同一労働同一賃金14 大学非常勤講師と専任教員との間の同一労働同一賃金問題(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、大学非常勤講師への賞与、家族手当、住宅手当等の不支給が労働契約法20条に違反しないとされた裁判例を見てみましょう。

学校法人C事件(東京地裁令和元年5月30日・労経速2398号3頁)

【事案の概要】

本件は、C大学等を設置し、運営する学校法人であるY社との間で期間の定めのある労働契約を締結し、当該労働契約に基づいて本件大学の非常勤講師として現に就労しているXが、Y社との間で期間の定めのない労働契約を締結している本件大学の専任教員との間に、本俸の額、賞与、年度末手当、家族手当及び住宅手当の支給に関して、労働契約法第20条の規定に違反する労働条件の相違がある旨を主張して、Y社に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、本件大学の専任教員に適用される就業規則等により支給されるべき賃金と実際に支給された賃金との差額の合計2308万8614円+遅延損害金並びに弁護士費用相当額230万8861円+遅延損害金の支払を求めるとともに、本件大学の法学部長であったY社補助参加人らがXを本件大学の専任教員として採用することを約束したことにより、XとY社がXを本件大学の専任教員として雇用することについての契約締結段階に入ったにもかかわらず、Y社が上記の約束を破棄した等と主張して、Y社に対し、主位的には債務不履行に基づく損害賠償請求として、予備的には不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料500万円及び弁護士費用相当額50万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xと専任教員との間には、本俸額について約3倍の差があったものと解される。しかしながら、そもそも、非常勤講師であるXと専任教員との間には、その職務の内容に数々の大きな違いがあるものである。このことに加え、一般的に経営状態が好調であるとはいえない多くの私立大学において教員の待遇を検討するに際しては、国からの補助金額も大きな考慮要素となると考えられるところ、専任教員と非常勤教員とでは補助金の基準額の算定方法が異なり、その額に相当大きな開きがあることや、Xを含む本件大学の非常勤講師の賃金水準が他の大学と比較しても特に低いものであるということができないところ、本件大学においては、団体交渉における労働組合との間の合意により、非常勤講師の年俸額を随時増額するのみならず、廃止されたコマについても給与額の8割の支給を補償する内容の本件非常勤講師給与規則第3条5項を新設したり、Xのように週5コマ以上の授業を担当する非常勤講師について私学共済への加入手続を行ったりするなど、非常勤講師の待遇についてより高水準となる方向で見直しを続けており、Xの待遇はこれらの見直しの積み重ねの結果であることからすると、Xが本件大学においてこれまで長年にわたり専任教員とほぼ遜色ないコマ数の授業を担当し、その中にXの専門外である科目も複数含まれていたことなどといったXが指摘する諸事情を考慮しても、Xと本件大学の専任教員との本俸額の相違が不合理であると評価することはできないというべきである。

2 Y社は、本件大学の専任教員のみに対して賞与及び年度末手当を支給していたものである。しかしながら、これらは、Y社の財政状態及び教職員の勤務成績に応じて支給されるものであるところ、上記において指摘した各事情に加え、本件大学の専任教員が、授業を担当するのみならず、Y社の財政状況に直結する学生募集や入学試験に関する業務を含む大学運営に関する幅広い業務を行い、これらの業務に伴う責任を負う立場にあること(それ故に、本件大学の専任教員は、Y社との間の労働契約上、職務専念義務を負い、原則として兼職が禁止されている。また、大学において一定数以上の専任教員を確保しなければならないとされていることも、専任教員がその他の教員と異なる重要な職責を負うことの現れであるということができる。)からすると、Y社において、本件大学の専任教員のみに対して賞与及び年度末手当を支給することが不合理であると評価することはできないというべきである。

私立学校という特殊性が考慮されているので、この判断をそのまま民間企業にあてはめることは難しいですが、この分野の考え方の参考にはなります。

この分野は判断が難しいので顧問弁護士に相談しながら対応しましょう。