名誉毀損6 管理会社の代表者に対する理事長の名誉毀損行為が一部不法行為に該当するとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理会社の代表者に対する理事長の名誉毀損行為が一部不法行為に該当するとされた事案(東京地判平成31年3月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件本訴請求は、マンション管理組合の理事長であった被告が、組合員に宛てて送付した文書の記載により、原告らの名誉を毀損し、また、管理組合の臨時総会において、原告らの名誉を毀損する発言を行ったとして、原告らが、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、それぞれ100万円+遅延損害金の支払を求める事案である。
なお、原告らは、本件訴えにおいて、上記の被告に対する請求のほか、上記管理組合を被告として、通常総会における決議(管理組合役員選任に関する議案)の無効確認等及び上記被告の不法行為に係る謝罪文の掲示を請求していたが、上記管理組合との間では、平成30年8月23日、訴訟上の和解が成立した。

本件反訴請求は、原告ら及び反訴被告会社が組合員に宛てて送付した文書の記載により被告の名誉を毀損し、また、原告らが被告を尾行したほか、原告Bが管理組合の臨時総会において被告の名誉を毀損する発言を行ったとして、被告が、原告ら及び反訴被告会社に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、連帯して220万円+遅延損害金の支払を求めるとともに、民法723条に基づく名誉回復措置を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、原告Bに対し、20万円+遅延損害金を支払え。

2 被告は、原告Aに対し、30万円+遅延損害金を支払え。

 原告Bは、被告に対し、11万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 まず、「通知書」と題する書面には、「C氏は理事長として欠格者という他はない態度を取り続けており、もはや正常な管理の体をなしていません。」との記載があると認められ、同記載の前提として、被告が理事会議事録の閲覧請求に対応しないとの事実があったのだとしても、被告をそしる表現であるといえる。
また、「臨時総会招集請求書」には、「C理事長は、理事会および管理会社を巻き込み、私たち組合員に対し背信行為を行っている」、「上記以外にも、C理事長による組合運営は善意の組合運営とはかけ離れ、透明性に著しく欠ける。それを裏付ける証言や証拠、資料も次々と出てきている。」との記載があると認められ、同記載が、被告の不信任理由を述べる過程でなされたものであるとしても、被告をそしる表現であるといえる。
以上によれば、原告らが送付した書面の中に、被告を誹謗中傷する表現が用いられた書面があると認められる。

2 真実性の証明については、事実の重要な部分においてこれが真実であることの証明がなされれば足りると解するのが相当であるところ、被告記載2は、原告らが被告に対する強い怨恨を有していることが推察される根拠として、原告らが「200枚以上の誹謗・中傷文書や、50回以上にわたる郵便物」の送付を行ったと記載するものであり、その記載の趣旨を一般人の普通の注意と読み方とを基準として判断すれば、事実の重要な部分の証明としては、原告らが多数の誹謗中傷文書を送付したことの証明がなされれば足りるというべきである。
本件についてみると、「全区分所有者の皆様へ」と題する書面は、平成28年7月21日に送付されたものであるところ、同日までに原告らが、本件管理会社、本件組合の理事、組合員等に対して送付した書面は、合計20件を超え、また、その枚数も、少なくとも合計80枚程度に及ぶものと認められる。
また、被告には、本件管理会社、他の理事及び組合員宛て送付文書の写し等が送付されることがあったものと推認されるところ、これらの文書を併せると、被告の認識した原告らの送付文書の件数及び枚数は、さらに加算されることとなる。
そして、原告らの送付した文書は、全体として、被告による組合運営を批判し、又は不信任決議の成立等を目的とするものであり、被告において、これらを総体として、被告を誹謗中傷するものとして認識することには、相応の理由があるものと認められる。
以上によれば、被告記載2については、被告において、これを真実と信じるにつき相当な理由があるものと認められ、故意もしくは過失がなく、名誉毀損による不法行為は成立しない

本件では、複数の行為について名誉毀損該当性が争われています。

裁判所がいかなる順番でどのような考慮要素について判断をしていくのかについて、その概要を知っておくことはとても大切です。

日常会話でいうところの「名誉毀損だ!」というレベルを超えて、しっかりと法的な判断枠組みを認識することが適切な管理運営においては必要不可欠です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。