管理組合運営29 意思能力を欠く区分所有者に対してされた通知をもって59条競売における弁明の機会が付与されたということはできないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、意思能力を欠く区分所有者に対してされた通知をもって59条競売における弁明の機会が付与されたということはできないとされた事案(札幌地判平成31年1月22日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンション管理組合の管理者である原告(提訴時においてはA、口頭弁論終結時においてはB)が、①本件マンションの区分所有者たる被告に、本件マンションの管理規約に定める管理費等の滞納があるとして、被告に対し、本件管理規約に基づき、平成28年1月分から平成30年6月分までの管理費等合計44万5100円+遅延損害金の支払を求めるとともに、②本件管理規約によって違約金として請求することができることとされている滞納管理費等の徴収に要した弁護士費用及び徴収の諸費用が被告に対する管理費等の滞納の徴収に関しても生じたと主張し、被告に対し、本件管理規約に基づき、上記各費用合計60万8822円+遅延損害金の支払を求め、さらに、③被告による長期間にわたる管理費等の滞納が本件マンションの区分所有者の共同の利益に反するものであり,それが、区分所有法59条1項の要件を充足する程度のものであるとして、同項に基づき、本件マンションの被告の区分所有権及び敷地利用権の競売を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 被告は、原告に対し、105万3922円+遅延損害金を支払え。

2 原告は、被告が所有する別紙物件目録記載1の土地の共有持分権及び別紙物件目録記載2の建物の区分所有権について競売を申し立てることができる。

【判例のポイント】

1 区分所有法59条2項が、同法58条3項を準用し、同法6条1項に規定する行為をした又はその行為をするおそれがある区分所有者の区分所有権及びその敷地利用権について、競売の請求の訴えを提起することに関する集会の決議をするに当たり、当該区分所有者に弁明の機会を付与することとした趣旨は、同請求が当該区分所有者の区分所有権に与える影響の重大性に鑑み、当該区分所有者に確実に反論の機会を与えるという点にある。
そうすると、同法59条2項が準用する同法58条3項の弁明の機会は、単に形式的に当該区分所有者の住所地に弁明の機会を付与する旨の通知が届けられただけでは足りず、当該区分所有者において、その内容を了解することができる能力を有していることが必要と解される。
そして、被告の状況に鑑みれば、被告が、3月20日付け通知書の送付を受けた時点において、その内容を了解することができるだけの能力を有していたとは認め難い。
したがって、本件訴えの提起は、被告に対する弁明の機会を付与しないままされた瑕疵ある決議に基づくものと言わざるを得ない。

2 まず、被告は、弁明の機会の付与を受けることが民事訴訟法上の特別代理人の権限外である旨主張するが、区分所有法59条2項の準用する同法58条3項の弁明の機会の付与は、同法59条1項に規定する競売の請求に係る訴え提起をするために必要とされる集会決議の前提をなす手続法上の要件であると解される上、上記競売の請求はあくまで財産法上の請求であることからすると、その前提としてされる弁明行為が、「本人の自由な意思に基づくことを必須の要件とする一身に専属する身分行為のように代理に親しまないものである」(最高裁第2小法廷昭和33年7月25日民集12巻12号1823頁参照)とも言い難い。
そうすると、区分所有法59条2項の準用する同法58条3項の弁明の機会の付与を受けることは、民事訴訟法上の特別代理人の権限の範囲内に属する事項であると解するのが相当である。
次に、10月26日付け通知書には、被告の行為が区分所有法59条1項の要件を満たすことについての理由の記載がないから、かかる通知書の送付をもって、弁明の機会が付与されたと評価すべきかどうかは別途問題とされるべき事項であるが、10月26日付け通知書が本件特別代理人に送付される前に、上記要件該当性が詳細に記載された本件訴状が本件特別代理人に対して送達されているという当裁判所に顕著な事実や、本件特別代理人が原告に対して送付した弁明書の内容を見ると、本件特別代理人は、原告の主張内容を十分に把握しているものと理解することができることからすれば、10月26日付け通知書の本件特別代理人への送付をもって、被告に対する弁明の機会の付与があったものと評価するのが相当である。
以上によれば、被告に対する弁明の機会を付与することなくされた決議に基づく訴えの提起であるという上記瑕疵は、本件特別代理人に対する10月26日付け通知書の送付によってした弁明の機会の付与とそれを前提とした11月19日付け臨時総会決議によって治癒されたものと解するのが相当である。

59条競売における手続として非常に重要な点ですので、しっかり押さえておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。