Monthly Archives: 5月 2020

賃金188 完全歩合制でも最賃法は適用される?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、最低賃金法に基づく未払賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

税経コンサルティング事件(大阪地裁令和元年12月27日・労判ジャーナル96号56頁)

【事案の概要】

本件は、保険代理店を営むY社において保険の営業業務等に従事していたXが、Y社に対し、主位的に(第一次的請求として)、Y社から最低賃金を下回る金額の賃金しか支払われていないとして、雇用契約に基づき、最低賃金に基づいて算出した賃金額との差額に係る未払賃金120万円等の支払を求め、仮にこれが認められない場合に予備的に(第二次的請求として)、Y社がXの賃金から根拠のない控除を行い、また、保険解約に伴い手数料としてXに義務なく金員を支払わせたとして、不当利得に基づき、上記控除に係る利得金約60万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 X及びY社は、平成27年4月1日頃、それぞれ自己の意思に基づき、本件雇用契約書にXが署名押印し、BがY社代表者として押印してこれを作成した事実が認められ、これによれば、X及びY社の間では、同日、本件雇用契約書に記載の契約が成立したものと認められ、これを覆すに足りる証拠はないから、XとY社との間では、平成27年4月1日に雇用契約が成立し、同雇用契約が継続した後、Xは平成29年5月31日にY社を退職したものと認められ、そして、雇用契約の内容(雇用条件)は、概ね本件雇用契約書に沿うものであるところ、Xの賃金に関しては、フルコミッション制(完全歩合制)であることに加え、労働時間に応じた一定額の賃金が保障されることなどが定められているにとどまり、最低賃金を下回らないことは明確にされていないものの、最低賃金に達しない賃金を定める合意部分は無効となり、同部分は最低賃金と同様の定めをしたものとみなす(最低賃金法4条2項)こととなるから、結局、Y社は、Xとの間の雇用契約に基づき、最低賃金と同様の賃金の支払義務を負う

2 Xの従事していた業務は、主に外回りによる保険契約の募集・勧誘であるところ、営業日報に記載された時間、訪問先・折衝先・面談所等及び業務内容の記載には、些か抽象的なものも見られるものの、多くは記載自体から営業活動の一環であることが相当程度理解できるものであること等から、Xの作成した営業日報は基本的に信用性が肯定できるものといえ、また、Xの作成した勤務表は、営業日報が提出されていない期間においても概ね正確に記載されたものと推認することができ、基本的にその信用性を認めることができるというべきであることからすれば、Xの労働時間数については、営業日報及び勤務表を基に算定するのが相当である。

フルコミッションで合意している場合であっても、雇用契約である以上、最賃法は強行法規なので、これに反することはできません。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介1033 儲かる会社は人が1割、仕組みが9割(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

タイトル通りの内容です。

ビジネスにおいては、いかに「儲かる仕組み」をつくるかが鍵となります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

社長は、会社の規模の大小にかかわらず、その存在は絶対であり、社長の持つ知力、体力、気力、決断力、感性、闘争心ーすべてが、全社員に影響を与え、その結果が会社の全体像として浮かび上がってきます。『羊が率いるライオンの群れよりも、ライオンが率いる羊の群れのほうが怖い』ーこれはナポレオン・ボナパルトの言葉といわれていますが、これと同じです。」(34~35頁)

ナポレオンの例えはわかりやすいですね。

一見すると「ほんとかなー」と思うかもしれませんが、私は真実だと思います。

群れのリーダーがグダグダだと、どれだけ優秀なメンバーがいても、チームとして機能しません。

監督が変わるだけでビリだったチームが生まれ変わって優勝してしまうという、まさにあれです。

会社もまたしかりなのです。

労働災害102 休職期間満了後の配置転換と安全配慮義務(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、配転させずに復職させたことを理由とする損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

京都市事件(大阪地裁令和元年11月27日・労判ジャーナル96号78頁)

【事案の概要】

本件は、Y市に採用され、Y市の管理運営する斎場で勤務する職員Xが、同斎場内での事故により適応障害を発症して休職となったにもかかわらず、Y市が、配置転換等の負担軽減措置をとることなくXを復職させ、同斎場で就労させ続けていることは、安全配慮義務に反する違法行為であると主張して、Y市に対し、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料500万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは最終的に予定されたリハビリ勤務を概ね完了し復職が実現しており、その経過の中で、主治医において、リハビリ勤務の計画を中止すべきであるとか、中央斎場への復職が不適当である等の判断をしておらず、Xが、中央斎場での火葬業務に従事する衛生業務員として採用され、その後、本件事故までの約12年間にわたり、同業務に従事してきたことを併せ考慮すると、復職時にXを中央斎場の勤務に復帰させることが不相当であったとまではいえず、また、Xは、復職後も、2年余りにわたり中央斎場での就労を続けており、その間、服薬等によっても中央斎場での就労継続が不可能ないし著しく困難となるような症状が現れたという事実は認められず、そして、主治医の診断書によっても、Xの症状が具体的にどう悪化したのか、その悪化の程度等は判然としない等から、Y市のXに対する安全配慮義務として、Y市がXを中央斎場以外の勤務場所に配置転換しなければならない法的義務を負っていたとは認められず、また、Y市において、勤務場所の配置転換以外の点で、本件疾病によるXの心身の負担に対する必要な配慮を欠いていたとも認められないから、安全配慮義務違反は認められない。

精神疾患と業務起因性の問題は、判断が悩ましいことがとても多いです。

とはいえ、裁判例から一定の判断傾向を探ることは可能なので、それらを踏まえて対応することが求められます。

労災発生時には、顧問弁護士に速やかに相談することが大切です。

本の紹介1032 1%の努力(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

ひろゆきさんらしいタイトルです。

いかに無駄な努力をせずに結果を出すかという視点で書かれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

人生を振り返ると、僕なんかより面白い発想をする人がたくさんいた。けれど、結果的に僕のような人間が企画の仕事をしている。面白いことを考えつく人は、守るべきものができると、途端に面白くなくなる。恋人ができたり、家庭を持ったり、会社で出世したりすると、天才が天才でなくなってしまう。40歳を過ぎて周囲を見回すと、そうやって面白くなくなった人ばかりだ。」(219頁)

「仕事=辛いこと、つまらないこと、理不尽なことを我慢すること」という発想では、決して面白い発想など出てきません。

意識のある時間の半分くらいの時間は仕事をしているので、仕事を楽しめるかどうかは人生を楽しく生きていく上で、かなり重要な点です。

楽しい仕事があるわけではなく、いかに仕事を楽しめるか。

所詮、すべては解釈の問題なのです。

賃金187 退職金不支給が認められる場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、背信行為等を理由とする退職金不支給の成否に関する裁判例を見てみましょう。

インタアクト事件(東京地裁令和元年9月27日・労判ジャーナル95号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、平成28年度冬季の賞与が未払であるとして、労働契約に基づく賞与支払い請求として約49万円等の支払を求めるとともに、Y社を退職したにもかかわらず退職金が支払われないとして、退職金規程に基づき退職金約70万円等の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払賞与等支払請求は棄却

退職金等支払請求は認容

【判例のポイント】

1 XがY社を退職したのが平成28年12月9日であると認められるのに対し、平成28年度冬季賞与支給日が同月13日と設定されていることから、Xは「支給日に在籍している社員」には該当せず、また、Y社における冬季賞与支給日は、必ずしも12月9日以前とされていたわけではなく、その他に、Y社がXを支給日在籍社員として取り扱わないことが権利濫用に該当することを裏付ける事実を認めるに足りる証拠はないから、Xは、平成28年度冬季賞与を請求できる権利を有しない

2 Y社が本件背信行為として主張するものの多くは、そもそも懲戒解雇事由に該当しないものである上、仮に懲戒解雇事由に該当しうるものが存在するとしてもその内容はXが担当していた業務遂行に関する問題であってY社の組織維持に直接影響するものであるとか刑事処罰の対象になるといった性質のものではなく、これについてY社が具体的な改善指導や処分を行ったことがないばかりか、Y社においても業務フローやマニュアルの作成といった従業員の執務体制や執務環境に関する適切な対応を行っていなかったのであり、また、Y社の退職金規程の内容からすれば、Y社における退職金の基本的な性質が賃金であると解されること等から、Xについて、Y社における勤労の功を抹消してしまうほどの著しい背信行為があったとは評価できず、Y社は、Xに対して、退職金規程に従って退職金を支払う義務を負う。

判例のポイント1は、非常にベーシックな論点ですが、支給日それ自体に争いがあると、今回のケースのようになってしまいます。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介1031 NO LIMITS(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も2日間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

タイトルからもわかるとおり、全体を通してずっと「自分の可能性を広げる方法」みたいなことが書かれています。

内容は非常に示唆に富む内容で、何度も読み返すに値する本です。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

人生に変化を起こしたければ、無計画に時を過ごしている暇はない。いつでも『自分をどう成長させていくか計画を立て、それに則って成長していくこと』を心がけてほしい。そして、計画を立てたら、とにかく行動あるのみだ。『行動』に移すことで、初めて成長できるからだ。」(18頁)

計画を立てる暇があったら、どんどん行動したほうがいいですね。

プランもアイデアもそれ自体には価値がありません。

実現・実行してなんぼです。

計画なんて立てたって、どうせその通りになんかならないですから。

典型例が、銀行から融資を受ける際につくる事業計画です(笑)

「んなもん、わかるわけないじゃん」って内容ばかり妄想で書いているわけで。

人生は、無駄なことだらけなのです。

不当労働行為240 併存組合と使用者の中立保持義務(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も2日間がんばっていきましょう。

今日は、便宜供与を議題とする団交において、要求を拒否する旨回答するのみの会社の対応および労組の便宜供与要求に対し、現時点では応ずることはできないとだけ回答した会社の対応が、いずれも不当労働行為とされた事案を見てみましょう。

朝日新聞社(便宜供与)事件(東京都労委平成31年4月23日・労判1214号93頁)

【事案の概要】

便宜供与を議題とする団交において、要求を拒否する旨回答するのみの会社の対応および労組の便宜供与要求に対し、現時点では応ずることはできないとだけ回答した会社の対応が不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

いずれも不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 組合は、本件団体交渉において、便宜供与には優先順序があるし、全部を求めているわけではなく、C労組との公平性から、労働組合の規模に比して、十分譲歩することはできるなどと述べて、優先順序や譲歩の余地があることを示しているのであるから、会社は、事前に検討して一定の結論を持っていたとしても、団体交渉で組合が示した内容を踏まえて再度検討したり、あるいは、組合に譲歩の余地等があってもなお応ずることができない合理的な理由を示して組合の理解を得るよう努力したりすべきであったといえる。

2 組織規模や会社との間で労使関係を構築してきた期間という点において、大きな差異が認められる場合にあっては、単に併存する労働組合との間で便宜供与に差があることのみをもって問題視することは適切ではなく、より具体的に、組合の求める便宜供与の内容、その必要性、便宜供与を行うに当たっての会社の負担、便宜供与をめぐる交渉の経緯、その他の事情を総合的に勘案して、便宜供与を行わないことが支配介入に当たるか否かを判断すべきものといえる。
・・・結局、会社は、組合の要求内容いかんにかかわらず、現段階では一切の便宜供与を行わないとの姿勢を示したものとみられてもやむを得ない。したがって、会社が本件便宜供与の要求について、合理的な理由を示さずにこれを拒否した対応は、中立保持義務に反し、支配介入に当たる。

併存する組合が存在する場合の考え方については、上記命令のポイント2が参考になりますので、理解しておきましょう。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介1030 「畳み人」という選択(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

著者は、幻冬舎「あたらしい経済」編集長の方です。

「畳み人」とは、風呂敷を広げる人に対して、それを畳む人という意味です。

風呂敷を広げるのは意外と簡単なのですが、畳まない、畳めないことが多いため、アイデアがアイデアのまま終わってしまうのです。

畳むことがどれほど重要かは、ビジネスをやっている人ならみなわかっていることです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

うまくいっているプロジェクトには、必ずと言っていいほど畳み人の存在があるということです。画期的なアイデアを出す広げ人の傍で、畳み人はそのアイデアを実現可能なものにまで昇華させる役割を担っています。そのアイデアを実現させるスキルの高さから、あらゆる会社で重宝されているのです。」(24頁)

大きい会社であれば、「広げ人」「畳み人」と役割を分けることもできるかもしれませんが、

小さい会社では必ずしもそうはいきません。

1人で両方の役割をしなければいけないこともあります。

前記のとおり、実際のところ、アイデアを出すほうがそれを実現するより100倍楽です。

詰まるところ、実現する力がなければ、アイデアなんてクソの役にも立ちません。

実現力、実行力こそが命なのです。