漏水事故9 漏水事故につき、事故前から予定されていた耐震補強工事の補償金受領を理由に原告主張の損害が否定された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、漏水事故につき、事故前から予定されていた耐震補強工事の補償金受領を理由に原告主張の損害が否定された事案(東京地判平成30年11月13日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、原告が、自己の所有する部屋の階上の部屋における漏水事故によって、原告の所有権が侵害され、損害を被ったと主張して、階上の部屋の所有者である被告に対し、不法行為に基づき、内装工事費用88万9506円、事務所移転費用63万7110円及び弁護士費用15万2661円の損害賠償金合計167万9277円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は、本件事故によって、605号室の造作等が浸水し、毀損され、605号室の資産価値が低下するなどの損害が生じたとし、その実情として、原告が事務所として使用していた605号室の用途に支障が生じるなど、原状回復工事を要する程度のものであったと主張する。
そして、本件事故後に、漏水対応工事代を88万9506円、移転費用を63万7110円とする見積書等が作成されている。
しかしながら、605号室については、本件事故当時(平成27年6月26日)、平成27年8月から605号室耐震補強工事の実施が予定され、これに伴い、原告が事務所を仮移転することも予定されていた。
そして、605号室耐震補強工事は、同年8月22日から同年10月28日まで実施され、605号室の事務所は、同年7月25日頃から同年10月29日頃まで、605号室から別室に仮移転し、原告は、移転補償費用を受領した。
また、原告は、605号室耐震補強工事の実施前に、605号室の内装工事を実施せず、605号室耐震補強工事等が実施されたことにより、原告主張の内装工事費用88万9506円及び事務所移転費用63万7110円を支出する予定も必要もなくなった。そして、原告が、605号室耐震補強工事の実施につき、何らかの支出をしたことを認めるに足りる証拠はない。
以上のとおり、本件事故前から、本件事故の約2か月後に605号室耐震補強工事の実施が予定されており、605号室は、605号室の耐震補強工事を受ける必要がある状態であったといえ、かつ、原告は、それに伴い、事務所として使用していた605号室を移転する必要がある状態であったといえる。

2 また、原告は、自ら605号室の内装工事をすることなく、605号室耐震補強工事が実施され、それに伴い、605号室から事務所を仮移転させたが、その移転補償費用を受領し、605号室耐震補強工事等が実施されたことによって、原告主張の内装工事費用88万9506円及び事務所移転費用63万7110円を支出する予定も必要もなくなった
よって、605号室が、本件事故当時、605号室の耐震補強工事を受ける必要がある状態であったこと、原告は、本件事故当時、約2か月後に予定されていた605号室耐震補強工事の実施を受け、それに伴い、移転補償を受けて、605号室の事務所を仮移転させることを選択できたこと、原告は、実際にそれを選択したことからすれば、本件事故による損害賠償を求める原告においては、本件事故当時、社会通念上、原告主張の内装工事費用88万9506円及び事務所移転費用63万7110円の支出を回避する措置を執るべきことが合理的な行為として期待されるというべきであって、原告において回避させることができた損害について賠償の対象とすることは相当ではないというべきである
そして、原告が、実際に、原告主張の上記費用の支出を回避できていることに照らせば、本件事故によって、原告主張の上記費用に係る損害が生じたということはできない。

被告側の調査・立証が奏功した事案です。

入念に調査することにより、結論は大きく変わります。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。