Category Archives: 労働災害

労働災害104(青森三菱ふそう自動車販売事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、労働者の自殺につき業務起因性を否定した原審の判断が覆された事案を見てみましょう。

青森三菱ふそう自動車販売事件(仙台高裁令和2年1月28日・労経速2411号3頁)

【事案の概要】

本件は、Aらが、子でありY社の従業員であった亡Xが違法な長時間労働等により精神疾患を発症して自殺したとして、Y社に対し、使用者責任、不法行為又は債務不履行に基づき、損害賠償及び亡Xが自殺を図った日を起算日とする民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

原審が、Aらの請求をいずれも棄却したところ、Aらは、控訴を提起した。

【裁判所の判断】

原判決を取り消す。

Y社は、A1に対し、3681万3651円+遅延損害金を支払え

Y社は、A2に対し、3678万0062円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 亡Xは、平成28年1月上旬頃、それまでのY社八戸営業所における業務に起因して適応障害を発症したところ、その後も長時間労働が続き(平成28年1月上旬以降の労働時間についても、それまでの時期と異なる認定をすべき事情は見当たらず、むしろ、同年3月は繁忙な決算月として、他の月よりも長時間の労働を余儀なくされたと推認することができる。)、出来事に対する心因性の反応が強くなっていた中、同年4月16日、先輩従業員であるCから叱責されたことに過敏に反応して自殺を図るに至ったと認めることができる。

2 亡Xが適応障害を発症して自殺を図るに至ったことについては、Y社八戸営業所の長であるG所長及び亡Xの上司であるE課長代理において、亡Xに業務上の役割・地位の変化及び仕事量・質の大きな変化があって、その心理的負荷に特別な配慮を要すべきであったところ、亡Xの過重な長時間労働の実態を知り、又は知り得るべきであったのに、かえって、従業員が実労働時間を圧縮して申告しなければならない労働環境を作出するなどして、これを軽減しなかったことに要因があるということができ、G所長らには亡Xの指導監督者としての安全配慮義務に違反した過失がある。そうすると、Y社は、使用者責任に基づき、Aらに対し、亡Xの死亡につき同人及びAらが被った損害を賠償すべき責任がある。

長時間労働が原因となった労災は、パワハラ等と比べて、業務起因性や素因減額を争いにくいですね。会社によって繁忙期があるのはよくわかりますし、労働力不足も重なって、どうしても長時間労働になりがちです。

会社としては、労働時間を短縮するために、サービス内容を再定義するなど、できることをやっていくしかありません。

労働災害103(住友ゴム工業(旧オーツタイヤ・石綿ばく露)事件)

おはようございます。

今日は、タイヤ製造業作業員の石綿ばく露の有無と損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

住友ゴム工業(旧オーツタイヤ・石綿ばく露)事件(神戸地裁平成30年2月14日・労判1219号34頁)

【事案の概要】

本件は、(1)甲事件原告らの被相続人らが,いずれも被告ないし被告と合併したa株式会社の従業員として,被告の神戸工場又は泉大津工場においてタイヤ製造業務等に従事していたが,その際,作業工程から発生するアスベスト及びアスベストを不純物として含有するタルクの粉じんにばく露し,悪性胸膜中皮腫ないし肺がんにより死亡したとして,甲事件原告らが,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,それぞれの相続分に応じた損害賠償金+遅延損害金の支払を求め(甲事件),(2)乙事件原告亡X22及び原告X25が被告従業員として,神戸工場においてタイヤ製造業務等に従事していたが,その際,作業工程から発生するアスベスト及びアスベストを不純物として含有するタルクの粉じんにばく露し,石綿肺及び肺がんに罹患したとして,乙事件原告らが,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,損害賠償金+遅延損害金の支払を求める(乙事件)事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 雇用契約上の付随義務としての安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は10年であり(民法167条1項),この10年の時効期間は損害賠償請求権を行使できるときから進行するところ,安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権は,その損害が発生した時に成立し,同時に,その権利を行使することが法律上可能になるというべきであって,権利を行使し得ることを権利者が知らなかった等の障害は,時効の進行を妨げることにはならないというべきである。
そうすると,亡M及び亡Oの債務不履行に基づく損害賠償請求権は,亡M及び亡Oにそれぞれ客観的な損害が発生した時から進行し,遅くとも,各人が死亡した日から消滅時効期間が進行しているというべきであり,安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償請求権の起算点は,亡Mにつき平成12年4月25日,亡Oにつき平成12年1月26日で,甲事件の訴えが提起された時点でいずれも10年が経過しているから,消滅時効が完成しているというべきである。

2 民法724条は「不法行為による損害賠償の請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは,時効によって消滅する」と規定し,「損害及び加害者を知った時」とは,被害者において加害者に対する損害賠償が事実上可能な状況の下に,その可能な程度にこれを知った時を意味し,単に損害を知るにとどまらず,加害行為が不法行為を構成することをも知ったときを意味するものと解される。
本件においては,原告X6及び亡X10が,それぞれ上記アの各労災請求に至った経緯までは判然としないものの,いずれも被告での職務従事における石綿ばく露を前提に上記各請求をしていることから,遅くとも,それぞれ上記アの各労災請求をした時点では,被告における石綿ばく露を原因に疾病を発症し死亡したことを認識しているといえ,「被害者が…損害及び加害者を知った」ものと認められる。
そうすると,上記アの各労災請求をした日から消滅時効期間が進行するというべきであるから,亡M及び亡Oの不法行為に基づく損害賠償請求権の起算点は,亡Mにつき平成21年9月15日,亡Oにつき平成18年3月20日であり,甲事件の訴えが提起された時点で,いずれも3年が経過しているから,消滅時効が完成しているというべきである。

3 一般に,消滅時効制度の機能ないし目的については,①長期間継続した事実状態を維持して尊重することが法律関係の安定のため必要であること,②権利の上に眠っている者すなわち権利行使を怠った者は法の保護に値しないこと,③あまりにも古い過去の事実について立証することは困難であるから,一定期間の経過によって義務の不存在の主張を許す必要があることなどであると説明されているが,時効によって利益を受けることを欲しない場合にも,時効の効果を絶対的に生じさせることは適当でないともいえるから,民法は,永続した事実状態の保護と時効の利益を受ける者の意思の調和を図るべく,時効の援用を要するとしている(民法145条)。もっとも,時効を援用して時効の利益を受けることについては,援用する意思表示を要件とするのみで,援用する理由や動機,債権の発生原因や性格等を要件として規定してはいない。このような債権行使の保障と消滅時効の機能や援用の要件等に照らせば,時効の利益を受ける債務者は,債権者が訴え提起その他の権利行使や時効中断行為に出ることを妨害して債権者において権利行使や時効中断行為に出ることを事実上困難にしたなど,債権者が期間内に権利を行使しなかったことについて債務者に責めるべき事由があり,債権者に債権行使を保障した趣旨を没却するような特段の事情があるのでない限り,消滅時効を援用することができるというべきである。
本件においては,本件被用者らの被災状況が判然としないことから,被告に対し,原因を明らかにするように求め,また団体交渉を申し入れるに至った経過や,この種事案における遺族による訴訟追行及び損害賠償請求自体に困難が伴うことに照らすと,原告X6及び亡X10が,上記各労災請求をした時点では,被告に対する損害賠償請求権を行使することには,法的なあるいは事実上の問題点が多く,損害賠償請求権の行使が容易ではなかったというべきであり,加えて,上記アのとおり,被告に対する損害賠償請求権を行使するための準備行為を行っていたことからすれば,権利の上に眠っている者すなわち権利行使を怠った者ともいえない
さらに本件組合による団体交渉の申入れから団体交渉が実現するまでに5年以上の期間を要しているところ,このことは,被告が,本件組合からの団体交渉の申入れを拒否した結果,訴訟にまで発展し,訴訟において被告が団体交渉に応じる義務があると判断されていることなどからすると,被告側の不当な団体交渉拒否の態度に起因するものといわざるを得ない。そうすると,原告らが,被告に対する損害賠償請求権を行使することに関し,法的なあるいは事実上の問題点を解消するために長期間を要したことについては,被告に看過できない帰責事由が認められるというべきである。
以上を総合すると,被告が,積極的に,原告らの権利行使を妨げたなどの事情は認められないものの,上記のとおり,被告の看過できない帰責事由により,原告らの権利行使や時効中断行為が事実上困難になったというべきであり,債権者に債権行使を保障した趣旨を没却するような特段の事情が認められる
したがって,被告が,亡M及び亡Oの損害賠償請求権に関して消滅時効を援用することは,権利の濫用として許されないものというべきである。

少々長いですが、上記判例のポイント3は、消滅時効に関する議論としては大変参考になります。

是非、押さえておきましょう。

労働災害102(京都市事件)

おはようございます。

今日は、配転させずに復職させたことを理由とする損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

京都市事件(大阪地裁令和元年11月27日・労判ジャーナル96号78頁)

【事案の概要】

本件は、Y市に採用され、Y市の管理運営する斎場で勤務する職員Xが、同斎場内での事故により適応障害を発症して休職となったにもかかわらず、Y市が、配置転換等の負担軽減措置をとることなくXを復職させ、同斎場で就労させ続けていることは、安全配慮義務に反する違法行為であると主張して、Y市に対し、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料500万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは最終的に予定されたリハビリ勤務を概ね完了し復職が実現しており、その経過の中で、主治医において、リハビリ勤務の計画を中止すべきであるとか、中央斎場への復職が不適当である等の判断をしておらず、Xが、中央斎場での火葬業務に従事する衛生業務員として採用され、その後、本件事故までの約12年間にわたり、同業務に従事してきたことを併せ考慮すると、復職時にXを中央斎場の勤務に復帰させることが不相当であったとまではいえず、また、Xは、復職後も、2年余りにわたり中央斎場での就労を続けており、その間、服薬等によっても中央斎場での就労継続が不可能ないし著しく困難となるような症状が現れたという事実は認められず、そして、主治医の診断書によっても、Xの症状が具体的にどう悪化したのか、その悪化の程度等は判然としない等から、Y市のXに対する安全配慮義務として、Y市がXを中央斎場以外の勤務場所に配置転換しなければならない法的義務を負っていたとは認められず、また、Y市において、勤務場所の配置転換以外の点で、本件疾病によるXの心身の負担に対する必要な配慮を欠いていたとも認められないから、安全配慮義務違反は認められない。

精神疾患と業務起因性の問題は、判断が悩ましいことがとても多いです。

とはいえ、裁判例から一定の判断傾向を探ることは可能なので、それらを踏まえて対応することが求められます。

労働災害101(甲研究所事件)

おはようございます。

今日は、うつ病発症に関する安全配慮義務違反について総額3472万円余の請求が認容された裁判例を見てみましょう。

甲研究所事件(札幌地裁平成31年3月25日・労経速2392号14頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されているXが、Y社における過重労働が原因でうつ病になったところ、Y社に安全配慮義務違反があると主張して、損害賠償の一部請求として8271万8752円+遅延損害金の支払を求めるとともに、Y社の労務管理の不備及びCの嫌がらせ等が不法行為に当たるとして、慰謝料+遅延損害金並びに弁護士費用の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、3472万7903円+遅延損害金を支払え

Cは、Xに対し、33万円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、Cと連帯して33万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、平成18年に復職してから平成26年5月に休職するまでの間、基本給と主任加給の合計額の半分を減額されてきている。この減額は、業務に起因するうつ病によりXの勤務時間が減少したことによるものであるから、損害となる

2 本件の場合、Xの主治医のみならず、Y社らが意見を求めたK医師の意見からしても、本件の口頭弁論終結時にXの症状が固定していたとは認められないから、Xの後遺障害を前提とした逸失利益の請求については、現時点では、認められないと解する。

上記判例のポイント1の視点は参考になりますので押さえておきましょう。

労働災害100(岐阜県厚生農業協同組合連合会事件)

おはようございます。

41日目の栗坊トマト。日に日に大きくなっています!

今日は、安全配慮義務違反による損害賠償請求について過失相殺が否定された裁判例を見てみましょう。

岐阜県厚生農業協同組合連合会事件(岐阜地裁平成31年4月19日・労経速2386号14頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、Y社の管理運営する病院に勤務していたXが自殺したことについて、Xの両親である原告らが、Xは、Y社の安全配慮義務違反により本件病院において過重な長時間労働を強いられたこと等によってうつ病エピソードを発病し、自殺を図って死亡したと主張して、Y社に対し、債務不履行による損害賠償請求権に基づき、それぞれ4547万6500円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は原告Aに対し、3591万9000円+遅延損害金を支払え

Y社は原告Bに対し、3591万9000円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xが勤務時間内に与えられた業務を終えることができず、慢性的に長時間の時間外労働をしていたことは、上司であるH課長が現認しており、しかも、Xにおける仕事の進め方に問題があることについても同様に認識していたのであるから、Xによる相談がなかったからといって、Y社における軽減措置を困難にしたものということはできない
また、労働者の長時間労働の解消は、第一次的には、業務の全体について把握し、管理している使用者において実現すべきものであるところ、本件において、H課長はXに対し、早く帰るように声を掛ける等したにとどまり、長時間労働を抜本的に解消するために、仕事の進め方についてDと協議をしたり、合理的な事務処理のための教示をしたりするなどした事実はうかがわれず(IやH課長において、納期の迫っているXの業務につき、協力をしたことは認められるものの、一時的なものにすぎず、長時間労働を抜本的に解消するための措置ということはできない。)あまつさえ、Xの長時間労働の時間を把握しようと努めた痕跡さえ認められない
・・・そうすると、Y社において、Xの長時間の時間外労働に対する配慮が著しく掛けている一方、Xが業務量について上司に相談等しなかったことがY社における配慮の妨げになったと認めることのできない本件においては、当事者間の公平の見地から、Xが業務量について上司に相談等しなかったことをXの過失と評価し、Y社の賠償額を減ずるのは相当ではない

2 Y社が主張するように、労働者が、自己の健康状態について最もよく認識し、健康管理を行うことのできる地位にあることは、一般論としては肯首できるものであるが、本件のように、使用者が労働者における慢性的な長時間労働を認識しながら、十分な措置を講じず、労働者の健康状態に対する配慮が何らなされていない場合には、労働者において医療機関を受診していないことをもって、直ちに自己の健康管理を怠った過失を認めるべきではなく、少なくとも、労働者において、医師から具体的な受診の必要性を指摘される等して、医療機関を受診する機会があったにもかかわらず、正当な理由なくこれを受診しなかったといえる場合に限り、過失として評価する余地があると解すべきである。
そして、本件において、Xが、医師から精神疾患に関する具体的な指摘を受けたことはなく、その他、Xにおいて医療機関を受診する機会があったといえる具体的事情が認められないことを踏まえると、Xにおいて、うつ病エピソードの発病前に、自ら精神科の病院を受診しなかったことを過失と評価すべきではない。

3 Y社において、Xが定期的な休暇を取得できるようにするための十分な配慮がなされていたとはいえない本件においては、Xが自ら休暇を取得するなどの健康管理措置をとらず、H課長らに対して積極的に業務の負担に関する相談をしなかったとしても、かかるXの対応をもって、Y社の損害賠償額を減額する理由とすることは相当ではない。

どの会社にも繁忙期があり、納期があり、にもかかわらず、人が足りません。

そろそろ本腰を入れて、働き方を変えていかなければ、このような事件はなくなりません。

労働災害99(富士機工事件)

おはようございます。

今日は、障害者雇用枠採用社員の自殺と業務起因性等に関する裁判例を見てみましょう。

富士機工事件(静岡地裁浜松支部平成30年6月18日・労判1200号69頁)

【事案の概要】

本件は、知的障害及び学習障害を持つXが自殺したことにつき、亡Xの両親である原告らが、亡Xを雇用していたY社に対し、亡Xの自殺はY社による障害への配慮を欠く対応等が原因であり、Y社には雇用契約に基づく安全配慮義務違反及び注意義務違反があると主張して、債務不履行及び不法行為に基づき、原告ら各自に損害金4012万9773円+遅延損害金の支払いをそれぞれ求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件手順書も、一般的には作業内容を細分化して記載することで作業手順を覚える補助となり得るものと考えられるが、文章から意味を理解することが苦手なXにとっては、かえって混乱と困惑を来す原因となったものと解される。そして、プレス作業は、作業ミスが作業者の安全に直結するものであるところ、Xの上記投稿からは、Xが、安全面においても、本来プレス機での実習に心理的負担を感じていたことが窺える。
これらの事実からすれば、Xにとって、本件プレス機での実習が、その能力に比して過重であり、その心理的負荷は大きかったというべきである。そして、知的障害や発達障害を有する者は、その障害が原因で、頑張っても努力しても努力が報われず、できるようにならないため、無力感や劣等感、自己否定感を抱きやすく、ストレスへの耐性も他の人と比べて低いという見方もあって、鬱病や適応障害といった二次障害に陥りやすいとされていること、Xが自殺したのは、本件プレス機が停止する出来事があった日の翌日の通勤途中であったことを併せてみれば、Xがうつ病などの精神障害を発症していた可能性もないとはいえず、本件全証拠によっても業務以外に自殺の原因となる要因は見当たらないから、Y社の業務に対する心理的負荷がXの自殺を招いたものと推測される

2 たしかに、原告らが主張する②ないし④の事実は、Y社がXにとっての業務の過重性や心理的負荷を認識する契機となり得るものであったことは否定できないが、Xの自殺までプレス作業の実習開始から2週間、金型交換作業(段取り)の実習開始から1週間程度と短く、実労働日数でみるとさらに短いことに加え、Y社におけるXの様子に特段変わったところはなかったことからして、これらの事実をもって直ちに、Xの業務が自殺を招き、あるいは鬱病等の精神疾患や精神障害を発症させ得る業務上の心理的負荷になることを、Y社が予見すべきであったとは言い難い
以上のとおり、Y社には安全配慮義務及び注意義務の前提となる予見可能性があったとは認められない

業務起因性については肯定されましたが、予見可能性が否定された事案です。

労働災害98(フルカワ事件)

おはようございます。

今日は、脳梗塞発症に基づく会社に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

フルカワ事件(福岡地裁平成30年11月30日・労判ジャーナル86号52頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社及びその代表取締役であるAに対し、Xが脳梗塞を発症し、後遺障害が残ったのは、Y社におけるXの業務に起因するなどと主張して、Y社に対しては民法415条に基づき、Aに対しては会社法429条1項に基づき、損害賠償金の一部として約1億円等の連帯支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求の一部認容

【判例のポイント】

1 Xは、本件疾病の発症前6か月間に、月平均174時間50分の時間外労働を行っており、恒常的に長時間労働に従事していたといえるうえ、本件疾病の発症前1か月間にも、150時間15分の時間外労働を行っているところ、医学的に、特に、発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間から6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合には、業務と発症の関連性が強いと評価できるとされていることが認められるから、本件疾病発症前6か月間におけるXの労働時間は、本件疾病の発症と強い関連性を有する程度の著しい長時間労働であったといえ、また、本件店舗の店長であったXは、自己及び本件店舗の目標を達成するために、相応の精神的緊張を伴う業務に従事していたというべきであるから、この点でも、Xの業務は、長時間労働とあいまって本件疾病の発症の要因となり得るものであったといえること等から、Xの本件疾病は、Xの動脈硬化が、過重な業務に伴う負荷によりその自然経過を超えて悪化したことによって発症したものとみるのが相当であり、Y社におけるXの業務と本件疾病の発症との間には、相当因果関係が認められる

2 Xの本件疾病の発症は、Xの基礎疾患(高血圧及び高脂血症並びにこれらに起因する動脈硬化)が、Y社における過重な業務に伴う負荷によりその自然経過を超えて悪化したことによるものであり、高血圧及び高脂血症は本件疾病の主因とされており、特に高血圧は最大の危険因子とされていること、しばしば喫煙者にみられる多血症も本件疾病の危険因子とされていることによれば、Xの上記基礎疾患については、肥満も寄与していると考えられることからすると、Xの基礎疾患の存在が本件疾病の発症の重要な原因の一つであったといえるから、Y社にXの損害の全部を賠償させることは公平を失するというべきであるが、他方で、本件疾病発症当時におけるXの動脈硬化の自然経過による増悪の程度は明らかではないことに加え、Y社におけるXの業務の過重性の程度や、Xの業務に対するAの関与の内容及び程度をも考慮すると、Y社及びAの賠償すべき損害の額を定めるに当たり、2割を減額する限度で本件既往症の存在をしんしゃくするのが相当である。

これからますます労働人口が減っていく一方で、仕事の量は減らない以上、労働時間の規制をしたところで、このような事件がなくなることはありません。

世の中から「納期」という概念がなくならない限りは、長時間労働を永遠になくならないのではないでしょうか。

労働災害97(ディーソルNSP・ディーソル事件)

おはようございます。

今日は、業務と自殺との間の相当因果関係が争われた事案を見てみましょう。

ディーソルNSP・ディーソル事件(福岡地裁平成30年12月17日・労判ジャーナル86号48頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に在籍中に死亡した亡Xの相続人らが、勤務先であるY社およびその親会社であるA社に対し、Y社らによる労務管理を受けていたXが自殺したのは、Y社らにおいて適切な業務管理をしなかったため、長時間労働により亡労働者に過重な精神的・肉体的負荷が掛かったことが原因であると主張して、主位的に、不法行為に基づき、逸失利益、慰謝料等約5060万円などの連帯支払いを求め、予備的に、安全配慮義務違反の債務不履行に基づき、上記同額の連帯支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

業務と本件自殺に相当因果関係が認められる。

【判例のポイント】

1 本件では、Xは、鬱病等の素因があり、心理的負荷に対する一定程度のぜい弱性を有していたと認められ、そして、Xは、本件自殺の直前2か月において、長時間労働等により、鬱病等の精神障害を発症し得る程度に過重な心理的負荷を受けていたこと、本件遺書において、本件未処理等を上司に報告して本件システムの開発を続けていくことに強い不安を示し、過度に自責的になっていること、業務以外に心理的負荷を与える要因が認められないことからすれば、Xは、長時間労働や納期の切迫による過重な心理的負荷に起因して適応障害を発症し、正常な認識、行為選択能力が著しく阻害され、自殺を思いとどまらせる精神的抑制力が著しく阻害された状態で本件自殺に至ったものと認められるから、本件自殺と業務との相当因果関係が認められる

2 平成25年3月初めの時点で、Y社らにおいて、Xが長時間労働により心身の健康を損なうおそれを予見し得たことを踏まえると、Y社らには、同月3月初めの時点においてサポート要員を付与するなどの措置を講じることは可能であり、これによりXの業務を軽減していれば、同月後半の過酷な長時間労働は避けられたのであり、Y社らに結果回避可能性があったということができるところ、Y社らは、同年3月19日に至って初めて、Xにサポート要員を付することを通告し、同年4月15日にgがサポートに入るよう手配したにとどまり、本件自殺に至るまでの期間、Xの時間外労働を制限したり、定期的に休日を取得させたりするなど、Xの業務の負担を直ちに軽減させる措置を一切講じることなく、漫然と、Xを、本件自殺前1か月において180時間を超える極めて長時間の時間外労働に従事させたのであるから、Y社らは注意義務に違反したといわざるを得ない。

3 Xが、精神疾患の既往症を有していたこと、サポート要員の付与を辞退したこと、本件未処理等を行っていたことについて、民法722条を適用及び類推適用し、損害額の35%を減額するのが相当である。

本件のような長時間労働を原因とする労災事件は、訴訟になると会社側は難しい状況となります。

だからこそ、日頃から労務管理をしっかりやらないといけないのです。

労働災害96(国・菊池労基署長事件)

おはようございます。

今日は、上司勧誘のマラソン大会における心停止と死亡の業務災害該当性に関する裁判例を見てみましょう。

国・菊池労基署長事件(熊本地裁平成30年8月29日・労判ジャーナル82号48頁)

【事案の概要】

本件は、銀行員であった亡労働者Xの父が、Xが上司から誘われて参加したマラソン大会において心停止となって死亡したとして、老舎災害補償保険法に基づく遺族補償年金及び葬祭料の各支給を請求したが、菊池労働基準監督署長がいずれも支給しない旨の各処分をしたことから、本件各処分は違法であるとして、国に対し、本件各処分の取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件大会への参加は、支店の支店長が支店内で行員らを勧誘したことを契機とするものではあるが、その声かけの態様は、Xら特定の行員に対し、業務の一環として本件大会への参加を求めるものではなく、支店の行員以外の行員らも含めて広く声かけをしたにすぎない私的なものであって、これに対する行員らの対応をみても、参加しない意思を表明した者や申込書を受け取らない者もいるなど、本件大会に参加するか否かは行員らの各自の判断に委ねられていたということができ、さらに、本件大会とその1か月余り後に開催された第2回熊本リレーマラソン自体、熊本銀行が特別協賛したにとどまり、行員らが参加した場合の参加費が免除されるなど、行員らにとって一定の利益を受ける面はあったものの、行員の参加が熊本銀行において要請されていたものではない上、そもそも本件大会とは主催者も異なる無関係の大会であるといわざるを得ないから、熊本銀行の行員にとって、第2回熊本リレーマラソンへの参加が業務に当たるとはいえず、本件大会への参加がその準備行為として業務に当たるということもできず、本件大会の参加がXの業務行為又はそれに伴う行為として行われたということができないから、本件災害が業務災害に当たると認めることはできない。

事実上強制されていたと認定されるかどうかがポイントになりますが、裁判所はこの点について否定しました。

他の行員の対応から判断するとこのような結論になるのもしかたがないように思います。

労働災害95(保険金請求事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、自賠責保険の支払いにおいて労災保険法12条の4に基づく国の請求よりも被害者の直接請求を優先すべきとした判例を見てみましょう。

保険金請求事件(最高裁平成30年9月27日・労経速2364号3頁)

【事案の概要】

本件は、自動車同士の衝突事故により被害を受けたXが、加害車両を被保険自動車とする自動車損害賠償責任保険の保険会社であるY社に対し、自動車損害賠償保障法16条1項に基づき、保険金額の限度における損害賠償額及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、Xの請求につき、自賠責保険金額の合計である344万円及びこれに対する原判決確定の日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める限度で認容した。

【裁判所の判断】

原判決中、344万円に対する平成27年2月20日から本判決確定の日の前日までの遅延損害金の支払請求を棄却した部分を破棄し、同部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。

【判例のポイント】

1 ・・・しかしながら、被害者が労災保険給付を受けてもなお塡補されない損害(以下「未塡補損害」という。)について直接請求権を行使する場合は、他方で労災保険法12条の4第1項により国に移転した直接請求権が行使され、被害者の直接請求権の額と国に移転した直接請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超えるときであっても、被害者は、国に優先して自賠責保険の保険会社から自賠責保険金額の限度で自賠法16条1項に基づき損害賠償額の支払を受けることができるものと解するのが相当である。

2 自賠法16条の9第1項にいう「当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間」とは、保険会社において、被害者の損害賠償額の支払請求に係る事故及び当該損害賠償額の確認に要する調査をするために必要とされる合理的な期間をいうと解すべきであり、その期間については、事故又は損害賠償額に関して保険会社が取得した資料の内容及びその取得時期、損害賠償額についての争いの有無及びその内容、被害者と保険会社との間の交渉経過等の個々の事案における具体的事情を考慮して判断するのが相当である。このことは、被害者が直接請求権を訴訟上行使した場合であっても異なるものではない。

案分説と被害者優先説のうち、後者が採用されています。

なお、類似の事案において、既に最高裁判決(最判平成30年2月19日)が存在し、本件と同様の理由から被害者優先説が採用されています。