Monthly Archives: 1月 2014

不当労働行為82(X工業事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

さて、今日は、組合が会社や役員宅へ街宣活動等をすることの差止請求が認められた裁判例を見てみましょう。

X工業事件(東京地裁平成25年5月23日・労経速2192号13頁)

【事案の概要】

 Xらは、Y社によるGの解雇を有効とする判決(「解雇事件判決)が確定した後、本件解雇の撤回等を求めて街頭宣伝活動(「街宣活動」)等をしていたところ、Y社の本社、支店、営業所、工場等の施設を中心として半径150メートルの範囲内の土地における街宣活動等の差止めを認める第一審裁判所(東京地裁)の判決(「前訴差止事件判決」)が確定した後も、引き続きY社の施設周辺等やY社役員等の住所地周辺において本件解雇の撤回等を要求する街宣活動等をしているところである。
本件は、(1)Y社が、Xらに対し、①Y社の本社、支店営業所、工場等の施設を中心として半径150メートルから1キロメートルの範囲内の土地における街宣活動等の差止め、②幕張メッセ、霞ヶ関ビルディング、東京ビッグサイト及び茨城県桜川市役所大和庁舎前広場を中心として半径1キロメートルの範囲内の土地における街宣活動等の差止め及び③Y社の役員等であるB、C、D、A及びEが、①それぞれの自宅を中心として半径1キロメートルの範囲内の土地における街宣活動等の差止め及び②過去の街宣活動等に係る損害賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

差止請求については、一部認容。

Y社に対する損害賠償として200万円、役員に対する損害賠償として合計90万円の支払を命じた。

【判例のポイント】

1 法人は、その名誉、信用が毀損され、平穏に営業活動を営む権利が侵害され、今後も当該侵害行為が継続する蓋然性が高い場合には、当該侵害行為を差し止める権利を有するものと解するのが相当である。

2 Xらは、GがY社に対して解雇の撤回ないし再雇用の要求をすること及びこれを組合がY社に要求し、そのための団体交渉を申し入れることは、解雇を有効とする判決の確定にかかわらず、憲法上、労働組合に補償された団体交渉権及び団体行動権に属する正当な行為であると主張する。
確かに、労働組合の団体交渉権及び団体行動権は憲法上保障された権利であるが、憲法は、これが財産権等の他の基本的人権に対して絶対的優位にあることを認めているものとは解されず、労働者の権利実現のために労働組合が行う団体交渉権及び団体行動権の行使であっても、それが無制限に許されるものでないことは明らかである。本件においては、法治国家における権利実現方法として基本的な手段というべき民事訴訟において、解雇事件判決の確定により、Y社のGに対する解雇が有効であり、Y社とGとの間には雇用契約関係が存在しないことが公権的に確定しているところであり、Xらが、なおY社に対して、解雇の撤回や再雇用について再考を求めること自体が許容され得るとしても、そのための活動の範囲・内容は、解雇事件判決の確定によって、当然に影響を受けるものといわざるを得ない。そして、解雇事件判決の確定に加え、前訴差止事件判決が確定し、平成21年仮処分事件、平成23年仮処分事件における決定がされ、Y社による任意の解雇撤回等が期待し難い状況にあることなどからすれば、Xらが、なお本件解雇の撤回等をY社に求めるために前記のような街宣活動等を繰り返し行うことは、自らの要求を容れさせるべく、Y社に対して殊更に不当な圧力をかけようとするものといわざるを得ず、憲法上、労働組合に保障された団体交渉権及び団体行動権に属する正当な行為ということはできないというべきである

3 不法行為の被侵害利益としての名誉とは人又は法人の品性、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価のことをいい、信用とは、経済的側面における社会的評価のことをいう。したがって、名誉、信用の毀損とは、これら人又は法人の客観的な社会的評価を低下させる行為のことをいう。
これらを本件についてみると、・・・不法行為を構成するというべきである。
・・・Y社が名誉・信用の毀損によって被った損害額は200万円と認めることが相当である。

4 Bら3名は、不法行為に基づき損害賠償を請求することができる。
・・・慰謝料としては、B、C及びDについて、それぞれ30万円の限度で許容することが相当である。 

大変興味深い裁判例です。

会社側としては、この裁判例を是非、参考にして、組合活動に対して適切に対応してください。

労働者側としては、解雇等について確定判決が出た場合には、組合活動に一定の影響が及ぶことを理解した上で、適切に組合活動をしてください。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介282 君に友だちはいらない(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

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←先日、お気に入りのピザ屋さん「かまど家ピュアカリ」に行ってきました。

写真は、「タコバジル」です。

夜にしか食べられないメニューです。

レモンを少し搾って食べるのがポイントです。

いつもおいしゅうございます。

今日は、午前中は、事務所で書類作成です。

午後は、債権回収の裁判が1件、新規相談が1件入っています。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は本の紹介です。

 君に友だちはいらない

著者は、京大客員准教授の方です。

以前、このブログで紹介をしました「武器としての決断思考」、「武器としての交渉思考」の著者です。

今回は、タイトルがキャッチーですね。 著者の意図は、読めばすぐにわかります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

社交に過度な時間と労力を注ぐことは、時間の無駄となるどころか、ときにはマイナスにもなる。強力な磁石が、鋼鉄もくず鉄も区別せずに引き寄せてしまうように、人脈の多さを自慢する人は、つきあって有意義な人だけでなく、自分の足を引っ張ったり、迷惑をもたらす人や、さらには反社会的な勢力とまでもつながってしまうことがあるのだ。・・・仲間の数を増やすのではなく、少数の仲間の質を追求することが、肝要となるのだ。」(117~118頁)

多くの薄いつながりよりも、少ない深いつながりを大切にするという発想です。

量より質ともいえるのかもしれません。

どれだけ多くの名刺を持っていても、そんなものは人脈でもなんでもありません。

ビックリマンのシールを集めているようなものです(古い?)。

広く深く付き合うことができたら、それが一番いいのかもしれませんが、時間が限られているため、実際にはそうもいかないわけです。

お互いインスパイアされる仲間とだけお付き合いをしていけたら、最高ですね。

労働災害68(なか卯事件)

おはようございます。__

←先日、久しぶりに「エアーフラッシュ」に行ってきました。

写真は、絶品の「牡蠣カレー」です。

リンゴの角切りがカレーに入っているため、牡蠣の生臭さは全くありません。

お見事の一言に尽きます。 おいしゅうございました。

今日は、午前中は、新規相談が1件、裁判の打合せが1件入っています。

午後は、建物明渡しの裁判が1件、その後、清水の会社様での打合せが1件入っています。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は会社の業務と店舗内での脳幹出血死に相当因果関係がないとされた裁判例を見てみましょう。

なか卯事件(名古屋地裁半田支部平成25年9月10日・労経速2192号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXがY社の店舗内において脳幹出血により死亡したことについて、Xの父母ないし兄である原告らが、Y社が亡Xに対する安全配慮義務を怠ったため、亡Xが過重な労働により脳幹出血を発症して死亡したなどと主張して、Y社に対し、債務不履行ないし不法行為に基づき、損害賠償金約8450万円等を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却
→因果関係を否定

【判例のポイント】

1 使用者が従業員に対して勤務時間帯を一定にすることや複数人による勤務体制をとるべき義務については、その法的根拠が明らかでない上、本件においてY社がそのような義務を負うべき特段の事情を認めるに足りる証拠もないから、Y社がXに対して上記各義務を負っていたとは認められない

2 業務による過重な負荷としては、脳血管疾患の発症に近接した時期における異常な出来事や短期間の過重負荷のほか、長期間(発症前おおむね6か月間)にわたる疲労の蓄積による負荷が挙げられ、発症前6か月間における就労態様について、労働時間、勤務の不規則性、拘束時間の長さ、出張の多さ、交替制勤務や深夜勤務の有無・程度、作業環境、精神的緊張を伴う業務か否かなどの諸要素を考慮して、特に過重な身体的・精神的負荷が認められるかという観点から総合的に評価することが相当であるとされている

3 ・・・このような時間外労働時間の程度及び勤務ごとの時間的間隔に照らすと、平成22年3月までに、XがY社の業務のために適切な休養を取得することができず、疲労が蓄積するような状況であったということは困難である。なお、Xに対しては、日をまたぐ勤務の特殊性から法定休日が適切に付与されていないものの、業務の過重性を考慮するに当たって重視すべきであるのは、労働者の疲労等が過度に蓄積するような勤務状況であるか、すなわち、労働者に対して休暇に必要な時間が付与されているかであって、上記のとおり、Xの脳幹出血発症前6か月ないし発症前4か月の各時間外労働時間が短時間であり、勤務時間ごとの間隔も相当程度付与されていたことからすれば、法定休日が適切に付与されていないこと等をもって、Xの勤務状況が疲労等の蓄積を招くようなものということはできない。このことは、医学的知見上、発送前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合には、業務と脳血管疾患の発症との関連性が弱いとされることに照らして、明らかである。

時間外労働時間の「量」だけではなく、勤務時間中の労働の「質」についても検討の対象としています。

極端に時間外労働時間が多いとまで言えない事案では、上記判例のポイント1に記載したような要素を総合的に評価することになります。

本の紹介281 憚りながら(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!!
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←休日の早朝は、海までジョギングすることから1日が始まります。 

継続は力なり。 やると言ったからには絶対やりきります。

今日は、午前中は、離婚調停が1件、労働事件の裁判が1件入っています。

午後は、富士の裁判所で、労働事件が2件、会社関係の裁判が1件、不動産関係の裁判が1件入っています。

夜は、そのまま沼津へ移動し、「こども未来大学」で1時間授業を行います。

子どもたちに弁護士の仕事についてお話をしてきます。 

今日も一日がんばります!!

さて、今日は本の紹介です。

 憚りながら (宝島社文庫)

元後藤組組長の本です。

これまでの生き様がまとめられています。完全に裏社会です。

著者が「BOX 袴田事件 命とは」を私費を投じて制作したことも紹介されています。

右も左もなく、表も裏もなく、あらゆることから学ぶことが大切だと思っています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

人間生きてりゃ、絶対に腰を引いちゃいかん瞬間が何回かあるんだ。ヤクザの世界じゃしょっちゅうだが、サラリーマンでもあるだろ?絶対に腰を引いちゃいかん時というのが。会社を背負った商談とか、交渉事とか。そういう時に相手と正面から対峙して、『それじゃあ、お互い分かった』と引き分けるのならいいが、腰を引いてしまったら、『スミマセン』と言ってしまったら終わりだ。そういう時は絶対にバックしちゃいかん。」(73~74頁)

僕は、このようなとき、「大和魂」という言葉を思い浮かべます。

交渉でも裁判でも、「絶対に腰を引いちゃいかん瞬間」があります。

この引いてはいけないと思う度合いは、守るべきものの重さに比例するのだと思います。

自分が大切にしているものを守る気持ちが強ければ強いほど、絶対に腰を引いてはいけないのでしょう。

「ま、いいか」とあきらめてしまう癖がついてしまうと、いつの間にか、困難な状況でふんばりがきかなくなってしまうのです。

すべては、習慣。 人間は、習慣によって形づくられています。

日々、小さな習慣を積み重ねることでしか、大きな成果を生むことはできないと確信しています。

解雇127(財団法人日本相撲協会事件)

おはようございます。 

さて、今日は、故意による無気力相撲を行ったことを理由とする引退勧告に応じなかった力士の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

財団法人日本相撲協会事件(東京地裁平成24年5月24日・判タ1393号138頁)

【事案の概要】

本件は、力士であるXが故意による無気力相撲を行ったことを理由とする引退勧告に応じなかったことがY社の秩序を乱す行為であるとして、Y社がXを解雇したところ、Xが本件解雇は無効であると主張して、Y社に対し、地位確認及び解雇後の給与等の支払並びに不法行為又は債務不履行に基づく慰謝料等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 本場所相撲は、力士の技量を審査するためのものであり、その勝星により当該力士の階級順位の昇降が決定され、当該力士の給与額等その待遇を左右するものであり、Y社に所属する各力士は、それが故に若いころから日々厳しい鍛錬に耐えて階級順位を上げるために全力を尽くすのである。またそうであるが故にY社が興行する本場所相撲は、わが国で国技と称せられる相撲のうちの最高水準のものであるとして、世間から注目され、国民の間に人気を保っているのであって、本場所相撲の興行をしているY社にとって、特に「故意による無気力相撲懲罰規定」と相撲競技監察委員会を設けて本場所相撲における故意による無気力相撲を禁止することは、何物にも替え難い重要な意味を持っているといわなければならない。そうすると、Xが本場所相撲である本件取組において、故意による無気力相撲を行ったことは、Y社の存立基盤に影響を与え得るものであって、X・Y社間の信頼関係を大きく損ねる事情にほかならず、継続的な契約関係である本件役務提供契約の維持を困難にすると認めるだけの合理的な理由に当たるものということができるのである。

2 Xは、過去に故意による無気力相撲を行った力士がある程度の数いたのに、これを理由として解雇された者がいないのであって、Y社が故意による無気力相撲を行うことを黙認していたと主張する。確かに、C及びBの各供述のみを見ても、X(ないしこの機会に処分を受けた力士)以外にも、過去に故意による無気力相撲を行った力士がいたことは、はなはだ遺憾ながら充分に窺うことができる。しかしながら、上記のようなY社にとって故意による無気力相撲の有する意味あいを考慮すれば、過去に、又はXの他に、故意による無気力相撲に関与した者がいるからといって、そこから直ちにXに対する本件解雇が、社会通念上相当でないと断ずることはできないし、Y社としては、具体的な取組に関して、証拠もない力士に対して、故意による無気力相撲に関与したとして処分を行うことはできない以上、結果として故意による無気力相撲に関与した力士が見逃されたとしても、それから直ちに、本件解雇が違法性を帯びると評価することはできない

上記判例のポイント1の評価のしかたは参考になります。

解雇の合理性を主張するために、これでもかというくらい掘り下げる姿勢は勉強になります。

また、解雇事件では、労働者側が相当性を争う際、過去の事案との比較をすることがあります。

しかし、事案がそれぞれ異なるのが普通ですので、過去の事案と比べて処分が重いということだけで簡単に解雇が無効になるわけではありません。

なお、原告は、控訴しましたが、控訴審でも解雇は有効と判断されています(控訴棄却)。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介280 カルロス・ゴーン リーダーシップ論(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。
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←先日、無性にうなぎが食べたくなり、「うなぎ亭」に行ってきました。

このお店は、リーズナブルでおいしいのがいいですね。

普通のお店の半額(は言い過ぎか?)くらいです。

すばらしい!

今日は、午前中は、打合せが1件、新規相談が1件入っています。

午後は、離婚調停が2件入っています。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は本の紹介です。

日経ビジネス経営教室 カルロス・ゴーン リーダーシップ論

経営教室シリーズです。
このシリーズは、いろいろな会社の社長が経営のポイントを解説しているのですが、重くなく、さくっと読めるのでいつも買っています。

今回は、ゴーンさんですね。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

アライアンスに特別な成功の秘訣やプロセスはなく、ただ『心構え』が重要なのです。相手に敬意を表し、尊重する。そのうえでプロジェクト志向で物事を進め、シナジーを出すことに専念するのです。」(71頁)

・・・緊密な関係を持ちながらも、『お互いにとってメリットがないことはしない』のがポイントです。シナジー追求という観点に立てば、パートナーを対等の立場で尊重するのは当たり前だからです。理想論ではありません。このスタンスをしっかりと守るからこそ、アライアンスが実際的に機能するのです。相手を出し抜こうとする考えで、うまくいくはずがありません。リーダーは、対等と尊重の精神を組織の隅々まで浸透させなければならないのです。」(70頁)

このゴーンさんの意見は、非常に重要なポイントだと思います。

この視点、アライアンスだけの話ではないですよね。

誰かと一緒に仕事をするときに、相手を利用してやろうといった考え方では決してうまくいきません。

いかに相手の役に立つか、自分がどのような役割を求められているかといったことをお互いに考えられないのであれば、複数のメンバーが集まって共同で仕事をすることは百害あって一利なし。有害無益です。

以前紹介した本にも書かれていましたが、仕事は、何をやるか(も大切ですが)ではなく誰とやるかが大切なのです。

同じ気持ち、精神を持った人と一緒に仕事したいと思います。

退職勧奨11(プレナス事件)

おはようございます。

 

さて、今日は、懲戒解雇や退職金不支給の可能性は動機の錯誤にすぎないとして、退職勧奨による退職が有効とされた裁判例を見てみましょう。

プレナス事件(東京地裁平成25年6月5日・労経速2191号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、平成23年9月14日に同年10月5日をもってY社を退職する旨の退職願を提出したが、これによる退職の意思表示が無効であるとして、Y社に対して地位確認、賃金支払を求めるとともに、本件退職願を提出させる際のY社による退職の強要が不法行為に当たるとして、慰謝料及び社宅からの退去費用等相当額の損害賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、本件退職願のよる退職の意思表示は、E部長の退職勧奨に応じなければ、懲戒解雇になり、その場合は退職金も支給されないものと誤解したためにされた錯誤によるものであり、無効である旨を主張し、X本人尋問の結果中には、これに沿う供述部分がある。
しかしながら、X供述等においても、Xが本件退職願を提出することを決断するに至った動機については曖昧で明らかではないし、X供述等によれば、9月3日面談においては、退職の意思はなかったが9月12日電話で退職せざるを得ないと決断したというのであるが、直接の面談ではなく、電話での会話によってそのような決断に至った事情も明確とはいい難く、Xが主張するような上記の誤解が何故その時点で生じたのかも明らかではないところである。また、9月3日面談及び9月12日電話のいずれにおいてもE部長が懲戒処分や解雇の可能性、ましてや懲戒解雇による退職金不支給について言及したことはなく、Xも退職勧奨に応じなかった場合の処遇等に関して何ら言及していないことは上記認定のとおりである。そうすると、この点に関するX本人尋問の結果中の供述部分は直ちには信用し難く、Xに上記のような誤解があり、これに基づき本件退職願が提出されたとすることには疑問があるものといわざるを得ない。
仮に、Xが上記のような誤解に基づき本件退職願による退職の意思表示をしたものであるとしても、これは動機の錯誤であるといわざるを得ず、これが表示されていたことは一切うかがわれないのであるから、退職の意思表示につき要素の錯誤があったということはできない

2 また、9月3日面談による退職勧奨後、Xによる本件退職願の提出がされるまでの経過をみると、9月3日面談がされた後には1週間以上の考慮期間があったものであり、さらに、この間、Xは、労働局に相談をして、安易に退職届を出すことがないように指導を受けるなどしていること、9月12日電話は、約15分程度の会話であり、その際、Xからは、退職事由については会社都合としたいとの具体的な要望が出されるなどしていること、実際に、Xが、その要望どおり退職事由を会社都合によると記載した本件退職願を提出したのは、その2日後の平成23年9月14日であることが認められ、このような経過に照らせば、本件退職願の提出による退職の意思表示自体がXの真意に基づかないものということもできないというべきである

訴訟提起時から、厳しい戦いが予想されていたとは思います。

労働者側が参考にすべき点としては、上記判例のポイント1の動機の錯誤に関する判断です。

最高裁判決によれば、動機に錯誤がある場合には、原則として無効とならず、ただ、動機が表示された場合には、動機が意思表示の内容となって意思表示の錯誤が成立しうるとされています。

動機の錯誤の場合、意思表示そのものではなく、意思形成過程としての動機の点に錯誤があるにすぎず、内心的効果意思と表示に不一致はないわけです。

表示の要件を満たすことが大切だということを認識しておくだけで、かなり準備の仕方が変わってくるのではないでしょうか。

詳細は顧問弁護士に確認をしてみてください。

本の紹介279 テトラポッドに札束を(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

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←年末年始の連休中も、朝は、ジョギングから始まります。休みだからといって、生活のリズムは崩しません。

今年は、さらに体と心を鍛えていきます。

今日は、午前中は、事務所のHPに関する打合せが入っています。

午後は、浜松の会社を訪問します。

夕方から、静岡で裁判の打合せ、労働事件の弁護団会議、フランチャイズ研究会が入っています。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は本の紹介です。

 テトラポッドに札束を (単行本)

著者は、12歳のときに事故で首の骨を圧迫骨折し、以後、車いすの生活をしているそうです。

体の70%が麻痺しているとのことです。

そんな著者が、17歳のときに年商1億円を達成し、その後もビジネスを成功させていく過程が書かれています。

説得力が違います。おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

僕らは70億分の1として生を受け、生まれた瞬間からコモディティと化している。教育や常識は僕らをコモディティのままに成長させる。そして、この世界は『資本主義社会』というシステムによって動いています。資本主義はこの世のあらゆるものを取引の対象とし、命ですらも金で買えてしまいます。僕らがどんなに嫌がっても、『70億分の1であること』や『資本主義社会に生きていること』から逃げ出すことはできません。逃げ出すことができないということは『自分も1つの商品であること』『自由競争に巻き込まれていること』『社会に必要のない人間は淘汰されること』、これらを素直に認める必要があります。」(177~178頁)

きれいごとなしの事実です。

「自分も1つの商品であること」、「自由競争に巻き込まれていること」、「社会に必要のない人間は淘汰されること」 もうこれらの言葉だけで、甘えは一切許されないということが伝わってきますね。

いつ会社がなくなるかわかりませんし、いつリストラされるかなんてわかりません。

この先、何があるかわからない状況において、できることは何か。

それは、自分に力をつけるしかありません。

最後は、自分で自分を守るしかないですから。

僕たち凡人が成功したいのであれば、周りの人が遊んでいるとき、休んでいるときに、努力するしか方法はありません。 そう確信しています。

ワーク・ライフ・バランスとは縁遠い生活をしていますが、私は、労基法上の労働者でないので、どれだけ働いてもどこからもとやかく言われません(笑) ほんとラッキーです。

好きな仕事を好きなだけできることに感謝しつつ、圧倒的な仕事をしていきたいと思います。

解雇126(財団法人日本相撲協会事件)

おはようございます。 あけましておめでとうございます。

本日から事務所が動きます。 本年もよろしくお願いいたします。

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←毎年12月31日、母親を連れて、法多山に行きます。母が元気なうちは、一緒に行くと決めています。

法多山の階段をゆっくり上っている母を見ていると、年をとったな、と思います。

歩けなくなったら、おんぶして連れて行こうと思います。 いつまでも元気でいてください。

今日は午前中は、債務整理の打合せが1件入っています。

午後は、成年後見の打合せが1件、新規相談が1件入っています。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は野球賭博への関与等を理由とする力士の懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

財団法人日本相撲協会事件(東京地裁平成25年9月12日・労経速2191号11頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で力士所属契約を締結したY社所属の力士であるXが、Y社がした懲戒処分としての解雇が無効であると主張して、Y社に対し、主位的請求として、Xの番附階級が大関であることの確認並びに未払賃金、旅費及び日当、交通費の支払等を求め、Xの番附階級が大関であることの確認請求が認容されない場合に備えて予備的請求1として、Y社の寄附行為36条に定める力士としての権利を有することの確認を求め、主位的請求及び予備的請求1ががいずれも認容されない場合に備えた予備的請求2として、本件所属契約が終了したことを前提とする力士老金及び勤続加算金、預かり懸賞金の支払等を求める事案である。

なお、Y社のXに対する処分事由は、①野球賭博を行ったこと、②①について理事会での事情聴取における虚偽申告、③自らの野球賭博に関する恐喝事件の現場での暴力団関係者と疑われるものとの協議である。これらの事由により、相撲の本質をわきまえず、Y社の信用もしくは名誉を毀損するがごとき行動をなしたとして、Y社理事会の決議によりXに対し、本件解雇の意思表示をしたものである。

【裁判所の判断】

請求棄却
→懲戒解雇は有効

【判例のポイント】

1 Y社理事会は、Y社及び特別調査委員会による調査結果にXの弁明を加味した上で、本件処分事由がいずれもあると認定し、Xに酌むべき事情があるかどうかを含めて討議した結果、Xに対する懲戒処分として解雇(退職金は全額支給するが、功労金は支給しない。)が相当であると議決し、Y社は、Xに対し、本件解雇の意思表示をしたことが認められるところ、本件処分事由の非違行為としての重大性に加えて、Y社所属の力士の頂点である大関という地位にあったXの立場、本件処分事由がY社に及ぼした結果及び社会的影響の大きさに照らせば、XにはY社における懲戒処分歴がないこと、その他本件に顕れたすべての事情を考慮しても、Y社が、Xに対し、Y社寄附行為施行細則93条が規定する懲戒処分として本件解雇をしたことは相当であるというべきである

2 Xは、本件解雇が、Xとの間の本件所属契約の解雇件又は解除権を放棄するとの合意に反し、あるいは、本件野球賭博に関与したとの申告をすれば、厳重注意にとどめるという利益誘導又は偽計を用いたものであるから、禁反言に反し、信義則に反すると主張する。
・・・しかし、・・・厳重注意で済ませるとの誘引をしたことがあるとしても、その誘引の対象には、Xが含まれていなかったものと認めるのが合理的である。
仮に、Xが、同日までに本件野球賭博への参加を申告すれば、厳重注意にとどまるのではないかとの期待を有していたとしても、Xについては、すでに公表された本件記事においてその中心人物として名前が記載され、Y社理事会からの事情聴取を受けるなどしており、客観的にみても、Y社が厳重注意という措置の前提としていた自主申告をすることを許容される状況にあったとはいえないことY社は、Xが恐喝被害を相談した警察等の情報から、Xの本件野球賭博への参加につき既に疑いを有しており、Xからの申告の有無が、現にXが行っていた本件野球賭博への参加に対してY社が何らかの処分を行うための必須の要素であったとはいい難いことを考慮すると、Xが、仮に上記のような期待を有していたとしても、それは、Y社の懲戒権限を制約するなどして保護しなければならないものとはいえず、また、本件処分を違法、無効たらしめるような手続き違背に当たるともいい難い。

力士に対する処分に関する裁判例をいくつか出ています。

今回の事案では、上記判例のポイント2での裁判所の切り返しが参考になりますね。

非常に雄弁です。