労災18(NTT東日本北海道支店事件)

おはようございます。

今日は、午前中、浜松で離婚調停です

午後は、静岡に戻ってきて裁判1件、会議1件、夜は顧問先の忘年会です

怒濤の1週間はまだまだ続きます!

今日も一日がんばります!!

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

NTT東日本北海道支店事件(札幌高裁平成22年8月10日・労判1012号5頁)

【事案の概要】

Xは、Y社の札幌での研修期間中、夜に帰省し、翌々日、先祖の墓参りに出かけた際に急性心筋梗塞を発症し、死亡した(死亡当時58歳)。

Xは、平成5年5月の職場定期健診で心電図の異常が見つかっており、同年8月には冠状動脈血管形成術の入院手術を受けているほか、継続して診察・投薬を受けていた。

Xは、基礎疾患があったが、研修に際し、管理医と面談し、体調に特別の問題がなかったことから、研修に参加できると判断した。

【裁判所の判断】

旭川労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 「過重労働における健康障害防止のための産業医研修テキスト」には、日本循環器学会の虚血性心疾患の一次予防ガイドラインでのリスクファクターとして、加齢(男性45歳以上)、冠動脈疾患の家族歴、喫煙習慣、高血圧(収縮期血圧140mmHg以上又は拡張期血圧90mmHg以上)、高コレステロール値220mg/dl以上又はLDLコレステロール値140mg/dl以上)、精神的・肉体的ストレス等が挙げられている

2 産業医研修テキストには、ストレス因子として把握すべき就業態様として、労働時間、不規則な勤務、拘束時間の長い勤務のほか、出張の多い業務等が挙げられている上、仕事のストレスの原因となる可能性のある主な要因として、作業内容及び方法について、仕事上の役割や責任がはっきりしていないこと、労働者の技術や技能が活用されていないこと等が、職場組織について、職場の意思決定に参加する機会がないこと、昇進や将来の技術や知識の獲得について情報がないこと等がそれぞれ挙げられ、また、ストレス対策のために事業場から提供を受けるべき組織レベルの情報として、事業場で進行しつつあるか又は将来予想される組織の変化について、終身雇用制の中止、早期退職勧奨や人員削減、大幅なアウトソーシング、その他経営方針の大きな変更等が、事業場や職場の組織・作業上の特徴や問題点について、技術の変化が激しいこと、リストラや雇用不安、単身赴任等がそれぞれ挙げられている

3 本件研修の参加、雇用形態の選択から本件研修中も継続していた異動の可能性等への不安による肉体的及び精神的ストレスがXの陳旧性心筋梗塞をその自然の経過を超えて増悪させ、急性の虚血性心臓疾患を発症させたものとみるのが相当であって、その間に相当因果関係の存在を肯定することができるというべきである
したがって、Xの死亡は、労災保険法にいう業務上の死亡に当たるというべきである。

結論は、一審と同じです。

地裁の裁判例は、労災⑫を参照してください。

一審判決において、すでに「雇用形態選択に端を発するストレス」が「Xの心疾患に悪影響を及ぼした」ことは指摘されていました。

控訴審では、これに加えて、仕事のストレスとして多種多様なものをあげている「産業医研修テキスト」に依拠している点は、新しいです。

労働者側としては、非常に有効な証拠となりますね

競業避止義務11(エックスヴィン(ありがとうサービス)事件)

おはようございます。

さて、今日は、競業避止義務に関する裁判例を見てみましょう。

エックスヴィン(ありがとうサービス)事件(大阪地裁平成22年1月25日・労判1012号74頁)

【事案の概要】

Y社は、フランチャイズチェーンシステムによる飲食店業の加盟店の募集及び加盟店の経営指導等を行う株式会社である。

Y社は、高齢者向け宅配弁当の業界で有力な企業であり、全国に約330店舗を展開している。

Xは、Y社との間で弁当宅配に関するフランチャイズ契約を締結していた者である。

Xは、本件フランチャイズ契約を締結する以前に弁当宅配事業を営んでいた経験はない。

本件フランチャイズ契約には、責任地域に関して、「Y社は、Xがフランチャイズ営業を行う地域を岡崎市エリアと定め、この地域においては、他の同一業態によるフランチャイズ営業を認めないものとする」との規定があり、競業避止義務に関して、「Xはフランチャイジーの権利をそうしたした後は、Y社と同一若しくは類似の商標ないしサービスマークを使用し、あるいは宅配クックワン・ツゥー・スリーフランチャイズシステムと同一若しくは類似の経営システムないし営業の形態・施設を持って3年間は事業をしてはならない」「競業避止義務に違反した場合、解除日直近の12ヶ月間・・・の店舗経営の実績に基づく平均月間営業総売上・・・に対し、本部ロイヤリティー相当額の36ヶ月分を支払う」との規定があった。

その後、本件フランチャイズ契約は、期間満了により終了した。

しかし、Xは、その後も、同一場所において、屋号のみ「ありがとうサービス」に変更して、弁当宅配業を継続している。

Y社は、Xらに対し、営業差止め、損害賠償の請求をした。

【裁判所の判断】

本件競業避止義務規定は、有効であり、営業の差止めおよび914万余円の損害賠償請求を認めた。

【判例のポイント】

1 XはY社の展開するフランチャイズ事業に対する信頼・評価を基に宣伝・広報活動等を行い、顧客を獲得することができたこと、Xは本件フランチャイズ契約の締結以前に弁当宅配事業を営んだ経験がなく、Y社のフランチャイズシステムなくして容易に事業に参入できたとは考え難いこと、Y社がXの責任地域(岡崎市エリア)において他の同一業態によるフランチャイズ営業を認めないことで、Xは岡崎市内においてY社のフランチャイズシステムを利用した高齢者向けの弁当宅配事業を独占的に展開することができたことなどからすれば、本件競業避止義務規定は、XがY社のフランチャイズシステムを利用して獲得・形成した顧客・商圏をそのまま流用することを防止し、Y社のフランチャイズシステムの顧客・商圏を保全する意義を持つもので、合理性を有する

2 また、Y社は、メニューの内容や安否確認サービスなどにより、他の業者との差別化に意を用いており、Xはこのような具体的な工夫をそのまま利用することができたもので、本件の競業避止義務規定は、XがY社の有する高齢者宅配弁当事業のノウハウをそのまま流用することを防止し、営業秘密を保持する意義を持つものであり、この点からも合理性を有する。

3 他方、Xが被る営業の自由の制約等の不利益については、本件競業避止義務規定が、期間を契約終了後3年間とし、対象営業を同種の弁当宅配業等に限定していること、Y社は本件訴訟において、営業差止めの対象地域を岡崎市内に限定していることからすれば、Xの被る営業の自由の制約等の不利益は、相当程度緩和されている。したがって、本件の競業避止義務規定は、Xの営業の自由等を過度に制約するものとはいえず、公序良俗に違反し無効であるとはいえない

このケースでは、裁判所は競業避止義務規定の効力を認めました。

基本的には、競業避止義務規定の趣旨目的の合理性およびXが被る不利益の程度を総合的に検討するという判断基準です。

とても参考になりますね。

やはり事前に顧問弁護士に相談し、対策を講じることが大切ですね。

有期労働契約12(藍澤證券事件)

おはようございます。

さて、今日は、雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

藍澤證券事件(東京高裁平成22年5月27日・労判1011号20頁)

【事案の概要】

Y社は、証券業を営む会社(従業員数約200名)であり、Xは、Y社の従業員であった。

Xは、大学卒業後、銀行、証券会社等に勤務していたが、うつ病に罹患し、障害等級3級と認定されていた。

なお、精神障害3級とは、「精神障害の状態が、日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの」である。

Y社では、一般事務を担当していて障害者が退職して法定の障害者雇用率を下回るようになった等の事情から、ハローワークを介して後任の障害者を一般事務要員として募集した。

Xは、Y社の求人票を見て、Y社に応募し、Y社はXを採用することとした(雇用期間半年)。

Y社は、Xに対し、勤務成績不良等を理由として契約期間を更新しない旨を告知した。

Xは、本件雇止めは合理的な理由のないものであって、解雇権濫用(類推適用)により無効であるなどと主張した。

【裁判所の判断】

雇止めは有効

【判例のポイント】

1 障害者の雇用の促進等に関する法律5条は、障害者を雇用する事業者は、障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであって、その有する能力を正当に評価し、適切な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定に努めなければならないと定めているのであるから、当該労働者が健常者と比較して業務遂行の正確性や効率に劣る場合であっても、労働者が自立して業務遂行ができるようになるよう支援し、その指導に当たっても、労働者の障害の実状に即して適切な指導を行うよう努力することが要請されているということができる。

2 しかし、同法は、障害者である労働者に対しても、「職業に従事する者としての自覚を持ち、自ら進んで、その能力の開発及び向上を図り、有為な職業人として自立するように努めなければならない。」(第4条)として、その努力義務について定めているのであって、事業者の上記の協力と障害を有する労働者の就労上の努力があいまって、障害者の雇用に関し、社会連帯の理念が実現されることを期待しているのであるから、事業者が労働者の自立した業務遂行ができるよう相応の支援及び指導を行った場合は、当該労働者も業務遂行能力の向上に努力する義務を負っているのである。

3 (1)Y社は、Xの病状に配慮して比較的簡易な事務に従事させ、また業務遂行に当たっては、Aを担当者として指導に当たらせ、Xの希望に沿って定時に帰宅させていた。
(2)Xの入社前に、総務人事部マネージャーのBがAに対しうつ病についてのレクチャーをし、A自身も自ら調べるなどしてうつ病に関する理解を深めてXに接していた。
(3)C人事部長からAに対し、Xにもう少し柔らかく話しかけるようにとの注意が与えられ、Aも納得して心がけていた。
(4)Aの指導に問題があれば、上司であるD本部長がAに注意をしていた。

4 ・・・そうすると、Y社は、Xをその能力に見合った業務に従事させた上、適正な雇用管理を行っていたということができる
ところが、Xは、作業場のミスを重ね、Aから具体的な指導を受けてもその改善を図らず、一度は契約の更新をしてもらったものの、就労の実状を改善することができなかったばかりか、名刺作成の際に失敗した用紙を無断でシュレッダーに掛けたり、これが発覚すると自分の机の中に隠すなどして、失敗を隠蔽するに及んでいるのである。このような事態を受けて、Y社は、やむなく本件雇止めを行ったのであるから、本件雇止めには合理的な理由があったものと認められる。

裁判所は、上記のように判断して、障害者雇用促進法違反というXの主張を退けました。

障害者雇用促進法をめぐって争われた裁判例はそれほどありません。

この裁判例では、障害者雇用促進法の趣旨について述べており、参考になります。

なお、障害者雇用促進法は、一定規模以上(平成10年7月から常時雇用労働者数が301人以上、平成22年7月からは200人以上に改正)の民間企業において1.8%以上の障害者雇用を求めています(障害者雇用率制度)。

雇用率制度の対象となるのは、従前、身体障害者または知的障害者でしたが、平成18年4月から、精神障害者についても算定対象に加わりました。

詳しくは、厚労省のHP参照

なお、この裁判例では、上記の争点以外にも、以下のような判断がされています。

使用者による就職希望者に対する求人は雇用契約の申込みの誘引であり、その後の協議の結果、就職希望者と使用者との間に求人票と異なる合意がされたときは、従業員となろうとする者の側に著しい不利益をもたらす等の特段の事情がないかぎり、合意の内容が求人票記載の内容に優先する。

求人票に記載された労働条件と実際の労働条件が異なることは少なくありません。

本件でも、問題となりましたが、結果としては、合意内容が優先すると判断されています。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

労災17(グルメ杵屋事件)

おはようございます。

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

グルメ杵屋事件(大阪地裁平成21年12月21日・労判1003号16頁)

【事案の概要】

Y社は、レストランの企画・経営を行う株式会社である。

Xは、Y社に入社し、複数の店舗で勤務した後、中国料理店の店長となった。

Xは、本件店舗の営業時間(午前11時~午後11時)中は、休憩を取るべきアイドルタイム(午後2時~6時の来客がほとんどない時間帯)も基本的に業務を行い、営業時間終了後も、アイドルタイムに処理することができなかった業務、営業時間内に他の従業員と分担して行うべき業務などを相当の時間をかけて独力で行うなどしていた。

Xの法定時間外労働は、死亡1か月前が約153時間、同2か月前が約106時間、同3か月前が約116時間、同4か月前が約96時間、同5か月前が約116時間、同6か月前が約141時間であった。

Xは、本件店舗において、急性心筋梗塞を発症して死亡した(死亡当時29歳)。

Xの両親は、Y社に対し、損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

Xの損害につき、逸失利益5555万余円、死亡慰謝料2400万円等が認められ、2割の過失相殺および損益相殺のうえ、Y社に対し、約5500万円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Xは、本件発症前6か月間にわたり月96~153時間の法定時間外労働を行い、また、その業務内容は支配人の異動による業務量の増加に加え、店長として人員削減等の店舗経営の立直し策を講ずる必要があったことから精神的負荷のかかるものであったこと、その影響で一部の従業員らとの関係が悪化し適切な業務分担ができなくなったことなどが認められ、これらに照らせば、Xの業務は継続的な長時間労働であるうえ、その内容も身体的精神的負荷のかかるもので過重であったとされ、Xの業務と本件発症・死亡との間には相当因果関係があると認められる

2 Y社は、雇用契約に付随する義務として、使用者として労働者の生命、身体及び健康を危険から保護するように配慮すべき安全配慮義務を負い、その具体的内容として、労働時間を適切に管理し、労働時間、休憩時間、休日、休憩場所等について適正な労働条件を確保し、健康診断を実施した上、労働者の年齢、健康状態等に応じて従事する作業時間及び作業内容の軽減等適切な措置を採るべき義務を負っている。そして、これに違反した場合には、安全配慮義務違反の債務不履行であるとともに不法行為を構成するというべきである

3 Y社は、警備会社のセキュリティ装置等を利用したり、警備会社や本件店舗の従業員にヒアリングを実施するなどすれば、Xの過重労働の実態を容易に把握することができたはずである。それにもかかわらず、Y社は、客観的に労働時間の実態を把握できるこれらの方策を採らず、Xに対し、自己申告による出勤表を提出させていたのみである。以上に照らせば、Y社のXに対する労働管理は、まことに不十分なものであり、Y社が、Xの労働時間を適正に管理する義務を怠っていたことは明らかである
そして、長時間労働や過重な労働により、疲労やストレス等が過度に蓄積し、労働者の心身の健康を損なう危険があることは、周知のとおりである。そうすると、Y社は、Xの労働時間を適正に管理しない結果、同人が長時間労働に従事して死亡に至ることを予見することが可能であったというべきである。
以上によれば、Y社には安全配慮義務違反が認められる。

4 しかしながら、Xとしても、必ずしも指導や業務命令が徹底できなかった厨房部門を含め、店長として本件店舗における仕事量の配分や従業員に対する指示の方法ないし内容に意を用いて、自らの業務量を適正なものとし、休息や休日を十分にとって疲労の回復に努めるべきである。
これに加え、Xが適宜の機会をとらえ、Y社に対し、本件店舗の懸案事項と考えられるもの、すなわち、本件店舗の経営状況、従業員の不足・勤務状況及び自己の業務の状況等を申告するなどして、XがY社に対し、業務軽減のための措置を採るよう求めることもまた、店長の任務の内であり、これが不可能であったともいえない

それにもかかわらず、Xは、穏やかな性格で、仕事を自ら引き受けるような面があったにせよ、結果として上記措置を採らず、すべて自己の負担に帰していたのであるから、店長としての業務遂行に当たって不十分な面があるとともに、自らの健康保持に対する配慮も十分ではなかったといわざるを得ない
以上に照らせば、Xには、本件死亡について一定の過失があったというべきであり、その割合は2割と認めるのが相当である

Y社では、労働時間の管理として、自己申告制を採用していたようです。

そして、Y社は、Xが提出した出勤表の内容がXの実際の労働時間と合致しているかについて実態調査等を行っていなかったようです。

判例のポイント3のとおり、Y社の労働時間管理は「まことに不十分」であったと判断されています。

Y社としては、Xの管理監督者該当性を主張していますが、裁判所はこの主張を認めませんでした。

自己申告制を採用している会社は、本件裁判例と同様に、労働時間管理が不十分と判断される可能性があります。

早急に対応策を検討してください。

有期労働契約11(豊中市・とよなか男女共同参画推進財団事件)

おはようございます。

さて、今日は、雇止めに関する裁判例について見てみましょう。

豊中市・とよなか男女共同参画推進財団事件(大阪高裁平成22年3月30日・労判1006号20頁)

【事案の概要】

Y財団は、とよなか男女共同参画推進センター条例に基づき設立された「とよなか男女共同参画推進センターすてっぷ」の運営を、豊中市から委託されている。

Xは、平成12年、Y財団に「すてっぷ」の館長として、期間1年として雇用され、平成15年4月に3度目の雇用期間の更新を受けたものの、以後は、組織変更後の館長に採用されることなく、平成16年3月、雇用が終了した(雇止め)。

これに対し、Xは、本件雇止めは、Xが男女共同参画社会の実現について活発に活動を続けていたことから、反動勢力(いわゆるバックラッシュ勢力)の不当な攻撃の対象となり、Y財団がそれらの勢力に屈して、Xを疎外して「すてっぷ」の組織変更を行うなどしたためであり、本件雇止めおよび新館長についての不採用は違法であるとして、Y財団らに対して、雇用契約における債務不履行または共同不法行為による損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

本件雇止めまたは本件不採用は、雇用契約上の債務不履行または不法行為には該当しない。

【判例のポイント】

1 「すてっぷ」の館長職の雇用関係は、地方公共団体の職務を行う特別職の非常勤の公務員の地位に準ずるものと扱われるべきであり、民事上の雇用関係の法理が適用されるよりも、市の特別職の職員の任免についての法理が準用されると解するのが相当である。したがって、「すてっぷ」館長としてのXの雇用について、期限を定めたからといって、これを違法ということはできず、また、雇用期間経過後の更新についても解雇の法理は適用されないから、期限付き雇用が数回更新されても期限付きでない雇用に転化するものではなく、信義則から更新の権利義務が生じることもなく、更新拒絶(雇止め)については原則として雇用者の自由であり、特段の合理的理由を必要とするものでもないというべきである

2 このように、XとY財団との雇用が公法的な意味合いをもつ法律関係に準ずるものと解すべきであることのほか、本件組織変更が行われる前後の「すてっぷ」の館長職が、常勤・非常勤、雇用期間の定めの有無、業務の内容などにおいて、実質上、同一の職務であるとはいいがたいことに鑑みると、Xが本件雇止めの後、当然に新館長に雇用されなかったことが、パートタイム労働法の趣旨に反することなどにより、違法であるということはできず、また、新館長の雇用は、「すてっぷ」の存立の目的からして、Y財団の政策的又は政治的裁量・責任のもとに行われるべきことから、その選任は選任権者の自由な裁量によるものであり、本件組織変更の前に非常勤館長として3度、3年余にわたり雇用期間が更新されてきたXが、当然に新館長に就任する権利を有していたとしてもそのこと自体について法的な権利を認めることはできない。したがって、本件雇止め又は本件不採用については、雇用契約上の債務不履行又は不法行為に該当するものということはできない

本件は、任期付任用公務員に対する更新拒絶が問題となっています。

民間企業の有期契約労働者に対する期間満了に伴う更新拒絶については、これまで見てきた裁判例からも明らかなように、解雇権濫用法理の類推適用の可能性があります。

これに対して、任期付任用公務員に対する更新拒絶については、こうした雇止め制限法理を通じた救済が認められていません。

最近、任用の更新拒絶が不法行為に該当するとして損害賠償請求による救済が認められるケースも出てきていますが、逆に言えば、そこまでの救済しか認められていません。

公務員は、権利救済の点では、民間労働者と比較して、圧倒的に弱い立場におかれています。

流れが変わるまで、裁判を起こしていくしかないでしょうね。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

労災16(鳥取大学附属病院事件)

おはようございます。

今日は、午前中、銀行の方と打合せをし、午後は、島田で離婚調停。

夜は、異業種のみなさんと忘年会です

なかなか鼻水が止まりませんが、今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

鳥取大学附属病院事件(鳥取地裁平成21年10月16日・労判997号79頁)

【事案の概要】

Xは、医師免許取得後に、鳥取大学の大学院となっていたが、鳥取大学付属のY病院からアルバイト先の外部病院に向かう自動車運転中に、交通事故を起こし、死亡した(死亡当時34歳)。

Xの両親は、事故の原因は、XがY病院において演習名目で過重な勤務に従事させられ、過労状態で自動車を運転することを余議なくされたことにあるとして、Y病院に対し安全配慮義務違反または不法行為に基づく損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

Xの損害として、逸失利益1億0263円、慰謝料2000万円、葬祭料150万円の合計1億2413円を認めたが、6割の過失相殺を認め、さらに労災認定により支給された遺族一時金にかかる損益相殺を行ったうえで、弁護士費用を加えた2000万円9000円の支払いをY病院に命じた。

【判例のポイント】

1 Xの時間外業務従事時間は1週間平均40時間を超え、非常に長時間に及んでいたうえ、完全な休日は3か月間に3日間のみであって、Xの業務が量的に過重であったことは明らかである

2 Y病院の組織内で、Xを含む大学院生らが勤務医に比して重い責任を負担していたとは考えにくいものの、医療業務そのものの精神的負荷は基本的に大学院生らも勤務医と変わるものではないこと、経験等に劣る大学院生らにはより精神的、肉体的負荷がかかり得ること、当直における負担は、少なくとも肉体的には勤務医よりかなり重いものであったこと等から、Xの業務内容は一般の社会人が従事する業務に比して責任と緊張の強いものであったことは明らかである。

3 Xは、本件事故の直前に、長時間の業務等により極度に睡眠が不足し過労状態にあったと認められ、本件事故の原因はそのことによる居眠り運転にあったと認めるのが相当である。

4 Y病院は、Xが極度の疲労状態、睡眠不足状態に陥ることを回避すべきことを具体的な安全配慮義務として負っていたというべきところ、Xに、本件事故の直前1週間には極度の睡眠不足を招来するような態様で業務に従事させ、事故前日には徹夜の手術に従事させたものであって、安全配慮義務違反があり、これと本件事故との因果関係も認められる

5 安全配慮義務の発生が肯定される場合でも、その履行補助者に、当然に同様の不法行為上の注意義務が発生するものではない。そして、Xの指導に当たる立場にあった医局長に注意義務違反(過失)は認められないとして、Y病院の不法行為上の責任は否定した。

6 一般に心身の状態は当人が最も良く把握することができ、特に医師であるXは、一般人に比してよい正確に自己の心身の状態を把握し得たと考えられるところ、Xは、本件事故当日、極度の過労状態、睡眠不足にあり、その状態で自動車を運転することの危険性を認識し得たということができる。そして、本件事故当日、JRでは・・・特急列車が運行されており、Xが同日の緊急手術を終えた後、公共交通機関を利用して当直開始時刻までにアルバイト先の外部病院に赴くことは可能であり、徹夜明けとなる本件事故当日だけでも自家用車以外の交通手段を選択する余地は十分にあった。ところが、Xは、自らの判断で自動車を運転して外部病院に赴いたものであり、このことは本件事故の直接的原因となっている
また、Xは、数か月にわたる大学院生としての業務従事の経験から、Y病院における業務に加えてどの程度のアルバイト当直業務に従事することにより、自己がどの程度の過労状態となるかを、ある程度予測することが可能であったと考えられるところ、Xは、自らの希望によりアルバイト当直を続けていたものであり、むしろ医局長は、Xの希望よりアルバイトの割当てを抑えていたものであって、X自身のアルバイト当直希望もXの疲弊を増大させたということができる。 

医師、看護師の過労状態は、周知のとおりです。

この問題は、病院単体の問題ではなく、国全体で緊急に検討しなければいけない問題です。

なお、この判決では、大学院であるXについて、労働者性を認定しないまま、Y病院の安全配慮義務違反を認定しました。

関西医科大学研修医(未払賃金)事件(最二小判平成17年6月3日・労判893号14頁)では、研修医について、病院開設者の指揮監督の下に医療行為等に従事したと評価できる場合は、研修医は労基法上の労働者と認められるとしています。

有期労働契約10(アンフィニ(仮処分)事件)

おはようございます。

さて、今日は、雇止めに関する裁判例について見てみましょう。

アンフィニ(仮処分)事件(東京高裁平成21年12月21日・労判1000号24頁)

【事案の概要】

Y社は、労働者派遣事業を主な目的とする会社である。

Xらは、Y社と、派遣労働者として期間1年の有期雇用契約を締結し、A社に派遣されていたが、A社から発注量をほぼ半減させる旨の通告があったことを受けて、Y社は、Xらを含め全従業員との間で、順次個別に期間を半年とする雇用契約を締結し直し、Xらも同契約書に署名した。

Y社は、従業員らに対し、上積み条件のない希望退職の希望を通知したが、希望退職者がなかった。

そこで、Xらを含む22人の従業員を解雇した。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

賃金の仮払いとして、5割の限度で仮払いを命じた。

地位保全の仮処分は認めなかった。

【判例のポイント】

1 Y社がXらに対してした解雇は、契約期間中の解雇であるから、やむを得ない事由(労働契約法17条1項、民法628条)があることが必要であるところ、A社からの発注額が減少したこと、相手方が解雇に先立ち、上積み条件なしに退職希望者を募集したが応募者がなかったこと、Y社が解雇の対象者を選定する基準として、(1)入社半年以内の者と(2)出勤率の低い者から順に合計26名に満つるまでとしたこと、Xらが同基準(2)に該当したことなどの事情は、これらをもってやむを得ない事由があるというに足りないものであることは、原決定の説示するとおりである
したがって、Xらに対する解雇は無効である。

一審においても、「やむを得ない事由」の有無について検討されています。

一審の判断の要旨は以下のとおり。

人員を削減する経営上の具体的必要性が明らかではないこと、希望退職も募集期間が短期間で解雇の回避に向けた努力をつくしたものとは認められないこと、解雇対象者の選定の際にかかる基準を設けること自体は一定の合理性を有するものの、事前に何ら従業員に対する説明がないことなどから、Y者の解雇には「やむを得ない事由」があるとは到底認められず、無効である。

本件雇止めは、実質的には整理解雇です。

整理解雇の要件の厳しさがわかりますね。

Y社としても、いろいろ考えたのだと思います。

実際に、希望退職の募集や未消化有給休暇の補償を行っています。

それでもまだまだ足りないというわけです。

会社としては、整理解雇の手続について、よほど念入りに準備しなければ、まず無効となると思ってくださいませ。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

労災15(大庄ほか事件)

おはようございます。

なんか、最近、ブログの閲覧者が急増しています

なんでだろう・・・?  ま、いいか。

今日は、午前中は、建物明渡の件で、現地調査へ行きます

午後は、掛川市役所で法律相談をし、夜は先輩弁護士2人と税理士のK先生とともにお食事会です

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

大庄ほか事件(京都地裁平成22年5月25日・労判1011号35頁)

【事案の概要】

Y社は、大衆割烹店を全国展開している会社である。

Xは、大学卒業後、Y社に入社し、大衆割烹店で調理関係の業務に従事していたが、入社約4か月後に急性左心機能不全により死亡した(死亡当時24歳)。

Xの父母が、Xの死亡原因はY社での長時間労働にあると主張して、Y社に対しては不法行為または債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき、また、Y社の取締役であるZら4名に対しては不法行為または会社法429条1項に基づき、損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

Xの死亡による損害につき、逸失利益4866万余円、慰謝料2300万円、葬祭料150万円等が認められ、労災保険の葬祭料およびY社が支払った死亡弔慰金を損益相殺のうえ、Y社およびZら4名に対し、Xの父母への支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Xの労働時間は、死亡前の1か月間では、総労働時間約245時間、時間外労働時間約103時間、2か月目では、総労働時間約284時間、時間外労働時間約116時間、3か月目では、総労働時間約314時間、時間外労働時間数約141時間、4か月目では、総労働時間約261時間、時間外労働時間約88時間となっており、恒常的な長時間労働となっていた。

2 Xの労働時間は、前記のとおり、4か月にわたって毎月80時間を超える長時間の時間外労働となっており、Xが従事していた仕事は調理場での仕事であり、立ち仕事であったことから肉体的に負担が大きかったといえることからすれば、Xの直接の原因となった心疾患は、業務に起因するものと評価でき、Y社の安全配慮義務違反等とXの死亡との間に相当因果関係を肯認することができる

3 使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意するする義務を負う。そして、この義務に反した場合は、債務不履行を構成するとともに不法行為を構成する。

4 Y社の給与体系では、基本給ともいうべき最低支給額中に80時間の時間外労働が前提として組み込まれており、また、三六協定においては1か月100時間・回数6回を限度とする時間外労働を許容する定めがなされ、1か月300時間を超える異常ともいえる長時間労働が常態化されていたのであり、にもかかわらず何ら対策を取っていなかったY社には、労働者の生命、健康を損なうことがないよう配慮すべき義務を怠った不法行為上の責任がある

5 会社法429条1項は、株式会社内の取締役の地位の重要性にかんがみ、取締役の職務懈怠によって当該株式会社が第三者に損害を与えた場合には、第三者を保護するために、法律上特別に取締役に課した責任であるところ、労使関係は企業経営について不可欠なものであり、取締役は、会社に対する善管注意義務として、会社の使用者としての立場から労働者の安全に配慮すべき義務を負い、それを懈怠して労働者に損害を与えた場合には同条項の責任を負うと解するのが相当である

6 Y社代表取締役であるZほか4名の取締役らは、労働者の生命・健康を損なうことがないような体制を構築すべき義務を負っているところ、労働時間が過重にならないよう適切な体制をとらなかっただけでなく、一見して不合理であることが明らかな体制をとっていたのであり、そのような体制に基づいて労働者が就労していることを十分に認識し得たのであるから、Zらには悪意または重大な過失による任務懈怠があったとして、会社法429条1項に基づく責任を負う

7 なお、Zらは、Y社の規模や体制等からして、直接、Xの労働時間を把握・管理する立場ではなく、日ごろの長時間労働から判断して休憩、休日を取らせるなど具体的な措置をとる義務があったとは認められないため、民法709条の不法行為上の責任を負うとはいえない。

この事案は、会社自体の責任のほかに、会社法429条1項を適用して、会社の上部組織の役員に対して損害賠償責任を認めた点で注目すべき判決です。

会社としては、従業員の労働時間管理があまりにも杜撰であると、会社の責任のほかに、取締役の責任を問われる可能性があります。

もう一度、労働時間をチェックしてみてください。

労災が起こった後では、ほとんどやりようがありません。

事前の準備が大切です

労働時間16 (コミネコミュニケーションズ事件)

おはようございます。

さて、今日は、事業場外みなし労働時間制に関する裁判例について見てみましょう。

コミネコミュニケーションズ事件(東京地裁平成17年9月30日)

【事案の概要】

Y社は、広告代理業、印刷業等を目的とする会社である。

Xは、Y社の営業社員として、その業務に従事していたが、入社から約4年後、Y社を退職した。

Xは、Y社に対し、時間外割増賃金を請求した。

Y社は、労働時間を算定し難いときに該当するとして、Xは、所定労働時間労働したものとみなされるべきであると主張し争った。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用を受ける場合にはあたらない。

【判例のポイント】

1 Y社は、労働時間を算定し難いときに該当するとして、労働者が所定労働時間労働したものとみなすべきであると主張するが、Y社は、本件就業規則において営業社員と他の社員とを区別することなく始業時刻、終業時刻を定めた上、IDカード及び就業状況月報等により、個々の社員の労働時間を管理していたのであるし、さらに、Xら営業社員に携帯電話が貸与され、Y社においてその利用状況を把握していたこと、Xら営業社員は、営業日報を作成して訪問先や訪問時間等を報告していたことを考えると、本件が、労基法38条の2第1項に規定する労働時間を算定し難いときに該当するとは認められない

2 被告は、時間外割増賃金に代わるものとして営業報奨金を支給したと主張する。しかしながら、営業報奨金は、営業に費やした時間は営業成果に比例するとの考えに基づくもので、その算定方法も、実際の労働時間とは関係なく、売上高、社内生産高、粗利額及び回収額から算定され、売掛金の回収が不能となった場合等は、営業報奨金の不支給に止まらず、ペナルティーとして基本給から一定額が控除されることもあるというのであって、およそ営業報奨金を時間外割増賃金に代わるものということはできない。

3 Y社は、所定の時間外割増賃金の支払をしなかったのであって、これらの事情にかんがみると、Y社に付加金の支払を命じることが相当というべきであるが、他方、Y社において、平成17年5月31日付けで、事業場外労働に関する協定の届出を行うなどしていること、Y社が、民事再生手続開始の申立てを行い、現在、再生計画に基づき、その履行をしている途上であることに加え、平成10年賃金規則手当のみならず、世帯の状況により支給額が異なる住宅手当についても、これを控除することなく、時間外割増賃金の算定の基礎としていることを考慮すると、本件における付加金の額は300万円とするのが相当である。

判決理由を読むと、そもそもY社では、以前は事業場外労働に関する労使協定が締結されていなかったようですね。

平成17年5月31日付けで労使協定の届出を行っており、遡及的に効力が生じるという主張なのでしょうか・・・?

会社側代理人としてはつらいところです。

このケースでは、時間外割増賃金として、495万余円、付加金として約60%にあたる300万円の支払いを認めました。

Y社が民事再生中であったこと、(たまたま?)賃金規則で通常よりも時間外割増賃金の算定基礎となる金額が多かったことを理由に付加金の減額が認められました。

とはいえ、Y社としては、Xに対し約800万円を支払わなければなりません。

やはり、きちんと事前に対策を講じる必要性を強く感じますね。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労災14(九電工事件)

おはようございます。

今日は、午前中、遺産分割調停。終了後、速攻で浜松の裁判所へ移動し、午後いっぱい証人尋問です

そのため、終日、事務所におりません

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災についての裁判例を見てみましょう。

九電工事件(福岡地裁平成21年12月2日・労判999号14頁)

【事案の概要】

Y社は、電気通信工事等を目的とする会社である。

Xは、Y社の従業員として、空調衛生施設工事等の現場監督業務に従事していた者である。

Xは、平成16年9月6日、自殺した。

本件は、X(死亡当時30歳)がY社の安全配慮義務違反により長時間労働等の過重な業務に従事させられた結果、うつ病を発症して自殺したと主張して、遺族である原告が、Y社に対し損害賠償等を請求した事案である。

【裁判所の判断】

Xの損害につき、逸失利益4451万余円、慰謝料2400万円等を認め、加えて原告がY社の業務錠災害補償規程に基づきなした弔慰金3000万円の請求も認め、Y社に対し、合計9905万余円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 うつ病の発症原因の判断については、医学的に、環境由来のストレスと個体側の反応性、脆弱性との関係で精神的破綻が決まり、環境由来のストレスが非常に強ければ個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし、逆に個体側の脆弱性が大きければ環境由来のストレスが小さくても破綻が生じるというストレス-脆弱性理論が用いられていることから、業務と本件精神障害との間の相当因果関係の有無の判断に当たっては、業務による心理的負荷、業務以外の心理的負荷及び個体側要因を総合考慮して判断するのが相当である

2 Xは、本件工事に携わった平成15年8月以降、日中は現場巡視や元請、下請会社との協議・連絡、現場作業員への対応に追われ、午後5時以降に時間と労力を要する施工図の作成・修正作業を行うことを余儀なくされ、平成16年7月までの1年間に月100時間超の過重な時間外労働に従事したことによって著しい肉体的・心理的負荷を受け、十分な急速を取れずに疲労を蓄積させた結果、本件精神障害を発症し、それに基づく自殺衝動によって本件自殺に及んだというべきであって、Xが従事した業務と本件自殺との間に相当因果関係があることは明らかである。

3 Y社は、労働時間について自己申告制を採っていたものであるから、厚生労働省が策定した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」(平成13.4.6)に照らし、長時間労働が続いていたXに対し、労働時間の実態を正しく記録し適正に自己申告を行うことなどについて十分に説明するとともに、必要に応じて自己申告による労働時間が実際の労働時間と合致するかどうかの実態調査を実施するなどし、Xが過剰な時間外労働をすることを余儀なくされ、その健康状態を悪化することがないように注意すべき義務があったというべきであり、これを怠り、Xの長時間労働の状況を何ら是正しないで放置していたY社には不法行為を構成する注意義務違反があったといえ、またY社には本件結果の予見可能性があった。

4 Xの妻らは、Xの異変に気づいていたにもかかわらず病院を受診させるなどの対応をとっていなかったところ、うつ病の発症や治療の要否の判断は容易ではなく、Xや妻がうつ病に関する十分な知識を有していたとも認められず、むしろXの就労状況からすれば、使用者であるY社が当然に労働時間の抑制その他適切な処置をとるべきであったといえる等として、Y社主張の過失相殺が否定された

判例のポイント3の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」はこちら

これは、厚労省が、労働時間の把握に係る自己申告制の不適正な運用に伴い、過重な長時間労働等の問題が生じているなど、使用者が労働時間を適切に管理していない状況がみられることに照らし、策定したものです。

判例のポイント4は、従業員側としては参考にすべきポイントですね。