賃金4(ディバイスリレーション事件)

おはようございます。

さて、今日も引き続き割増賃金に関する裁判例を見ていきます。

ディバイスリレーションズ事件(京都地裁平成21年9月17日・労判994号89頁)

【判例のポイント】

1 時間外・深夜労働の手当を支払わないことについて、使用者に不法行為が成立し得るのは、使用者がその手当(賃金)の支払義務を認識しながら、労働者による賃金請求が行われるための制度を全く整えなかったり、賃金債権発生後にその権利行使をことさら妨害したなどの特段の事情が認められる場合に限られる

2 もっとも、Xらは、消滅時効が成立しない期間の未払時間外・深夜労働の手当については、労働契約に基づきY社に賃金請求権に基づいて請求できるのであるから、未払時間外・深夜労働の手当相当額の損害が発生したとはいえず、不法行為が成立する余地はない

3 消滅時効の援用が権利濫用となり得るのは、債務者がその態度・言動により債務の弁済が確実になされるであろうとの信頼を惹起させ、債権者に時効中断の措置を採ることを怠らせるなどした後、時効期間が経過するや態度を変えて時効を援用するなど、例外的な事情が認められる場合に限られると解される。
→Y社にこのような事情は認められない。

4 付加金の請求について、Y社は、Xらの実労働時間を少なく算定したり、Xらの就業月報を改ざんするなど、Xらの実労働時間を短くする悪意うな行為をしており、Xらに支払うべき賃金を不当に少なくしようという姿勢が顕著である。そして、Y社は、現在に至るまでXらに対し、時間外・深夜労働に対する賃金を支払っていない。
もっとも、証拠によれば、Y社は、Xら代理人からの請求に応じ、本来支払われるべき額よりも低い額ではあるが、一定程度の金額を支払おうとする意思もあったことは認められる

以上の諸事情を考慮し、Y社に対し、未払賃金の8割に相当する付加金の支払いを命じるのが相当である

この裁判例は、参考になる点がたくさんあります。

割増賃金を支払わないことが不法行為に該当するかについて判断しており、参考になります。

杉本商事事件と比較すると、不法行為が成立する範囲は狭いです。

このケースでは、結果的には、不法行為の成立を認めませんでした。

・Y社は、時間外・深夜労働に対する手当の支払義務を認識していた。
・Y社は、実労働時間や休憩時間がXらに不利に算定していた。
・Y社は、Xらの就業月報を改ざんし、Xらの未払時間外・深夜割増手当の請求を妨害した。

このような事情があったにもかかわらず、裁判所は不法行為の成立を認めませんでした。

付加金も全額ではなく、8割のみ認められています。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金3(ゴムノイナキ事件)

おはようございます。

さて、今日は、昨日に引き続き割増賃金に関する裁判例を見ていきます。

ゴムノナイキ事件(大阪高裁平成17年12月1日・労判933号69頁)

【判例のポイント】

1 労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の明示又は黙示の指揮命令ないし指揮監督の下に置かれている時間であると解すべきところ(最高裁判所平成12年3月9日判決参照)、Xの超過勤務自体、明示の職務命令に基づくものではなく、その日に行わなければならない業務が終業時刻までに終了しないためやむなく終業時刻以降も残業せざるを得ないという性質のものであるため、Xの作業のやり方等によって、残業の有無や時間が大きく左右されることからすれば、退社時刻から直ちに超過勤務時間が算出できるものではない

 しかし、他方、タイムカード等による出退勤管理をしていなかったのは、専らY社の責任によるもので、これをもってXに不利益に扱うべきではないし、Y社自身、休日出勤・残業許可願を提出せずに残業している従業員の存在を把握しながら、これを放置していたことがうかがわれることなどからすると、時間外労働の立証が全くされていないとして扱うのは相当ではない

3 以上によれば、本件で提出された全証拠から総合判断して、ある程度概括的に時間外労働時間を推認するほかない
Xが主張する午後7時30分以降の業務は毎日発生するものではないこと、X自身、繁忙期以外の時期には、やろうと思えば午後10時には退社できたことを自認していること、Xの上司である営業所所長作成の文書では、Xは、午後9~12時頃には退社していた旨の記載があること等から、Xは、平成13年5月以降平成14年6月までの間、平均して午後9時までは就労しており、同就労については、超過勤務手当の対象となるとされ、概ね午後7時30分までの超過勤務を認定した一審判決が変更された。

4 Xは、休日に出勤していたとしても、休日に超過勤務手当の対象となる労基法上の労働がされたとまでは認めがたい。

5 Y社自身、タイムカードを導入しないなど自ら出退勤について手当が支給されずに放置されていたこと、現に、労働基準監督署からその旨の是正勧告も受けていることなどの事情を考慮すると、Y社が主張する事由を考慮しても、付加金の支払いを命ずる

タイムカード等により労働時間の管理が正確になされていない場合には、日記やメモにより始業時間と終業時間を残しておきましょう。

従業員のみなさんは、この裁判例を大いに参考にするべきです。

労働時間の管理をしっかりしていない社長は、対策を講じましょう。

多くの裁判例を見ていると、いろんなヒントが出てきます。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金2(杉本商事事件)

おはようございます。

さて、今日は、割増賃金についての裁判例を見てみましょう。

杉本商事事件(広島高裁平成19年9月4日・労判952号33頁)

【判例のポイント】

1 Y社の広島営業所においては、平成16年11月21日までは出勤簿に出退勤時刻が全く記載されておらず、管理者において従業員の時間外勤務時間を把握する方法はなかったが、時間外勤務は事実としては存在し、Xの時間外勤務時間は1日当たり平均約3時間30分に及ぶものであった。
同営業所の管理者は、Xを含む部下職員の勤務時間を把握し、時間外勤務については労働基準法所定の割増賃金請求手続を行わせるべき義務に違反したと認められる。
Y社代表者においても、広島営業所に所属する従業員の出退勤時刻を把握する手段を整備して時間外勤務の有無を現場管理者が確認できるようにするとともに、時間外勤務がある場合には、その請求が円滑に行われるような制度を整えるべき義務を怠ったと評することができる。
Xは、不法行為を理由として平成15年7月15日から平成16年7月14日までの間における未払時間外勤務手当相当分をY社に請求することができるというべきである

2 付加金支払義務は、裁判所の命令が確定することによって発生するものである。そして、裁判所が付加金の支払を命ずるには、過去のある時点において不払事実が存在することが必要であると解するのが相当である(最高裁第二小法廷昭和35年3月11日判決、同第二小法廷昭和51年7月9日判決参照)。なぜなら、付加金制度は、労働基準法違反に対する制裁という面とともに、手当の支払確保という目的を有するものであるから、同法違反があっても、義務違反状態が消滅した後においては、裁判所は付加金支払を命ずることはできないと解するのが相当であるからである。
本件において、原判決後、Y社が未払時間外勤務手当の全額を支払ったことは先に述べたとおりである。 
よって、Xの付加金請求は理由がない

この裁判例のポイントは2つです。
1 時間外手当請求権が労基法115条によって時効消滅した後においても、使用者側の不法行為を理由として未払時間外勤務手当相当損害金の請求が認められた
2 使用者が口頭弁論終結時点までに未払時間外勤務手当全額を支払った場合には、裁判所は、労基法114条の付加金の支払を命ずることができない。 

特に1が大きいですね。

割増賃金の請求権の時効は2年です。

不法行為の時効は3年です。1年分多く請求できるわけです。

裁判においても、時効を考慮して2年分を請求する例が多いので、非常に大きな意義があります。

従業員としては、この裁判例を大いに参考にすべきです。

すべての割増賃金未払い事件で、会社の不法行為責任が認められるわけではありませんが、本件で、不法行為と判断される特段の事情があったかというと、それほど特殊な事情はありません。

よくあるケースだと思いますが・・・。

それゆえに会社としては、嫌な裁判例です。気をつけましょう。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

管理監督者12(PE&HR事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。

PE&HR事件(東京地裁平成18年11月10日・労判931号65頁)

【事案の概要】

Y社は、ベンチャー企業に対する投資、経営コンサルタント業、有料職業紹介事業などと目的とする会社である。

Xは、Y社の「パートナー」の職種に応募して採用された。

Y社は従業員数が10名に満たない規模の会社であって、就業規則を制定していなかった。

Xは、Y社入社後、会社の管理部門としては経理・労務を担当し、営業部門にあってはオフィス担当の職にあったが、部下はいなかった

Xは、退職後、Y社に対し、時間外割増賃金の支払い等を求めた。

Y社は、Xが管理監督者に該当する等と主張し争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定し、時間外割増賃金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者と定義されるところ、一般的にはライン管理職を想定しているが、他方、企業における指揮命令(決定権限)のライン上にはないスタッフ職をも包含するものとされるY社における人員構成からすると、Xがライン管理職に該当しないのは明らかであるから、管理監督者に該当するスタッフ職にXがあるといえるのかどうかが問題となる

2 会社に雇用される労働者のうちで、時間外勤務に関する法制の適用が除外される理由としては、当該仕事の内容が通常の就業時間に拘束される時間管理に馴染まない性質のものであること、会社の人事や機密事項に関与するなどまさに名実ともに経営者と一体となって会社の経営を左右する仕事に携わるものであることが必要とされる。そして、このような労働時間の制限及び時間管理を受けないことの反面ないし見返りとして、会社における待遇面で勤務面の自由、給与面でのその地位にふさわしい手当支給等が保障されている必要があるものというべきである。

3 XについてのY社からの出退勤時刻の厳密な管理はなされていたようには思われないものの、出勤日には社員全員が集まりミーティングでお互いの出勤と当日の予定を確認しあっている実態からすると、Xには実際の勤務面における時間の事由の幅はあまりないか相当狭いものであることが見受けられる。

4 時間外手当が付かない代わりに管理職手当であるとか特別の手当が付いている事情が見受けられず、月額支給の給与の額もそれに見合うものとはいえない。

5 Y社における人員構成からは管理職と事務担当者の職分が未分化であり、Xが経理・労務の責任を負っていたといっても社内でXしかそれを担当する者がいないことなどの勤務実態が認められる。

6 XのY社における地位・就業面・給与面での待遇に照らすと、Xが労基法の労働時間、休憩及び休日を規制する法の適用の除外を受けるに値する管理監督者の職にあるものとは認めることができない。

Xはいわゆる「スタッフ管理職」です。

この事件では、部下がいないスタッフ管理職が管理監督者に該当するかが問題となり、否定されました。

今後、スタッフ管理職の管理監督者性を肯定する裁判例も出てくるのでしょうか・・・。

部下がいない管理監督者!? よくわからないですね。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

労災⑧(KYOWA(心臓病突然死)事件)

おはようございます。

今日は、丸一日、明日の証人尋問の最終準備です

午後から浜松で弁護団会議があります。

がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

KYOWA(心臓病突然死)事件(大分地裁平成18年6月15日・労判921号21頁)

【事案の概要】

Y社は、金属の加工及び販売や工作機械等の販売を目的とする会社である。

Xは、Y社の従業員であり、鉄板の凹凸をならす業務に従事していた。

Xは、Y社において清掃等の業務に従事中、急性心不全(疑)により突然倒れ、病院に搬送されたが、同疾患により死亡した(26歳)。

Xの死亡前1週間の労働時間は81時間5分、死亡前1か月の労働時間は332時間2分となっていた。勤務開始から死亡までの間にXが休日を取得した日は合計8日間であり、死亡前の13日間は休日を取得していない。

Xの従事していた面取作業は、中腰の状態での作業であり、長時間作業すれば腰が痛くなるなどするうえ、振動が伝わって手のしびれも誘発するものであった。また、工場内に冷房はなく、機会も作動しており、作業のための装備を装着するため暑く、夏場の作業中は、高温による負担のかかるものであった。

Xの子と妻に対しては、労災保険法により葬祭料、遺族特別支給金、労災就学等援護費が支給され、遺族補償年金も支給されている。ただし、前払一時金については時効が成立しており、今後も支払われることはない

Xの子と妻は、Y社に対し、損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

Y社に対し、合計約8400万円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Y社は、Xの妻が労災保険から、葬祭料、遺族特別支給金、労災就学等援護費、及び遺族補償年金の支給を受けているので、これを損益相殺として控除すべきであると主張するが、遺族特別支給金、労災就学援護費は、政府が業務災害等によって死亡した労働者の遺族に対して労働福祉行政の一環として支給するものであって、損害の填補が目的ではなく、労働者の遺族の福祉の増進を図るためのものであるので、その性質上、これを控除すべきでない。また、葬祭料は、原告らは、本件においては、労災給付を受けたとしてあらかじめ同一事由で請求をしていなかったと主張するので、これについて損益相殺の対象としない

2 原告らが請求可能であった前払一時金の最高限度額は1123万6000円であり、うち、原告らが既払額と認める遺族補償年金432万3045円については、労働災害補償保険法64条により、履行を猶予されることとなるが、原告らが今後遺族補償年金を受給することにより免除されるので、これを控除すべきである

3 労災保険法64条の趣旨は、労災の保険給付と民事損害賠償との調整をして二重給付を回避することにあり、原告らは時効により前払一時金として請求できなくても、今後遺族年金として受給することができ、それまでY社は支給を猶予されるものというべきである。そして、支給開始時期から相当期間が経過し、原告らの前払一時金最高限度額までの遺族補償年金受給の見込みが高く、その場合にはその限りでY社の損害賠償義務が免除されること等に照らすと、原告らの請求に、条件付き若しくは将来の請求を含むものとは解されず、前払一時金最高限度額について、これを控除することとする

消滅時効にかかった労災保険の前払一時金の最高限度額が損益相殺として損害額から控除されました

法的には控除ではなく、期限の猶予です。


【労災保険法64条】
労働者又はその遺族が障害補償年金若しくは遺族補償年金又は障害年金若しくは遺族年金(以下この条において「年金給付」という。)を受けるべき場合(当該年金給付を受ける権利を有することとなった時に、当該年金給付に係る障害補償年金前払一時金若しくは遺族補償年金前払一時金又は障害年金前払一時金若しくは遺族年金前払一時金(以下この条において「前払一時金給付」という。)を請求することができる場合に限る。)であって、同一の事由について、当該労働者を使用している事業主又は使用していた事業主から民法その他の法律による損害賠償(以下単に「損害賠償」といい、当該年金給付によっててん補される損害をてん補する部分に限る。)を受けることができるときは、当該損害賠償については、当分の間、次に定めるところによるものとする。

1 事業主は、当該労働者又はその遺族の年金給付を受ける権利が消滅するまでの間、その損害の発生時から当該年金給付に係る前払一時金給付を受けるべき時までの法定利率により計算される額を合算した場合における当該合算した額が当該前払一時金給付の最高限度額に相当する額となるべき額(次号の規定により損害賠償の責めを免れたときは、その免れた額を控除した額)の限度で、その損害賠償の履行をしないことができる
2 前号の規定により損害賠償の履行が猶予されている場合において、年金給付又は前払一時金給付の支給が行われたときは、事業主は、その損害の発生時から当該支給が行われた時までの法定利率により計算される額を合算した場合における当該合算した額が当該年金給付又は前払一時金給付の額となるべき額の限度で、その損害賠償の責めを免れる

競業避止義務7(ピアス事件)

おはようございます。

さて、今日は、競業避止義務に関する裁判例について見ていきましょう。

ピアス事件(大阪地裁平成21年3月30日・労判987号60頁)

【事案の概要】

Y社は、化粧品販売及び美容サービス等の提供等を業とする会社である。

Xらは、Y社の従業員であったが、自己都合で退職した。

Y社は、米国所在のZ社との間で、日本国内での眉に関する美容トリートメント事業について独占代理店になる旨の契約を締結し、その後、本件事業のアジア地域における独占的な営業権を購入する旨の契約を締結している。

本件事業の立上げに際し、Xらは、新規事業開発部事業ディレクターに就任した。Xらは、本件事業における中心的な立場にあった

Xらは、在職中に、Y社に対し、在職中および退職後にわたり、Y社の経営・人事・経理・業務・マーケティング・製品開発・研究・製造・営業に関する情報等を開示・漏洩または使用しないとする機密保持契約書を提出している。

Y社就業規則には、無許可の兼職を禁止する規定および無許可の兼職を懲戒解雇事由とする規定がある。

Xらは、退職届をY社に提出した後(退職する前)、ビューティーサロン及びエステティックサロンの経営等を目的とするA社を設立した。

Xらは、A社の設立当初から、A社の取締役に就任していた。

Y社の賞罰委員会は、Xらに対し、懲戒解雇処分相当ないし懲戒解雇処分とし、Y社退職金規程に基づき、退職金を支給しない旨を通知した。

Xらは、Y社に対し、退職金等の支払いを請求した。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 A社の設立・取締役就任については、Xらは、Y社在職中に、本件事業と競合する事業を営むことを目的として、A社設立に関する準備行為をし、同社取締役に就任したものと認められ、このようなXらの行為は、無許可の兼職等を禁止するY社就業規則の規定に違反し、無許可の兼職等を懲戒解雇事由とする規定に該当し、また、雇用契約上の職務専念義務および誠実義務に反するものである。

2 秘密保持義務違反については、Xらは、機密保持契約書に基づき、Y社における機密情報について、在職中および退職後にわたり、無断で開示・漏洩または使用しない義務を負っており、Xらは、当該誓約書の記載のとおり、競業避止義務を負う。

3 XらがA社で提供している眉の美容トリートメントに関する技術の相当部分は、XらがZ社での研修によって習得した独自の技術を基にして、XらがY社においてさらに習得した技術を加味したもので構成されていると認めるのが相当である。そして、Xらがその保有技術をA社で提供していることは、本件秘密保持義務および本件就業規則の規定に違反し、機密漏洩等を懲戒解雇事由とする規定に該当するものである。

4 Xらの行為は、Y社における職場秩序を少なからず乱すものであり、XらのY社における勤続の功を抹消する程度にまで著しく信義に反する行為であったと認められる。
Xらの退職金請求は、その全額において権利の濫用にあたる

XらがY社において重要な地位にあったことや、A社で提供している商品技術の性質等からすると、このような判断はやむを得ないと思います。

退職金についても全額不支給となっています。

通常、退職金は、算定基礎賃金に勤続年数別の支給率を乗じて算定されるので、一般的に賃金の後払い的性格を有しています。他方で、支給基準において自己都合退職と会社都合退職とを区別したり、勤務成績の勘案がなされる場合もあるなど功労報償的性格も有しています。

懲戒解雇が有効とされる場合でも、なお退職金不支給の適法性は別途検討されるべき問題です。

多くの裁判例において、「退職金の全額を失わせるに足りる懲戒解雇の理由とは、労働者に永年の勤労の功を抹消してしまうほどの不信があったことを要する」としています。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

継続雇用制度13(NTT西日本(継続雇用制度・徳島)事件)

おはようございます。

今日は、継続雇用制度に関する裁判例を見てみましょう。

NTT西日本(継続雇用制度・徳島)事件(高松高裁平成22年3月12日・労判1007号39頁)

【事案の概要】

Y社に雇用されていたXらが、Y社において定年とされていた60歳を迎え、退職するに至ったことに関し、Y社が高年法9条1項に基づきXらの定年(60歳)後の雇用を確保すべき義務に違反して何らの措置も採らず、Xらを定年退職させたことが債務不履行または不法行為に該当するとして、Y社に対し、損害賠償等の支払いを求めた。

【判例のポイント】

1 Y社の事業構造改革に伴い導入された雇用形態・処遇選択制度につき、Y社の労働者がその選択によりY社と密接な関係を有する地域会社において年金支給開始年齢に達するまで継続して雇用されることを保障したものといえ、高年法9条1項2号所定の継続雇用制度に該当する

2 従来の定年後再雇用制度(キャリアスタッフ制度)の廃止は、定年退職者の再雇用の雇用制度の廃止であって、社員の労働条件に直接影響を及ぼすものではなく、Y社にXらを再雇用すべき義務が生じていたとも認められない。

3 上記2の点を置くとしても、本件キャリアスタッフ制度廃止は、Y社の構造改革の一環として、本件制度の導入と同時に実施されたものであって、本件制度には導入の必要性があり、また多数組合との間で合意が成立していること、本件制度においては、社員に選択の機会があり、転籍後の賃金が地場賃金の水準を下回ることはなく、激変緩和措置等も講じられ、勤務地も限定されるといった利益も存する等、不利益の程度も著しいものとはいえないことを考慮すると、キャリアスタッフ制度の廃止は合理性を有する。

本件は、NTTの構造改革の一環として実施された転籍および定年後の再雇用制度が、高年法9条1項2号の継続雇用制度に該当するか、従来の定年後再雇用制度の廃止が就業規則の不利益変更にあたるか等が争点となっています。

Xらの請求は、いずれも棄却されました。

本件と関連する事件としては、NTT西日本(高齢者雇用・第1)事件NTT東日本事件などがあります。

やはり、この分野は、なかなか従業員にとって厳しい判断がされています。

いずれ流れが変わるときがくると思いますが・・・。

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。

管理監督者11(神代学園ミューズ音楽院事件)

おはようございます。

さて、今日は管理監督者に関する裁判例を見ていきます。

神代学園ミューズ音楽院事件(東京高裁平成17年3月30日・労判905号72頁)

【事案の概要】

Y社は、音楽家を養成する専門学校である。

Xらは、Y社の従業員であり、それぞれ事業部長、教務部長、課長の職にあった。Xらは、既にY社を退職している。

Xらは、Y社に対し、時間外労働割増賃金等を請求した。

Y社は、Xらが管理監督者に該当する等と主張し争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定し、時間外割増賃金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 管理監督者が時間外手当支給の対象外とされるのは、その者が、経営者と一体的な立場において、労働時間、休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され、また、そのゆえに賃金等の待遇及びその勤務態様において、他の一般労働者に比べて優遇措置が講じられている限り、厳格な労働時間等の規制をしなくてもその保護に欠けるところがないという趣旨に出たものと解される。

2 Xらは、いずれもタイムカードにより出退勤が管理され、出勤は他の従業員と同様の午前8時30分に余裕を持った出勤をしていた。

3 時間外労働等の実績に応じた割増賃金の支払を受けていた。

4 有給休暇の取得についても、特に他の従業員と異なる待遇を受けていたと認めるに足りる証拠はない。

5 X1は、Y社の教務部の従業員の採用の際の面接等の人選や講師の雇用の際の人選に関与し、教務部の従業員の人事考課及び講師の人事評価を行って、Y社社長に対し報告していた。
→しかし、X1が、Y社社長の指示や承諾を得ることなく、X1の裁量で教務部にかかわる業務を行っていた事実を認めることはできない

6 X2は、経理支出について関与していた。
→しかし、X2が、経理にかかわる権限を一手に掌握し、Y社社長の指示や承諾を得ることなく、多額の出費をX2の判断で行っていたとの事実を認めることはできない

7 結局、Xらは、それぞれ事業部長及び教務部長として、その業務遂行に対する職務上の責任をY社から問われることはあっても、その職責に見合う裁量を有していたものと認めるに足りる的確な証拠があるとはいえない

「社長の指示や承諾を得ることなく」自分の裁量で決定できる人が、どれだけいるのでしょうか・・・。

ちょっと管理監督者の範囲が狭すぎるような気がしますが、いかがでしょうか。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。

解雇14(ニュース証券事件)

おはようございます。

さて、今日は、試用期間中の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ニュース証券事件(東京高裁平成21年9月15日・労判991号153頁)

【事案の概要】

Xは、Y社(証券会社)に営業職の正社員として中途採用された。

Y社には、6か月の試用期間がある。

勤務開始後におけるXの手数料収入は、Y社の期待を下回るものであった。

Y社は、試用期間中(3か月強)に、Xを試用期間中に不適と認められたとして解雇した。

Xは、Y社に対し、解雇無効を理由とする地位確認及び賃金請求をした。

【裁判所の判断】

解雇無効(控訴棄却)

【判例のポイント】

1 本件雇用契約書には、本件雇用契約におけるXの試用期間を6か月とする規定が置かれているところ、試用期間満了前に、Y社はいつでも留保解約権を行使できる旨の規定はないから、XとY社との間で、Xの資質、性格、能力等を把握し、Y社の従業員としての適性を判断するために6か月間の試用期間を定める合意が成立したものと認めるべきである

2 そして、試用期間が経過した時における解約留保条項に基づく解約権の行使が、解約につき客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当と是認され得る場合に制限されることに照らせば、6か月の試用期間の経過を待たずしてY社が行った本件解雇には、より一層高度の合理性と相当性が求められるものというべきである

3 Y社が、Xは適格性を有しないと判断して本件解雇をすることは、試用期間を定めた合意に反してY社の側で試用期間をXの同意なく短縮するに等しいものというべきであって、Xが業務上横領等の犯罪を行ったり、Y社の就業規則に違反する行為を重ねながら反省するところがないなど、試用期間の満了を待つまでもなくXの資質、性格、能力等を把握することができ、Y社の従業員としての適性に著しく欠けるものと判断することができるような特段の事情が認められるのであれば格別、合意した試用期間である6か月におけるXの業務能力又は業務遂行の状態を考慮しないでY社が行った本件解雇(留保解約権の行使)は、客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当として是認することはできない

この裁判例は、以前検討したニュース証券事件(東京地裁平成21年1月30日判決・労判980号18頁)の控訴審判決です。

結論としては、一審の判断が維持されました。

試用期間満了前に解雇をする場合には、「より一層高度の合理性と相当性」が必要であるといっています。

ここまで言われると、会社としては試用期間の途中で解雇することは非常に困難ですね。

従業員としては、この裁判例の理由付けは使えると思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

管理監督者10(岡部製作所事件)

おはようございます。

さて、今日は、管理監督者に関する裁判例を見てみましょう。

【事案の概要】

Y社は、プラスチック成形・加工等を業とする会社である。

Xは、Y社における工場の営業開発部長の職にあり、営業・商品開発業務を行っていた。

Xの基本給は、月34万円、管理職手当は月11万円であった。

Xは、Y社に対し、休日出勤による時間外賃金、付加金等を請求した。

Y社は、Xが管理監督者である等と主張し、争った。

【裁判所の判断】

管理監督者性を否定し、割増賃金の支払いを命じた。

付加金満額の支払いも命じた。

【判例のポイント】

1 Xの業務遂行に際して、大半の期間はXの業務は1人で遂行している。
月例で開催されるY社における経営会議において、Xは管理職としてメンバー召集されていたが、当該会議は各部門の業務遂行状況等の報告・掌握のための場として機能しているものの、重要事項の決定は取締役会においてなされ、経営会議で会社の経営方針等について決が取られるような決定機関として機能していなかった。
 
→XのY社への経営参画状況は極めて限定的である。

2 常時部下がいて当該部下の人事権なり管理権を掌握しているわけではなく、人事労務の決定権を有せず、むしろ、量的にはともかく質的にはXの職務はXがY社内で養ってきた知識、経験及び人脈等を動員して一人でやり繰りする専門職的な色彩の強い業務であることが窺える

3 Y社の従業員の出退勤管理はタイムカードによる管理が原則となっていたところ、Xほか一部の者には、タイムカードが配布されずにいた。
Xは、住まいが遠方にあり、工場へは午前9時から9時30分の間に出勤しており、出勤が遅くなっているのに合わせて退勤時刻も一般の終業時刻より30分繰り下げて退勤していた。このような勤務状況にあることもあって、Y社のタイムカードによる自動処理に馴染まないことからXにはタイムカードが配布されていなかった
→勤務時間も実際上は一般の従業員に近い勤務をしており、Xが自由に決定できるものではない。

裁判所は、Xには管理職手当が出されており、経営会議にも参加しており、タイムカードによる出退勤管理がなされていなかったにもかかわらず、管理監督者ではないと判断しました。

管理職手当は置いておくとして、経営会議の点とタイムカードの点については、原告側がその実態を主張立証したことにより、上記のような判断に至ったものです。

このように検討していくと、つくづく「管理監督者」の範囲は狭いな、と感じます。

なお、裁判所は、特に理由を説明することなく、付加金の満額を認めています。

管理監督者性に関する対応については、会社に対するインパクトが大きいため、必ず顧問弁護士に相談しながら進めることをおすすめいたします。