名誉毀損17 理事が理事長について「手の付けられない傍若無人ぶり」、「理事長の蛮行」、「指揮官の私物化強権体質」、「強権支配」、「業者との癒着構造」等と記載したビラをマンションの全住戸に配布したにもかかわらず名誉毀損にはあたらないとされた理由とは?(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、理事が理事長について「手の付けられない傍若無人ぶり」、「理事長の蛮行」、「指揮官の私物化強権体質」、「強権支配」、「業者との癒着構造」等と記載したビラをマンションの全住戸に配布したにもかかわらず名誉毀損にはあたらないとされた理由とは?(東京地判令和4年2月21日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの全住戸に配布された合計3通のビラに関し、同マンション管理組合の理事長を務めていた原告が、本件各ビラはいずれも本件組合の理事を務めていた被告らが配布したものであり、これによって原告の名誉が毀損されたと主張し、被告らに対し、民法719条1項に基づき、慰謝料と弁護士費用の合計220万円+遅延損害金の連帯支払を求めるとともに、民法723条に基づき、名誉回復措置として本件マンションの掲示板への謝罪文の掲示を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告と被告Y1及び被告Y3は、本件組合の第38期理事会が進めていた本件大規模修繕工事の計画内容に反対し、理事長や理事会に対して批判的なビラを作成して本件マンションの全住戸に配布するなどしていたが、やがて原告と被告Y1及び被告Y3の反対方針にずれが生じ、ともに本件組合の第39期理事になった後は、互いに批判的な内容のビラを作成して本件マンションの全住戸に配布するようになっていたこと、とりわけ被告Y1や被告Y3は、第39期理事会で決まったことに反対する旨の被告ら名義のビラを作成して全戸配布していたこと、そのため、令和2年7月頃には、被告らのビラ配布行為に批判的な本件マンションの住民が現れ(署名入りの者だけでも48名)、同年12月頃には、本件組合の理事に対して被告らがビラを全住戸に配布することにうんざりする旨訴えていた住民がおり、そのことが定例理事会で話題になったこと、以上の事実が認定できる。

2 そうすると、同年11月6日頃に原告が本件排水管工事を早急に実施することを内容とするビラを本件マンションの全戸に配布したことに対し、これを批判する被告ら名義の同月13日付の本件ビラ1、同年12月4日付本件ビラ2及び同月11日付本件ビラ3が本件マンションの全住戸に配布され、本件各ビラに、本件排水管工事に関する記載のほかに、原告について「手の付けられない傍若無人ぶり」、「指揮官の強引さと横暴ぶりには唖然とせざるを得ません」、「理事長の蛮行」、「指揮官の私物化強権体質」、「理事長の専横」、「強権支配」、「業者との癒着構造」、「業者と理事会幹部の危なっかしい癒着構造」、「管理会社と次期幹部が仕組んだ総会議決の転覆不正契約」などの記載があったとしても、本件各ビラを受け取った本件マンションの住民は、被告らが様々な理由にかこつけて本件組合の理事長である原告の理事会運営等に対して従前と同様の批判を繰り返しているとの印象を抱くにとどまるといえるから、本件各ビラによって改めて原告の社会的評価が低下したということはできない
また、仮に本件各ビラが本件マンションの住民以外の者に拡散されたとしても、本件各ビラの体裁からして、それを読んだ者は「本件組合内部の本件大規模修繕工事に関する意見の対立から本件組合の理事会による運営方針等に反目する被告らが理事会を批判するために理事長である原告をあしざまに言っているのであろう」という程度の印象を抱くにすぎないといえるから、本件各ビラによって原告の社会的評価が低下したということはできない。
したがって、本件各ビラの一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とした場合、本件各ビラの意味内容が原告の社会的評価を低下させるものということはできず、本件各ビラの配布行為が原告に対する名誉毀損に当たるとはいえない。

一見すると名誉毀損に当たることは明らかなようにも見えますが、上記判例のポイント1のような事情から、社会的評価を低下させるものとはいえないと判断しています。

このような判断もあり得るのだと知っておくことが大切です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。