労働者性35 運転代行ドライバーの労働者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、運転代行業に従事するドライバーの労働者性に関する裁判例を見てみましょう。

日本代行事件(大阪地裁令和2年12月11日・労判ジャーナル109号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が運営する運転代行業務に従事していたXらが、XらとY社との契約が雇用契約であるとの前提に立った上で、Xらが時間外労働を行ったとして、雇用契約に基づく割増賃金+遅延損害金、付加金の支払を求めるとともに、Y社が支払の際に、「共済会領収書」、「値引平日」、「クリーニング代」、「事故修理代等」の名目で控除したことが賠償予定の禁止に抵触する、賃金の全額払いの原則に反するとして、雇用契約に基づきその支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社においては、Xらを含むドライバーは、毎週木曜日までに翌週の出社予定について、定型の書式を用いて、各日ごとに「出社」、「連絡」、「休み」の三種類から選択して記入するという方法で連絡することになっていたところ、かかる体制から明らかなとおり、ドライバーは、出社する日を自由な意思で決定することができるとされていたものであり、Xらが出社を希望したにもかかわらず、被告から出社を拒否されたあるいはXらの意思に反して出社を命じられたというような事情はうかがわれない(このことは、Xらが「連絡」として届け出た日について、Y社から出社の打診があった場合についても同様であるといえる。)。
また、Y社においては、ドライバーのほかにオペレーター部、ビル管理部、経理部及びインターネット事業部所属の従業員がいるところ、同従業員はタイムカードを打刻することとされているのに対し、Xらを含むドライバーはタイムカードを打刻することとされていない
そうすると、Xらを含むドライバーは出社するか否かを自らの意思で自由に決定することができていたものであり、また、労働時間も把握されていなかったものであるから、勤務日・勤務時間について拘束されていなかったということができる。
また、Xらを含むドライバーは、番号札を取ったり、運転代行業務に使用する車両を手に入れるため最初に被告事務所に赴く必要があるが、その後は、Y社の事務所で待機して打診を待つことも、歓楽街等で打診を待つことも自由であったのだから(歓楽街で待機していれば、周囲の飲食店で飲酒して出てきた酔客から、直接代行業務の申込みを受けることが可能となり、番号札の順番に従って打診を受けるより早く代行業務に従事することもあり得るから、歓楽街で待機するということもあり得るといえる。)、勤務場所についても拘束されていなかったということができる。
Xらを含む各ドライバーはY社からの打診を受けて運転代行業務に従事するところ、どのような経路で顧客の指定する場所まで赴くか、運転代行業務終了後、どこで待機するか、待機場所まで戻る際に高速道路を使用するか否かなどは各ドライバーが自由に決めていたものである。
そうすると、運転代行という業務の遂行方法について、Y社から各ドライバーに対する個別具体的な指示はなされていなかったということができる。
Xらを含むドライバーが出社日を自由に決定することができていたことからすれば、Xらを含むドライバーはある日について業務を受けるか否かの諾否の自由を有していたといえる。
また、一般のドライバーではなく、Y社の本部長であるBがドライバーとして運転業務に従事したことがあるところ、Y社が、個々のドライバーに対して、具体的な個別の運転代行業務に従事することを命じることができるのであれば、「本部長」という高位の役職にあることがうかがわれるBを運転代行業務に従事させる必要はなく、ドライバーに命じて従事させれば足りるといえる。
それにもかかわらず、Bが運転代行業務に従事しているのは、Y社においては、Xらを含むドライバーが、Y社の営業時間内であっても、各ドライバーの事情(例えば、Y社での業務が副業であった場合、本業の出勤時間との兼ね合いなどが想定される。)から、一定の時間になれば自らの意思で以降の運転代行業務に従事しないこととするなどという諾否の自由を有していたからであることがうかがわれる。

2 Y社が、Xらを含むドライバーに対して支払う報酬は、運転代行業務の売上額に応じてその金額が決まる完全歩合制となっていたものであるから、労務提供時間の長さとは無関係なものであったといえる。そうすると、Xらが支払を受ける報酬は、労務対償性が弱かったことになる。
また、Y社は、各ドライバーに報酬を支払うにあたって、社会保険料及び公租公課の控除を行っておらず、事務室の談話室のトイレ横に紙を貼って、運送業一人親方特別加入を案内したり、確定申告の相談窓口として、税理士事務所を紹介するなどしているところ、これらの事情も報酬の労務対償性がなかったことをうかがわせる事情であるといえる。
Y社の営業時間が午後8時から午前4時という夜間であったこと、Y社が求人情報サイトに掲載していた情報においても「Wワークの方も歓迎」とされていたことからすれば、Y社で運転代行業務に従事するドライバーは、副業として従事している者が多かったことがうかがわれ、そうであれば、Y社で運転代行業務に従事していたドライバーには専属性がなかったことになる。

3 以上を総合考慮すれば、本件において、Xらが、Y社の指揮命令に従って労務を提供していたと評価することはできないから、XらとY社との契約が雇用契約であったということはできない。

非常に参考になる裁判例です。

裁判所がどのような要素を考慮して労働者性を判断しているのか理解しておきましょう。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。