Monthly Archives: 9月 2011

本の紹介5 選択の科学(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 

さて、今日は、本の紹介をします。
選択の科学
 選択の科学

コロンビア大学ビジネススクールの教授の本です。

「選択」するとはどういうことなのかについて、いろいろな調査結果をあげながら説明されています。

私たちは、自分の自由意思で選択しているように思っているが、実は、いろいろな仕掛けで「選ばされている」ということがよくわかります。

ヒントがいっぱい詰まった本です。

この本の帯に書かれている文章です。

社長の平均寿命は、従業員の平均寿命よりも長い。その理由は、裁量権つまり選択権の大きさにある。

動物園の動物の寿命が、野生の動物よりはるかに短いのは、「選択」することができないからだ。」  

が、何もかもが決められている原理主義的な宗教に属する人ほど鬱病の割合は少ない。

選択することができる生き方とできない生き方、どちらの方がいいですか?

不当労働行為22(川崎重工業事件)

おはようございます。

さて、今日は、交渉主体と団交拒否に関する裁判例を見てみましょう。

川崎重工業事件(兵庫県労委平成23年6月9日・労判1029号95頁)

【事案の概要】

Y社は、平成20年のいわゆるリーマンショック以降、経営状況が悪化したため、21年秋から冬にかけてC工場の操業度が落ち込み、同工場の請負業務は新規に発注する案件がなく、労働者派遣契約も順次中途解除する状況となった。

21年11月、Y社は、請負契約または労働者派遣契約に基づきC工場で鉄道車両の台車製造業務を行っていたA社及びB社に新たな請負業務を発注せず、労働者派遣契約を中途解除した。

C工場で働いていたA社およびB社の従業員Dらは、労働組合を結成した。

A社およびB社は、11月から12月にかけてDら組合員を解雇または雇止めとした。

11月、組合は、Y社に対して組合員の雇用に関する団交を申し入れた。

Y社は、組合員と直接の雇用関係になく、組合員の労働条件を決定する権限がないので、団交に応じられないと回答した。

組合は、Y社の団交拒否は、不当労働行為にあたると主張し争った。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にはあたらない。

【命令のポイント】

1 組合が本件団体交渉においてY社とA社とが一体となって解決することを求めているのは、組合員の解雇等の撤回ないしY社での雇用に関するものであるところ、組合は、これらの事項に関してY社が現実的かつ具体的な支配力を有していた事実として、組合員がY社の従業員と混在して働いていたこと、Y社の従業員から残業の指示を受けたこと、有給休暇を取得するに当たりY社の班長への届出が必要であったこと、Y社の従業員と一緒に朝礼に参加し、会社の課長等から業務指示を受けたことを指摘するにとどまり、これらの事実だけでは、組合員の雇用についてY社が現実的かつ具体的な支配力を有しているとまではいえない

2 団体交渉の当事者としての使用者性の判断は、労働組合法独自の観点から行うべきであって、会社に雇用契約の申込み義務がないというだけで、直ちに雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的にないとして使用者性を否定するのは適切ではない。とりわけ本件のように派遣可能期間を超えている場合には、雇用契約の申込み義務がないとしても、労働者派遣法の趣旨は直接雇用を含めた雇用の安定を要請していると解することができ、実際に本件では兵庫労働局から同旨の指導が会社に対してなされていたことを考慮すると、なお雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的にあると判断される余地もある

3 そこで、このような観点から、Y社と組合員との間に、近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存するかどうかについて検討すると、組合からY社に対し団体交渉申入れがあった平成21年11月ころ、C工場では操業度が落ち込み、請負業務については新規に発注する案件がなく、労働者派遣契約についても順次解除していく状況にあったことが認められる。・・・したがって、Y社と組合員との間に、近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存するということはできない

4 以上のことから、Y社は、組合員に対する労働組合法上の使用者に当たらず、組合員の雇用に関する組合からの団体交渉の申入れに応じる義務を負うとはいえない。

上記ポイント1の事情からすると、Y社内では少なからず、偽装請負の状態が存在したことが窺われますが、労働委員会としては、これらの事情だけでは、Y社を組合員の労組法上の使用者とは認めませんでした。

正直、理解に苦しみますが・・・。 

実質的には、Y社が指揮命令をしていたように読めますが。 どうなんでしょうか。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介4 憂鬱でなければ、仕事じゃない(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は、有名な社長お二人が書かれた本を紹介します。
憂鬱でなければ、仕事じゃない
憂鬱でなければ、仕事じゃない

こういう題名も嫌いではありません。 つかみはOKという感じです。

見城さんの意見は、多くの部分で、共感を覚えます。

また、使う言葉が刺激的なので、読んでいるうちに、猛烈に仕事をしたくなってきます。

まだまだ僕も甘いなって、思ってしまうのです(単純なのです・・・)。

さて、この本で、私が「いいね!」と思ったフレーズは、これです。

僕にとって何より重要なのは『極端』であることだ。『極端』であれば、振り切れている。突き抜けたオリジナリティーを獲得している。だから、明快であり、新しい。・・・では、どうすれば、『極端』なものを生み出せるか?『中間』を憎み、極北を目指して圧倒的努力をするしかない。
圧倒的努力とは、とても単純である。人が寝ている時に寝ないってこと。人が休んでいる時に休まないってこと。そして、どこから手を付けていいかわからない膨大なものに、手をつけ、最後までやり通すことだ。
」(60頁)

わかりやすいですね。

継続して実行することは、肉体的にも精神的にもつらいことですが。

自分をいじめるのが好きなタイプの人間は、見城さんの意見に共感しやすいのかもしれません。

こういう「圧倒的努力」をしていること自体が、安心感につながるのだと思います。

労災47(フィット産業事件)

おはようございます

また一週間はじまりました! がんばっていきましょう!!

今日は、午前中、公証役場へ行き、その後、労災の裁判が1件入っています。

午後は、建物明渡等の裁判が2件入っています。

裁判終了後、月一恒例のK・MIXです。 今回は、浜松まで行ってきます

ずみさん、おてやわらかに・・・

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、派遣社員のうつ病と損害賠償に関する裁判例を見てみましょう。

フィット産業事件(大阪地裁平成22年9月15日・労判1020号50頁)

【事案の概要】

Y社は、コンピュータシステムの受託・開発等を業とする会社である。

Xは、Y社に雇用され、平成13年8月から、A社にY社の派遣社員として派遣され、A社が受注していた運行制御システムの開発業務に従事していた。

Xの平成14年9月から15年3月までの労働時間数は相当長時間に及んでおり(1か月当たり約171時間ないし291時間)、特に15年1月および2月の労働時間は過重ともいうべき程度存在していた。

Xは、心療内科を受診したところ、「不眠症、うつ状態」。「遷延性うつ反応」と診断された。

Y社は、15年4月、Xを休職扱いとした。また、Y社は、同年6月、Xの休職期間が3か月になったことを理由として、就業規則に基づき、Xを退職とする取扱いをした。

労基署長は、18年12月、Xのうつ病発症について、業務起因性が認められると認定した。

Xは、Y社に対し、債務不履行ないし不法行為に基づき、休業損害、慰謝料等の損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

Y社に対し、約1500万円の損害賠償の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 一般的に、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負っていると解するのが相当である(最高裁平成12年3月24日判決参照)。

2 Xは、Y社の業務によってうつ病を発症したところ、同疾病発症に当たって、Y社は、平成14年9月から平成15年3月までの間におけるXの労働時間、特に、平成15年1月及び同年2月におけるXの時間外労働時間は、かなりの程度に及んでおり、Y社としても、勤務日報等により、かかるXの長時間労働については十分に把握することができたというべきである。また、Xが担当していた本件運行制御システムは、要件定義の確定と同システム完成納期との間の期間が短く、同システムに係る作業については、主としてXが担当していたところXに対するY社の支援体制が確立していなかった
以上の事実を総合すると、Y社は、Xについて、当該業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意すべき義務を負っていたにもかかわらず、これを怠ったということができ、Xがうつ病を発症したものと認めることが相当である。
そうすると、Y社は、Xに対する安全配慮義務違反により、Xがうつ病を発症したこと、それにより被った損害を賠償すべき責任があるというべきである。

3 ・・・以上の事実を踏まえると、Xのうつ病の発症及び発症後長期間経過したにもかかわらず治癒するに至っていないことに関しては、X自身の生活態度・業務態度が一定の範囲で寄与していたと認めるのが相当である。そうすると、X側にも過失があると認めるのが相当であって、上記したXの生活状況等を総合して勘案すると、その過失割合としては、2割とするのが相当である

本件では、先に労災の認定がされていたため、労働者側としては、比較的やりやすかったと思います。

今回も、裁判所は、会社側の「支援体制」の不存在について指摘しています。

その一方で、被災労働者の過失も認め、過失相殺を2割認めています。

本の紹介3 究極の鍛錬(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日も読んだ本の中から、「いいね!」と思った言葉を紹介します。

今日の本は、アメリカ「フォーチュン」誌の編集主幹の方が書かれた本です。

 究極の鍛錬
  究極の鍛錬 天才はこうしてつくられる

こういう題名、大好きです。

少し前に読んだ本ですが、昨夜、もう一度、読み返してみました。

とにかく書いてある内容がわかりやすいのがいいです。

いろいろな分野の「天才」と呼ばれている人を数多く例にあげて分析しています。

社内教育等にも役に立つと思います。

この本の中で、私が「いいね!」と思った一言は、これです。

自動化の回避が究極の鍛錬を継続することの一つの効果なのだ。自分がうまくできない点を絶えず意識しながら練習するという鍛錬の本質から、自動化に基づく行動をとることが不可能となる。」(121頁)

ここでいう「自動化」について、著者は、以下の例で説明しています。

たとえば、自動車の運転など、何か新しいことができるようになるには、人間は三つの段階を経るものだ。第一段階では、いろいろなことに注意を払うことが求められる。車の制御方法、交通規制などいろいろなことを学ばなければならない。第二段落になると、知識を連携するようになる。車、状況、交通規制の知識といろいろな自分の体の動きを関連づけ、スムーズに組み合わせることができるようになる。第三段落になると、考えることなくひとりでに車を運転するようになる。これを自動化(automatic)という。そして、この自動化によって普通の人の車の運転技術の向上速度は劇的にスローダウンし、ついには技術の向上が完全に止まってしまう。」(120頁)

自分の仕事に置き換えやすい例示です。

「慣れ」というものに気をつけなければいけません。

もっとも、「自分がうまくできない点を絶えず意識しながら練習する」・・・簡単にはできません。

これができる人とできない人では、数年後、まったく違うレベルになっているんでしょうね。

「まだまだ自分は発展途上だ」といつまでも思いながら仕事をしていきたいです。

本の紹介2 トップ営業のお客様から「教わる力」(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます

さて、今日は、トップ営業マンのことばを紹介します。
お客様から「教わる力」 (PHPビジネス新書)
お客様から「教わる力」 (PHPビジネス新書)

この本は、昨日、新幹線の中で読んだ本です。

著者は、私がいつもお世話になっている外資系生保プルデンシャル生命のライフプランナーの方です。

エグゼクティブ・ライフプランナーだそうです。 なんか強そうです。

いろいろなエピソードが書かれており、とても読みやすく、参考になります。

さて、私がこの本の中で「いいね!」と思ったフレーズはこれです。

思い立ったら即実行。やるかやらないかしばらく悩むのは時間がもったいないことです。来週からやろう、来年からやろう、ではなく、たった今からすぐ行動に移す。失敗したとしてもその経験は必ず後で活かせる、と分かっているから、恐れずどんどんチャレンジを続けます。どうせ失敗するのなら、少しでも早いようがよい。この経験は次に活かせるし、何よりも仕事の回転が速くなる訳ですから。」(186頁)

まったく同感。

私も思い立ったら、すぐにやっちゃいます。

これが弁護士が何人もいる事務所だとそうはいきません。

何か新しいことをやろうとすると、意見を取りまとめないといけませんし、話し合う時間を確保するために、かなり先に会議の日程を入れざるを得ないからです。

その点、私の事務所は、議論の余地がありませんので、(一応、スタッフには伝えますが)私が思い立ったら、その日には、実行に移しています。

「失敗したらどうしよう」なんて、そもそも考えていません。

正直、失敗したって、どうってことないと思っています(失敗したら一大事になることは熟慮してから行動にうつすようにはしていますが。)。

たいていのことは、仮に失敗してもたいしたことないことばかりです。

毎日、新しいことにチャレンジしないと、生きている実感が持てません。

本の紹介1 ウォーレン・バフェット 賢者の教え(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

さて、今日は、ウォーレン・バフェットさんのことばから。

先日、本屋でなんとなく買った本です。 バフェットさんは有名なので、みなさん知っていると思います。

ウォーレン・バフェット 賢者の教え―世界一投資家思考の習慣 (経済界新書)
ウォーレン・バフェット 賢者の教え―世界一投資家思考の習慣 (経済界新書)

この本は、バフェットさんが話したことばをいろいろと紹介しています。

こういう感じの本は、これまで何百冊も読み漁ってきましたが、気分転換にはちょうどいいです。

この本の中で、私が「いいね!」と思ったことばを2つ紹介します。

1 「成功できたのは、飛び越えられるであろう30センチのハードルを探したからであり、2メートルをクリアできる能力があったからではない。

私は、自分にとって「30センチのハードル」が何であるかわかっています。

そのハードルをちょっとずつクリアしていくだけです。

2 「ビジネスの世界で最も危険な言葉は、5つの単語で表現できます。『ほかの誰もがやっている』(Everybody else is doing it)です。

事務所のホームページにも書いていますが、「弁護士の新しいかたち」を追求しながら、毎日仕事をしています。

このブログを見てくれている若手弁護士のみなさん、どんどん新しいことをやっていきませんか?

業界の常識を変えましょう!

派遣労働4(積水ハウスほか(派遣労働)事件)

おはようございます。

さて、今日は、派遣労働と黙示の労働契約に関する裁判例を見てみましょう。

積水ハウスほか(派遣労働)事件(大阪地裁平成23年1月26日・労判102号24頁)

【事案の概要】

Y1社は、人材派遣、人材紹介等を事業内容とする会社である。

Y2社は、建築工事の請負及び施行、建築物の設計および工事管理等を事業内容とする会社である。

Xは、Y1社に対して派遣登録をしていたところ、Y2社の正社員を募集する紹介予定派遣に応募したが、採用されず、その後Y2社の大阪南カスタマーズセンターに派遣されて就労していた。

XとY1社の間の派遣労働契約は、平成16年12月に締結された後、3か月ごとに15回、平成20年8月まで約3年8か月にわたって更新された。

平成17年3月以降についてY1社らの間で結ばれた労働者派遣契約および派遣通知書には、業務内容は、「5号OA機器オペレーション業務(付随業務を含む)」と記載されていた。

Y2社の本件センター所長であるBは、平成20年7月頃、Xに本件労働者派遣契約を同年9月以降更新しない旨Y1社の担当者Fに伝えたが、その際に、いったん本件労働者派遣契約を終了するが、3か月のクーリングオフ期間をおいた後の同年12月から再度Xの派遣を受け入れたいとの希望を伝えた。

その後、XとY1社らの本件労働者派遣契約は、平成20年8月をもって期間満了により終了した。

同年10月にいたって、Y2社は12月からのXにかかる労働者派遣契約は締結しないとの意思決定をし、これを通されたFは、Xに対し再契約がないことがはっきりした旨連絡した。

Xは、Y2社におけるXの業務内容は、労働者派遣法40条の2で制限する就労期間について制限のない労働者派遣法施行令4条で定める26の業務に該当しないにもかかわらず、Y1社らは労働者派遣の役務提供を受ける期間を潜脱する目的で派遣業務を偽装した違法な派遣を行ったものであり、Y1社らの労働者派遣契約およびXとY1社の間の派遣労働契約が無効であるなどと主張し争った。

【裁判所の判断】

派遣労働契約、労働者派遣契約は無効ではない。

XとY2社との間には、黙示の労働契約は成立しない。

Y2社に対する、30万円の損害賠償請求を認容。

【判例のポイント】

1 政令には政令5号業務として「電子計算機、タイプライター、テレックス又はこれらに準ずる事務用機器の操作の業務」と定めるのみで、派遣先の労働者の地位との関係で政令26業務の場合に派遣期間の制限が解除された趣旨を踏まえても、主としてパソコン操作がその業務となっている場合について政令5号業務から外れるとまで解することはできない

2 派遣労働者であるXが従事した業務が政令26業務(政令5号業務)に該当せず、また、それに従った派遣期間の制限違反等の労働者派遣法違反の事実があったとしても、労働者派遣法の趣旨およびその取締法規としての性質、さらには派遣労働者を保護する必要性等を踏まえると、特段の事情のないかぎり、そのことだけでXと派遣元であるY1社との間の派遣労働契約が、また、Y1社と派遣先であるY2社との労働者派遣契約が直ちにに無効となるものではない

3 派遣労働者と派遣先との黙示の労働契約の成否を判断するに当たっては、派遣元に企業としての独自性があるかどうか、派遣労働者と派遣先との間の事実上の使用従属関係、労務提供関係、賃金支払関係があるかどうか等を総合的に判断して決するのが相当である。

4 労働者が派遣元との派遣労働契約に基づき派遣元から派遣先に派遣された場合であっても、派遣元が形式的な存在にすぎず、派遣労働者の労務管理を行っていないのに対して、派遣先が実質的に派遣労働者の採用、賃金額その他の労働条件を決定し、配置、懲戒等を行い、派遣労働者の業務内容・派遣期間が労働者派遣法で定める範囲を超え、派遣先の正社員と区別しがたい状況となっており、派遣先が派遣労働者に対し労務給付請求権を有し、賃金を支払っている等派遣先と派遣労働者間に事実上の使用従属関係があると認められるような特段の事情がある場合には、派遣先と派遣労働者との間において、黙示の労働契約が成立していると認めるのが相当である

5 XとY2社との関には黙示の労働契約の成立は認められないが、Y2社がXに対し派遣労働契約終了後3か月の期間をおいて再度就労が可能であると告げたこと等から、Xの復職就労に関する期待が法的保護に値するものであり、Y2社による平成20年12月以降のXの就労の拒否はこれを侵害した違法行為であるとされ、30万円の損害賠償請求が認容された。 

今後、派遣労働に関してもいっぱい検討していこうと思います。

本件では、いろいろと参考になるポイントがあります。

上記判例のポイント3、4は、小難しいことを言っているように見えますが、よく読むと、たいしたことは言っていません。

たぶん、判例のポイント3、4の基準をみたすのは、よほどの場合でない限り、現実には存在しないように思います。

結局、派遣労働者の期待権侵害による30万円の損害賠償請求だけを認めたわけです。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

派遣労働3(テクノプロ・エンジニアリング(派遣労働者・解雇)事件)

おはようございます。

さて、今日は、派遣会社待機社員の整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

テクノプロ・エンジニアリング(派遣労働者・解雇)事件(横浜地裁平成23年1月25日・労判1028号91頁)

【事案の概要】

Y社は、労働者派遣法に基づく派遣事業などを目的とする会社である。

Xは、平成8年にY社との間で派遣労働者(技術社員)として雇用契約を締結し、それ以降、17年までA社に派遣されて就労していた。その後、Xは、B社に派遣替えとなり、21年3月まで業務に従事した。

Y社は、平成21年3月の時点で待機社員494名のうち新規配属先が確保できた者および自己都合退職した者を除く合計351名に対して、整理解雇する旨の意思表示を行った。

Xは、本件整理解雇は無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 本件解雇は、いわゆる整理解雇に該当するところ、整理解雇は、労働者の私傷病や非違行為など労働者の責めに帰すべき事由による解雇ではなく、使用者の経営上の理由による解雇であって、その有効性については、厳格に判断するのが相当である。そして、整理解雇の有効性の判断に当たっては、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性及び手続の相当性という4要素を考慮するのが相当であり、以下このような観点から本件解雇の有効性について検討する。

2 Y社は、平成20年5月度に経常利益が赤字に陥った以外、本件整理解雇以前の少なくとも過去数年間は一貫して黒字であり、本件整理解雇にあたってはY社における人員削減の目標を定めていたか否かも明らかでない。・・・これらの事情を総合すれば、Y社の経営状態は好ましくない方向に推移していたものと認められるものの、本件整理解雇にあたり、その時点で、Y社に切迫した人員削減の必要性があったとまでは認めるに足りない

3 Y社が本件整理解雇当時に人員削減の目標を定めていたかも明らかではなく、また、Y社は、技術社員に対する希望退職者の募集を一切行わないまま、平成21年3月末時点の待機社員の人数が494名に上るとの予測を受けて、直ちにXを含めた待機社員351名にも及ぶ本件整理解雇を実施することを決定し、その解雇通知を行っている。こうした事情によれば、人員削減の手段として整理解雇を行うことを回避するため、希望退職の募集など他の手段により本件整理解雇を回避する努力を十分に尽くしたとは認められない

本件では、整理解雇の必要性が認められないところで、勝負ありです。

整理解雇を実施する場合には、相当注意しなければ、有効にはなりません。

必ず顧問弁護士に相談の上、慎重に進めてください。

解雇56(日鯨商事事件)

おはようございます。

さて、今日は、海外勤務者の無断帰国等を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日鯨商事事件(東京地裁平成22年9月8日・労判1025号64頁)

【事案の概要】

Y社は、東京に事務所を有するほか、オマーンにも事務所兼社宅を借りていた。

Xは、Y社との間で雇用契約を締結し、平成19年11月から、主にオマーンにおいて業務に従事していた。

Xは、日本とオマーンを行き来しており、同年3月にも日本からオマーンに向けて出国した。この際の往復旅費はY社の負担である。

Xは、同月、オマーンから日本へ帰国した。この前日、XはY社の取締役であるAと電話でやりとりをし、きちんと引継ぎと今後の業務への対応策を話し合う必要があるので、Y社代表者とAがオマーンに戻る翌日までオマーンに残るよう言われたが、Xは航空券の日程変更ができないとして、同日帰国した。

Y社は、Xに対し、Xの「中東業務契約」を解除する旨のメールを送信し、同日、Y社は、解除メールと同内容の「中東業務契約解除(解任)通知書」と題する書面を発送した。

Xは、Y社による解雇は違法であるとして、損害賠償請求、未払時間外手当の請求等をした。

【裁判所の判断】

Y社の行為は不法行為に該当する。

【判例のポイント】

1 Y社のXに対する中東業務契約解除につき、本件就業規則には解雇規定はあるが、Y社に在籍しつつ一部の業務について契約を解除する旨の規定はないことや、Y社がXに対し退職の意思の有無を確認せずに退職手続を進めたことから、Y社は、契約解除通知書の交付をもって、Xに対し解雇の意思表示をしたものと認められる。

2 Xの出張先からの帰国等が、本件就業規則の解雇事由である「従業員の就業状況が著しく不良で就業に適しないと認められる場合」には該当しないとし、本件解雇は解雇権を濫用し著しく相当性を欠くものであり、Y社には本件解雇をしたことにつき過失があったものと認められる。
以上によると、本件解雇は、Xに対する不法行為を構成するものということができる。

3 Xは、本件解雇により失職したことによって、合理的に再就職が可能と考えられる時期までの間、本来勤務を継続していれば得られたはずの賃金相当額の損害を受けたものということができる。

Xは、本件解雇当時45歳の男性であったこと、複数回の転職経験があること、語学(英語)能力が高いこと、現に本件解雇後1か月も経過しないうちに再就職することができたことが認められるところ、これらの事情を総合考慮すると、Xが合理的に再就職をすることが可能であると考えられる期間は、本件解雇後3か月であると認めるのが相当である

4 本件解雇により被った精神的苦痛については、前記財産的損害の賠償により慰謝される性質のものであるというべきである

本件では、Y社の不法行為責任を認めました。

事案としては、解雇の有効性は否定されてもしかたがないものです。

注目すべきは損害額です(上記判例のポイント3参照)。

Xがこれほど有能でなければ、損害額はもっと多くなったのでしょうか・・・?

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。