労働災害117 通勤中の電車内で注意をした相手方から蹴られたことによる傷害が通勤災害に当たらないとされた事案(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、通勤中の電車内で注意をした相手方から蹴られたことによる傷害が通勤災害に当たらないとされた事案を見ていきましょう。

中央労働基準監督署長事件(東京地裁令和5年3月30日・労経速2535号22頁)

【事案の概要】

本件は、ファミリーレストランの経営等を業とする株式会社に雇用されていたXが、通勤中の電車内において、迷惑行為を行っていた男性に注意したところ、男性から蹴られて左脛骨顆間隆起骨折の傷害を負うという通勤災害に遭遇したとして、中央労働基準監督署長に対し労働者災害補償保険法に基づき療養給付たる療養の給付、療養給付たる療養の費用並びに休業給付及び休業特別支給金の請求をしたところ、同労働基準監督署長から、上記の傷害は通勤に起因する負傷とは認められないとして、令和2年7月31日付けでこれらをいずれも不支給とする旨の処分を受けたことから、上記の各処分には違法があると主張し、被告に対し、上記の各処分の取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件加害者はXから迷惑行為を注意されて本件電車から降りるように申し向けられた後、D駅で自ら電車を降りたことが認められる。そうすると、Xの注意により本件加害者が迷惑行為を中止して降車した段階で車内における迷惑行為の存在という問題は解消されたといえるから、その後に、Xがホーム上で罵声を発する本件加害者に対して更に酔いをさますよう申し向けた行為等は、通勤にも通勤と関係する行為にも該当せず、その後に本件加害者から左足を蹴られて本件傷害を負ったとしても、それは通勤の中断中ないし中断後の負傷であって、通勤による負傷には該当しないものといわざるを得ない。、
なお、Xがホーム上での本件加害者との喧嘩闘争中に本件傷害を負った可能性も否定されないところ、その場合には、本件加害者を制圧するという通勤とは関係のない行為の際に負傷したものであるから、通勤中断中の負傷であることは明らかというべきである。

原告の方の勇気ある行動に敬意を表します。

通勤災害の要件である「通勤」については、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとされていますが、移動の経路を逸脱し、又は移動を中断した場合には、逸脱又は中断の間及びその後の移動は「通勤」とはなりません。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。