賃金67(ファニメディック事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!!

さて、今日は、獣医師に対する試用期間中の解雇及び時間外労働に対する割増賃金等の請求に関する裁判例(ここでは、割増賃金等の請求について具体的に見ていきます。)を見てみましょう。

ファニメディック事件(東京地裁平成25年7月23日・労経速2187号18頁)

【事案の概要】

本件は、平成23年5月10日からY社で稼働していたXが、同年11月9日付けでなされた解雇について、解雇理由とされる事実自体が存在せず社会通念上相当性を欠いている等と主張して、Y社に対し、雇用契約上の地位確認等を求めた事案である。

Y社における獣医師の基本給は、各人別に算定される能力基本給および年功給により構成されるものとし、以下の式により算出される金額を75時間分の時間外労働手当相当額及び30時間分の深夜労働手当相当額として含むものとされている。

75時間分の時間外労働手当相当額=(能力基本給+年功給)×34.5%

30時間分の深夜労働手当相当額=(能力基本給+年功給)×3.0%

【裁判所の判断】

解雇は無効

未払残業代としてほぼ請求金額の満額を認めた。

付加金として同額の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 就業規則の効力発生要件としての周知は、必ずしも労基法所定の周知と同一の方法による必要はなく、適宜の方法で従業員一般に知らされれば足りると解されるところ、Y社では、流山本院の受付周辺に印字した就業規則を備え置いているほか、同じく流山本院の受付のパソコンに就業規則のデータを保管していること、Xにも、Y社での勤務開始前に、Y社代表者から上記事実が伝えられていたことを認めることができる。

2 36協定は、労基法32条または35条に反して許されないはずの労働が例外的に許容されるという麺罰的効力を持つものであるが、有効な36協定が締結されていない状況下でなされた時間外労働にも割増賃金は発生すること、その差異、就業規則に労基法に定めるものと同等か、それ以上の割増賃金に関する定めがあれば、使用者に対し、当該規定に基づく支払義務を課すことが相当であることに照らせば、36協定の効力の有無によって、割増賃金に関する就業規則の規定の効力は影響を受けないというべきである

3 基本給に時間外労働手当が含まれると認められるためには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分が判別出来ることが必要であるところ(最高裁平成6年6月13日判決)、その趣旨は、時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分が労基法所定の方法で計算した額を上回っているか否かについて、労働者が確認できるようにすることにあると解される。そこで、本件固定残業代規定が上記趣旨に則っているか否かが問題となる。
・・・確かに、本件固定残業代規定に従って計算することで、通常賃金部分と割増賃金部分の区別自体は可能である。しかし、同規定を前提としても、75時間分という時間外労働手当相当額が2割5分増の通常時間外の割増賃金のみを対象とするのか、3割5分増の休日時間外の割増賃金をも含むのかは判然とせず、契約書や級支給明細書にも内訳は全く記載されていない
結局、本件固定残業代規定は、割増賃金部分の判別が必要とされる趣旨を満たしているとはいい難く、この点に関するY社の主張は採用できない(そもそも、本件固定残業代規定の予定する残業時間が労基法36条の上限として周知されている月45時間を大幅に超えていること、4月改定において同規定が予定する残業時間を引き上げるにあたり、支給額を増額するのではなく、全体に対する割合の引上げで対応していること等にかんがみれば、本件固定残業代規定は、割増賃金の算定基礎額を最低賃金に可能な限り近づけて賃金支払額を抑制する意図に出たものであることが強く推認され、規定自体の合理性にも疑問なしとしない。)。

最近の裁判例を見る度に、固定残業代制度の終焉を迎えつつある気がしてなりません。

固定残業代制度の制度設計を間違うと、普通の未払残業代よりも多くの金額を支払わなければならないのが通常です。

しかも、使用者側の感覚からすると、二重払いのように思えてしまうので、たちが悪いです。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。