管理費・修繕積立金25 管理費等の滞納がないにもかかわらず、その支払を求められたことによる慰謝料請求が棄却された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費等の滞納がないにもかかわらず、その支払を求められたことによる慰謝料請求が棄却された事案(東京地判平成30年12月25日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの2室の区分所有権を担保不動産競売により取得した原告が、本件マンション管理組合である被告に対し、管理費、修繕積立金及び地代の滞納がないにもかかわらず、その支払を求められたことにより、肉体的及び精神的な苦痛を被ったことを理由に、民法709条の不法行為に基づく損害賠償の請求として、120万円+遅延損害金の支払を求める事件(本訴)と、被告が、原告に対し、原告が滞納する管理費等(176万6424円)及び平成28年6月30日までの確定遅延損害金(270万7223円)の合計447万3647円並びに原告が滞納する管理費等(176万6424円)に対する遅延損害金の支払を求める事件(反訴)の事案である。

【裁判所の判断】

1 原告(反訴被告)の請求を棄却する。

 被告(反訴原告)の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 被告が平成17年9月29日に開催した第22回Y管理組合定期総会において配布されたaマンション未収入金一覧表と題する書面には、本件各室についての遅延損害金として合計52万4187円が計上されているが、その滞納期間として、平成14年6月分ないし平成15年6月分、平成16年1月及び2月分不足、同年3月ないし12月分及び平成17年1月ないし7月分である旨が記載されており、法定充当の方法によるのではなく、その一部について指定充当をされたものとうかがわれることに加え、本件和解において定められた期限の利益を喪失した後であるにもかかわらず、第22回貸借対照表や第23回中間貸借対照表には、未収金及び地代未収金と異なり、遅延損害金が計上されていないが、被告において財産の状況を監査し、その結果を総会に報告する監事が置かれ(管理規約・45条1項及び建物の区分所有に関する法律50条1項及び3項参照)、収支決算及び事業報告が総会の決議を経なければならないとされていること(管理規約・52条1号)に照らすと、当時、被告として、そもそも遅延損害金についての存在の認識が希薄であったと考えられる。
そして、原告が平成17年12月21日に本件各室を取得した後は、原告において被告から請求された本件管理費等の金額を支払ってきたところ、被告が原告に対して延滞する管理費等があるとして、その支払を求めるまでに10年以上が経過したことも併せ考慮すると、原告が被告に対して支払った上記の各金員については、原告と被告との間で、管理費等に係る請求書に記載の期間について支払うものとしての黙示の合意があったと認められる。
したがって、被告の原告に対するb社による管理費等についての滞納やこれについての遅延損害金の滞納に係る債権が存在したとしても、消滅時効を理由に消滅したと認められる。

2 被告の原告に対する管理費等の請求は、結果として、理由がないものであるが、その論拠は、消滅時効を援用したことによるものである。そして、原告と被告の間で充当関係についての見解に相違があったことも併せ考慮すると、本件の訴えに先立ち、被告が原告に対して管理費等の滞納についての請求をしたこと自体は、相応の根拠に基づくものであって、不合理なものとはいえない。以上に加え、地代の支払については、本件の審理において原告側から書証として提出されるまで、被告において把握しておらず、そのことが被告の原告に対する請求の一因になった可能性があるとの事情も踏まえると、被告が原告に対して管理費等の請求をしたこと自体については、何ら違法なものとはいえない。
したがって、被告が原告に対して未払の管理費等についての請求をしたことについて、不法行為は成立しない。

区分所有建物における管理費等の回収の場面では、充当関係が問題となることがあります。

充当の順番をしっかり理解しておかないと、滞納金額の正確な把握ができないため、注意しましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。