解雇34(Y学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、不正経理と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

Y学園事件(大阪地裁平成22年5月14日・労判1015号70頁)

【事案の概要】

Y社は、高校及び短大を経営している学校法人である。

Xは、Y社が経営する私立高校の教諭で、書道部の顧問をしていた。

Xは、書道部合宿の経費に関し、PTAから施設費名目の金員を詐取したとして、Y社から懲戒免職(解雇)処分をされた。

Xは、本件懲戒免職は、無効であると主張して争った。

【裁判所の判断】

本件懲戒免職は、無効。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社が設置した懲戒委員会に不備があり、また、同委員会においてXに弁明の機会が与えられなかった点をもって、本件各懲戒処分が違法であると主張する。
確かに、本件就業規則は、懲戒委員会に関して別途定められる旨の規定があるにもかかわらず、Y社には同規定が存在しないこと、Xは同委員会に出席しておらず、同委員会において弁明の機会はなかったことが認められる。しかし、Xに対する本件懲戒処分に当たっては、Y社理事長の命により懲戒委員会が設置され、Y社高校校長らの調査結果(Xに対する事情聴取の結果を含む。)等について協議がなされたこと、Y社は、本件懲戒処分に先だって、Xに対する事情聴取を行っていることが認められる。これらの点からすると、Y社には懲戒委員会に関する規定の不備があり、Xが同委員会に出席して弁明の機会がなかったものの、短時間であるとはいえ、Xの言い分を聞く事情聴取がなされていることにかんがみれば、本件懲戒処分が手続的瑕疵により無効であるとまではいえない。

2 ・・・以上の点を総合的に勘案すると、本件における施設費の申請に係るXの行為は、懲戒処分に値する不適切な行為であるといわざるを得ない
しかし、(1)書道部は、実際に合宿において大広間を使用して作品製作を行っていたこと、(2)Xが、他の教諭らに対し、PTAからの施設費受給について個別具体的に指示したり、積極的にだまし取ろうという意図があったとまでは認められないこと、(3)Xが同費用を個人的に利得していたことを認めるに足りる的確な証拠はなく、むしろ書道部の活動状況、生徒会予算、部費の額、Xが立替払いや自己負担をしていた状況等にかんがみれば、PTAからの施設費は、書道部の活動資金に使用されていたと推認できること、(4)Y社では、平成19年度まで合宿費用等に関する領収書の提出を求めていないなど、PTAからの施設費等も含めたクラブ活動費用に関して会計処理等が適正に行われているか否かをチェックする体制になく、また、クラブ活動費が不足しているか否か等についての実態調査を行ったことを認めるに足りる的確な証拠もないこと、(5)Xに対する本件懲戒解雇処分に当たって参考とされたバレー部の顧問に関する事例については、必ずしもその全容が明らかであるとはいえないものの、本件におけるXの行為に比して、悪質な事案であることがうかがわれること、以上の点が認められ、これらの点を総合的に勘案すると、Xが生徒の範を示すべき立場にあることを考慮してもなお、Xに対して、懲戒処分において最も重い免職(解雇)処分とすることについては、社会通念上相当であるとは認め難い。したがって、Xに対する本件懲戒解雇処分は懲戒権ないし解雇権を濫用するものとして無効といわざるを得ない。

3 一般的に、賞与は、労働者の権利であるとまで解し難く、支給の有無や支給の額は、Y社の裁量的判断に委ねられていると解される。
もっとも、業績等に関係なく、賞与の支給日や支給額が明確に定まっている場合には、賞与請求に関する具体的な権利が成立していると解するのが相当である。
 

金銭に関する不正行為については、裁判所は、懲戒解雇等の厳しい懲戒処分を相当と判断することが多いです。

しかし、本件裁判例では、懲戒解雇が相当性を欠くとして無効となりました。

この種の事案では、毎回コメントしていますが、現場で、懲戒処分の有効性は判断することは極めて困難です。

それでもなお、会社としては、重い処分をしなければならない場合があります。

これは、もうやむを得ないことだと思います。

また、上記判例のポイント3の賞与請求に関する判断は、会社、従業員ともに参考になりますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

労働時間18(阪急トラベルサポート事件(派遣添乗員・第3)事件

おはようございます。

さて、今日は、事業場外みなし労働時間に関する裁判例を見てみましょう。

阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第3)事件(東京地裁平成22年9月29日・労判1015号5頁)

【事案の概要】

Y社は、募集型企画旅行において、主催旅行会社A社から添乗員の派遣依頼を受けて、登録型派遣添乗員に労働契約の申込みを行い、同契約を締結し、労働者を派遣するなどの業務を行う会社である。

Y社は、募集型企画旅行の登録型派遣添乗員として、Xらを雇用した。

Xらは、A社が作成した行程表に従って業務を遂行するとともに、実際の旅程結果について添乗員日報を作成して報告するように指示されていた。また、携帯電話が貸与されており、随時電源を入れておくように指示されていた。

Y社では、事業場外みなし労働時間制が採用されていた。

Xは、Y社に対し、(1)派遣添乗員には、労働基準法38条の2が定める事業場外労働のみなし制の適用はなく、法定労働時間を超える部分に対する割増賃金が支払われるべきである、(2)7日間連続して働いた場合には、最後の1日は休日出勤したものとして休日労働に対する割増賃金が支払われるべきであると主張し、未払時間外割増賃金、付加金等を求めた。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用を受ける場合にあたる。

付加金として、割増賃金と同額を認容した。

【判例のポイント】

1 本件みなし制度は、事業場外における労働について、使用者による直接的な指揮監督が及ばず、労働時間の把握が困難であり、労働時間の算定に支障が生じる場合があることから、便宜的な労働時間の算定方法を創設(許容)したものであると解される。そして、使用者は、本来、労働時間を把握・算定すべき義務を負っているのであるから、本件みなし制度が適用されるためには、例えば、使用者が通常合理的に期待できる方法を尽くすこともせずに、労働時間を把握・算定できないと認識するだけでは足りず、具体的事情(当該業務の内容・性質、使用者の具体的な指揮命令の程度、労働者の裁量の程度等)において、社会通念上、労働時間を算定し難い場合であるといえることを要するというべきである
なお、本件通達は、社会通念上「労働時間を算定し難いとき」に該当するか否かを検討する際の行政指針であって、本件通達除外事例は「労働時間を算定し難い」ときに該当しない主な具体例を挙げたものと解すべきである。

2 Xらが従事している添乗業務については、本件派遣先が、行程表(アイテンリー又は指示書)を作成し、添乗員に対して行程表に沿った旅程管理業務を行うように指示していることが認められるものの、各種交通機関(飛行機、鉄道、バス等)を利用して相当長距離にわたる移動を行い、複数のツアー参加者に帯同して、ツアー参加者を適宜誘導等しながら、旅程を管理するという添乗業務の性質上、その労働時間を個別具体的に認定することには、相当程度の困難が伴うものといわざるを得ない

3 (使用者が労働時間を把握することの難易は、重要な考慮要素になるとはいえ、)、「労働時間を算定し難いとき」という文言からしても、労働時間を把握することの可否(客観的可能性)自体によって本件みなし制度の適用の有無を判断することは相当ではない。そして、通信機器を利用するなどして、添乗員の動静を24時間把握することは客観的には可能であるとはいえ、前述したような添乗業務の内容・性質にかんがみると、このような労働時間管理は煩瑣であり、現実的ではない方法であるといわざるを得ない。
なお、本件派遣先は、緊急時の対応等に備えて、携帯電話の所持を指示しているのであり、添乗員の業務内容を逐一指示し、具体的な業務内容を指揮監督するために所持させているものとは認められず、本件通達除外事例に該当しないことは明らかである。

4 Y社とXらとの間において、みなし労働時間が合意されたものとは認められないから、本件においては、Xらによる添乗業務の「遂行に通常必要とされる時間」を検討する必要がある。
この点、裁判所によるみなし労働時間の検討は、本件みなし制度が適用されるものの、労働基準法38条の2第2項但書に定める労使協定が存在しないなどの事情により、みなし労働時間の算定に争いが生じた場合において、訴訟に顕われた一切の資料を総合考慮して、裁判所が、業務の「遂行に通常必要とされる時間」を相当と考える方法によって、判定(評価)する作業であると考えられる

5 同法は、個別具体的な事情を捨象した上でみなし労働時間を判定することを予定しているものと解される。そうすると、労働者の個性や業務遂行の現実的経過に起因して、実際の労働時間に差異が生じ得るとしても、(実労働時間の把握が困難である以上、)基本的には、個別具体的な事情は捨象し、いわば平均的な業務内容及び労働者を前提として、その遂行に通常必要とされる時間を算定し、これをみなし労働時間とすることを予定しているものと解される

6 ただし、・・・同法は、本件みなし制度の適用結果(みなし労働時間)が、現実の労働時間と大きく乖離しないことを予定(想定)しているものと解される。すなわち、労働時間を把握することが困難であるとして、本件みなし制度が適用される以上、現実の労働時間との差異自体を問題とすることは相当ではないが、他方において、本件みなし制度は、当該業務から通常想定される労働時間が、現実の労働時間に近似するという前提に立った上で便宜上の算定方法を許容したものであるから、みなし労働時間の判定に当たっては、現実の労働時間と大きく乖離しないように留意する必要があるというべきである

事業場外みなし労働時間制の適用の難しさがよくわかります。

阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第1)事件阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第2)事件と比較すると事実認定の勉強になります。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

賃金11(SFコーポレーション事件)

おはようございます。

さて、今日は、割増賃金に関する裁判例を見てみましょう。

SFコーポレーション事件(東京地裁平成21年3月27日・労判985号94頁)

【事案の概要】

Y社の元従業員であるXが、Y社に対し、未払いの時間外・深夜労働割増賃金手当等の請求をした。

Xには、毎月約32~82時間前後の時間外労働があった。

Xには、管理手当が支給されていた。

Y社給与規定には、「管理手当は、月単位の固定的な時間外手当(給与規程16条による時間外労働割増賃金および深夜労働割増賃金)の内払いとして各人ごとに決定する」「給与規定16条に基づく計算金額と管理手当の間で差額が発生した場合、不足分についてはこれを支給し、超過分について会社はこれを次月以降に繰り越すことができる」との規定がある。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、管理手当は外勤・内勤にかかわらず一律支給されているなどとし、管理手当は割増賃金の性質をもたず、違法であると主張する。
しかしながら、X主張の事実を斟酌しても、管理手当が残業代の内払たる性格を否定することはできないのであって、給与規定の記載等に照らせば、Xの前記主張は採用することができない

2 給与規定17条2項は、計算上算定される残業代と管理手当との間で差額が発生した場合には、不足分についてはこれを支給するとしつつ、超過分についてはY社がこれを次月以降に繰り越すことができるとしているのであり、別紙「割増賃金計算表」記載のとおり、未払の時間外・深夜労働割増賃金は存しないものと認められる。

会社としては、大変参考になる裁判例です。

書店で売っている就業規則関連の本には、ほとんど掲載されており、既に取り入れている会社も多いと思いますが、念のため。

まず、残業代の内払いとする場合には、基本給と明確に区別できるような形で規定しましょう。

次に、超過分は、次月以降に繰り越すことができるという規定を入れておきましょう。

当然のことながら、不足分が出た場合には、きちんと残業手当を支払いましょう。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

有期労働契約17(安川電機八幡工場事件)

おはようございます。

さて、今日は、有期労働契約に関する裁判例を見てみましょう。

安川電機八幡工場事件(福岡地裁小倉支部平成16年5月11日・労判879号71頁)

【事案の概要】

Y社は、電気機械器具・装置及びシステムの製造並びに販売を主な事業目的とする会社である。

Xは、Y社に雇用期間を3か月と定めて雇用され、約14年間にわたりその契約を期間満了後ごとに更新していた。

Y社は、Xに対し整理解雇をするため、解雇を予告するした上で、雇用期間途中に整理解雇を行った(本件雇止め)。

Xは、整理解雇は、要件を満たさず無効であるとして争った。

なお、Y社は、本件整理解雇の意思表示には雇用期間満了時の雇止めの意思表示が含まれていると主張を追加した。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

雇止めとしても無効

Xの精神的苦痛に対する慰謝料として50万円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 有期労働契約の雇用期間内における解雇は、やむを得ない事由がある場合に限り許される(民法628条)。そして、本件においては、Y社の生産量に対し余剰となっているパート労働者の人員削減の必要性は存すると認めるものの、本件整理解雇の対象となったパート労働者は31名であり、残りの雇用期間は約2か月、Xらの平均給与が月額12~14万円あまりであること、本件整理解雇によって削減される労務関係費はY社の事業経費のわずかな部分であって、Y社の企業活動に客観的に重大な支障を及ぼすものとはいえず本件整理解雇をしなければならないほどのやむを得ない事由があったとは認められない。

2 本件整理解雇の意思表示には雇用期間満了時の雇止めの意思表示が含まれていたものと解するのが相当である。

3 Xの雇用期間が約14年にわたり半ば自動的に更新してきたこと、Y社においてXらスタッフは、所得金額に上限を設ける必要がなく、正社員以上の残業が可能で、X・Y社ともに雇用継続を当然のことと認識して長期間にわたり更新を繰り返してきたこと等から、X・Y社間の雇用関係は、実質的には期間の定めのない労働契約が締結されたと同視できるような状態になっていたものと認められ、本件雇止めにも解雇法理が類推適用される。

4 もっとも、パート労働者の雇用契約は、景気変動等による生産量の増減に応じて製造ラインの要員を調整するという目的のもとに、短期的有期契約を前提として簡易な採用手続で締結されるものである以上、本件雇止めの効力を判断する基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結している正社員の場合とはおのずから合理的な差異があるということはできる

5 本件整理解雇と本件雇止めは、無効であるとともに、違法というべきであるから、不法行為を構成するものである。そして、Xは、平成8年ころ離婚し、本件整理解雇当時56歳で、24歳の長女と2人で暮らし、日中はY社で就労した後、夜間は焼鳥屋で働いていたことのおか、Y社がXを解雇した経緯その他本件に現れた諸事情を斟酌すると、Xの精神的苦痛に対する慰謝料は、50万円が相当である。 

会社とすれば、通常、期間雇用やパートタイマーの従業員は、整理解雇が簡単にできると考えてしまうと思います。

しかし、本件裁判例同様、裁判所は、そんなに簡単に整理解雇を認めてくれません。

特に、長年にわたり、正社員と同様の仕事をしてきた従業員の場合、実質を重視され、厳しく判断されます。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

解雇33(ヤマト運輸事件)

おはようございます。

さて、今日は、昨日に引き続き私生活上の非行と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ヤマト運輸事件(東京地裁平成19年8月27日・労経速1985号3頁)

【事案の概要】

Y社は、貨物自動車運送事業を営んでいる会社である。

Xは、Y社に雇用され、セールドライバーとして勤務していた。

Xは、業務終了後、帰宅途上で飲酒し、自家用車を運転中、酒気帯び運転で検挙された。この時、交通事故は起こしていない。

Xは、この事実を、Y社に直ちに報告をしなかった。

Xは、この件で罰金20万円に処せられ、運転免許停止30日の行政処分を受けた(講習受講により1日に短縮)。

Y社の就業規則では、業務内、業務外を問わず、飲酒運転及び酒気帯び運転をしたときには(懲戒)解雇する旨規定されている。

Y社は、Xを懲戒解雇とし、退職金を支給しなかった。

Xは、解雇は無効であるとし、退職金不支給も不当であるとして争った。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効。

退職金については、3分の1を支払うように命じた。

【判例のポイント】

1 従業員の職場外でされた行為であっても、企業秩序に直接の関連を有するものであれば、規制の対象となり得ることは明らかであるし、また、企業は社会において活動する上で、その社会的評価の低下毀損は、企業の円滑な運営に支障をきたすおそれが強いので、その評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められる行為については、職場外でされたものであっても、なお広く企業秩序の維持確保のために、これを規制の対象とすることが許される場合もあるといえる。

2 これを本件についてみるに、Y社が大手の貨物自動車運送事業者であり、XがY社のセールスドライバーであったことからすれば、Y社は、交通事故の防止に努力し、事故につながりやすい飲酒・酒気帯び運転等の違反行為に対しては厳正に対処すべきことが求められる立場にあるといえる。したがって、このような違反行為があれば、社会から厳しい批判を受け、これが直ちにY社の社会的評価の低下に結びつき、企業の円滑な運営に支障をきたすおそれがあり、これは事故を発生させたり報道された場合、行為の反復継続等の場合に限らないといえる。このようなY社の立場からすれば、所属のドライバーにつき、業務の内外を問うことなく、飲酒・酒気帯び運転に対して、懲戒解雇という最も重い処分をもって臨むというY社の就業規則の規定は、Y社が社会において率先して交通事故の防止に努力するという企業姿勢を示すために必要なものとして肯定され得るものということができる
そうすると、Xの上記違反行為をもって懲戒解雇とすることも、やむを得ないものとして適法とされるというべきである。

3 退職金は、賃金の後払いとしての性格を有し、企業が諸々の必要性から一方的、恣意的に退職金請求権を剥奪したりすることはできない。このような見地からは、退職金不支給とする定めは、退職する従業員に長年の勤続の功労を全く失わせる程度の著しい背信的な事由が存在する場合に限り、退職金が支給されないとする趣旨と解すべきであり、その限度において適法というべきである。

4 これを本件についてみると、Xは、大手運送業者のY社に長年にわたり勤続するセールスドライバーでありながら、業務終了後の飲酒により自家用車を運転中、酒気帯び運転で検挙されたこと、この行為は、一審の口頭弁論終結時ほどは飲酒運転に対する社会の目が厳しくなかったとはいえ、なお社会から厳しい評価を受けるものであったこと、Xは処分をおそれて検挙の事実を直ちにY社に報告しなかったこと、その挙げ句、検挙の4カ月半後、運転記録証明の取得によりXの酒気帯び運転事実が発覚したことなどからすると、その情状はよいとはいえず、懲戒解雇はやむを得ないというべきである。
しかしながら他方、Xは他に懲戒処分を受けた経歴はうかがわれないこと、この時も酒気帯び運転の罪で罰金刑を受けたのみで、事故は起こしていないこと、反省文等から反省の様子も見て取れないわけではないことなどを考慮すると、Xの行為は、長年の勤続の功労を全く失わせる程度の著しい背信的な事由とまではいえないというべきである。
したがって、就業規則の規定にかかわらず、Xは退職金請求権の一部を失わないと解される。

本件も、懲戒解雇を有効としながら、退職金全額の不支給は認められませんでした。

結果として、退職金の3分の1を支払うよう命じました。

会社としては、難しいところですね。

就業規則には、懲戒解雇となった場合、退職金は支給しない旨が規定されている以上、規定に従った処理をするのが自然です。

就業規則の規定を「退職金を支給しないことがある」とし、一定程度の退職金を支給するのか、それとも裁判上等!という姿勢で臨むのか、会社の姿勢が問われるところですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇32(小田急電鉄事件)

おはようございます。

さて、今日は、昨日の引き続き、私生活上の非行と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

小田急電鉄事件(東京高裁平成15年12月11日・労判867号5頁)

【事案の概要】

Y社は、鉄道事業等を主たる業務とする会社である。

Xは、Y社の従業員として、退職までの間、普段はまじめに勤務してきた。

Xは、京王井の頭線において、電車で痴漢行為を行い、警察に逮捕勾留され、20万円の罰金刑が言い渡されていた。

Y社は、昇給停止、および降格の処分を行った。

Xは、後日、JR高崎線の電車において、痴漢行為を行い、逮捕勾留され、起訴された。

Xは、勾留中、Y社の従業員らの面会を受け、その際、痴漢行為を認め、Y社が用意した自認書に署名指印して交付した。

Y社は、「業務の内外を問わず、犯罪行為を行ったとき」に該当するとしてXを懲戒解雇した。

Xは、本件懲戒解雇及び退職金不支給は、無効であると主張した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効。

退職金については3割の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Xは、留置場でのY社の担当者との面接の際、未だ申告していない痴漢行為も自ら話すなどし、その際の会社の内容などからみても、自由に弁明ができないような状況であったとは認めがたい。

2 痴漢行為が条例違反で起訴された場合には、その法定刑だけをみれば、必ずしも重大な犯罪とはいえないけれども、被害者に与える影響からすれば、決して軽微な犯罪であるということはできない。
まして、Xは、そのような電車内における乗客の迷惑や被害を防止すべき電鉄会社の社員であり、その従事する職務に伴う倫理規範として、そのような行為を決して行ってはならない立場にある。しかも、Xは、本件行為のわずか半年前に、同種の痴漢行為で罰金刑に処せられ、昇給停止および降職の処分を受け、今後、このような不祥事を発生させた場合には、いかなる処分にも従うので、寛大な処分をお願いしたいという始末書を提出しながら、再び同種の犯罪行為で検挙されたものである。

3 賃金の後払的要素の強い退職金について、全額を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為であることが必要であることに、それが、業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど、上記のような犯罪行為に匹敵するような強度な背信性を有することが必要である。もっとも、退職金が功労報償的な性格を有すること、支給の可否について会社に一定の合理的な裁量の余地があることから、強度の背信性を有するとまではいえない場合には、当該不信行為の具体的内容と被解雇者の勤続の功などの個別的事情に応じ、一定割合を支給すべきである。

4 本件では、相当強度な背信性を持つ行為であるとまではいえないが、他方、職務外の行為であるとはいえ、会社および従業員を挙げて痴漢撲滅に取り組んでいるY社にとって相当の不信行為であることは否定できない。本件については、本来支給されるべき退職金のうち、一定割合での支給が認められるべきであり、その具体的割合については、本件行為の性格、内容や、本件懲戒解雇に至った経緯、また、Xの過去の勤務態度等の諸事情に加え、とりわけ、過去のY社における割合的な支給事例等をも考慮すれば、本来の退職金の支給額の3割が相当である

本件では、懲戒解雇は有効となりましたが、退職金については不支給とはせず、3割の支給を命じました。

この裁判例をみると、よほどのことがない限り、私生活上の非行を理由に懲戒解雇をする場合でも、退職金の不支給とすることは許されないような気がしてきます。

会社としては、このような従業員に対し、退職金を1円たりとも支払いたくないと考えるのが普通でしょう。

第1審(東京地裁平成14年11月15日・労判844号38頁)は、懲戒解雇を有効とした上で、退職金の不支給も有効と判断しました。

このあたりは、判断が非常に難しいところです。

やはり多くの裁判例を検討し、判断するしかないのでしょうね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇31(横浜ゴム事件)

おはようございます。

さて、今日は、私生活上の非行と解雇に関する最高裁判例を見てみましょう。

横浜ゴム事件(最高裁昭和45年7月28日・判タ252号163号)

【事案の概要】

Xは、Y社の作業員である。

Xは、他人の居宅の風呂場の扉を押し開け、屋内に忍び込んだところ、家人に見つかり、逃走したが、まもなく私人に捕まり、警察に引き渡された。

これにより、Xは、住居侵入罪で罰金2500円に処せられた。

Y社は、この犯行をもって、従業員賞罰規則に定める懲戒解雇事由である「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した者」に該当するとして、Xを懲戒解雇に処した。

これに対し、Xは、雇用関係存在確認の訴えを提起した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

【判例のポイント】

1 Xの本件犯行は、恥ずべき性質の事柄であって、当時Y社において、企業運営の刷新を図るため、従業員に対し、職場諸規則の厳守、信賞必罰の趣旨を強調していた際であるにもかかわらず、かような犯行が行われ、Xの逮捕の事実が数日を出ないうちに噂となって広まったことをあわせ考えると、Y社が、Xの責任を軽視することができないとして懲戒解雇の措置に出たことに、無理からぬ点がないではない

2 しかし、翻って、右賞罰規則の規定の趣旨とするところに照らして考えるに、問題となるXの行為は、会社の組織、業務等に関係のないいわば私生活の範囲内で行われたものであること、Xの受けた刑罰が罰金2500円の程度に止まったこと、Y社におけるXの職務上の地位も蒸熱作業担当の工員ということで指導的なものでないことなどを勘案すれば、Xの行為がY社の体面を著しく汚したとまで評価するのは、当たらないというのほかはない。

本件では、住居侵入罪で有罪となった従業員に対する懲戒解雇が無効となった事案です。

みなさんは、この判断をどう思いますか?

「当たり前だ」と思う方、「そんなのおかしいだろ」と思う方、どちらの方が多いですかね。

本件と同様に、従業員の私生活上の非行、つまり、業務外での不祥事を理由に、懲戒解雇できるかが争われた裁判例はたくさんあります。

もっとも、本件のような類型の争いだからといって、特別な解釈が必要となってくるわけではありません。

通常の解雇事案と同じように、比較考量論による解雇権濫用法理の論点に帰着します。

そのため、毎度のことですが、ケースバイケースで判断するしかありません。

どれだけ慎重に処分をしても、争われるときには争われます。

とはいえ、過去の裁判例を参考にし、慎重に判断することをおすすめします。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

賃金10(社会福祉法人賛育会事件)

おはようございます。

さて、今日は、賃金制度の変更に伴う賃金減額に関する裁判例です。

社会福祉法人賛育会事件(東京高裁平成22年10月19日・労判1014号5頁)

【事案の概要】

Y社は、各種社会福祉事業を行うことを目的とする社会福祉法人である。

Xは、介護職としてY社が経営する病院に勤務していた。

Y社は、職員の担当する職務遂行能力や成績の考課を通して、職員の能力開発・育成を促進し、昇進・昇格・異動配置・賃金・賞与等の処遇を公平妥当に行うための考課システムを作成するとともに、職能資格制度を導入した。

さらに、Y社は、賃金制度の変更についても検討し、新人事制度導入等に伴う就業規則等の見直し等を検討するため、職員就業規則等研究委員会を全6回開催し、その後、就業規則や賃金規程等を改正した。

Xは、主位的に、本件賃金規程等の変更は無効であるとして、変更前の賃金規程等に基づいて得られるべき賃金とすでに支給された賃金との差額等の支払いを求めるとともに、予備的に、Y社が上記差額を是正しないまま放置していることが公序良俗に反する不法行為に該当すると主張して、損害賠償等の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

差額の賃金の支払いを命じた。

損害賠償請求は棄却。

【判例のポイント】

1 本件就業規則等の変更は、賃金という労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼすものである。

2 そして、賃金などの労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきであり、この合理性の有無は、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである

3 本件就業規則等変更、人件費削減を目的とするものではないにもかかわらず、Xを含め従業員の賃金減額をもたらし、代償措置もその不利益を解消するに十分なものとはいえないのであって、新賃金制度の導入目的に照らして賃金減額をもたらす内容への変更に合理性を見出すことは困難であり、そのような基本的な労働条件を変更するには、特に十分な説明と検証が必要であるといえるが、Xを含め従業員ないし労組に対する説明は十分にされたとはいえず、新賃金制度の内容にも問題点があり、導入に当たり内容の検証が十分にされたとはいいがたく、従業員への説明や内容の検証を上記の程度にとどめてまで新賃金制度を導入しなければならないほどの緊急の必要性があったとも認められない。

4 賃金規程の変更に同意しないXに対し、これを法的に受忍させることもやむを得ない程度の高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるということはできず、本件就業規則等変更のうち賃金減額の効果を有する部分は、Xにその効力を及ぼさず、Xは、新賃金制度による給与額が旧賃金制度における支給されたであろう額を下回る場合には、その差額の賃金を請求することができる。

本件は、年功序列型から従業員の能力や成果をより強く反映させる賃金制度への変更に関する就業規則の不利益変更が問題となった事案です。

一般論として、前記判例のポイント2のとおり、みちのく銀行事件(最高裁平成12年9月7日・労判787号6頁)を引用し、個々の要素を検討しています。

結果的に、本件賃金制度の変更に合理性は認められませんでした。

不利益変更事案は、合理性の判断がいつも悩ましいですね。顧問弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。

賃金9(ハクスイテック事件)

おはようございます。

さて、今日は、昨日に引き続き、年功序列型から能力・成果主義型への変更に関する裁判例を見てみましょう。

ハクスイテック事件(大阪高裁平成13年8月30日・労判816号23頁)

【事案の概要】

Y社は、化学製品製造・販売とする会社である。

Xは、Y社の従業員として、Y社の研究所に勤務していた。

Xは、年功序列型体系から能力・成果主義型賃金体系への変更を目指した給与規定の変更につき、新たに導入された給与規定の無効確認を求めた。

【裁判所の判例】

年功序列型から能力・成果主義型への給与規定変更は、合理性を有する。

【判例のポイント】

1 Y社が給与の低下分について調整給や1~10年間分の減額分補償措置を設けていることに加え、B評価以上になれば賃金が減額することはなく、最低のFランクに位置づけられても月額賃金は38万5000円を下らない。

2 Y社の経営状態がいわゆる赤字経営となっている時代には、賃金の増額を期待することはできないというべきであるし、普通以下の仕事ができない者についても、高額の賃金を補償することはむしろ公平を害するものであり、合理性がない

3 現に8割程度の従業員は新給与規定で賃金が増額しているのであって不利益は小さい。

4 近時我が国の企業についても、国際的な競争力が要求される時代となっており、一般的に、労働生産性と直接結びつかない形の年功型賃金体系は合理性を失いつつあり、労働生産性を重視し、能力・成果主義に基づく賃金制度を導入することが求められていたといえる。そして、Y社においては、営業部門のほか、Xの所属する研究部門においてもインセンティブ(成果還元)の制度を導入したが、これを支えるためにも、能力・成果主義に基づく賃金制度を導入する必要があったもので、これらのことからすると、Y社には、賃金制度改定の高度の必要性があったということができる。

本件裁判例の請求は、「就業規則無効確認」です。

このような請求のしかたもあるんですね。

本件は、上記判例のポイント3が大きいですね。

会社側としては、一般論も、大変参考になりますね。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金8(医療法人大生会事件)

こんにちは。

さて、今日は、賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

医療法人大生会事件(大阪地裁平成22年7月15日・労判1014号35頁)

【事案の概要】

Y社は、病院の経営を業とする医療法人である。

Xは、Y社と期間の定めのない雇用契約を締結し、総務事務部門で勤務していた(月額基本給18万円)。

Xは、上司から総務管理への配置換えを命じられ、同時に基本給を15万円とすることを通知された。

平成21年3月9日午後9時頃、Xが退勤したところ、上司から午後10時ないし11時頃に電話があり、すぐ戻るよう指示を受けた。しかしXは「帰りの電車がないので行けません」と述べて指示を拒んだところ、翌日Xのタイムカードが撤去され、15日まで打刻できない状態にされたうえ、同月14日に、4月14日をもって解雇する旨通告された。

Xは、Y社に対し、未払基本給の一部や時間外割増賃金、解雇等に対する慰謝料等を請求した。

【裁判所の判断】

未払基本給に年14.6%の利率を付した支払を命じた。

慰謝料として合計40万円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 一方的に減額された賃金をXが受領したことをもって賃金減額に合意したとは認められず、訴状において減額後の基本給を基礎とする請求を行ったとしても、一部請求をしたにすぎず、減額に合意した自白が成立するわけではない。

2 タイムカードに打刻された出勤時刻から退勤時刻までのうち、休憩時間を除いた時間すべてについてY社の指揮命令下にあった時間と認めるのが相当でありXは自己の意思で残ったにすぎないとのY社の主張について、所定終業時刻以降も行うべき業務は恒常的に存在しており、Xがそのような業務に従事せずに済んだとは考えられず、根拠がない。

3 未払基本給及び割増賃金について、「賃金の支払の確保等に関する法律」に基づく年14.6%の利率を付した支払いが命じられた。

4 Y社が時間外・深夜・休日の割増賃金の支払いを全くしておらず、訴訟提起後も時間外、深夜労働の事実自体を争って未払割増賃金を支払う姿勢を全く見せない事案に照らすと、未払額と同額の付加金支払を命じることが相当である

5 Y社が、客観的に合理性のある解雇理由がなく解雇理由も説明せずにXを解雇し、その後も業務命令違反と称して基本給を一方的に減額する等の嫌がらせを行った態様に照らすと、解雇はXの雇用契約上の権利を不当に奪い、精神的苦痛を与えたものとして、不法行為法上も違法性を有するとして、慰謝料30万円の支払いを命じた。

6 使用者は、労基法の規制を受ける労働契約の付随義務として、信義則上、労働者にタイムカード等の打刻を適正に行わせる義務を負っているだけでなく、労働者からタイムカード等の開示を求められた場合には、その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情がないかぎり、保存しているタイムカード等を開示すべき義務を負うとして、正当な理由なく労働者にタイムカード等の打刻をさせなかったり、特段の事情なくタイムカード等の開示を拒絶したりする行為は、違法性を有し不法行為を構成するとして、Y社に慰謝料10万円の支払いを命じた。

本件裁判例は、会社、従業員ともにとても参考になりますね。

特に、上記判例のポイント6は、参考になります。

時間外労働等に対する賃金請求では実労働時間の立証に困難を伴うことが多いですが、使用者が記録を有している場合に、特段の事情がないかぎり開示しないことが不法行為となるとすれば、タイムカード記録の閲覧を間接的に強制することになります。

その他、上記判例のポイント2では、Y社が「残業は、Xの自由意思」との主張を認めませんでした。

会社としては、従業員の労働時間の管理を徹底しなければいけません。

普段、なあなあでやっていると、いざ争いとなった場合に、どうしようもありません。

改善方法等については、顧問弁護士又は顧問社労士に確認してください。