おはようございます。
今日は、マンションの新築工事における外壁及び玄関庇への石材取付工事につき、同工事の施工者が、建物としての基本的な安全性が欠けることのないように配慮するべき注意義務を怠ったとして、同施工者の不法行為責任が認められた事案(東京地判平成29年3月31日)を見ていきましょう。
【事案の概要】
本件は、本件建物の管理組合の管理者である原告が、本件建物の窓の上下及び正面玄関庇に取り付けられた石材について、それぞれ、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があると主張して、本件建物の新築工事を施工した被告に対し、本件建物の区分所有者らの有する不法行為による損害賠償請求権に基づき、同区分所有者らのために、上記瑕疵の補修工事費用として4555万9556円及び同補修工事に関する見積書作成費用として30万2400円の合計4586万1956円+遅延損害金の支払を求めた事案である。
【裁判所の判断】
被告は、原告に対し、620万5497円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 本件外壁石材は、約1キログラムないし約16キログラムの相当程度の重量物であるところ、仮に、1階分の階高以上の高低差のある高所から剝落して、地表の通行人の上に落下した場合、当該人の生命又は身体に重大な損害を与える蓋然性が高いことに鑑みると、本件外壁石材を1階分の階高以上の高低差をもって通行人の上に落下し得るような場所の躯体に取り付ける行為自体が、当該外壁石材の剝落により居住者等の生命又は身体に対する高度の危険性を内在するものというべきである。
そうすると、施工者は、本件外壁石材を躯体に取り付けるに当たっては、これが剝落・落下して、居住者等の生命又は身体を危険にさらすことがないように配慮すべき注意義務、すなわち、その剝落・落下を防止するための十分な措置を講じるべき義務(「剝落等防止措置義務」)があるというべきである。
2 少なくとも、本件外壁石材のような外壁材を1階分の階高以上の高低差をもって通行人の上に落下し得るような場所の躯体に取り付ける場合に関しては、①一般的合理的施工方法に則しているときには、原則として、剝落等防止措置義務の違反はないというべきであるが、他方で、②一般的合理的施工方法に則していないときには、原則として、当該義務の違反があり、そのために、本件建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があるということができるものの、②のときであっても、実際に採られた施工方法が、一般的合理的施工方法と同等又はそれ以上の効用を有すると認めることができるならば、上記義務を怠ったということはできないと解するのが相当である。
そうすると、少なくとも、前記の場合に関しては、①当該施工を行った施工者に対して建物としての基本的な安全性が欠けることがないよう配慮すべき注意義務に違反することを理由として不法行為に基づく損害賠償を請求する者の側において、施工者の上記施工内容が一般的合理的施工方法に則していないことを主張・立証した場合には、原則として、施工者において、剝落等防止措置義務を怠った、すなわち、居住者等の生命又は身体を危険にさらすことがないように配慮すべき注意義務の違反があり、そのために、本件建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があると認められ、②これに対して、施工者の側で、自らの行った上記施工が、一般的合理的施工方法とは異なるものの、当該外壁石材の剝落・落下の防止に関して、当該一般的合理的施工方法と同等又はそれ以上の効用を有することを主張・立証した場合には、当該義務を怠ったと認めることはできない、すなわち、居住者等の生命又は身体を危険にさらすことがないように配慮すべき注意義務の違反があると認めることはできないというべきである。
あてはめ部分については省略しますが、「剥落等防止措置義務」違反の判断方法が示されていますので押さえておきましょう。
マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。