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義務違反に対する制裁2 マンションの管理者が区分所有者において他に賃貸した場合にはガス・水道栓を開くわけにはいかない旨を通告したことが不法行為とならないとされた事例(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

マンションの管理者が区分所有者において他に賃貸した場合にはガス・水道栓を開くわけにはいかない旨を通告したことが不法行為とならないとされた事例(東京高判昭和50年11月26日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの管理者が区分所有者において他に賃貸した場合にはガス・水道栓を開くわけにはいかない旨を通告したことが不法行為にあたるかが争われた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 管理委託契約に基づき管理権限を有するY社の業務担当取締役たるAが管理人Bに指示して、訴外Cに対し、Xとの話合いがつくまで本件住居を他に賃貸するのは待ってほしい、もし貸してもガス、水道を開くわけにはいかない旨申し入れたことは、Y社からの再々の改善方申入れにもかかわらず、Xとしてはこれに対し何らの回答もしなかったなど原判決が認定判示する前記諸事情のもとで考えれば、本件マンションの管理運営上やむをえずなされたものということができるし、その表現自体、Xとの話合いがつくまで本件住居の賃貸借契約の締結を待ってほしいというものであり、その趣旨は前記管理委託契約におけるXの今後の義務履行を確実にするための話合いに応ずるよう仕向けることに主眼があり、もし貸してもガス、水道を開くわけにはいかないという後段は、前段の右趣旨を強調するためのものと解され、しかも、原判決の認定するところによればAの指示による管理人Bの右申入れをCから通告されたDとしては、右申入れによって本件住居の賃借を断念したというのでなくて、その後一か月を経過しても、XとY社との間に何らの解決もなされなかったので右賃借を断念したというのであるから、この事実関係にも照らして考えれば、AがBに指示して行った右申入れは、原判決がいうようにXのDに対する本件住居の賃貸を差し止めるまでの趣旨とは解されず、管理業務上の行為として行きすぎのものであるということはできず、これをもって違法、不当と評価するには値しないものといわなければならない。

原審は、区分所有者からの損害賠償請求を認容しましたが、上告審では上記の理由から発言の違法性を否定しました。

もっとも、発言如何によっては、当該事案のように長期にわたる訴訟に発展しかねませんので注意が必要です。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

義務違反に対する制裁1 管理費・冷暖房費の不払に対するペナルティとして給湯を停止したことが権利濫用にあたり不法行為とされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理費・冷暖房費の不払に対するペナルティとして給湯を停止したことが権利濫用にあたり不法行為とされた事案(東京地判平成2年1月30日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理費の不払を理由として給湯を停止することは、権利の濫用に当り、不法行為を構成するかが争われた事案である。

【裁判所の判断】

不法行為を構成する。
→慰謝料30万円

【判例のポイント】

1 原告らは、また、本件管理規約の無効を主張するが、本件マンションの居住者にとって、給湯、冷暖房の供給が不可欠であるとしても、その利用の対価として管理費等を支払うべき義務を負うのは当然であり、その支払を拒む正当な理由があるとすれば、その理由を法的に明確に主張し、後に不当利得としてその返還を求める等の手段に出ることが可能であるから、管理者が、給湯等の利用について管理の委任を受けた区分所有者との間で、管理費等の不払いに対抗する手段として、暖房、給湯等の供給を停止することができる旨を約定することが、直ちに公序良俗に反し、又は自力救済と同視すべきものであるということはできない

2 原告X1に対する給湯停止の措置は、管理規約に基づくもので、あらかじめ管理費等の支払を督促し、給湯停止措置に出ることを警告した上で行われたものではあるが、給湯という日常生活に不可欠のサービスを停めるのは、諸経費の滞納問題の解決について、他の方法をとることが著しく困難であるか、実際上効果がないような場合に限って是認されるものと解すべきである。
本件において、原告X1の不払いの最大の原因となっていた冷暖房費については、現に旧シャトー松尾時代からの入居者Aに対しては、その意向に沿って冷暖房の供給をしていないのであり、冷暖房設備の撤去工事も、後に原告X1がみずからしたように、他の区分所有者への供給とは切り離して、比較的容易にすることができたのであるから、管理会社である株式会社BないしCとしては、昭和55年4月5日より前、給湯停止前に、冷暖房の供給停止を条件に、それまでの管理費及び冷暖房費の滞納分の支払を求める交渉をしてしかるべきであった。
その上、B管理の事務処理上のミスから、原告X1の入居後約一年を経て冷暖房費の請求がなされるようになったことが、原告X1に管理会社に対する不信感を抱かせる原因となったことが容易に推認できるから、B管理の原告X1に対する対応は適切を欠いたもので、本件給湯停止の措置は、権利の濫用に当たるものといわざるを得ない。

本裁判例は、ペナルティを定めた管理規約自体は有効と判断した上で、適用場面を制限しました。

このような管理規約はそれ自体無効と判断される可能性も十分ありますので、注意必要です。

規約に書いてあればなんでもOKというわけではないということを認識しておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。