空事件(東京地裁平成7年4月13日・労判675号13頁)

【事案の概要】

Y社は、スウェーデンに本店をおく会社であり、他の外国2社とともに航空会社A社を運営していた。

Xらは、A社の日本支社となっていたY社の従業員、業務内容および勤務地を特定した雇用契約を締結していた。

A社の航空部門の収益が悪化したため、日本において年功序列賃金体系をとっていたY社は、賃金制度の変更に着手した。

Y社は、平成6年6月、地上職およびエア・ホステスの日本人従業員全員に対し、早期退職募集と再雇用の提案を行い、割増退職金の支給を提示した。再雇用の内容は、(1)年俸制の導入、(2)退職金制度の変更、(3)労働時間の変更、(4)契約期間(1年)の設定および(5)有給休暇は労働基準法の定めに従った日数に削減する、というものであった。

同募集の応募期限である同年7月末までに、115名が早期退職に応じたものの、残り25名は、早期退職に応じず、従前の労働条件で雇い続けるよう労働組合を通じて回答する一方、仮処分を申し立てた。

これに対し、Y社は、募集に応じなかった25名を、同年9月末付けで解雇するとした。

Xらは、解雇の効力を争い、地位保全等を求めた。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xらに対する解雇の意思表示は、要するに、雇用契約で特定された職種等の労働条件を変更するための解約、換言すれば新契約締結の申込みをともなった従来の雇用契約の解約であって、いわゆる変更解約告知といわれるものである。

2 YとXらとの間の雇用契約においては、職務および勤務場所が特定されていたため、職務、勤務場所、賃金及び労働時間等の変更を行うためには、これらの点についてXらの同意を得ることが必要であった。

3 しかし、労働者の職務、勤務場所、賃金及び労働時間等の労働条件の変更が会社業務の運営にとって必要不可欠であり、その必要性が労働条件の変更によって労働者が受ける不利益を上回っていて、労働条件の変更をともなう新契約締結の申込みがそれに応じない場合の解雇を正当化するに足りるやむを得ないものと認められ、かつ、解雇を回避するための努力が十分に尽くされているときは、会社は新契約締結の申込みに応じない労働者を解雇することができるものと解するのが相当である。

4 全面的な人員整理・組織再編が必要不可欠となり、その計画が図られた結果、雇用契約により特定されていた各労働者の職務及び勤務場所の変更が必要不可欠なものであった。本件合理化案を実現するために必要となる、(1)年俸制の導入、(2)退職金制度の変更、(3)労働時間の変更については、いずれもその変更には高度の必要性が認められる。賃金体系の変更は、従業員の賃金が総体的に切り下げられる不利益を受けることは明らかであるが、地上職の場合、会社により提案された新賃金(年俸)と従来の賃金体系による月例給に12(月)を乗じることにより得られる金額を必ずしもすべてが下回るものではないし、Xらが新労働条件での雇用契約を締結する場合には、会社は、従来の雇用契約終了にともなう代償措置として規定退職金に加算して、相当額の早期退職割増金支給の提案を行ったことをも合わせ考えると、業務上の高度の必要性を上回る不利益があったとは認められない。

5 労働条件の変更をともなう再雇用契約の申入れは、会社業務の運営にとって必要不可欠であり、その必要性は右変更によって右各債権者が受ける不利益を上回っているものということができるのであって、この変更解約告知のされた当時及びこれによる解雇の効力が発生した当時の事情のもとにおいては、再雇用の申入れをしなかった各債権者を解雇することはやむを得ないものであり、かつ、解雇を回避するための努力が十分に尽くされていたものと認めるのが相当である。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇36(京都市(北部クリーンセンター)事件)

おはようございます。

さて、今日は、セクハラ行為等を理由とする懲戒免職に関する裁判例を見てみましょう。

京都市(北部クリーンセンター)事件(大阪高裁平成22年8月26日・労判1016号18頁)

【事案の概要】

Y市は、Y市職員として京都市北部クリーンセンター関連施設プール管理運営協会事務局の事務所長の職にあったXを、以下の事実により懲戒免職処分とした。

(1)部下に対するセクハラ行為(性的関係を求める言動)、(2)タクシーチケット(7590円)の私的流用、(3)業者との独断契約、物品(自動販売機やスイミング用品)販売の手数料の簿外処理等

これに対し、Xは、本件処分は理由がなく、仮に懲戒事由があったとしても懲戒免職処分は重すぎる処分であり、比例原則に反し許されないと主張して、本件処分の取消しを求めた。

【裁判所の判断】

懲戒免職処分を取り消す

【判例のポイント】

1 セクハラ行為については、行為の相手方、Xのした性的関心に基づく発言や性的交渉を求める発言の内容が具体的に特定されておらず、時期についても3年以上の期間が示されているだけで十分な特定がされていない点で問題がある
とりわけ、本件が懲戒免職処分という重い処分が問題となっていることからすると、特段の事情のない限り、処分の理由となる事実を具体的に告げ、これに対する弁明の機会を与えることが必要であると解されるが、処分の理由となる事実が具体的に特定されていなければ、これに対する防御の機会が与えられたことにならないから、これを処分理由とすることは許されないというべきである
したがって、仮に、Xが、・・・本件調査報告書に記載されたような発言をした事実があったとしても、これを処分理由とするのは手続的に著しく相当性を欠くというべきである。

2 また、本件調査報告書は、Y市の行財政局人事課課長補佐であったEが、Xからセクハラ発言を受けたという者から直接事情を聞き、職場の同僚等の供述によりこれが裏付けられたとして、Xのセクハラ発言を認定したものであるが、対立当事者による反対尋問を経ていない供述の信用性判断は慎重に行うべきものであり、また、本件調査報告書は、上記事情聴取の際の供述を録取した書面そのものではなく、上記Eら調査委員会の認識をまとめたものにすぎない。
一口にセクハラ発言といっても、それまでの両者の関係や当該発言の会話全体における位置づけ、当該発言がされた状況等も考慮する必要があるのであって、Xがした性的な発言内容はもとより、その発言をした日時をできる限り特定し、発言を受けた相手方の氏名を示す必要があるというべきである。本件調査報告書のほか上記Eの供述によっても、Xが、J以外の臨時職員に対しても、日常的に性的な内容を含む発言をしていたという程度の心証を抱かせることはできるが、それが懲戒事由としてのセクハラ発言として、具体的に特定して認定し得るだけの証拠はないといわざるを得ない

3 協会のタクシーチケットは、Y市の公金・公物ではなく、その業務外目的での使用はY市の懲戒指針の「公金又は公物の横領」等に該当せず、また物品手数料の簿外管理は上司も黙認していたこと、手数料収入は主に職員の福利厚生や来訪客接待経費に充てるなど全くの個人的費消とはいえないことから、いずれも、より軽い処分が想定されている「公金公物処理不適正」に該当するとして、Xに対する懲戒免職処分が平等取扱原則に照らして重きに失し、裁量を逸脱している。

第1審(京都地裁)では、懲戒免職処分はY市の裁量の逸脱には当たらないとして、有効であると判断しました。

これに対し、控訴審では、弁明の機会を与えていないことは、手続的に著しく相当性を欠くとして、懲戒免職処分を取り消しました。

X側は、控訴審において、一般に懲戒免職処分の有効要件とされている罪刑法定主義、平等取扱い原則、相当性の原則、弁明機会の付与等の適正手続についての判断部分を、厳格に解したわけです。

セクハラは、性質上、なかなか特定が困難ですが、防御の機会を与えるという意味では、ある程度の特定を要求されるのは、やむを得ません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇35(ダイフク事件)

おはようございます。

さて、今日は、工事代金の架空請求等による詐欺と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ダイフク事件(東京地裁平成22年11月9日・労判1016号84頁)

【事案の概要】

Y社は、諸機械、器具および電気機械、器具の製造販売等を目的とする会社である。

X1は、Y社の国内工場の現場担当者であり、X2は、Y社の従業員であった。

X1が行った行為は以下のとおりである。

(1)現場担当者の立場を利用して、数年にわたり取引先業者数社に対し、架空請求および水増し請求を指示したうえ、取引先業者へ多額の金銭等の利益供与要求を行い、受領した。

(2)国内の工場現場で勤務または滋賀の自宅へ帰宅したと虚偽の申請を行い、取引業者の仲間と業務とは何ら関連のないタイ国へ旅行した。

(3)据付工事現場での宿泊場所として、取引先負担でウィークリーマンションを手配させたうえで宿泊したにもかかわらず、会社へ宿泊費の請求をした。

Y社は、X1を上記事実を理由として懲戒解雇した。

X2が行った行為は以下のとおりである。

(1)不明な金銭200万円を元従業員のX1からX2名義の郵便局口座に振込の方法により受け取ったにもかかわらず、弁護士の調査に対し、振込を受けた事実はない旨、虚偽の事実を述べた。

(2)自宅テレビのレシートを元従業員のX1に提供するなど、不正にX1が利得を得る相談に応じた。

(3)無関係のY社の製造番号を使用し、事務用品や湯茶を購入した。

Y社は、X2を上記事実を理由として解雇した。

X1及びX2は、本件(懲戒)解雇は無効であると主張し、争った。

【裁判所の判断】

X1に対する懲戒解雇は有効

X2に対する解雇も有効

【判例のポイント】

1 X1の一連の行為は、いずれも刑事上の犯罪を構成するか、それに匹敵するものであり、就業規則の懲戒解雇事由に該当することが明らかである。そして、本件懲戒解雇を無効というべき証拠はないから、X1の請求は、いずれも理由がない。

2 本件解雇の根拠規定(パートタイマー就業規則)が提出されていないが、X2の行為は、社会通念上、解雇事由に該当するものと考えられる。そして、本件解雇を無効というべき証拠はないから、X2の請求は、いずれも理由がない。

このような従業員の業務上の非違行為、犯罪行為には、厳しい態度で臨む必要があります。

これをなあなあにしてしまうと、他の従業員に悪影響を与えます。

また、本件では、Y社が、X1の不正請求による損害を下請業者らへ賠償したため、X1に求償金の請求を反訴でしました。

こちらは、当然、認められました。

会社としては、取引先との信用問題をできるだけ回避するために、迅速かつ適切に対応しなければなりません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇34(Y学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、不正経理と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

Y学園事件(大阪地裁平成22年5月14日・労判1015号70頁)

【事案の概要】

Y社は、高校及び短大を経営している学校法人である。

Xは、Y社が経営する私立高校の教諭で、書道部の顧問をしていた。

Xは、書道部合宿の経費に関し、PTAから施設費名目の金員を詐取したとして、Y社から懲戒免職(解雇)処分をされた。

Xは、本件懲戒免職は、無効であると主張して争った。

【裁判所の判断】

本件懲戒免職は、無効。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社が設置した懲戒委員会に不備があり、また、同委員会においてXに弁明の機会が与えられなかった点をもって、本件各懲戒処分が違法であると主張する。
確かに、本件就業規則は、懲戒委員会に関して別途定められる旨の規定があるにもかかわらず、Y社には同規定が存在しないこと、Xは同委員会に出席しておらず、同委員会において弁明の機会はなかったことが認められる。しかし、Xに対する本件懲戒処分に当たっては、Y社理事長の命により懲戒委員会が設置され、Y社高校校長らの調査結果(Xに対する事情聴取の結果を含む。)等について協議がなされたこと、Y社は、本件懲戒処分に先だって、Xに対する事情聴取を行っていることが認められる。これらの点からすると、Y社には懲戒委員会に関する規定の不備があり、Xが同委員会に出席して弁明の機会がなかったものの、短時間であるとはいえ、Xの言い分を聞く事情聴取がなされていることにかんがみれば、本件懲戒処分が手続的瑕疵により無効であるとまではいえない。

2 ・・・以上の点を総合的に勘案すると、本件における施設費の申請に係るXの行為は、懲戒処分に値する不適切な行為であるといわざるを得ない
しかし、(1)書道部は、実際に合宿において大広間を使用して作品製作を行っていたこと、(2)Xが、他の教諭らに対し、PTAからの施設費受給について個別具体的に指示したり、積極的にだまし取ろうという意図があったとまでは認められないこと、(3)Xが同費用を個人的に利得していたことを認めるに足りる的確な証拠はなく、むしろ書道部の活動状況、生徒会予算、部費の額、Xが立替払いや自己負担をしていた状況等にかんがみれば、PTAからの施設費は、書道部の活動資金に使用されていたと推認できること、(4)Y社では、平成19年度まで合宿費用等に関する領収書の提出を求めていないなど、PTAからの施設費等も含めたクラブ活動費用に関して会計処理等が適正に行われているか否かをチェックする体制になく、また、クラブ活動費が不足しているか否か等についての実態調査を行ったことを認めるに足りる的確な証拠もないこと、(5)Xに対する本件懲戒解雇処分に当たって参考とされたバレー部の顧問に関する事例については、必ずしもその全容が明らかであるとはいえないものの、本件におけるXの行為に比して、悪質な事案であることがうかがわれること、以上の点が認められ、これらの点を総合的に勘案すると、Xが生徒の範を示すべき立場にあることを考慮してもなお、Xに対して、懲戒処分において最も重い免職(解雇)処分とすることについては、社会通念上相当であるとは認め難い。したがって、Xに対する本件懲戒解雇処分は懲戒権ないし解雇権を濫用するものとして無効といわざるを得ない。

3 一般的に、賞与は、労働者の権利であるとまで解し難く、支給の有無や支給の額は、Y社の裁量的判断に委ねられていると解される。
もっとも、業績等に関係なく、賞与の支給日や支給額が明確に定まっている場合には、賞与請求に関する具体的な権利が成立していると解するのが相当である。
 

金銭に関する不正行為については、裁判所は、懲戒解雇等の厳しい懲戒処分を相当と判断することが多いです。

しかし、本件裁判例では、懲戒解雇が相当性を欠くとして無効となりました。

この種の事案では、毎回コメントしていますが、現場で、懲戒処分の有効性は判断することは極めて困難です。

それでもなお、会社としては、重い処分をしなければならない場合があります。

これは、もうやむを得ないことだと思います。

また、上記判例のポイント3の賞与請求に関する判断は、会社、従業員ともに参考になりますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇33(ヤマト運輸事件)

おはようございます。

さて、今日は、昨日に引き続き私生活上の非行と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ヤマト運輸事件(東京地裁平成19年8月27日・労経速1985号3頁)

【事案の概要】

Y社は、貨物自動車運送事業を営んでいる会社である。

Xは、Y社に雇用され、セールドライバーとして勤務していた。

Xは、業務終了後、帰宅途上で飲酒し、自家用車を運転中、酒気帯び運転で検挙された。この時、交通事故は起こしていない。

Xは、この事実を、Y社に直ちに報告をしなかった。

Xは、この件で罰金20万円に処せられ、運転免許停止30日の行政処分を受けた(講習受講により1日に短縮)。

Y社の就業規則では、業務内、業務外を問わず、飲酒運転及び酒気帯び運転をしたときには(懲戒)解雇する旨規定されている。

Y社は、Xを懲戒解雇とし、退職金を支給しなかった。

Xは、解雇は無効であるとし、退職金不支給も不当であるとして争った。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効。

退職金については、3分の1を支払うように命じた。

【判例のポイント】

1 従業員の職場外でされた行為であっても、企業秩序に直接の関連を有するものであれば、規制の対象となり得ることは明らかであるし、また、企業は社会において活動する上で、その社会的評価の低下毀損は、企業の円滑な運営に支障をきたすおそれが強いので、その評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められる行為については、職場外でされたものであっても、なお広く企業秩序の維持確保のために、これを規制の対象とすることが許される場合もあるといえる。

2 これを本件についてみるに、Y社が大手の貨物自動車運送事業者であり、XがY社のセールスドライバーであったことからすれば、Y社は、交通事故の防止に努力し、事故につながりやすい飲酒・酒気帯び運転等の違反行為に対しては厳正に対処すべきことが求められる立場にあるといえる。したがって、このような違反行為があれば、社会から厳しい批判を受け、これが直ちにY社の社会的評価の低下に結びつき、企業の円滑な運営に支障をきたすおそれがあり、これは事故を発生させたり報道された場合、行為の反復継続等の場合に限らないといえる。このようなY社の立場からすれば、所属のドライバーにつき、業務の内外を問うことなく、飲酒・酒気帯び運転に対して、懲戒解雇という最も重い処分をもって臨むというY社の就業規則の規定は、Y社が社会において率先して交通事故の防止に努力するという企業姿勢を示すために必要なものとして肯定され得るものということができる
そうすると、Xの上記違反行為をもって懲戒解雇とすることも、やむを得ないものとして適法とされるというべきである。

3 退職金は、賃金の後払いとしての性格を有し、企業が諸々の必要性から一方的、恣意的に退職金請求権を剥奪したりすることはできない。このような見地からは、退職金不支給とする定めは、退職する従業員に長年の勤続の功労を全く失わせる程度の著しい背信的な事由が存在する場合に限り、退職金が支給されないとする趣旨と解すべきであり、その限度において適法というべきである。

4 これを本件についてみると、Xは、大手運送業者のY社に長年にわたり勤続するセールスドライバーでありながら、業務終了後の飲酒により自家用車を運転中、酒気帯び運転で検挙されたこと、この行為は、一審の口頭弁論終結時ほどは飲酒運転に対する社会の目が厳しくなかったとはいえ、なお社会から厳しい評価を受けるものであったこと、Xは処分をおそれて検挙の事実を直ちにY社に報告しなかったこと、その挙げ句、検挙の4カ月半後、運転記録証明の取得によりXの酒気帯び運転事実が発覚したことなどからすると、その情状はよいとはいえず、懲戒解雇はやむを得ないというべきである。
しかしながら他方、Xは他に懲戒処分を受けた経歴はうかがわれないこと、この時も酒気帯び運転の罪で罰金刑を受けたのみで、事故は起こしていないこと、反省文等から反省の様子も見て取れないわけではないことなどを考慮すると、Xの行為は、長年の勤続の功労を全く失わせる程度の著しい背信的な事由とまではいえないというべきである。
したがって、就業規則の規定にかかわらず、Xは退職金請求権の一部を失わないと解される。

本件も、懲戒解雇を有効としながら、退職金全額の不支給は認められませんでした。

結果として、退職金の3分の1を支払うよう命じました。

会社としては、難しいところですね。

就業規則には、懲戒解雇となった場合、退職金は支給しない旨が規定されている以上、規定に従った処理をするのが自然です。

就業規則の規定を「退職金を支給しないことがある」とし、一定程度の退職金を支給するのか、それとも裁判上等!という姿勢で臨むのか、会社の姿勢が問われるところですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇32(小田急電鉄事件)

おはようございます。

さて、今日は、昨日の引き続き、私生活上の非行と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

小田急電鉄事件(東京高裁平成15年12月11日・労判867号5頁)

【事案の概要】

Y社は、鉄道事業等を主たる業務とする会社である。

Xは、Y社の従業員として、退職までの間、普段はまじめに勤務してきた。

Xは、京王井の頭線において、電車で痴漢行為を行い、警察に逮捕勾留され、20万円の罰金刑が言い渡されていた。

Y社は、昇給停止、および降格の処分を行った。

Xは、後日、JR高崎線の電車において、痴漢行為を行い、逮捕勾留され、起訴された。

Xは、勾留中、Y社の従業員らの面会を受け、その際、痴漢行為を認め、Y社が用意した自認書に署名指印して交付した。

Y社は、「業務の内外を問わず、犯罪行為を行ったとき」に該当するとしてXを懲戒解雇した。

Xは、本件懲戒解雇及び退職金不支給は、無効であると主張した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効。

退職金については3割の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Xは、留置場でのY社の担当者との面接の際、未だ申告していない痴漢行為も自ら話すなどし、その際の会社の内容などからみても、自由に弁明ができないような状況であったとは認めがたい。

2 痴漢行為が条例違反で起訴された場合には、その法定刑だけをみれば、必ずしも重大な犯罪とはいえないけれども、被害者に与える影響からすれば、決して軽微な犯罪であるということはできない。
まして、Xは、そのような電車内における乗客の迷惑や被害を防止すべき電鉄会社の社員であり、その従事する職務に伴う倫理規範として、そのような行為を決して行ってはならない立場にある。しかも、Xは、本件行為のわずか半年前に、同種の痴漢行為で罰金刑に処せられ、昇給停止および降職の処分を受け、今後、このような不祥事を発生させた場合には、いかなる処分にも従うので、寛大な処分をお願いしたいという始末書を提出しながら、再び同種の犯罪行為で検挙されたものである。

3 賃金の後払的要素の強い退職金について、全額を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為であることが必要であることに、それが、業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど、上記のような犯罪行為に匹敵するような強度な背信性を有することが必要である。もっとも、退職金が功労報償的な性格を有すること、支給の可否について会社に一定の合理的な裁量の余地があることから、強度の背信性を有するとまではいえない場合には、当該不信行為の具体的内容と被解雇者の勤続の功などの個別的事情に応じ、一定割合を支給すべきである。

4 本件では、相当強度な背信性を持つ行為であるとまではいえないが、他方、職務外の行為であるとはいえ、会社および従業員を挙げて痴漢撲滅に取り組んでいるY社にとって相当の不信行為であることは否定できない。本件については、本来支給されるべき退職金のうち、一定割合での支給が認められるべきであり、その具体的割合については、本件行為の性格、内容や、本件懲戒解雇に至った経緯、また、Xの過去の勤務態度等の諸事情に加え、とりわけ、過去のY社における割合的な支給事例等をも考慮すれば、本来の退職金の支給額の3割が相当である

本件では、懲戒解雇は有効となりましたが、退職金については不支給とはせず、3割の支給を命じました。

この裁判例をみると、よほどのことがない限り、私生活上の非行を理由に懲戒解雇をする場合でも、退職金の不支給とすることは許されないような気がしてきます。

会社としては、このような従業員に対し、退職金を1円たりとも支払いたくないと考えるのが普通でしょう。

第1審(東京地裁平成14年11月15日・労判844号38頁)は、懲戒解雇を有効とした上で、退職金の不支給も有効と判断しました。

このあたりは、判断が非常に難しいところです。

やはり多くの裁判例を検討し、判断するしかないのでしょうね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇31(横浜ゴム事件)

おはようございます。

さて、今日は、私生活上の非行と解雇に関する最高裁判例を見てみましょう。

横浜ゴム事件(最高裁昭和45年7月28日・判タ252号163号)

【事案の概要】

Xは、Y社の作業員である。

Xは、他人の居宅の風呂場の扉を押し開け、屋内に忍び込んだところ、家人に見つかり、逃走したが、まもなく私人に捕まり、警察に引き渡された。

これにより、Xは、住居侵入罪で罰金2500円に処せられた。

Y社は、この犯行をもって、従業員賞罰規則に定める懲戒解雇事由である「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した者」に該当するとして、Xを懲戒解雇に処した。

これに対し、Xは、雇用関係存在確認の訴えを提起した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

【判例のポイント】

1 Xの本件犯行は、恥ずべき性質の事柄であって、当時Y社において、企業運営の刷新を図るため、従業員に対し、職場諸規則の厳守、信賞必罰の趣旨を強調していた際であるにもかかわらず、かような犯行が行われ、Xの逮捕の事実が数日を出ないうちに噂となって広まったことをあわせ考えると、Y社が、Xの責任を軽視することができないとして懲戒解雇の措置に出たことに、無理からぬ点がないではない

2 しかし、翻って、右賞罰規則の規定の趣旨とするところに照らして考えるに、問題となるXの行為は、会社の組織、業務等に関係のないいわば私生活の範囲内で行われたものであること、Xの受けた刑罰が罰金2500円の程度に止まったこと、Y社におけるXの職務上の地位も蒸熱作業担当の工員ということで指導的なものでないことなどを勘案すれば、Xの行為がY社の体面を著しく汚したとまで評価するのは、当たらないというのほかはない。

本件では、住居侵入罪で有罪となった従業員に対する懲戒解雇が無効となった事案です。

みなさんは、この判断をどう思いますか?

「当たり前だ」と思う方、「そんなのおかしいだろ」と思う方、どちらの方が多いですかね。

本件と同様に、従業員の私生活上の非行、つまり、業務外での不祥事を理由に、懲戒解雇できるかが争われた裁判例はたくさんあります。

もっとも、本件のような類型の争いだからといって、特別な解釈が必要となってくるわけではありません。

通常の解雇事案と同じように、比較考量論による解雇権濫用法理の論点に帰着します。

そのため、毎度のことですが、ケースバイケースで判断するしかありません。

どれだけ慎重に処分をしても、争われるときには争われます。

とはいえ、過去の裁判例を参考にし、慎重に判断することをおすすめします。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇30(横浜市学校保健会事件)

おはようございます。

さて、今日は、引き続き、私傷病と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

横浜市学校保健会事件(東京高裁平成17年1月19日・労判890号58頁)

【事案の概要】

Y社は、横浜市教育委員会から委託を受け、学校歯科保健事業を行っている団体である。事業の主たる内容は、市立の小中学校のうち希望する学校に歯科衛生士を巡回させて行う歯科巡回指導である。

Xは、歯科衛生士としてY社で勤務してきた。

Xは、頸椎症性脊髄症であり休業を要すると診断された。

Xは、私傷病職免および年休をすべて消化し終えても入院が必要で、業務に従事できない状態であったことから、診断書を添えて休職願を提出した。

Xは、約6年にわたり休職してきたが、Y社は、Xが「心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合」(Y社勤務条件規程3条3項2号)に該当すると判断し、Xを解雇した。

Xは、本件解雇は無効であると主張した。

なお、本件解雇当時、Xは、左上肢を一時的に上げることはできるものの、左上肢を上げたままの姿勢を長く保持することが困難であるばかりか、左上肢を上げ下げする動作を繰り返していると左手に震え等の不随意運動が生じてしまうという状態にあった。また、左手の握力は9ないし12キログラムと、小学校低学年の女子程度のレベルしかなく、特に左手母指の筋力が著しく弱い状態にあった。Xは、補助具を用いても自力で立つことができず、常時車いすを使用する必要のある状態にあった。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xは、小中学校の児童に対する歯科巡回指導を行う歯科衛生士として、あらかじめ職種及び業務内容を特定してY社に雇用されたのであるから、特定されたこの職種及び業務内容との関係でその職務遂行に支障があり又はこれに堪えないかどうかが、専ら検討対象となるものである。

2 歯科衛生士が歯口清掃検査を実施するに当たっては「検査対象児童の歯、歯茎等、口腔内の状態を正確に把握することが必要であるところ、そのためには(1)歯科衛生士が、検査対象児童の口腔内をのぞきこむことができる適切な視線の位置(高さ)を確保する、(2)歯を覆っている唇あういは口付近の肉を検査の邪魔にならないよう押し広げるなどし、歯をむき出しにする、以上の2点が最低限必要である。

3 ・・・以上のような要請を満たす検査を行うには、歯科衛生士は、自分の両上肢の動きを自己の意思で完全にコントロールし、手指を用いて細かな作業を行うことができなければならないというべきであるところ、Xの左上肢の状況にかんがみると、Xの左上肢は、このような作業を行うには堪えられなかったことは明らかであり、結局、Xは、本件解雇当時、歯口清掃検査を行うことができない状態にあったというべきである。

4 Xは、Y社の業務中最も重要な意味を有することが明らかな歯口清掃検査そのものを行うことができないのであるから、本件解雇当時、Xが勤務条件規程3条3項2号「心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合」い該当していたものといわざるを得ないところである。

5 Xは、本件解雇は、単にXに身体障害が存在することを理由とするものであるから、介助者付きの原職復帰を認めずにした本件解雇は遠方14条1項、労働基準法3条違反である旨主張するが、左上肢の機能の背弦は、歯科衛生士としての資格を持つX自身が行わなければならない事柄に関する問題であって、介助者の有無によって結論に差異をもたらすものではないから、Xの主張は前提を欠いている

本件のポイントは、上記判例のポイント2です。

裁判所が、歯科衛生士であるXが最低限提供すべき履行の内容を基準として示しています。

つまり、Xが従事すべき業務の中核的部分を遂行するに足りるだけの身体的運動能力が認められるか否か、という点で、「心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合」の該当性を判断したわけです。

職場復帰時に、従前と同様の身体的能力を必要とするか否かが問題となるところですが、あくまで「最低限提供すべき」業務を遂行できるか否かが判断の分かれ目であるわけです。

この点は、従業員側に大変参考になるものですね。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。