労働災害111 自発的な兼業による長時間労働等について安全配慮義務違反が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、自発的な兼業による長時間労働等について安全配慮義務違反が否定された事案を見ていきましょう。

大器キャリアキャスティング・ENEOSジェネレーションズ事件(大阪地裁令和3年10月28日・労経速2471号3頁)

【事案の概要】

Xは、セルフ方式による24時間営業の給油所において、主に深夜早朝時間帯での就労をしていた者である。給油所を運営するA社は、深夜早朝時間帯における給油所の運営業務をB株式会社に委託していたところ、同社は、その業務を被告Y1社に再委託した。
Xは、同給油所において、Y1社との労働契約に基づき、深夜早朝時間帯での就労をしていたが、その後、A社とも労働契約を締結しY1社での就労に加えて、A社との労働契約に基づき、週1、2日、深夜早朝以外の時間帯にも就労するようになった。
Xは、Y1社及びA社を吸収合併したY2社に対し、Xの連続かつ長時間労働を把握又は把握しえたとして、Xの労働時間を軽減すべき安全配慮義務があるにも関わらず、これを怠り、Xに精神疾患を発症させたとして損害賠償請求等をした事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y1社及びA社との労働契約に基づくXの連続かつ長時間労働の発生は、Xの積極的な選択の結果生じたものであるというべきであり、Xは、連続かつ長時間労働の発生という労働基準法32条及び35条の趣旨を自ら積極的に損なう行動を取っていたものといえる。
すなわち、Xは、Y1社と労働契約を締結していたにもかかわらず、A社とも労働契約を締結し、Y1社との労働契約上の休日(日曜日)にA社での勤務日を設定して連続勤務状態を生じさせ、Cから勤務の多さについて労働基準法に抵触するほか、自身の体調を考慮して休んでほしい旨注意され、5月中旬までにはa社の下での就労を確実に辞める旨約束した後も、別途金曜日にa社との労働契約に基づく勤務を入れたり、平成26年4月28日にf店における就労について話し合った際もGの意向に反して自ら就労する意向を通していたのである(かかるXの行動・態度に照らせば、たとえY1社が更に別の曜日を休日にするなどの勤務シフトを確定させたとしても、Xが独自に交渉するなどして、その休日にA社の下で就労し、あるいは、更に異なる事業所で勤務しようした蓋然性が高いと認められる。)。

2 他方、Y1社としては、いかに上述した契約関係に基づいて24時間営業体制が構築されているとはいえ、XとA社の労働契約関係に直接介入してその労働日数を減少させることができる地位にあるものでもない(それゆえに、Cは、Xに注意指導してA社との労働契約を終了するよう約束を取り付けている。)。
加えて、そもそもXの担当業務に関する労働密度は相当薄いというべきものであること、Y1社は基本的に日曜日を休日として設定していること、CはXに対し、労働法上の問題のあることを指摘し、また、X自身の体調を考慮して休んでほしい旨注意をした上、Xに同年5月中旬までにはA社の下での就労を確実に辞める旨の約束を取り付けていることなど、本件に表れた諸事実を踏まえると、Y1社が原告との労働契約上の注意義務ないし安全配慮義務に違反したとまでは認められない。

兼業・副業を認めている会社にとっては、非常に重要な裁判例です。

上記判例のポイント1のような事情があったからこそ、裁判所は、会社の責任を否定しましたが、会社が黙認していた場合には結論が逆になり得ますのでご注意ください。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。