管理組合運営37 区分所有者の1人が、区分所有法25条2項に基づく管理者解任請求訴訟に関して支出した弁護士費用相当額につき、管理組合や他の区分所有者に対して事務管理による有益費償還請求ができるか(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、区分所有者の1人が、区分所有法25条2項に基づく管理者解任請求訴訟に関して支出した弁護士費用相当額につき、管理組合や他の区分所有者に対して事務管理による有益費償還請求ができるか(東京高判平成29年4月19日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの区分所有者である控訴人らが、同マンションの他の区分所有者の一部である被控訴人らに対し、控訴人らが原告として提起した区分所有法25条2項に基づく管理者解任請求訴訟(管理者の解任を命じる内容の控訴人ら勝訴判決確定。)に関して支出した弁護士報酬相当額(50万3590円)につき、事務管理による有益費償還請求権に基づき、その持分割合に応じた金額の支払を求める事案である。

原判決は、控訴人らの請求をいずれも棄却したことから、控訴人らがこれを不服として控訴を提起した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 控訴人らは、本件解任訴訟の提起の当時、組合員の中には、訴訟提起に賛成の者もいれば反対の者もいること、反対の者の数が決して少なくないことが確実であることを認識していたものというべきである。
そして、被控訴人らは本件解任訴訟の提起に反対の者に属するから、本件訴訟提起は被控訴人らの意思に反することが明らかであり、控訴人らは被控訴人らに対して本件解任訴訟の提起に関する事務管理に基づく有益費償還請求権を有しないものというべきである。

2 控訴人らは、本件管理組合を本人とする事務管理が成立するとも主張する。しかしながら、区分所有法25条2項の管理者解任請求は、各区分所有者固有の権利であって、管理組合の権利ではないから、本件解任訴訟について、本件管理組合を本人とする事務管理が成立する余地はないものというべきである。

3 株主代表訴訟は、株式会社の有する権利を株主が行使する点において、区分所有者固有の権利(管理組合の権利ではない。)を区分所有者が行使する管理者解任請求訴訟とは、その構造を異にする
そして、株主代表訴訟においては、株式会社を本人とし、株主を管理者とする事務管理という構図が当てはまる。
しかしながら、株主代表訴訟は、株主の提訴請求を株式会社が明示的に拒絶した後に提起されるなど、訴訟の提起が本人たる株式会社の意思に反することが明らかなことが多い(会社法847条1項、3項、4項参照)。
このように、多くの株主代表訴訟においては、株式会社のための事務管理が成立せず、株式会社に対する有益費償還請求権も発生しない。しかしながら、立法者は、このような場合に勝訴株主が全く費用等の償還を受けられないことは不適切であると判断して、特別に、株式会社のための事務管理が成立しない場合であっても勝訴株主の株式会社に対する費用報酬支払請求権を発生させる条文(会社法852条)が設けられているのである。
会社法上の訴えの中で、その構造が区分所有法25条2項の管理者解任請求に近いのは、株式会社の役員の解任の訴え(会社法854条)である。
株式会社の役員の解任の訴えは、当該役員を解任する旨の議案が株主総会(又は種類株主総会)で否決されたときに限り、会社法所定の要件を満たす株主が株主固有の権利として、提起することができる。
そうすると、他の株主の中には、株式会社の役員の解任の訴えの提起に反対することが明らかな者(以下「反対株主」という。)がいることが確実であって、この場合には、反対株主を本人とする事務管理は成立の余地がない。そして、反対株主に対する費用償還請求権を認める内容の法律の規定は設けられていないから、結局のところ、勝訴株主は反対株主に対して費用償還を請求することができない
区分所有法25条2項の管理者解任請求も、費用償還に関しては、株式会社の役員の解任の訴えとおおむね同様の問題状況にあり、解任に反対する区分所有者に対する勝訴株主への費用償還を命じることには無理がある

非常にチャレンジングな訴訟です。

裁判所が丁寧に、会社法上の制度との相違点を説明してくれています。

管理組合及び他の区分所有者との関係で事務管理の有効要件を満たさないため、上記結論となりました。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。