Category Archives: 管理組合運営

管理組合運営18 管理組合法人と理事長の利益相反が否定され、監事が管理組合を代表して行った訴訟提起が認められなかった事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合法人と理事長の利益相反が否定され、監事が管理組合を代表して行った訴訟提起が認められなかった事案(東京地判令和3年7月30日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、管理組合法人と理事長の利益相反の有無、及び、監事が管理組合を代表して行った訴訟提起の有効性が争いとなった事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告は監事として、臨時総会を招集しようとしたが、本件管理会社が監事である原告の指示に従わなかったとして、同総会の運営について補助することを求め、本件管理組合を代表して別件訴訟を提起したことが認められる。
本件管理組合においては、理事長が代表権を有しており、本件管理組合と理事長との利益が相反する事項に限って、監事が代表権を有することとされている(区分所有法51条)。
そして、管理組合法人と理事長(代表権を有する理事)の利益が相反する事項であるか否かは、当該行為の外形から判断すべきであり、理事長個人と管理組合法人との間で法律行為をする場合(自己契約)や、理事長が代表し、又は代理する第三者と管理組合法人との間で法律行為をする場合(双方代表又は双方代理)などが想定される
しかし、別件訴訟は、本件管理組合の理事長であった被告を相手方とするものではなく、本件管理会社を相手方とするものであるから、外形的に見て、本件管理組合と被告との利益が相反する事項に該当するとは認められない。
そうすると、原告は、別件訴訟について本件管理組合を代表することはできず、そもそも、本件管理組合を代表して別件訴訟を提起することができなかったと言わざるを得ない。

2 以上によれば、監事である原告が本件管理組合を代表することができる場合に該当しないにもかかわらず、原告が本件管理組合を代表して提起した別件訴訟について、原告がその費用を本件管理組合に対して請求することができる根拠は明らかでない。
したがって、本件管理組合が原告に対して前記費用を支払うべき義務があるとは認められないから、前記支払義務があることを前提とする原告の主張は前提を欠くといわざるを得ない。

本裁判例を通じて、管理組合と理事との利益相反について裁判所の考え方を押さえておきましょう。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理組合運営17 総会における損保保険料を管理費から支出する旨の決議の無効確認の訴えが却下された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、総会における損保保険料を管理費から支出する旨の決議の無効確認の訴えが却下された事案(東京地判令和2年2月20日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの区分所有者であった原告らが、本件マンション管理組合である被告の臨時総会において、被告と損保ジャパン日本興亜株式会社との間でマンション総合保険に係る契約を締結し、その保険料を管理費から支出する旨の決議がされたことにつき、本件マンションの管理規約上は、管理費は共用部分直接費としての保険料にのみ充当するものとされているのに、上記保険契約には本件マンションの各専有部分に係る個人賠償責任保険特約が付されており、本件規約に違反する内容となっているから無効であると主張して、被告に対し、本件決議が無効であることの確認を求めた事案である。

【裁判所の判断】

訴え却下

【判例のポイント】

1 本件訴えの内容は、被告の臨時総会において可決された本件決議が無効であることの確認を求めるというものであるところ、原告らは、本件決議が無効とされれば、原告らが被告の組合員であった時に管理費から支出された保険料が返還され、本件マンションの管理費を充実させることができるのであり、被告との間の紛争が抜本的に解決されることから、本件訴えの確認の利益及び原告適格が認められると主張する。
しかし、本件規約上、被告の組合員は、被告に対し、既に納めた管理費の返還を求めることはできないと定められていることが認められる(61条4項)。
そうすると、仮に、原告が主張するように本件決議が無効であることを確認する旨の判決を得た上、原告らが被告の組合員であった時に本件マンションの管理費から支出された保険料が返還されたとしても、原告らに対して直接金員の返還がされることにはならない
そして、原告X1は令和元年6月28日に、原告X2は同年7月18日に、それぞれ各専有部分である区分所有建物を売却し、いずれも被告の組合員の資格を喪失しているのであって、本件マンションの管理費を上記返還金の分だけ充実させることについて、本件決議に関する原告らの不満等が緩和されることはあったとしても、原告ら自身の現在の法律上の利益ないし地位は何ら客観的・具体的な影響を受けるものではないというほかない。
その他、本件において、原告らが、本件決議の効力について格別の利害関係を有することをうかがわせる事情は見当たらず、本件訴えが、現に存する法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために適切かつ必要な場合に当たると認めることはできない
以上のとおり、原告らにおいて、本件訴えによって本件決議が無効であることの確認を求めることについて、法律上の利益があるとはいえないから、本件訴えにつき確認の利益があると認めることはできない

意識していないと、被告(管理組合)としては、単に請求棄却を求めてしまいそうなところですので注意しましょう。

管理規約に「被告の組合員は、被告に対し、既に納めた管理費の返還を求めることはできない」旨が定められていることが多いため、是非、本件裁判例を参考にしてください。

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管理組合運営16 総会において原告が管理組合法人の役員(理事長)に立候補したにもかかわらず議案に掲げられなかったことが不当とはいえないとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、総会において原告が管理組合法人の役員(理事長)に立候補したにもかかわらず議案に掲げられなかったことが不当とはいえないとされた事案(東京地判令和2年2月25日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件物件の区分所有者である原告が、本件物件の管理組合法人である被告に対し、①被告の役員の選出手続が適正に行われていないなどと主張して、被告の役員を選出する手続を行うことを求め、②本件総会の議長が原告であるべきはずであったのに、他の者が議長とされたなどと主張して、本件総会の議長が原告であったことの確認を求め、③被告がその理事の地位にあると主張するB、C、D、E及びF並びにその監事の地位にあると主張するGは、いずれも理事又は監事の資格を有しない旨主張して、本件役員らがそれぞれ被告の理事又は監事の資格を欠格していることの確認を求め、④上記Gが監事の資格を有しない結果、被告には監事が存在しない旨主張して、被告に監事が存在しないことの確認を求め、⑤本件役員らが役員として主催した被告の総会が無効であると主張して、被告の設立以降に開催された総会の決議が無効であることの確認を求める事案であると解される。

【裁判所の判断】

本件訴えのうち、定時総会の議長が原告であることの確認を求める部分を却下する。

原告のその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 原告は、被告の役員が本件物件の区分所有者の中から選任されるべきであり、本件総会において自らが理事長に立候補したのに議案に掲げられなかったことから、被告が役員を選出する手続をすべき義務を負う旨主張する。
しかしながら、区分所有法及び本件管理規約において、管理組合法人である被告の役員が本件物件の区分所有者でなければならないことを定めた規定は見当たらない
そして、本件管理規約において、被告の役員は、本件物件の管理組合にて区分所有法上の管理者を務めていたA社の推薦する本件物件の管理事務につき専門的知識と経験を有する者を、総会にて選任するものとされているところ、この本件管理規約の定めによれば、本件総会に当たり原告がA社から推薦されていなかった以上、被告の役員(理事長)に立候補したことが議案に掲げられなかったこともやむを得ないというべきである。

2 原告は、平成30年11月17日に開催された本件総会の議長が原告であることの確認を求めている。
しかしながら、本件総会は既に行われたものであり、かつ、総会の議長であったか否かは事実関係の存否の問題であるから、本件議長確認請求は、過去の事実関係の確認を求めるものであるということができる。
そして、本件総会の議長が原告であったことの確認をすることが、原告の現在の法律関係に関する法律上の紛争を抜本的に解決するために必要かつ適切であると認めることができない以上、本件議長確認請求は、確認の利益を欠く不適法な訴えであるといわざるを得ない。
なお、本件物件の管理規約においては、「総会の議長は理事長又は理事,若しくは理事長の指定する代理人が務める。」こととされているところ、本件総会においては、被告の理事長から代理人として委任された本件従業員が議長を務めたのであり、その手続に瑕疵も認められないし、本件管理規約の上記規定によれば、原告が、被告の理事長又は理事でなく、理事長から代理人として指定されたこともなかった以上、本件総会の議長であったとは認められない。

本件同様、規約により役員の選任要件が限定されている場合、その要件に合理性が認められる限りは、裁判所も当該規約を尊重します。

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管理組合運営15 不起訴合意に反する提訴が不当提訴にあたるとされ不法行為に該当すると判断された事案(不動産・顧問弁護士@静岡) 

おはようございます。

今日は、不起訴合意に反する提訴が不当提訴にあたるとされ不法行為に該当すると判断された事案(東京地判令和2年3月24日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本訴は、「本件マンション」の区分所有者である原告が、本件マンションの区分所有者全員で構成される区分所有法3条所定の団体である被告に対し、①平成30年6月17日開催の本件総会における第1号議案及び第2号議案に係る各決議について、決議に至る手続に瑕疵がある、決議内容に不合理な点があるなどと主張して、これらの決議がいずれも無効であることの確認を求めるとともに、②被告の管理規約68条に基づく、本訴における被告の弁護士費用に係る原告の債務が存在しないことの確認を求める事案である。

反訴は、被告が、原告による本訴の提起は当事者間における不起訴合意に反する不当な訴訟提起であると主張して、原告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、本訴に係る弁護士費用(43万2000円)及びその他損害(10万円)の合計53万2000円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

原告の各訴えをいずれも却下する。

原告は、被告に対し、30万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件各決議は、本件不起訴合意にいう「本和解成立までに行われた被告管理組合の運営及び役員の業務執行に関する一切の事項」に該当する。よって、本件各決議の無効確認を内容とする本訴請求(1)に係る訴えは、本件不起訴合意に抵触し、訴えの利益がないから、却下するのが相当である。
これに対し,原告は、本件不起訴合意は、訴権を不当に制限するものであり、無効であると主張する。しかしながら、本件不起訴合意は、「本和解成立までに行われた」と時間的限定を設けており、将来にわたって一切の裁判上の請求ができないとまではしていないこと、また、合意当時にはおよそ知り得なかった事情が後に発覚したような例外的場合にも一切の裁判上の請求を禁ずるものとは解されないことに照らせば、原告の訴権を不当に制約するものであるとはいえないから、原告の上記主張は採用できない。
 
2 訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、本件不起訴合意の内容は明確であること、本件各決議が本件不起訴合意にいう「管理組合の運営及び役員の業務執行に関する」事項であることは明白であることからすれば、本訴に係る訴えが本件不起訴合意によって却下となることは通常人であれば容易に知り得たといえる。
したがって、原告は、その主張する法律関係が事実的、法律的根拠を欠くことを通常人であれば容易に知り得たといえる状況においてて、あえて本訴を提起したものといえる
加えて、本件不起訴合意に至る協議の中で本件各決議についても検討を行い、本件各決議があることを念頭に置いた上で本件不起訴合意に至ったのにもかかわらず、本件不起訴合意から間もなくして本訴提起に至っていることをも併せ考慮すれば、本訴の提起は、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く違法なものと認められ、不法行為を構成するといえる。

「不起訴合意」の有効性は、裁判でよく争点となりますので、上記判例のポイント1でしっかり押さえておきましょう。

有効な不起訴合意に反して提訴した場合には、本件同様、不当提訴と判断され、不法行為責任を負うことになりますので注意が必要です。

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管理組合運営14 12年前の定期総会における特別決議の瑕疵(頭数要件の欠缺)を主張することは権利濫用にあたるとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、12年前の定期総会における特別決議の瑕疵(頭数要件の欠缺)を主張することは権利濫用にあたるとされた事案(東京地判令和2年9月10日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの区分所有権を有する原告らが、本件マンション管理組合である被告に対し、平成19年1月28日に開催された被告の第18期定期総会においてされた本件特別決議が無効であることの確認又はこれと選択的に本件特別決議が不存在であることの確認をそれぞれ求める事案である。

なお、被告は、原告X1社は、本件特別決議において賛成しており、平成31年になって本件特別決議に疑義を呈するまで一度も異議を述べたことはなかったのであり、原告X1社の本訴請求は、禁反言、信義則違反又は権利濫用に当たる旨主張する。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 原告X1社は、本件特別決議当時、総議決件数10万のうち当時4万1664個もの議決権を有しており、自ら同決議に賛成していたこと、本件特別決議の後に議事録の配布を受けて頭数要件を欠いていたことを認識し得たこと、本件特別決議がされた翌年の本件19期定期総会の議案説明書において4名の理事を推薦する旨及び役員の資格が現に居住する組合員となっているとの記載があったところ、同総会の議案について議決権行使を一任する委任状を提出していること、その後の定期総会議事録には3名を超える理事の選任が記載されていること、にもかかわらず平成31年に至るまで何らの異議も唱えず、むしろ本件管理規約第31条の改訂の議案を含む本件24期定期総会の議案についても議長に一任する委任状を提出していたことが認められる。
そうすると、仮に平成31年になって初めて本件特別決議の有効性について具体的疑問が生じたとしても、議事録の配布によって決議の手続的瑕疵について知り得たのに、本訴提起まで12年間にわたり何らの手続とることもなかったこと、他方で、築後31年を経過する本件マンションにおいては、13年ぶりの大規模修繕工事を予定しており、そのための契約締結時期を本件訴訟の動向を踏まえて検討することとしていることが認められ、本件特別決議が無効とされることにより本件マンションの管理・運営に及ぼす影響は小さくないことも併せ考慮すれば、本件特別決議による本件管理規約の改正は、理事の資格について法人を除外する結果になるものであり、重要なものであったものの、自ら賛成し長年にわたって何らの異議も唱えていなかった原告X1社が、12年も後になって、3名の区分所有者の不足という不備を捉えて本件特別決議の瑕疵を主張するのは、権利濫用であるといわざるを得ない

2 原告X2社は、本件特別決議当時区分所有者ではなかったものの、平成23年4月15日に原告X1社から本件マンションの専有部分を譲り受けた後、本件24期定期総会には議長に議決権行使を委任する委任状を提出しており、議案に反対していなかったことが認められる。
そして、原告X2社は、本件特別決議に賛成した原告X1社から専有部分を譲り受けたことにより区分所有者になったところ、原告X1社と取締役2名が同一であり、同社の取締役が原告X2社の監査役を務めているなどの関係性、他方で、本件マンションにおいては、13年ぶりの大規模修繕工事を予定しており、そのための契約締結時期を本件訴訟の動向を踏まえて検討することとしていることが認められ、本件特別決議が無効とされることにより本件マンションの管理・運営に及ぼす影響は小さくないことを併せ考慮すると、原告X2社が本件特別決議の瑕疵を主張するのは、やはり権利濫用であるというべきである

仮に総会の運営上、手続的瑕疵が存在する場合でも、本件のような事情があれば権利濫用となり総会決議無効確認請求は認められません。

裁判所がどのような事情をピックアップして権利濫用と認定しているのか、是非参考にしてください。

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管理組合運営13 管理組合法人の理事として登記されているが、被告が原告を代表すべき理事の地位にないことを争っていない場合における訴えの利益の有無(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理組合法人の理事として登記されているが、被告が原告を代表すべき理事の地位にないことを争っていない場合における訴えの利益の有無(東京地判令和2年9月29日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合法人である原告を代表すべき理事が同マンションの区分所有者であるAであることを前提として、原告が、原告の理事として登記されている被告に対し、被告が原告を代表すべき理事の地位にないことの確認を求めるとともに、Aが原告を代表すべき理事の地位にあることの確認を求める事案である。

これに対し、被告は、①Aは原告の理事ではないから、本件訴えは原告の代表権を有する者により提起されておらず、また、②被告が原告の理事でないことは当事者間に争いがなく、本件訴えには確認の利益がない、と主張して、本件訴えの却下を求める。

【裁判所の判断】

訴え却下

【判例のポイント】

1 被告は、本件訴訟において一貫して、現在自らが原告の理事でないことを認めている。
このように、被告自身が「被告が原告を代表すべき理事の地位にないこと」を争っておらず、そのことにつき当事者間で争いがない以上、被告が未だ原告の理事として登記されていることを考慮しても、「被告が原告を代表すべき理事の地位にないこと」を判決により確認する必要があるとはいえないから、本件請求に係る訴えには訴えの利益(確認の利益)が認められず、同訴えは不適法である。

2 原告は、原告と被告との間で原告の理事長がAであるか否かを確認することは原告の理事長の地位に関する紛争解決のために最も適切かつ有効な方法である旨主張する。
しかしながら、被告は本件訴訟において一貫して自らが原告の理事ないし理事長の地位にないことを認めているから、被告を相手取ってAの地位確認を請求しても、真に利害関係が対立する当事者間で訴訟が係属することにならず(本件は、原告の理事長が被告とAのいずれであるかが争われているような事案ではない。)、充実した訴訟追行を期待することはできないし、紛争の抜本的解決に資するものとはいえない。
したがって、本件請求に係る訴えは、確認の利益を欠くもの(あるいは、被告に当事者適格が認められないもの)として、不適法である。

当事者間に特に争いのない内容のため、確認の利益を欠くとされた珍しい裁判例です。

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管理組合運営12 原告らの管理組合役員立候補を不承認とした決定は理事会の裁量の範囲を逸脱、濫用するものとして違法としつつ、被告理事らの不法行為責任を否定した事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、原告らの管理組合役員立候補を不承認とした決定は理事会の裁量の範囲を逸脱、濫用するものとして違法としつつ、被告理事らの不法行為責任を否定した事案(東京地判令和2年12月4日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの区分所有者である原告らが、以下の請求をする事案である。
マンション管理組合法人の理事である被告Y1、同Y2、同Y3、同Y4及び同Y5(以下,併せて「被告理事ら」という。)に対し、被告理事らが正当な理由なく、原告らを同管理組合法人の理事の立候補者として承認せず、原告らの役員立候補権を侵害したなどと主張して、不法行為に基づき、原告ら各自につき、連帯して、慰謝料等110万円+遅延損害金の請求。
マンションの管理業務の委託を受けている被告Aに対し、被告Aが被告理事らに対し適切な助言等をしなかったことなどが不法行為に当たると主張して、被告理事らと連帯して上記①と同額の金員の請求。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件改正条項は、「立候補者が役員候補者として選出されるためには、理事会承認を必要とする」というものであるところ、その趣旨は、暴力団等の反社会的組織の構成員や、成年被後見人であるなどの本件管理組合の役員としての適格性に欠ける客観的な事情がある者に限り、理事会が立候補を承認しないことができるというものであり、その限度で有効であると解するのが相当である。
けだし、区分所有法25条1項、49条8項及び50条4項によれば、管理組合法人の役員の選任に関しては、規約に別段の定めがない限り集会の決議によって定めることとされているが、同法30条3項によれば、規約は区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならないとされており、本件改正条項につき被告らが主張するような理事会の広い裁量を認めれば、理事らにおいて自らと意見の一致しない区分所有者の立候補を阻止することができ、当該区分所有者は、その役員としての適格性の是非を集会において他の区分所有者によって判断されて、信任、選任される機会を失う事態になるところ、このような事態が区分所有法30条3項にいう区分所有者間の利害の衡平を害するものであることは明らかだからである。

2 被告理事ら(被告Y5を除く)は、原告らが本件管理組合の運営につき批判的な意見を持ち、再三にわたりビラを配布したり、総会で反対意見を述べるなどの抗議活動をしていることを理由に本件不承認決定をしたものと推認され、これを覆すに足りる証拠はない。
原告らがその立候補の時点において、暴力団等の反社会的組織の構成員や、成年被後見人であるなどの本件管理組合の役員としての適格性を欠く客観的事情を有していたと認めるに足りる的確な証拠はない。
してみると、本件不承認決定は、理事会の裁量の範囲を逸脱、濫用するものとして違法であったと認めるのが相当である。

3 ところで、本件改正条項は、本件管理組合の総会の決議により承認されて設けられたものであり、本件管理組合の理事としては、これに従って理事会を運営すべき義務を負っていたものである。
しかるに、本件改正条項においては、理事会が立候補者を役員候補者とすることの承認をするか否かについての基準について明示されておらず、理事会の裁量を制限するような定めはなかったこと、本件不承認決定の時点においては、本件改正条項が上記で述べた趣旨の規定であることがいまだ前件訴訟に係る判決等によって明らかにされるには至っていなかったこと、被告理事らは、本件マンションの区分所有者であることから本件管理組合の理事に就任したものであって法律専門家でないことはもちろん、マンション管理について専門知識を有する者でもないことに照らすと、告理事らにおいて、本件改正条項によって理事会に対して許容される限度よりも広範な裁量権が与えられており、立候補者に客観的に適格性を欠く事情が存在する場合でなくても承認しないことができると誤信したことをもって、過失があるとまではいえない
前件不承認決定がされてから本件不承認決定がされるまでの間に、本件管理組合の組合員から前件不承認決定について反対する又はこれに疑問を呈する意見が表明されていたこと、原告らが前件不承認決定の違法を主張して前件訴訟を提起していたこと、前件訴訟において、担当裁判官から本件改正条項の廃止の可否を総会に問うことなどを内容とする和解が示唆されていたことといった事情があるとしても、これらは公権的な解釈ではなく、明確な法的根拠に基づくものであるともいえないし、前件訴訟においては前件不承認決定が理事会の裁量権の範囲を逸脱したものといえるかについて一審と控訴審で判断が分かれるほどであったことなどに照らせば、これらの事情をもって被告理事らに過失があるとはいえない。
そうすると、被告理事らについて不法行為が成立するとは認められない。

上記判例のポイント1の考え方は、しっかりと押さえておきましょう。

今回は、「過失」の要件で救済されているにすぎず。不承認決定それ自体は違法であると判断されていることに注意が必要です。

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管理組合運営11 管理規約に管理組合保管の書類の閲覧請求を認める規定のみがある場合における謄写請求をすることの可否(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、管理規約に管理組合保管の書類の閲覧請求を認める規定のみがある場合における謄写請求をすることの可否(東京高判平成23年9月15日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンションの区分所有者である被控訴人らが、本件マンションの管理組合法人である控訴人に対し、平成18年度ないし平成20年度の控訴人の総勘定元帳、現金出納帳、預金通帳及びそれらを裏付ける領収証、請求書等の会計関係書類一切の閲覧及び謄写を求めた事案である。

本件マンションの管理組合規約(本件規約)においては、控訴人理事長が会計帳簿等を作成・保管し、組合員又は利害関係人の閲覧請求があったときはこれを閲覧させなければならず、控訴人理事長は、この場合、閲覧につき相当の日時、場所等を指定することができる旨が規定されているものの、謄写請求については何らの規定も設けられていないが、被控訴人らは、閲覧請求の定めには謄写請求も含まれると解するのが当事者の合理的意思に適う等と主張した。

原審は、閲覧請求についてはこれを認容し、謄写請求については、閲覧請求の趣旨に鑑み、閲覧に加えて謄写も求めることができるとし、謄写の場所を本件文書の備え付け場所と限定した上で認容(それ以外の場所については棄却)したため、控訴人が敗訴部分を不服として控訴した。

【裁判所の判断】

原判決を次のとおり変更する。

控訴人は、被控訴人らに対し、平成18年度ないし平成20年度における総勘定元帳、現金出納帳、預金通帳及びそれらを裏付ける領収証、請求書等の会計関係書類一切を閲覧させよ。

【判例のポイント】

1 謄写をするに当たっては,謄写作業を要し、謄写に伴う費用の負担が生じるといった点で閲覧とは異なる問題が生じるのであるから、閲覧が許される場合に当然に謄写も許されるということはできないのであり、謄写請求権が認められるか否かは、当該規約が謄写請求権を認めているか否かによるものと解される。
本件規約で閲覧請求権について明文で定めている一方で、謄写請求権について何らの規定がないことからすると、本件規約においては、謄写請求権を認めないこととしたものと認められる。

2 被控訴人らは、閲覧のみしか認めないとなると必然的に長時間の閲覧が必要となり、場合によっては2回、3回の閲覧が必要となるのに対し、謄写が認められれば、閲覧者が閲覧に要する時間は非常に短くなり、謄写を認めることは閲覧をさせる控訴人の利益にもなるから、謄写請求権が認められるべきであると主張する。
しかし、控訴人は、組合員からの閲覧請求に対して社会通念上相当と認められる時間閲覧をさせることで足り、1回の閲覧請求で不相当に長時間の閲覧が認められるものではないから、閲覧の時間を短縮するために謄写請求権を認めるべきとの主張は理由がない。

本件裁判例は、原審判決(東京地判平成23年3月3日)を覆し、謄写請求を認めませんでした。

規約が謄写請求権を認めるか否かによるという極めて明快な結論ですが、上記判例のポイント2における被控訴人らの主張に対して裁判所が十分な回答ができているかは微妙なところです。

スマホで撮影させたほうが早いと思うのは私だけではないはずです。

マンション管理や区分所有に関する疑問点や問題点については、不動産分野に精通した弁護士に相談することが肝要です。

管理組合運営10 総会の特別決議の無効確認請求訴訟について、訴えの利益がないとされ却下された事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、総会の特別決議の無効確認請求訴訟について、訴えの利益がないとされ却下された事案(東京高判令和3年4月27日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、本件マンションの区分所有権を有する控訴人らが、本件マンション管理組合である被控訴人に対し、平成19年1月28日に開催された被控訴人の第18期定期総会においてされた本件特別決議が無効であることの確認又はこれと選択的に本件特別決議が不存在であることの確認を求める事案である。

原審は、控訴人らの本件特別決議の無効確認又は不存在確認を求める訴えには確認の利益が認められ、本件特別決議において賛成組合員数が組合員総数の4分の3未満であったことからこれが可決されたとは認められず、賛成組合員数が足りないという瑕疵が治癒されたことや本件特別決議が追認されたことは認められないから、本件特別決議は無効であるが、控訴人らの本件各請求は権利濫用であるとしてこれらをいずれも棄却する判決をしたところ、控訴人らがこれを不服として本件各控訴をした。

【裁判所の判断】

原判決を取り消す。

本件各訴えをいずれも却下する。

【判例のポイント】

1 控訴人らによる本件各訴えの趣旨及び目的は、被控訴人において、権限に疑いのない適法適切な管理が行われるよう是正し、不当な制約を受け続けてきた法人区分所有者の権利を回復させることにあると解されるところ、被控訴人は、令和2年11月の臨時総会における第2号議案の決議により、本件特別決議が可決されなかったものと取り扱うこととされたため、被控訴人自身が本件特別決議の有効性を主張することはできないことになったものであり、また、本件特別決議前の本件管理規約に基づき、控訴人らを含め本件マンションに居住しているとはいえない区分所有者においても役員候補者として立候補できることを明らかにした上、理事4名及び監事1名の選任決議を行い、役員が適法に選任されたものである。
これによれば、本件各訴えにより本件特別決議の無効又は不存在の確認を求めることの意義は失われたものであり、本件各訴えについて訴えの利益はないというべきである。

訴訟係属中に上記判例のポイント1記載のとおり、事情の変更があり、もはや本件特別決議の無効または不存在の確認を求める理由・必要がなくなったため、訴えの利益を欠くと判断されました。

なお、原審判決でも述べられているとおり、本件は、特別決議の有効要件を満たしていなかった事案です。このようなことにならないように、慎重に手続きを進めましょう。

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管理組合運営9 マンション管理規約に明文の定めがない場合であっても会計帳簿の裏付けとなる原資料等の閲覧及び写真撮影を請求する権利を有するとされた事案(不動産・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、各区分所有者は、マンション管理規約に明文の定めがない場合であっても、民法645条に基づき、管理組合に対し、管理組合がマンション管理業務について保管している文書(会計帳簿の裏付けとなる原資料等)の閲覧及び閲覧の際の当該文書の写真撮影を請求する権利を有するとされた事案(大阪高判平成28年12月9日)を見ていきましょう。

【事案の概要】

本件は、マンション管理組合が保管する文書について、当該マンションの区分所有者が閲覧や閲覧の際の写真撮影を求める権利があるのかないのかが争われた事案である。

原審(大阪地判平成28年3月31日)は各文書を、各1回限りにおいて閲覧する限度で控訴人らの請求を認容し、閲覧の際に本件記事録等を写真撮影することを含めその余の請求を棄却した。

【裁判所の判断】

被控訴人は、控訴人らに対し、請求文書目録記載の各文書について閲覧及び閲覧の際の写真撮影をさせよ。

被控訴人は、控訴人らに対し、被控訴人の現在の組合員の氏名、その組合員が所有する専有部分及びその組合員の住所を記載した名簿を閲覧させよ。

【判例のポイント】

1 被控訴人は社団ではあるものの、自身が管理する本件マンションの敷地と共用部分を保有しているわけではない。それらは、組合員が保有(共有)する財産である。また、被控訴人は、独自の事業経営により管理費用を捻出しているわけではなく、区分所有者が拠出する金銭や敷地(駐車場区画)使用料を必要経費に充てているのである。法的にみれば、被控訴人は、他人の費用負担の下に、当該他人の財産を管理する団体である。
そうすると、被控訴人と組合員との間には、前者を敷地及び共用部分の管理に関する受任者とし、後者をその委任者とする準委任契約が締結された場合と類似の法律関係、すなわち、民法の委任に関する規定を類推適用すべき実質があるということができる。

2 管理組合と組合員との間の法律関係が準委任の実質を有することに加え、マンション管理適正化指針が管理組合の運営の透明化を求めていること、一般法人法が法人の社員に対する広範な情報開示義務を定めていることを視野に入れるならば、管理組合と組合員との間の法律関係には、これを排除すべき特段の理由のない限り、民法645条の規定が類推適用されると解するのが相当である。
したがって、管理組合は、個々の組合員からの求めがあれば、その者に対する当該マンション管理業務の遂行状況に関する報告義務の履行として、業務時間内において、その保管する総会議事録、理事会議事録、会計帳簿及び裏付資料並びに什器備品台帳を、その保管場所又は適切な場所において、閲覧に供する義務を負う。
次に、民法645条の報告義務の履行として、謄写又は写しの交付をどの範囲で認めることができるかについて問題となるところであるが、少なくとも、閲覧対象文書を閲覧するに当たり、閲覧を求めた組合員が閲覧対象文書の写真撮影を行うことに特段の支障があるとは考えられず、管理組合は、上記報告義務の履行として、写真撮影を許容する義務を負うと解される。

3 一般法人法32条3項は、社団法人が社員に対する情報開示を拒絶できる場合を定めており(会社法433条2項にも同様の規定がある。)、この規定は、本件規約又は民法645条に基づく閲覧謄写請求権の行使についても考慮すべき内容である。
したがって、控訴人らの本件請求が一般法人法32条3項所定のような不適切なものと認められる場合には、被控訴人は情報開示を拒絶できるものと解するのが相当である。
控訴人らが、役員人事や修繕工事の発注の面で被控訴人の運営に不信感を抱いたことには相応の理由があるといわなければならず、しかも、被控訴人は、8400万円の雑排水管更新工事に関する資料については開示を明示的に拒絶し、その他の裏付資料についてもこれを全面的に開示しようとしないのであるから、本件議事録等をさらに仔細に検討する必要があるとの前提で控訴人らが本件請求をしているのは、何ら不適切なものではない。
本件請求が権利の濫用であるとする被控訴人の主張は採用できない。

管理規約に規定が存在しない場合における会計帳簿や組合員名簿等の謄写請求の可否については、裁判例により結論が分かれています。

本件裁判例は、原審判断を覆し、民法645条の類推適用による同謄写(写真撮影)請求を認めました。

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