賃金207 36協定を締結していない場合の固定残業制度の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、固定残業代と労働時間該当性に関する裁判例を見てみましょう。

公認会計士・税理士半沢事務所事件(東京地裁令和2年3月27日・労判ジャーナル103号90頁)

【事案の概要】

本件は、Y事務所との間で労働契約を締結していた元従業員Xが、いわゆる法内残業や法定時間外労働等を行ったとして、労働契約に基づく割増賃金請求として、約104万円等の未払割増賃金等の支払を求めるとともに、労働基準法114条に基づく付加金請求として約69万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 他の従業員の補助業務を主に担当していたXは、最寄り駅に集合するよう先輩従業員から指示されていたのであるから、集合時間後は、使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができ、Aへの訪問後に本件事務所に戻って業務を行った旨主張するが、Xは、翌日のBでの業務に利用する荷物をキャリーバックに詰めるために本件事務所に戻ったというのであり、このような行動を取ることについてXがY事務所から明示又は黙示の指示を受けたことを認めるに足りる証拠はなく、Xの上記行動は、X自らの判断で行った行動であるから、使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することはできず、Aでの業務が終了した時点で使用者の指揮命令下から離脱したものと認めるのが相当であり、また、補助業務を行っていたXは、業務を指示していた先輩従業員の指示により休日出勤を行っているから、使用者の指揮命令下にあったものと認めるのが相当である。

2 本契約書上も給与明細上も、固定残業代である営業手当とそれ以外の給与費目及び金額が明示的に区分されて記載されていることからすれば、通常の賃金に当たる部分と固定残業代に当たる部分との判別が可能といえ、また、Y事務所主張の賃金単価とXに支払われた営業手当から算出される計算上の時間外労働時間数は、Y事務所の想定と実際との乖離は大きくないものと評価でき、そして、Y事務所は、2回目の面談の際、Xに対して営業手当を含む給与待遇や残業に関する説明を行ったものと認められるところ、36協定が締結されておらず、時間外労働が違法であるとしても、使用者は割増賃金の支払義務を免れるものではないから、これにより固定残業代を支払う合意が無効となるとは解されないから、本件契約書の記載内容、本件契約締結に至る経緯及び本件契約締結後の状況を考慮すると、営業手当は、割増賃金の対価としての性質を有するものと認められ、また、上記のとおり通常の賃金に当たる部分と固定残業代に当たる部分との判別が可能であるから、営業手当は、固定残業代といえる

36協定を締結していない場合、労基法違反になりますが、上記のとおり、その事実をもって固定残業制度が無効とは判断されません。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介1121 見えないからこそ見えた光(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

著者は、以前、辛坊さんとともにヨットでの太平洋横断にチャレンジされた方です。

「全盲のヨットマン」である著者の人生観が書かれています。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

見えないからこそ見えてくるものがあるということに気づき、環境が自分を幸せにしてくれるのではなく、どのような環境にあっても自分の心の持ち方で幸せになれるということを知ることができたのです。」(213頁)

すぐに不安を感じてしまう人は、不安の中身が自分でコントロール可能か否かを考えてみましょう。

明日の天気を心配しても仕方ありません。

環境を選択できるのであれば、できるだけ自分にプラスになる環境を選択すべきです。

未成年のときは自分の力で環境を変えることはなかなか難しいですが、大人になれば多くの場合、自分で選択できます。

大人の事情で選択できない状況に身を置いている方もいると思いますが、根本的にはそれもまた自分の選択の結果です。

いずれにせよ選択できないことを悩んでも、解決不可能なので時間の無駄です。

自分でコントロール可能なことだけにフォーカスしましょう。

労働時間66 就業時間前後の労働時間該当性と黙示の指揮命令(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、就業時間前後の労働時間該当性に関する裁判例を見てみましょう。

淀川勤労者厚生協会事件(大阪地裁令和2年5月29日・労判ジャーナル102号30頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、雇用主であるY社に対し、①雇用契約に基づき、別紙1「集計表(原告請求分)」記載のとおりの未払時間外割増賃金等170万5546円(元本141万9006円及び確定遅延損害金28万6540円の合計額)+遅延損害金の支払、②労基法114条所定の付加金88万0960円+遅延損害金の支払、③Y社がX申請に係る年次有給休暇及び生理休暇の取得妨害等をしており、これが不法行為を構成するなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)10万円+遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、130万2422円+遅延損害金を支払え。

Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、所定始業時刻よりも早い、本件出退勤システム上の記録時刻に依拠して、その始業時刻に関する主張を構成しており、先輩看護師から所定始業時刻前に出勤して患者情報を収集するよう指示された、看護師の「ほぼ全員」がそのようにしていたなどとこれに沿う供述をする。
そして、B師長がした平成28年3月時点の発言の中に、同年2月にした「日勤」時におけるPNS導入の下、午前8時45分以降に2名で情報収集から始めるよう指示しており、「早くから出勤する職員は減ってきている」というものが含まれているところ、これはPNS導入前、所定始業時刻前に出勤して患者情報の収集等をしていた看護師がX以外にも一定数いたことを示唆するものであり、B師長自身、所定始業時刻前に出勤していた看護師は「3分の1もいなかった」などと供述している。このような証拠関係に照らせば、Xが「ほぼ全員」と表現するまでの多数であったとは認められないにせよ、平成28年1月以前(PNS導入前)の「日勤」時には、一定数の看護師が所定始業時刻前に出勤して患者情報の収集等の業務に従事していたものと認定でき、ひいては、Y社において、このような一定数の看護師がしていた行動について、担当業務の遂行方法の一つとしてこれを容認していたとみられ、この点にY社による黙示の業務命令があったと認定でき、この認定を覆すに足りる証拠はない。
さらに、Xがそのような黙示の業務命令の下で労務提供をしていたか否かについてみるに、Xは、患者情報の収集をしていた旨供述するが、所定始業時刻前に一定数の看護師が出勤して、現に患者情報の収集等をしていたと認められるところ、Xが所定始業時刻前に出勤していた限りにおいて、そのような業務を行う者の一人であったことを否定する事情は見当たらない当時、Xは入職後間もない時期にあり、先輩看護師らが業務をする中で、あえて何の業務にも携わっていなかったというのもかえって不自然である。)。
そうすると、Xは、この期間における「日勤」時について、前記のとおりに認められる黙示の業務命令に基づき、本件病院建物への到着後間もなく、労務提供を開始していたと認定できる

2 Xは、本件出退勤システム上の記録時刻を前提として、平成27年4月10日から平成28年2月23日までについては、着替え等に要するものとして、さらに10分間早い時刻をもって始業時刻とする旨その主張を構成しているところ、Xは、この期間に限り、本件病院建物に到着後、着替え等をしてから本件出退勤システムへの時刻登録をしていたことが認められる。
そして、本件病院では、看護師の制服が採用されるとともに、Y社によってその更衣場所が定められるなどしており、清潔を保持すべき看護師という業務の性質等をも踏まえる限り、本件病院での看護師の制服への着替えは、その業務に不可欠な準備行為として、Y社から黙示的に義務付けられていると評価すべきである。このような本件における具体的事情に照らせば、この着替え等に要する時間についても、Y社の指揮命令下に置かれていたものとして、これを労働時間の一部と捉えることが相当である。
もっとも、着替え等に要する時間について,Xは10分間であるものと主張するが、これを裏付ける客観的証拠はなく、2分間くらいで、長くとも5分間もあれば十分であるといった、Xの供述に相反する趣旨の他の看護師の供述があるところ、2分間というのは短きに過ぎるものであるにせよ、5分間という内容は不自然不合理ということはできず、Xの主張は5分間の限度で認定できるにとどまる。

証人尋問での一言を拾われて、判決理由に使われている例です。

事案としては、黙示の指揮命令を認定しやすい類型だと思います。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

本の紹介1120 ゴミ人間(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

西野さんの本です。

サブタイトルは「日本中から笑われた夢がある」です。

お笑い芸人が絵本作家になることをさんざんバッシングされた過去、それでもなおあきらめずにやり続けたことが書かれています。

いかに世間の評価が非論理的で「なんとなく」なされているかがよくわかります。

いつの世も、他人の評価なんて何の役にも立たないのです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

夢を語れば笑われて、行動すれば叩かれてしまうので、もう誰もバカなことを言い出しません。もう誰も見上げることをしません。皆、足元を確認しながら歩くようになりました。互いの行動を監視し合い、少しでも踏み誤ると容赦なく叩く。おかげで世界はすっかり正解で溢れましたが、まもなく僕らは、正解で溢れた世界がこんなにも息苦しいことを知ります。」(75~76頁)

今の日本は「正解」ばかりで窒息しそうですね。

模範解答から少しでもズレようものなら、寄ってたかって袋叩きの刑です。

ホームランを狙って空振り三振をしようものなら、クレームとバッシングの嵐です(笑)

生き苦しいと感じている人も多いと思います。

他人の評価は気にしないに限ります。

全員から好かれることはないのと同様、全員から嫌われることもそうそうありません。

好きなように生きればいいのですよ。

解雇338 身元保証契約の効力が及ぶ範囲とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、窃盗を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

近畿中央ヤクルト販売事件(大阪地裁令和2年5月28日・労判ジャーナル102号34頁)

【事案の概要】

第1事件は、乳製品乳酸菌飲料の販売等を目的とするY社の従業員であったXがY社による懲戒解雇が無効であるとして、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、主位的に、労働契約に基づき、平成29年11月分の未払賃金9万7147円+遅延損害金、同年12月から本判決確定の日まで毎月25日限り16万円の賃金+遅延損害金、別紙割増賃金一覧表「割増賃金未払額」欄記載の各割増賃金+遅延損害金、労基法114条に基づき、上記未払割増賃金のうち325万5837円と同額の付加金+遅延損害金の各支払、XとY社との間において、XのY社に対する売上金領得に係る不法行為に基づく損害賠償債務が存在しないことの確認、予備的に、不当利得に基づき、9万7147円+法定利息の支払を求める事案である。

他方、第2事件は、Y社の従業員であったXがY社の管理する自動販売機から売上金を回収する際、自動販売機内の売上金を着服(窃取)し、Y社の権利を故意に侵害したとして、Xについては不法行為に基づき、Xの同損害賠償債務をB及びCが連帯保証したとして、B及びCについては連帯保証契約に基づき、連帯して、窃取された売上金相当額等計137万0460円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Xの債務不存在確認の訴えを却下する。

Y社は、Xに対し、別紙原告金額シート「割増賃金未払額」欄記載の各金員+遅延損害金を支払え。

第2事件被告らは、Y社に対し、連帯して123万円+遅延損害金を支払え。

Xのその余の請求及びY社のその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Xに交付された「雇用条件」と題する書面、Xに適用される本件嘱託規程には、営業手当にみなし残業代が含まれる旨の記載がない。また、本件嘱託規程には、営業手当等の各種手当は、職務内容等を勘案し、各人ごとに個別の雇用契約書で定める旨記載されているところ、Xの労働条件通知書(雇入通知書)には、基本賃金月給15万5000円とあるのみで営業手当に関する定めがない
この点、Y社の当時の給与規程において営業手当に関し、「ただし、営業手当には、時間外勤務手当相当額を含むものとする。」との定めがあったとしても、Xとの間においてはそれと異なる約定であった可能性を否定できない。Xの労働条件通知書においては、他の箇所(休暇等)では詳細について就業規則を引用する定めがある一方、賃金については給与規程を引用しておらず、営業手当に関する定めがないことは給与規程とは別段の定めがある可能性を裏付けるものといえる。
そうすると、Xとの関係では、Y社が主張する上記固定残業代の合意があったとは認められない。

2 第2事件被告らは、本件各身元保証契約の範囲がXとY社との間の当初の労働契約の範囲(遅くとも平成28年3月31日まで)に限られる旨主張する。
しかしながら、本件各身元保証契約自体には期限が定められていない。また、XとY社との間の労働契約が当初から一定期間の継続雇用が見越されていたことは当事者間に争いがない。さらに、Xの当初の労働契約とその後の労働契約でXの任地や職務内容に変更がなく、B及びCの責任を加重したり、監督を困難にするような契約内容の変更は認められない。そうすると、本件各身元保証契約を締結するに当たり、B及びCは、平成28年4月1日以降もXの行為について責任を負うことを想定していたものと考えられる。このように解しても、身元保証ニ関スル法律1条により存続期間が制限されるから同法の趣旨に反することにはならない。加えて、Xの行為によるY社の損害額が123万円である一方、XがY社以外で勤務し、平成30年1月以降月額30万円以上(平成30年7月から令和元年5月まで月額38万円,令和元年6月は39万5000円)の収入を得ており、Xにもある程度の弁済能力があると考えられ、したがって、B及びCに全額の保証責任を負わせても、過大な負担を負わせるとはいえないこと、Y社の過失を認めるに足りる証拠がないこと等の事情を斟酌すると、本件各身元保証契約の範囲は、Xの売上金着服行為に及び、その金額もY社が被った全額に及ぶと認めるのが相当である。
よって、B及びCは、Xの行為によりY社が受けた123万円の損害の賠償責任を負う。

民法改正により身元保証に関しても、極度額による制限が設けられましたが、考え方自体は参考になりますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介1119 60歳からヘタれない生き方(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

著者は、相国寺、金閣寺、銀閣寺の住職です。

ときどきこのような本を読むと初心に帰ることができます。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

禅では、ものごとにとらわれ、それに執着してしまうことを何よりも嫌います。それが心の自由を奪うからです。」(41頁)

全く同感。

執着は依存につながり、依存は弱さとなります。

何事にも執着せず、「別になんだっていい」という感覚で生きると、気が楽です。

5年も10年も前のことをいまだに根に持っているとか、絶対に許さないなどという感情は、自分を苦しめるだけで、何の得にもなりません。

職業柄、いろんなことに執着・固執している人を見ますが、そこから抜け出せれば、もっと生き易いだろうに、とよく思います。

賃金206 賃金規程変更の正しいやり方(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、賃金計算において電車遅延時の遅延分や業務中の通院時間を非控除とした扱いの廃止が認められた裁判例を見てみましょう。

パーソルテンプスタッフ事件(東京地裁令和2年6月19日・労経速2429号45頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、Y社に対し、(1)Y社が、電車が遅延した際に遅刻した時間分の賃金を控除しない扱い(以下「遅延非控除」という。)をする労使慣行を変更して、平成30年7月以降、遅刻した時間分を賃金から控除する扱いとしたこと(以下「本件変更①」という。)について、その無効の確認を求め、(2)Y社が、就業時間中の通院について通院時間分の賃金の一定額を控除しない扱い(以下「通院非控除」という。)をする旨の賃金規程の規定を削除して、同月以降、通院時間分を賃金から控除する扱いに変更したこと(以下「本件変更②」という。)について、その無効の確認を求め、(3)本件変更①及び②の対象となるY社の全従業員に対する、これらの変更が不法行為による不利益変更であった旨の説明及び謝罪と、Y社の費用負担での就業規則等の回復等を求め、(4)Y社が同年1月から人事考課の評価項目を変更したこと(以下「本件変更③」という。)に関して、Xが、無期転換雇用後も含めて、グラフィックデザイン・DTPに関する業務(以下「本件業務」という。)を行う職種限定の技術社員としての雇用契約上の地位の確認を求め、(5)Xが平成31年4月25日以降、基本給として24万9340円の支払を受けることができる地位にあることの確認を求め、適正な人事考課に基づき昇給が行われたことを前提として、同日以降毎月25日限り各月の給与の昇給額分7140円,令和元年6月20日以降毎年12月20日及び6月20日限り同様の賞与の昇給額分7140円+遅延損害金、(6)今後の雇用契約に関して、労働基準法15条並びに労働契約法3条及び4条に基づき、上記(4)及び(5)の地位にあることが明記された雇用契約書を取り交わすことを求めるものと解される事案である。

【裁判所の判断】

本件訴えのうち、就業規則の対象となるXを含む全ての従業員に対し、Y社による不法行為による不利益変更であった説明及び謝罪、就業規則及び人事システム等の回復及び変更に関する役務の提供並びにこれに係る費用負担を求める部分、無期転換雇用後も含めてグラフィックデザイン・DTPに関する業務を行う職種限定の技術社員としての雇用契約である地位の確認を求める部分、平成31年4月25日から24万9340円を基本給として被告から賃金の支給を受ける地位にあることの確認を求める部分、本件口頭弁論終結日の翌日以降毎月25日限り7140円、毎年12月20日及び6月20日限り7140円+遅延損害金の支払を求める部分をいずれも却下する。

Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 本件変更②は、就業規則の一部である賃金規程の変更により原告の労働条件を変更するものであるから、本件変更②が有効であるためには、労働契約法10条の要件を満たす必要がある。
そこで検討すると、Y社は、本件変更②を行うに際して、Y社の従業員に対し、本件変更②の説明資料を配布するなどして説明を行った上で、本件変更②を反映した賃金規程をY社のイントラネットで公開し、Y社の従業員が事務所からアクセスして知り得る状態に置き、また、従業員からの求めがあれば、賃金規程を送付するなどしていたのであって、同賃金規程はY社の従業員に周知されていたといえる。
そして、通院非控除については、本来は支払われない通院した時間分の賃金を通院という事情に鑑みY社の従業員に有利に恩恵的に支払ってきた扱いであると推測されるところ、通院非控除を廃止することは、本来的な賃金の支払のあり方に変更するものにすぎない。また、Y社の従業員数と通院非控除の適用回数の実績からすれば、平成29年及び平成30年では、それぞれ最も従業員数が少ない月の従業員数を前提としても、従業員1人に対し遅延非控除が適用されるのは、全従業員でも、Xと同じJC職の従業員でも、せいぜい年1回程度にすぎず、しかも、通院非控除自体、1日の所定労働時間の3分の1まで、賃金計算期間内の回数にして5回、時間にして5時間未満までというごく限定された範囲内で賃金を控除しない扱いであって、本件変更②によりY社の従業員に与える影響は相当程度小さいものといえる。
そして、本件変更②は、Y社のグループ会社内の人事制度を統一するために行われたものであり、これがY社及びそのグループ会社の間の事務処理の効率化に資することは明らかであるから、本件変更②を行う必要があり、また、その当時、Y社のグループ会社の中で、通院非控除が存在した会社の方が相当少数であったから、通院非控除を廃止する方向で統一することも相当であったといえる。
また、Y社には労働組合が存在しないところ、Y社は、本件変更②についても、各事業所の職場代表者の意見を聴取しているが、反対する意見はなかった
その他、Y社は、上記の本件変更②による不利益の程度にもかかわらず、2年間にわたり遅延非控除を適用する経過措置を設けて、その不利益の緩和を図っている
以上によれば、Y社は、本件変更②について従業員に周知している上、本件変更②についてはY社のグループ会社間の人事制度の統一に伴う必要性及び相当性があり、また、本件変更②による不利益は相当程度小さく、経過措置によりその不利益も更に緩和され、職場代表者の意見聴取も行われていることからすれば、本件変更②は合理的であり、有効であるというべきである。

模範解答のような準備のしかたです。ここまでしっかりやれば危なげないですね。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介1118 頑張らなくても意外と死なないからざっくり生きてこ(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

著者は、歌舞伎町のゲイバー店員の方です。

帯には「結局、本気で空気読めないヤツがいちばん幸せに生きられるのよね。あー、腹立つ💛」と書かれています(笑)

はい、そのとおりです。

この世の中、いろいろ生き辛いと感じている方は読んでみましょう。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

ハッキリ言うわ。チームで仕事をするとき、人間に興味がないやつは一切成長しない。『この人は今これをやっているから、自分はこっちをやっておこう』みたいに流れをつかみながら仕事するのって、人に興味がないとできないから。」(134頁)

みなさん、お気づきのとおり、こういうのは、もともとできる人と、いくら指導・教育されてもできない人に分かれます。

「持って生まれたもの」とまでは言いませんが、現状を把握した上で臨機応変に対応できる人は、最初から何の指導もなく、いとも簡単にできます。

状況を鳥瞰する力、次の展開を想像する力がどこから生まれるのかわかりませんが、「できる人」の特徴であることは間違いありません。

継続雇用制度31 人件費削減の必要から嘱託社員の雇止めは認められるか?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、定年後有期雇用契約を2回更新した元社長補佐に対する更新拒絶の適法性に関する裁判例を見てみましょう。

テヅカ事件(福岡地裁令和2年3月19日・労判1230号87頁)

【事案の概要】

本件は、いわゆる定年後の継続雇用としてY社との間で雇用期間を1年とする有期の雇用契約を締結し、複数回の契約更新をしていたXが、雇用契約が更新されると期待することに合理的理由があったにもかかわらず、Y社がこれを拒絶し、そのことについて客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上も相当でないと主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認するとともに、民法536条2項に基づき、更新拒絶の後の給与支払日である平成30年4月から本判決確定の日まで毎月25日限り従前と同一の労働条件である賃金41万7000円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 本件継続雇用制度の運用実態を前提とすると、本件継続雇用制度に基づき継続雇用されていたY社の従業員は、更新することができない何らかの事情がない限り、契約期間の満了時に、満65歳に至るまでは更新されると期待し、そのことについて合理的理由があると認めるのが相当であり、それはXも例外ではないというべきである。

2 Y社において人件費削減の必要性がないとはいえないとしても、平成29年3月頃以降に業績不振に直面した後、人件費削減以外の方策としてどのような対処が考えられるのか、人件費削減による賃金削減により被る不利益の程度をどう抑制するのかなど、経営再建を図るために必要な経営合理化策と解雇や雇止めを可及的に回避するために採るべき措置を具体的に検討した形跡は証拠上認められない

3 現時点(当審の口頭弁論終結日)では、次の更新があるかどうか、又はその更新後の本件雇用契約に基づく賃金額は未確定であるといわざるを得ず、令和2年3月21日以降にも本件雇用契約が当然に存続し、かつそれに基づく賃金額も定められているとは認められない。したがって、Xの賃金請求については、本判決を言い渡す口頭弁論期日が本件雇用契約上の最後の賃金締日である同月20日の前日である同月19日に指定されていることに鑑み、本件雇用契約に基づく最後の賃金支払日である令和2年3月25日を終期として認める限度で理由があり、上記の終期にかかわらず本判決確定の日までの賃金の支払を請求する部分は理由がない

有期雇用契約の場合であっても、正社員同様、整理解雇の場合には、4要素を考慮してその是非を判断する必要があります。

解雇(雇止め)回避努力が不十分な場合には、本件同様の結論となってしまいます。

高年法関連の紛争は、今後ますます増えてくることが予想されます。日頃から顧問弁護士に相談の上、慎重に対応することをお勧めいたします。

本の紹介1117 パーソナル・トランスフォーメーション(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、本の紹介です。

本田直之さんの本です。

サブタイトルは「コロナでライフスタイルと働き方を変革する」です。

もうあの頃には戻れないということを強く意識し、何をどうすればよいのか、著者の見解が述べられています。

非常に共感できる内容です。

いつもそうですが、あとはやるか、やらないか。ただそれだけです。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

アフターコロナでマストになるのは(以前から言い続けていましたが)、複数の収入源だと私は思っています。自分の選択肢を増やしておくことです。副業でなく複業です。また、クリエイティブな人間にしかできない仕事を増やしていく。・・・考え方をリセットすることです。そうでないと危ない。会社にぶら下がっている、組織に属しているから安心だと思った瞬間に、使い捨てられる可能性が出てくる。」(121頁)

このご時世、どこかの組織に属しているから生涯安泰だなんて思っている人がいるのでしょうか?

違いは、準備をしているかどうか、ただそれだけです。

絶対に沈没しない船などありません。

船の大きさは関係ないことはタイタニック号が証明してくれています。

いつどうなるか全く先が読めない時代だからこそ、人が休んでいるときに、コツコツ準備をするのです。