従業員に対する損害賠償請求13 業務時間の50%しか労務提供をしていなかったと主張し、会社が従業員に対し賃金、管理手当、営業交通費として支払われた金額の50%の返還請求をした事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、業務時間の50%しか労務提供をしていなかったと主張し、会社が従業員に対し賃金、管理手当、営業交通費として支払われた金額の50%の返還請求をした事案について見ていきましょう。

モルビド事件(大阪地裁令和5年9月29日・労判ジャーナル142号30頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、①Xに対し、Xが、実際には業務時間の50%しか労務提供をしていないにもかかわらず、賃金、管理手当、営業交通費として支払われた金額の50%を法律上の原因なく利得したと主張し、不当利得返還請求権に基づき、上記期間に支払われた各月の賃金のそれぞれ50%ずつの合計額に相当額の支払請求をし、Xが、転居の事実を申告せずに転居前の住所からの通勤交通費を受領し続けたことに関し、不法行為に基づき、通勤交通費の合計額に相当する金員の支払請求をし、Xが、Y社の担当者として、取引先との間で取引をしたことについて、真実はY社の事業のためではなくX自身のために衣料品等を購入したものであり、これらはY社に対する背任又は横領の不法行為に当たると主張し、不法行為に基づき、合計約4214万円等の支払請求をし、Xが、真実はXが自らのために費消する目的であったにもかかわらず、Y社の事業に必要であると申告して、仮払金を支払わせたと主張し、不法行為に基づき、合計約2189万円等の支払請求をし、Xが、担当したN社に関する業務について、事業収支報告書記載の売上額と実際の入金額との差額及び同報告書に記載のなかった追加費用の合計約842万円等の支払請求をし、②Xの実父に対し、Y社とXの実父との間の身元保証契約に基づき、本件請求上記のXに対する不当利得返還請求及び損害賠償請求に関し、Xと連帯して、同額の支払を求め、③XがY社の担当者として取引をした相手方に対し、同人が、Xが商品を不正に取得する意図を有していることを認識しつつ、Xと共謀し、Y社に商品代金相当額の損害を生じさせたとして、Xとの共同不法行為に基づき、Xらと連帯して、Xに対する請求の一部の金員の支払請求をした事案である。

【裁判所の判断】

一部認容(通勤交通費95万6120円、第三者との取引について1322万0541円)

【判例のポイント】

1 労働者が使用者に対して割増賃金の請求を行う場合において、原則として、具体的な労働日において、何時から何時まで時間外労働に従事したかについて個別に主張立証が必要と解されていることに鑑みれば、使用者が労働者に対して不就労時間に対応する賃金に相当する不当利得返還請求を行う場合においても、具体的な労働日において、終業時間中の何分間、何時間、労務に服していなかったのかについて個別に特定して主張立証を行う必要があるというべきであるところ、Y社は、専ら本件メールに依拠して、就業時間の5割と主張するのみで、上記の特定を行わないのであるから、Y社の主張では、Y社においていかなる損失が生じ、Xがいかなる利益を受けているのかについての具体的な特定を欠いているといわざるを得ないから、この点に関するY社の主張には理由がない。

2 管理手当は、Y社本社事務所の営業部門の統括、管理を行う対価として支払われていたものであって、Xの労働時間に応じて支払われる性質を有するものではないから、この点に関するY社の主張にも理由がない。

上記判例のポイント1については、現実的には、具体的に特定することは極めて困難です。

1時間に1回、10分程度、タバコ休憩をしている労働者はよく見かけますが、これも具体的に不就労時間を特定しなければ不当利得返還請求は認められないことになりますね。

真面目に働いている人があほらしくなりますね。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。