労働時間63 GPS移動記録に基づき労働時間が認定される場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、在職中の割増賃金算定のベースとして、GPS移動記録に基づく労働時間が認められた裁判例を見てみましょう。

有限会社スイス事件(東京地裁令和元年10月23日・労経速2416号30頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのない雇用契約を締結していたXが、①Y社により平成29年11月13日付けで普通解雇されたことについて、本件解雇が無効である旨を主張して、Y社に対し、本件雇用契約に基づき、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認や、本件解雇の後に生ずるバックペイとしての月額給与(下記②の合意による増額後の基本給)+遅延損害金の支払を求めるとともに、②XとY社はXの基本給を平成28年12月分から増額することを合意していた旨を主張して、Y社に対し、当該合意後の本件雇用契約に基づき、同月分から平成29年10月分までの当該合意による増額後の基本給額と実際に支給された基本給額との差額である52万1000円+遅延損害金の支払を求めるほか、③Y社は労働基準法所定の割増賃金を支払っていないなどと主張して、Y社に対し、労働基準法に従った平成28年10月から平成29年11月までの割増賃金+遅延損害金や、当該割増賃金に係る労働基準法第114条の付加金+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 解雇無効

2 Y社は、Xに対し、175万2535円+遅延損害金を支払え。

3 Y社は、Xに対し、付加金165万9435円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件タイムライン記録は、平成30年2月5日から同月16日にかけて、Xのスマートフォンの画面をスクリーンショットしたものであるところ、Y社が指摘するとおり、事後に編集可能なものであり、それ自体が完全に客観的な証拠であるとはいえない上、実際の記録についても、自宅から徒歩2分程の距離にある最寄り駅である○○駅までの間の移動記録がなかったり、○○駅からb店又はa店までの間の移動記録が省略されているものが多く、記録されていても、平成29年3月29日に、表参道駅で20分滞在した後、同駅からa店まで6分で移動した旨が記録されたりするなど、実際の移動状況の全てが余すことなくそのまま正確に記録されているとまではいえないものである。

2 もっとも、本件タイムライン記録に記載されたXのb店及びa店における滞在時間は、b店の営業時間及びa店における勤務時間や、B氏の証言及び原告の供述に沿うものである。・・・その他、本件タイムライン記録には、休日の移動記録や、b店及びa店以外の場所への移動記録のほか、退勤後に寄り道をした記録もあり、これらの事情によれば、Xが、本件解雇後に、Y社に対し割増賃金を請求するため、編集機能を利用して本件タイムライン記録を一から作出したとは考え難いものである。
他方で、Y社が本件タイムライン記録の不自然性として指摘する諸事情は、Xが主張するとおり、GPSの感度の問題やタイムライン機能の設定の問題等として一応の説明をすることが可能であるところ、本件においては、本来、労働者の労働時間を適切に把握して然るべきY社において、Xの主張する本件タイムライン記録に基づく各日の労働時間が実際のXの労働時間と異なることについて、個別具体的に指摘し、その裏付けとなる客観的な証拠を提出しているわけでもない

3 上記に検討したところによれば、本件タイムライン記録には信用性が認められるというべきであり、Xがb店及びa店に滞在していた時間中に、休憩時間を除き、Y社の業務以外の事項を行っていたと認めるに足りる客観的な証拠はないから、Xは、本件タイムライン記録に記録されたb店及びa店の滞在時間(休憩時間を除く。)に、Y社の業務に従事していたものと認めるのが相当である。

残業代請求の訴訟においては、本件のように実際の労働時間を何に基づいて認定するかが争われることがあります。

その際、上記判例のポイント2のように、会社側が積極的に労働時間の立証ができない場合には、裁判所としては、労働者側の証拠を拠り所にせざるを得なくなります。

日頃の労務管理をしっかり行うこと、これが王道です。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。