管理監督者63 執行役員兼医薬品担当部長の管理監督者性が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、執行役員兼医薬品担当部長の管理監督者性が認められた事案を見ていきましょう。

日本硝子産業事件(静岡地裁令和6年10月31日・労経速2573号3頁)

【事案の概要】

(1)甲事件
Xは、Y社に対し、時間外労働及び休日労働に従事したことで割増賃金が発生したと主張し、下記ア及びイの各請求をしている。また、通勤手当のうち未払分があると主張し、下記ウの請求をしている。
ア 労働契約に基づき、割増賃金+遅延損害金の支払請求
イ 労基法114条に基づき、付加金+遅延損害金の支払請求
ウ 労働契約に基づき、未払通勤手当+遅延損害金の支払請求
(2)乙事件
Xは、Y社に対し、休職期間経過前に休職事由が消滅したから、休職期間が経過してもY社との労働契約は終了しておらず、Xを復職させなかったことについて不法行為が成立すると主張し、主位的請求として、下記ア、イ及びカの各請求をしている。また、休職の原因とされた疾病が業務に起因すると主張し、下記ウからオまでの各請求をしている。さらに、Xが休職中に受けた健康診断費用は、Y社が負担すべきものであると主張し、下記キの請求をしている。
加えて、下記イからエまでの請求につき、予備的請求として、労基法26条に基づき、賃金及び賞与のそれぞれ60%の休業手当及びこれらに対する主位的請求と同様の遅延損害金の支払請求をしている。
(3)丙事件
Y社は、Xに対し、不当利得に基づき、立替金+遅延損害金の支払を求めている。

【裁判所の判断】

1 Xの甲事件請求及び乙事件請求をいずれも棄却する。

2 Xは、Y社に対し、86万9474円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社に入社した当初から執行役員に就任しており、品質保証室長や品質保証グループ等の所属管理者よりも上位にあったこと、医薬品担当部門の長の地位にあったことが認められる。また、令和3年5月29日以降は、品質保証部長代理の地位にあり、同部長と同等の権限を有してしたこと、正医薬品製造管理者として、医薬品製造事業を統括する地位にあったことも認められる。
これらのことからすると、Xは、Y社の品質保証部門において、全体の統括的な立場にあったものということができる。

2 Xが、Y社から、労働時間を指示され又は早朝に出勤することをやめるよう指示されたことはない
Xは、遅刻、早退、半欠又は欠勤した場合であっても減給されたことはなかった
Xは、欠勤等について、人事評価上、不利益に取り扱われたこともなかった
原告は、自らの労働時間に関し、広い裁量を有していたと認められる。

3 Xは、基本給30万円に加え、職能給5万円、資格手当3万5000円、役職手当10万円、諸手当10万円など月額合計58万7000円の給与を得ていたことが認められる。
これは、一般的に見て相当に高額な報酬であり、社会通念上、執行役員としての待遇にふさわしいものであったといえる。Xも、本人尋問において、上記の月額報酬には満足しており、不満はなかったと陳述している。
また、Xに対する上記報酬額は、Y社の従業員のうち非管理監督者の報酬と比べると、著しく高額なものであったことも認められる。

4 以上によれば、Xは、職務内容等、勤務実態及び給与のいずれの面からしても、経営者と一体的な立場にある者に当たると認められるから、労働基準法41条2号の管理監督者に当たる。

珍しく管理監督者性が認められています。

今回は、結果オーライですが、予測可能性に乏しい論点のため、リスクヘッジのため、管理監督者扱いにするのではなく、役職手当等を固定残業代として支給する選択肢もあり得るところです。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。