本の紹介1125 アイアンハート(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

著者は、言わずと知れたグッドウィルグループ創業者の方です。

現在は、起業家インキュベーターとして活躍されているそうです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

事業を進めている過程でも、大きな壁にぶつかって『しょせん、自分には無理だったか』と失望することがあるかもしれない。だが『仕方がない』とやめてしまったら、そこでジ・エンドだ。その失望を乗り越えて一歩前に進むためには、何よりも、自分の夢やビジョンを諦めないことが大切になる。夢は持つこと以上に、持ち続けることが重要なのだ。」(290~291頁)

「夢」という言葉を使うかどうかはさておき、言わんとしていることは全くそのとおりです。

負けたら終わりなのではなく、辞めたら終わり。

勉強も運動も仕事も全部そうです。

途中の小さな成功も失敗も、すべてはプロセスの一部にすぎません。

一喜一憂せずにやるべきことをやり続けるだけです。

私たち凡人が結果を出すためにできることは、唯一、継続することだけなのですから。

セクハラ・パワハラ63 休職期間満了後の復職時における対応と安全配慮義務違反(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、欠勤を理由とする懲戒処分等に関する裁判例を見てみましょう。

東菱薬品工業事件(東京地裁令和2年3月25日・労判ジャーナル103号94頁)

【事案の概要】

本件は、業務外の事由により欠勤していたY社の従業員Xが、Y社に対し、Y社が診断書の提出後に休職を命じたり、復職に当たって試用期間の設定をしたり、始末書の作成をさせたり、復職後にその職位を降格する懲戒処分等をしたことは、Xに対するハラスメントに当たるとして、Y社の不法行為責任、使用者責任ないし安全配慮義務違反による債務不履行に基づき、慰謝料等の支払、未払時間外手当等の支払、労基法114条に基づく付加金等の支払、本件懲戒処分が無効であるとして、役職手当の減額分等の各支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

慰謝料(30万円)等請求一部認容

未払賃金等請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社によるハラスメント(1)ないし(9)を理由とする従業員の損害賠償請求については、軽作業であれば復職可能である旨の診断書の提出にもかかわらず、Xが従事可能な業務について十分な配慮をせず、休職を命じたこと、復職に当たって始末書を提出させたこと及び無効な本件懲戒処分を行ったことについて、Y社には少なくとも過失が認められるから、これらの一連の行為に関し、Y社は不法行為責任ないし安全配慮義務違反による債務不履行責任に基づく損害を賠償する義務を負い、そして、本件懲戒処分が無効とされることにより、役職手当の減額分に関する経済的損失は回復されるといえるものの、Xの復職が遅れたことにより、無収入の期間が生じたこと、Xが適応障害を発症したこと等、本件に現れた一切の事情を考慮すると、Xが被った精神的苦痛の慰謝料としては30万円が相当である。

2 本件の事情の下では、Xが、本件請求期間において、Y社の指揮命令の下で、タイムカード上の退勤時刻まで労務を提供していたことの立証は尽くされていないというほかないから、未払時間外手当に関するXの主張は採用できず、時間外手当及び付加金の各請求はいずれも理由がない。

私傷病による休職期間満了時の対応を誤ると訴訟に発展することは比較的よくあります。

対応方法は、事案によって異なりますので、必ず顧問弁護士に相談しながら対応することが肝要です。

本の紹介1124 自尊心削られながら個性を出せって、どんな罰ゲームだよ?(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

著者は、メイクアップアーティストの方です。

著者の日々の吐き出したい思いがまとめられた本です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

『できる』と信じてくれる人がいるのに『いやいや……』って尻込みしちゃうのって謙遜でも奥ゆかしさでもなく、失礼なんだ」(132頁)

もちろん断るのは自由です。

しかし、断ると、次はありません。

依頼する側は「あ、できると思ったけど、このレベルの仕事はできないんだ。」と思うからです。

「やったことありません」はいいです。

やったことないのにやったことあるというより100倍いいです。

こんなもの嘘ついたって、すぐばれますから。

「できません」は、詰まるところ「やりたくありません」と同義です。

管理監督者性45 タイムカードの打刻がない日の時間外労働時間はどう判断する?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、管理監督者該当性と未払割増賃金等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

マツモト事件(東京地裁令和2年6月3日・労判ジャーナル104号38頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員として稼働していたXが、①平成28年9月21日から退職日である平成30年10月18日までの間の労基法37条1項、4項所定の法定外時間外・深夜・休日労働の割増賃金に不払いがあるなどと主張して、Y社に対し、労働契約に基づき、別紙1のとおり、本件請求期間の未払残業代463万7110円+確定遅延損害金24万0539円及び上記未払残業代のうち449万5360円+遅延損害金の支払を求め、併せ、②労基法114条に基づき、付加金400万1144円+遅延損害金の支払を求めた(同2)事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、297万4765円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、付加金243万0603円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社においては、少なくとも本件請求期間当時、従業員にタイムカードを打刻させる方法により労務管理がされていたものであるところ、Y社の主張を踏まえても、タイムカードの打刻の信用性を疑わせる事情として的確なものは本件証拠上見出し難いから、Xのタイムカードに出勤及び退出の打刻があると認められる稼働日については、所定の休憩時間とされている1時間を挟んで、同時間帯、稼働があったものと推認するのが相当である。
他方、タイムカードに出勤又は退勤のいずれかの打刻しかない稼働日も数多く認められるところ、Xは、かかる稼働日についても別紙1労働時間集計表のとおりの労働時間を認めるべきである旨主張する。
しかし、被告は、上記Xの主張事実を否認しているところ、Xの主張事実を裏付ける的確な証拠はない。かえって、証拠からすると、深夜時間帯を過ぎた日中午前に稼働を開始した稼働日もまま認められるし、他方、午前11時台の時刻などX主張の退勤時刻(午後2時)より相当早い時刻に退勤している稼働日が相当数あることも認められる。この点、X本人は、X本人尋問において、闘病のため入院していた内妻に面会するため業務時間中に病院に行ったことはあるものの、その数は10回ほどにとどまるなどとも供述しているけれども、そもそもこれが10回にとどまる証拠は何らないし、タイムカードからうかがわれるところの稼働状況も以上のとおりであって、他に的確な裏付けのない以上、やはり前記Xの主張はたやすく採用し難いものといわなければならない。
以上のとおりであるから、タイムカードに出勤又は退勤のいずれかの打刻しかない稼働日については、X主張のような法定外労働時間があると認めることはできない

2 Y社は、Y社の株式譲渡前にあっては従業員6名程度、その後においてもXと訴外Dのほか事務方の従業員1名程度の極めて小規模な事業体であったものであり、そもそも、経営者の身代わり的存在を置いて、労働時間規制の枠組みを超えた労務管理をなさしめるべき必要性があるとはおよそ認め難い。
また、以上の点を措くとしても、Xの所定労働時間は一応1日8時間と定められてはいたところであって、およそ所定労働時間の稼働の有無や稼働の程度を随意にできたと認めることのできる証拠はない。かえって、Y社は、本件訴訟において、Xに無断欠勤があったなどと主張している。確かに、証拠によれば、Xのタイムカード上の始業時刻や終業時刻が区々となっている傾向は看取できるが、これも、所定始業・終業時刻が定時に定まっていなかったことの結果とみることもできるから、そのことから直ちにXに上記説示のような意味における出退勤の自由があったということはできない。結局、本件において、出退勤がXの自由に委ねられていたとは認め難い。
さらに、Xに対する待遇も前記前提事実記載の程度であって、基本給のほかは、役職給その他の支給項目による支給はなく、Xの基本給に労働時間規制を超えて労働をすることの対価が含意されていたと認めるに足りる証拠もない。平成30年3月支払分からの賃金増額分も、Y社主張のように、業績好転への寄与への期待から増額されたものとはいえても、管理監督者としての稼働に対する対価として増額されたと認めるべき的確な証拠はない。結局、Xに対し、労働時間規制の枠組みを超えた労務管理をなさしめることの対価としての十分な待遇がなされていたともたやすく認め難い
以上の次第であって、本件において、労働時間規制の枠組みを超えた労務管理をなさしめるべき必要性があるとは認め難い一方、Xに出退勤の自由や十分な待遇がなされていると認め難く、労働時間規制の枠組みを超えた稼働をさせたとしても労働者保護にかける嫌いがないとも評価し難いから、労基法41条2号が管理監督者について特に労働時間規制の例外を設けた趣旨にも鑑みると、そもそもXが管理監督者に該当すると認めることは困難である。

管理監督者性についてはいつものとおり、否定されております。

上記判例のポイント1は非常に参考になります。

タイムカードの打刻がない日について、他の日の労働時間から推認させないために、いかなる主張立証をするかによって勝敗を決します。

労務管理は事前の準備が命です。顧問弁護士に事前に相談することが大切です。

本の紹介1123 無駄な仕事が全部消える 超効率ハック(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

仕事が遅い人、どれだけ仕事をしても一向に仕事が減らない人は是非読んでみましょう。

効率のいい人が当たり前のようにやっていることがまとめられています。

特に目新しい内容ではありませんが、詰まるところ、やるかやらないかです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

どんなに時短テクニックを駆使しても、その作業自体が必要のない作業だったとしたら意味がありません。しなくてもいいことを効率的に行うことほど、無駄なことはないのです。仕事が早い人とは、作業スピードが速い人ではなく、必要のない作業を見極めて、やめてしまえる人です。」(56頁)

しなくてもいいことだらけの世の中です。

会社のルールなのでしかたなくやっている「作業」があふれかえっています。

働き方改革が始まってかれこれ経ちますが、霞が関に限らず、県庁も市役所もいまだに夜遅くまで電気がついています。

これからますます労働力が減り、その反面、コンプライアンスの名の下に作業量は増える一方です。

時間がいくらあっても足りませんね。

解雇339 提訴時の記者会見は解雇事由となる?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、育児休業取得妨害等に基づく損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券事件(東京地裁令和2年4月3日・労判ジャーナル103号84頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていた原告が、①Y社から育児休業取得の妨害、育児休業取得を理由とする不利益取扱いをされたとして、不法行為による損害賠償請求権(不利益取扱いについては一部債務不履行による損害賠償請求権も根拠とする。)に基づき、損害賠償金+遅延損害金の支払を求めるとともに(損害賠償請求)、②Y社がXに対してした平成29年10月18日休職命令は無効であるとして、民法536条2項に基づき、平成29年10月分の未払賃金,同年11月分の未払賃金円+遅延損害金(休職期間賃金請求)、③Y社がXに対してした平成30年4月8日解雇は無効であるとして、民法536条2項に基づき、同年12月分から本判決確定の日までの賃金+遅延損害金(解雇後賃金請求)の支払を求め、④雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める(地位確認請求)事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、Xに対し警告をしたにもかかわらず、本件訴訟において、Y社の内部文書である本件収益一覧表を顧客名等について黒塗りすることなく証拠として提出し、第三者による閲覧及び謄写が可能な状態に置いたことは「Y社及び取引先の経営情報、営業上の秘密、その他公表していない情報を他に漏らした場合」(戦略職就業規程70条3号)に当たる旨主張する。
しかしながら、Xが訴訟代理人弁護士を通じて本件収益一覧表を提出した先は裁判所であり、Y社は閲覧制限を申し立てる方法により閲覧の対象者は当事者に制限することができ、また実際にも申立てがされていて、第三者が閲覧及び謄写した事実はない(記録上明らかな事実)。そうすると、Xの行為は軽率のそしりは免れないとしても、本件収益一覧表を他に漏らした場合に当たるとまでは評価することができない。上記Y社の主張は失当であり採用することができない。

2 Xは、本件のような労使紛争において社内的な解決を図ることができない場合に、裁判所を通じた法的措置をとり、その際に世論の喚起及び支援を求めて記者会見をし、取材を通して自らが訴訟において主張する事実関係を述べることは一般的に行われており、このような行為は表現の自由として憲法上保障されているからXの前記各発言を原告の不利益に考慮することは許されない旨主張する。
Xが記者会見をして自らが訴訟において主張する事実関係を述べること自体は表現の自由によって保障されるものであることはもとよりであるが、表現の自由も他人の名誉権や信用など法律上保護すべき権利・利益との間で調整的な文脈での内在的制約に服さざるをえないというべきであって、記者会見における表現行為であるとの一事をもって、その内容がどのようなものであっても対第三者との間において許容されるべきことにはならないというべきである。かような観点からすれば、訴訟追行に必然的なものではない記者会見を通して広く不特定多数の人に向けて情報発信をした事実が客観的真実に反する事実により占められ、Y社の名誉や信用等を侵害する場合、これを解雇理由として考慮することが許されないと解することはできない。

3 Xは、育児休業から復帰した直後からハラスメントを受けたとし、B、D及びEが繰り返しXに対しXの誤解であることを説明したものの、かえってXは広く世間に対し同内容の主張を情報発信することを繰り返した。このようなXの言動は本件解雇に至るまで続いており、Xに改善の兆しは見られない。また、Xは、自らの担当顧客について「利益を生まないし、これからもそうはならないであろう」顧客などと指弾し、担当顧客の評価を不当に貶めるような発言をした。加えて、Y社では、Xの別紙の情報発信を理由として顧客取引の停止等の影響が実害として発生していることが認められる。そして、X自身も、平成29年11月2日記者会見において、Xによるハラスメントを訴えたことを理由に既にY社との取引を止めたという噂も耳にしている、この動きは広がる一方である旨述べていて、別紙の情報発信によりY社に与える打撃及び影響を十分に認識し認容しながら、Y社からの警告を受けてもなお、あえて情報発信を継続したと理解することができる。Xは、日本株及び日本株関連商品の営業業務の担当として高い職務実績をあげY社の当該業務の成果に大きく貢献することが期待され高額の給与が保証されている戦略職であり、別紙の一連の情報発信及び情報の拡散行為は、戦略職として求められている期待に著しく反するものであって、本件雇用契約上の信頼関係は修復不可能な状態になっているということができる。

上記判例のポイント2は注意が必要ですね。

提訴時の記者会見について裁判所の考え方が示されていますので参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介1122 TRACTION(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

サブタイトルは「ビジネスの手綱を握り直す」(Get a Grip on Your Business)です。

帯には「翻訳を許されなかった『禁断の書』が、遂に完全日本語化」と書かれています。

「禁断の書」は明らかに誇張ですが、経営システムを考えるにはよい本です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

成長のための成長は間違っている場合が多い。1億ドル規模の企業になることは、世間が言うほどすばらしいことではない。」(252頁)

業種や時代によっても異なるのだと思いますが、私は、拡大=成長だと考えることには否定的です。

自分の仕事が、スケールメリットを発揮しにくいと感じるにもかかわらず、拡大するのは、まさに成長のための成長です。

手段が目的化し、結果、不必要な固定費だけが増えていくのです。

売上ではなく利益を見たときに、どの程度の大きさが適切かということを冷静に考えることがとても重要です。

賃金207 36協定を締結していない場合の固定残業制度の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、固定残業代と労働時間該当性に関する裁判例を見てみましょう。

公認会計士・税理士半沢事務所事件(東京地裁令和2年3月27日・労判ジャーナル103号90頁)

【事案の概要】

本件は、Y事務所との間で労働契約を締結していた元従業員Xが、いわゆる法内残業や法定時間外労働等を行ったとして、労働契約に基づく割増賃金請求として、約104万円等の未払割増賃金等の支払を求めるとともに、労働基準法114条に基づく付加金請求として約69万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 他の従業員の補助業務を主に担当していたXは、最寄り駅に集合するよう先輩従業員から指示されていたのであるから、集合時間後は、使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができ、Aへの訪問後に本件事務所に戻って業務を行った旨主張するが、Xは、翌日のBでの業務に利用する荷物をキャリーバックに詰めるために本件事務所に戻ったというのであり、このような行動を取ることについてXがY事務所から明示又は黙示の指示を受けたことを認めるに足りる証拠はなく、Xの上記行動は、X自らの判断で行った行動であるから、使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することはできず、Aでの業務が終了した時点で使用者の指揮命令下から離脱したものと認めるのが相当であり、また、補助業務を行っていたXは、業務を指示していた先輩従業員の指示により休日出勤を行っているから、使用者の指揮命令下にあったものと認めるのが相当である。

2 本契約書上も給与明細上も、固定残業代である営業手当とそれ以外の給与費目及び金額が明示的に区分されて記載されていることからすれば、通常の賃金に当たる部分と固定残業代に当たる部分との判別が可能といえ、また、Y事務所主張の賃金単価とXに支払われた営業手当から算出される計算上の時間外労働時間数は、Y事務所の想定と実際との乖離は大きくないものと評価でき、そして、Y事務所は、2回目の面談の際、Xに対して営業手当を含む給与待遇や残業に関する説明を行ったものと認められるところ、36協定が締結されておらず、時間外労働が違法であるとしても、使用者は割増賃金の支払義務を免れるものではないから、これにより固定残業代を支払う合意が無効となるとは解されないから、本件契約書の記載内容、本件契約締結に至る経緯及び本件契約締結後の状況を考慮すると、営業手当は、割増賃金の対価としての性質を有するものと認められ、また、上記のとおり通常の賃金に当たる部分と固定残業代に当たる部分との判別が可能であるから、営業手当は、固定残業代といえる

36協定を締結していない場合、労基法違反になりますが、上記のとおり、その事実をもって固定残業制度が無効とは判断されません。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介1121 見えないからこそ見えた光(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

著者は、以前、辛坊さんとともにヨットでの太平洋横断にチャレンジされた方です。

「全盲のヨットマン」である著者の人生観が書かれています。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

見えないからこそ見えてくるものがあるということに気づき、環境が自分を幸せにしてくれるのではなく、どのような環境にあっても自分の心の持ち方で幸せになれるということを知ることができたのです。」(213頁)

すぐに不安を感じてしまう人は、不安の中身が自分でコントロール可能か否かを考えてみましょう。

明日の天気を心配しても仕方ありません。

環境を選択できるのであれば、できるだけ自分にプラスになる環境を選択すべきです。

未成年のときは自分の力で環境を変えることはなかなか難しいですが、大人になれば多くの場合、自分で選択できます。

大人の事情で選択できない状況に身を置いている方もいると思いますが、根本的にはそれもまた自分の選択の結果です。

いずれにせよ選択できないことを悩んでも、解決不可能なので時間の無駄です。

自分でコントロール可能なことだけにフォーカスしましょう。

労働時間66 就業時間前後の労働時間該当性と黙示の指揮命令(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、就業時間前後の労働時間該当性に関する裁判例を見てみましょう。

淀川勤労者厚生協会事件(大阪地裁令和2年5月29日・労判ジャーナル102号30頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、雇用主であるY社に対し、①雇用契約に基づき、別紙1「集計表(原告請求分)」記載のとおりの未払時間外割増賃金等170万5546円(元本141万9006円及び確定遅延損害金28万6540円の合計額)+遅延損害金の支払、②労基法114条所定の付加金88万0960円+遅延損害金の支払、③Y社がX申請に係る年次有給休暇及び生理休暇の取得妨害等をしており、これが不法行為を構成するなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)10万円+遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、130万2422円+遅延損害金を支払え。

Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、所定始業時刻よりも早い、本件出退勤システム上の記録時刻に依拠して、その始業時刻に関する主張を構成しており、先輩看護師から所定始業時刻前に出勤して患者情報を収集するよう指示された、看護師の「ほぼ全員」がそのようにしていたなどとこれに沿う供述をする。
そして、B師長がした平成28年3月時点の発言の中に、同年2月にした「日勤」時におけるPNS導入の下、午前8時45分以降に2名で情報収集から始めるよう指示しており、「早くから出勤する職員は減ってきている」というものが含まれているところ、これはPNS導入前、所定始業時刻前に出勤して患者情報の収集等をしていた看護師がX以外にも一定数いたことを示唆するものであり、B師長自身、所定始業時刻前に出勤していた看護師は「3分の1もいなかった」などと供述している。このような証拠関係に照らせば、Xが「ほぼ全員」と表現するまでの多数であったとは認められないにせよ、平成28年1月以前(PNS導入前)の「日勤」時には、一定数の看護師が所定始業時刻前に出勤して患者情報の収集等の業務に従事していたものと認定でき、ひいては、Y社において、このような一定数の看護師がしていた行動について、担当業務の遂行方法の一つとしてこれを容認していたとみられ、この点にY社による黙示の業務命令があったと認定でき、この認定を覆すに足りる証拠はない。
さらに、Xがそのような黙示の業務命令の下で労務提供をしていたか否かについてみるに、Xは、患者情報の収集をしていた旨供述するが、所定始業時刻前に一定数の看護師が出勤して、現に患者情報の収集等をしていたと認められるところ、Xが所定始業時刻前に出勤していた限りにおいて、そのような業務を行う者の一人であったことを否定する事情は見当たらない当時、Xは入職後間もない時期にあり、先輩看護師らが業務をする中で、あえて何の業務にも携わっていなかったというのもかえって不自然である。)。
そうすると、Xは、この期間における「日勤」時について、前記のとおりに認められる黙示の業務命令に基づき、本件病院建物への到着後間もなく、労務提供を開始していたと認定できる

2 Xは、本件出退勤システム上の記録時刻を前提として、平成27年4月10日から平成28年2月23日までについては、着替え等に要するものとして、さらに10分間早い時刻をもって始業時刻とする旨その主張を構成しているところ、Xは、この期間に限り、本件病院建物に到着後、着替え等をしてから本件出退勤システムへの時刻登録をしていたことが認められる。
そして、本件病院では、看護師の制服が採用されるとともに、Y社によってその更衣場所が定められるなどしており、清潔を保持すべき看護師という業務の性質等をも踏まえる限り、本件病院での看護師の制服への着替えは、その業務に不可欠な準備行為として、Y社から黙示的に義務付けられていると評価すべきである。このような本件における具体的事情に照らせば、この着替え等に要する時間についても、Y社の指揮命令下に置かれていたものとして、これを労働時間の一部と捉えることが相当である。
もっとも、着替え等に要する時間について,Xは10分間であるものと主張するが、これを裏付ける客観的証拠はなく、2分間くらいで、長くとも5分間もあれば十分であるといった、Xの供述に相反する趣旨の他の看護師の供述があるところ、2分間というのは短きに過ぎるものであるにせよ、5分間という内容は不自然不合理ということはできず、Xの主張は5分間の限度で認定できるにとどまる。

証人尋問での一言を拾われて、判決理由に使われている例です。

事案としては、黙示の指揮命令を認定しやすい類型だと思います。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。