労働時間44(日立コンサルティング事件)

おはようございます。

今日は、不良な言動等を理由とする降格・裁量労働制除外と解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

日立コンサルティング事件(東京地裁平成28年10月7日・労判1155号54頁)

【事案の概要】

本件は、労働者であるXが、使用者であるY社に対し、違法・無効な解雇を受け、解雇前の降格及び裁量労働制から適用除外も違法・無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位の確認並びに平成25年10月以降の降格、裁量労働制からの適用除外及び解雇の無効を前提とした毎月73万4667円の賃金及び同年9月以前の降格及び裁量労働制からの適用除外の無効を前提とした賃金の未払分の各支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、次の金員を支払え。
(1) 金11万2557円及びこれに対する平成25年7月26日から支払済みまで年6分の割合による金員
(2) 金24万3218円及びこれに対する平成25年8月26日から支払済みまで年6分の割合による金員
(3) 金2万2488円及びこれに対する平成25年9月26日から支払済みまで年6分の割合による金員
 Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 裁量労働制は、労働時間の厳格な規制を受けず、労働時間の量ではなく、労働の質及び成果に応じた報酬支払を可能にすることで使用者の利便に資する制度であり、労働者にとっても使用者による労働時間の拘束を受けずに、自律的な業務遂行が可能とする利益があり、裁量労働制に伴って裁量手当その他の特別な賃金の優遇が設けられていれば、その支払を受ける利益もあるから、ある労働者が労働基準法所定の要件を満たす裁量労働制の適用を受けたときは、いったん労働条件として定まった以上、この適用から恣意的に除外されて、裁量労働制の適用による利益が奪われるべきではない
ことに一般的な新卒者採用ではなく、その個別の能力、経歴等を勘案して裁量労働制の適用及び裁量手当を含む賃金が個別労働契約で定められている事情があるときは、労働者の裁量労働制の適用及びこれによる賃金の優遇に対する期待は高い。
Xは、新卒者ではなく、4回にわたる面接その他の審査でコンサルタントとしての能力、経歴等を審査された上、個別労働契約で裁量労働制の適用及び裁量手当を含む年俸が決定され、役職も「シニアコンサルタント」と、コンサルタント業務に従事する社員限定の職名が付せられていたから、このような事情があるといえる。
労働時間に関する労働条件がみだりに変更されるべきでなく、法的安定を確保すべきことは、1か月単位の変形労働時間制において、就業規則に基づく一定の要件を満たす勤務割表等でいったん労働時間を具体的に特定した後の変更は、その予測が可能な程度に変更の具体的事由を定めておく必要があること、労働基準法上は休日の特定は必須でないが、労働契約上いったん特定されれば、休日振替には労働者の個別的同意又は休日を他の日に振り替えることができる旨の就業規則等の明確な根拠を要することにも現れている。
賃金に関する労働条件がみだりに不利益な変更を受けるべきものでないことも無論である。
したがって、個別的労働契約で裁量労働制の適用を定めながら、使用者が労働者の個別的な同意を得ずに労働者を裁量労働制の適用から除外し、これに伴う賃金上の不利益を受忍させるためには、一般的な人事権に関する規定とは別に労使協定及び就業規則で裁量労働制の適用から除外する要件・手続を定めて、使用者の除外権限を制度化する必要があり、また、その権限行使は濫用にわたるものであってはならないと解される(土田道夫「労働契約法」317、322、323頁参照)。

2 Y社は、本件労使協定5条3号は、Y社が労働者の同意を得ることなく裁量労働制の適用を除外できることを認めたものであると主張する。
しかしながら、裁量労働制に関する労使協定は、労働基準法による労働時間の規制を解除する効力を有するが、それだけで使用者と個々の労働者との間で私法的効力が生じて、労働契約の内容を規律するものではなく、労使協定で定めた裁量労働制度を実施するためには個別労働契約、就業規則等で労使協定に従った内容の規定を整えることを要するから、労使協定が使用者に何らかの権限を認める条項を置いても、当然に個々の労働者との間の労働契約関係における私法上の効力が生じるわけではない
本件労働契約、Y社就業規則及び裁量勤務制度規則に本件労使協定5条3号を具体的に引用するような定めは見当たらず、むしろ、本件労使協定は、本件裁量労働制除外措置のあった平成25年6月時点では、労働者に対し、十分周知される措置が取られていなかったことが認められるから、本件労使協定5条3号に従った個別労働契約、就業規則等は整えられていないし、XとY社との間で黙示に本件労使協定5条3号の内容に従った合意が成立していると推認することもできない。

3 Y社は、正当な労働条件変更であれば、Xの同意を要しないとも主張するが、そのような労働条件変更は、就業規則に関する判例法理及び労働契約法10条によるものではなく、就業規則その他の労働契約上の根拠によるものとはいえないから、労働契約法上の合意原則(労働契約法3条1項、8条、9条)の例外とするだけの実定法上の根拠に欠ける
本件裁量労働制除外措置は、特定の労働者を対象としたもので、労働条件の集団的な変更で、個々の労働者から個別に同意を得ることが必ずしも容易でなく、一般的な規則の変更による形式上、個々の労働者に対する恣意的な取り扱いの余地が制限され、労働者一般の利益にかかわり労働組合等との交渉や意見聴取(労働基準法90条1項)を介して労働者の意見を反映される余地もある就業規則の変更による労働条件の変更(就業規則の変更で使用者に一定の範囲で労働条件を変更する権限を定めることを含む。)とは基礎的な条件がかなり異なる。
使用者の作成による就業規則の変更を介さないのであれば、使用者だけでなく、労働者からの労働条件の合理的な変更の余地もあるということになりかねないが、そのような帰結は労働条件の安定を欠く事態を招く。
個々の労働者の同意を得なくても本件裁量労働制の適用から除外できる権限を創設することは、それが合理的なものであれば、本件労使協定及び本件裁量労働制規則の改定で可能であり、直接、本件労働契約をY社のみの意思で変更する必要はない

特段異論のない判断です。

特に上記判例のポイント3はおっしゃるとおりです。