おはようございます。
今日は、上階からの漏水事故につき、3000万円超の損害賠償請求に対し約130万円のみを損害として認定された事案(東京地判平成29年10月6日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
本件は、マンションの一室を所有し、同室に居住している原告が、その上階の部屋を賃借して居住していた被告に対し、被告宅の洗濯機の排水部分から漏水が生じたために、原告宅の天井やカーペットが汚損されるなどの損害を被ったとして、不法行為に基づき、損害金3039万6500円+遅延損害金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
被告は、原告に対し、129万4677円+遅延損害金を支払え
【判例のポイント】
1 本件洗濯機使用時に本件事故が発生していること、本件事故による漏水箇所(原告宅キッチン)の真上に本件洗濯機が位置すること、本件洗濯機や、同種のビルトイン洗濯機の排水詰まりを原因とする漏水事故が本件マンションにおいて過去に複数回発生していること、本件事故の約1か月半後に実施されたデーエムの調査の際、本件洗濯機の周囲に洗剤様の白い粉末や、シミが観察されたこと(被告は本件事故の約3年前にも本件洗濯機の排水詰まりを原因とする漏水事故を起こしているが、上記の痕跡は比較的新しいもののように見受けられる。)、本件事故の漏水の経路についてほかに合理的な説明が考えられないこと等に照らせば、本件事故は本件洗濯機の排水詰まりを原因とするものと認められる。
2 本件洗濯機の使用前に排水トラップを清掃するなどの義務があったかを検討するに、本件洗濯機や排水トラップの取扱説明書には定期的な点検や清掃が必要との記載があったことや、管理受託者等が本件事故前にも排水トラップの清掃を要請していたことに照らせば、かかる義務は認められる。そして、本件洗濯機の排水詰まりが原因で本件事故が生じており、デーエム等の調査によっても排水トラップの破損等、ほかの漏水原因が指摘されていない以上、被告はかかる清掃を怠っていたと考えるほかない。
3 原告は原告宅全般にわたって天井の補修やカーペットの張替を求めるが、直接汚損されていない範囲も含んでおり、過大な請求といわざるを得ない。
原告は、汚水を含んだ漆喰の下で生活することは原告にとって耐え難い等というが、かかる主観的な事情をもって損害の範囲を決するのは相当でない。
また、原告は、少なくとも702万円(税込)は損害として認められるべきとして、三井不動産リフォーム株式会社作成の見積書を提出する。
しかし、同見積書は、本件事故から1年半以上が経過した平成27年5月31日に作成されたものであり、十分な現地調査を経たものとはいえない上、天井の下地となる石膏ボードはある程度含水したことが予想され、今後の耐久性も含め、漏水前と比べると劣っている可能性が高いとか、今回の漏水によりフローリングも腐食が起こっていると想定されるとか、可能性を指摘するにとどまっており、補修費用の根拠としてにわかに採用しがたい。
そうすると、上記認定にかかる範囲の補修費用のみが本件事故と相当因果関係にあるといえる。
よって、デーエム作成にかかる見積書記載のとおり、補修費用(カーペット張替費用含む。)は117万4677円と認められる。
デーエムは三井住友海上の依頼を受けて損害調査をしているため、保険金の支出を減らす方向で査定しているとの指摘も原告からなされているが、損害範囲の認定や、工事の単価等に不合理な点は見受けられず、また、原告から全室に損害が及んでいる旨の主張を受けて再訪問までした上で当初の査定金額を維持しているのであり、相応に慎重な調査をしたものといえるから、原告の指摘は上記認定を左右するものではない。
その他、原告は転居費用も請求するが、上記認定にかかる補修工事の範囲や内容、原告宅の広さ等に鑑みて、工事期間中の仮住まいが必要とまでは認められず、上記費用は認められない。
漏水事故に限りませんが、このような事案の特徴として、責任論のみならず、損害論の難しさが挙げられます。
裁判所はかなり限定的・謙抑的に損害を認定する傾向にありますので注意が必要です。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。