Category Archives: 労働災害

労働災害111 自発的な兼業による長時間労働等について安全配慮義務違反が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、自発的な兼業による長時間労働等について安全配慮義務違反が否定された事案を見ていきましょう。

大器キャリアキャスティング・ENEOSジェネレーションズ事件(大阪地裁令和3年10月28日・労経速2471号3頁)

【事案の概要】

Xは、セルフ方式による24時間営業の給油所において、主に深夜早朝時間帯での就労をしていた者である。給油所を運営するA社は、深夜早朝時間帯における給油所の運営業務をB株式会社に委託していたところ、同社は、その業務を被告Y1社に再委託した。
Xは、同給油所において、Y1社との労働契約に基づき、深夜早朝時間帯での就労をしていたが、その後、A社とも労働契約を締結しY1社での就労に加えて、A社との労働契約に基づき、週1、2日、深夜早朝以外の時間帯にも就労するようになった。
Xは、Y1社及びA社を吸収合併したY2社に対し、Xの連続かつ長時間労働を把握又は把握しえたとして、Xの労働時間を軽減すべき安全配慮義務があるにも関わらず、これを怠り、Xに精神疾患を発症させたとして損害賠償請求等をした事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y1社及びA社との労働契約に基づくXの連続かつ長時間労働の発生は、Xの積極的な選択の結果生じたものであるというべきであり、Xは、連続かつ長時間労働の発生という労働基準法32条及び35条の趣旨を自ら積極的に損なう行動を取っていたものといえる。
すなわち、Xは、Y1社と労働契約を締結していたにもかかわらず、A社とも労働契約を締結し、Y1社との労働契約上の休日(日曜日)にA社での勤務日を設定して連続勤務状態を生じさせ、Cから勤務の多さについて労働基準法に抵触するほか、自身の体調を考慮して休んでほしい旨注意され、5月中旬までにはa社の下での就労を確実に辞める旨約束した後も、別途金曜日にa社との労働契約に基づく勤務を入れたり、平成26年4月28日にf店における就労について話し合った際もGの意向に反して自ら就労する意向を通していたのである(かかるXの行動・態度に照らせば、たとえY1社が更に別の曜日を休日にするなどの勤務シフトを確定させたとしても、Xが独自に交渉するなどして、その休日にA社の下で就労し、あるいは、更に異なる事業所で勤務しようした蓋然性が高いと認められる。)。

2 他方、Y1社としては、いかに上述した契約関係に基づいて24時間営業体制が構築されているとはいえ、XとA社の労働契約関係に直接介入してその労働日数を減少させることができる地位にあるものでもない(それゆえに、Cは、Xに注意指導してA社との労働契約を終了するよう約束を取り付けている。)。
加えて、そもそもXの担当業務に関する労働密度は相当薄いというべきものであること、Y1社は基本的に日曜日を休日として設定していること、CはXに対し、労働法上の問題のあることを指摘し、また、X自身の体調を考慮して休んでほしい旨注意をした上、Xに同年5月中旬までにはA社の下での就労を確実に辞める旨の約束を取り付けていることなど、本件に表れた諸事実を踏まえると、Y1社が原告との労働契約上の注意義務ないし安全配慮義務に違反したとまでは認められない。

兼業・副業を認めている会社にとっては、非常に重要な裁判例です。

上記判例のポイント1のような事情があったからこそ、裁判所は、会社の責任を否定しましたが、会社が黙認していた場合には結論が逆になり得ますのでご注意ください。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働災害110 下請企業従業員の業務中の事故につき、元請企業の責任が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、下請企業従業員の業務中の事故につき、元請企業の責任が否定された事案を見ていきましょう。

岡本土木・日鉄パイプライン&エンジニアリング事件(福岡地裁令和3年6月11日・労経速2465号9頁)

【事案の概要】

本件は、Xがガス管敷設工事の現場監督をしていた際に、バックホーで吊された鋼矢板が落下した後、倒れてXの頭部に当たった事故について、同工事の元請企業であるY1及び同工事の下請企業でありXの使用者であるY2にそれぞれ安全配慮義務違反があるなどと主張して、債務不履行又は不法行為に基づき、連帯して損害賠償+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y2は、Xに対し、607万9539円+遅延損害金を支払え

Y1に対する請求は棄却

【判例のポイント】

1 元請企業と下請け企業の労働者との間には、直接の労働契約はないものの、下請け企業の労働者が労務を提供するに当たって、元請企業の管理する設備、工具等を用い、事実上元請企業の指揮監督を受けて稼働し、その作業内容も元請企業の労働者とほとんど同じであるなど、元請企業と下請企業の労働者とが特別な社会的接触関係に入ったと認められる場合には、労働契約に準ずる法律関係上の債務として、元請企業は下請企業の労働者に対しても、安全配慮義務を負うというべきである。

2 これを本件についてみると、本件事故発生時に使用されたバックホーは、Y2が手配したものであり、本件鋼矢板を吊るクランプは、Q2が用意したものであって、Y2の管理するものではなかった。また、本件鋼矢板をバックホーで吊るして運搬するという作業の選択をしたのはY2であって、Y1が指示したものではないし、Y1がY2ないしQ2の労働者の作業に関して、指揮監督を行っていたものと認めるに足りる証拠はない。また、Y1の従業員に、具体的な作業に従事する者もおらず、XとY1の従業員とでは、作業内容も異なっていた。
したがって、Y1とXとが「特別な社会的接触の関係」に入ったものと認めることはできず、Y1はXに対して安全配慮義務を負わない

3 XはY2の作業責任者であり、RKY活動を中心となって行う立場として、また本件作業全体を直接監督する立場として、特に安全を遵守すべき立場にあったこと、Xは約21年5ヶ月程度の工事経験を有しており、重機の旋回範囲内に入らないという注意については、これまで何度も受け、自己も行ってきたこと、それにもかかわらず、Xは、これに背き、作業を一旦止めるなどといった措置もとらず、重機の旋回範囲に立ち入るという重大な不安全行動をとったこと、その他本件証拠により認められる諸事情を総合考慮すると、Xがとった行動には重大な過失があるといわざるを得ず、Xの損害額について6割の過失相殺をするのが相当である。

元請責任が発生する場合について、上記判例のポイント1の考え方は理解しておきましょう。

本件では、元請会社の責任は否定されています。

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労働災害109 店長の過重労働による死亡と会社・取締役に対する損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、店長の過重労働による死亡と会社・取締役に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

株式会社まつりほか事件(東京地裁令和3年4月28日・労判ジャーナル1251号74頁)

【事案の概要】

本件は、亡Aの相続人であるXらが、被告株式会社Y1の従業員であった亡Aが、Y1における長期間の過重労働により、不整脈による心停止を発症して死亡したため、これにより損害を被った旨主張して、①Y1に対しては債務不履行による損害賠償請求権に基づき、②Y1の代表取締役であったY2に対しては債務不履行による損害賠償請求権又は役員等の損害賠償請求権(会社法429条1項)に基づき、連帯して、X1においては2401万0975円+遅延損害金の支払を、X2においては3513万1830円+遅延損害金の支払を、それぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

被告らは、X1に対し、連帯して、2091万5568円+遅延損害金を支払え。

被告らは、原告X2に対し、連帯して、3093万5452円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y2は、Y1の代表取締役として、Y1の業務全般を執行するに当たり、Y1において労働者の労働時間が過度に長時間化するなどして労働者が業務過多の状況に陥らないようにするため、従業員の労働時間や労働内容を適切に把握し、必要に応じてこれを是正すべき措置を講ずべき善管注意義務を負っていたというべきであるところ、Y1の業務執行を一切行わず、亡Aの労働時間や労働内容の把握や是正について何も行っていなかったのであるから、その職務を行うについて悪意又は重大な過失があり、これにより亡Aの損害を生じさせたというべきである
したがって、Y2は、会社法429条1項に基づき、Y1と連帯して、亡Aの死亡により生じた損害の賠償責任を負うというべきである。

2 これに対し、Y2は、亡Bに名義貸しをしたものにすぎず、Y1の取締役としての職務を行うことが予定されておらず、実際にも職務を行っていなかったから、Y2のAに対する重大な過失はないとも主張する。
そこで検討するに、Y2は、亡BからY1の設立に当たり名前を貸すように依頼を受けてこれを了承し、被告Y2においてY1の代表取締役の登記手続をされたものであり、Y1の経営に関与したり、役員の報酬を得たりしたことも一切なかったのであるから、Y2がY1の業務執行に関わることが一切予定されていない、いわゆる名目的な代表取締役であったことは、被告らが主張するとおりである。
もっとも、Y2は、亡Bからの上記依頼の内容について、Y1の役員になるのかもしれないとの認識を持ち、印鑑登録証も貸したことが認められるのであるから、Y1の代表取締役への就任自体は有効に行われたものであるといわざるを得ず、そうである以上、Y2がY1の代表取締役として第三者に負うべき一般的な善管注意義務を免れるものではない。仮に、Y2が、Y1の実質的な代表者であった亡Bから、Y1の業務執行に関わる必要がないとの説明を受けていたり、Y1から何らの報酬を得ていなかったりしたとしても、それはY1の内部的な取決めにすぎず、そのことからY2がY1代表取締役として負うべき第三者に対する対外的な責任の内容が左右されることはない

たとえ名目的な代表取締役であったとしても、それをもって責任を免れないことは争いのないところです。

労災が発生した場合に、会社のみならず、役員の責任追及をされることがありますので注意しましょう。

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労働災害108 就業後の腕相撲大会による傷害の業務起因性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、就業後の腕相撲大会による傷害の業務起因性に関する裁判例を見てみましょう。

国・山形労基署長事件(山形地裁令和3年7月13日・労判ジャーナル117号44頁)

【事案の概要】

本件は、勤務する会社の決起大会で行われた腕相撲大会に参加した際に負傷した労働者が、当該負傷について業務遂行性を否定し、労働者災害補償保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付請求に対する不支給決定をした山形労働基準監督署の処分は違法であるとして、その取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件決起大会は、参加が事実上強制されていたものの、午後7時からの開始予定に遅れて参加することも許容され、さらには開始前から飲酒を始める者がいたというように、参加方法や過ごし方は従業員の自由な判断に委ねられていたといえるから、その拘束性は一般の業務に比べて相当に緩やかであったといえ、そして、本件腕相撲大会は、上記のような拘束性が緩やかな本件決起大会において、代表取締役であるDによる業務の説明が終わったあとの午後7時30分頃から行われた飲食を伴う懇親会の行事として午後8時頃から行われているのであるから、業務との関連性は薄いというほかなく、実際に、本件腕相撲大会が開始されるまで、Xは飲酒せず、仕事に関連した話をしていたというものの、その内容は差しさわりのない話題にすぎず、具体的な業務の打合せをしていたものではなく、Dが本件懇親会で業務の打ち合わせ等を行うよう指示したという事実もなく、さらに、本件懇親会に参加した取引業者に対する接待が指示され、Xがこれを行っていたという事情もなく、本件懇親会は、業務と離れて単純に飲食を楽しむことも可能な場として設定されたものといえるから、その参加について、業務への従事と同視することはできず、本件負傷が、事業主の支配下にあり、かつ、管理下にあって事業に従事していた際に生じたということはできず、本件事故に係る本件腕相撲大会への参加には業務起因性を認めることはできず、本件傷害は業務上の負傷に該当しない

決起大会への参加は事実上強制されていたようですが、業務との関連性の薄さから業務起因性が否定されました。

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労働災害107 製麺機での受傷と安全配慮義務違反の有無ならびに過失相殺(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、製麺機での受傷と安全配慮義務違反の有無ならびに過失相殺に関する裁判例を見てみましょう。

製麺会社A事件(旭川地裁令和2年8月31日・労判1247号71頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対して、Y社の雇用契約上の安全配慮義務違反により負傷したとして、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償として、損害金787万4583円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、365万3922円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 本件製麺機は、常時刃が露出している危険性を有するものであり、また、Y社においては、麺に縮れを付けるなどの物的な対策や、それに代えて労働者を十分に教育するなどして、上記作業から生じる危険性を防止する義務を負っていたというべきである。
しかしながら、Y社は、本件製麺機の刃を常時露出させたまま、特段の物的対策を取ることなくXを作業に従事させたのであり、また、本件製麺機の刃の部分が危険であることを注意喚起するような表示等をしていたとは認められないし、Y社がXに対して、本件製麺機の危険性を十分に教育したと認めるに足りる証拠はない
したがって、本件事故については、Y社に安全配慮義務違反があると認められる。また、その義務違反の内容に照らすと、不法行為が成立するというべきである。

2 Xは、本件事故当時、麺に縮れをつける作業に当たり、視線を正面に向けたまま、左手を本件製麺機の方に伸ばしたのであり、危険性を有する作業であるのに、自らの手元を注視しなかったのであるから、注意を欠いていたといわざるを得ないし、その不注意が本件事故に寄与していることは明らかといわざるを得ない。また、本件製麺機は刃が常時むき出しになっており、Xとしても、その危険性を容易に認識することができたといえる。
他方、Y社の安全配慮義務違反の内容は、特に、常時露出した刃の真下に手を伸ばすことが日常作業として予定されていたことからすれば、Y社において、危険性を有する機械から労働者の安全を守るべき要請は高かったといえるし、その方策をとることが特段困難であったとはうかがわれない。また、刃の真下に手を伸ばすことが予定されていたことからすれば、Xが左手を刃の近くに持って行ったこと自体は、格段に突飛なものとはいえない。このような事情を考慮すれば、上記にみたXの不注意を、過失相殺に当たって殊更に重視することは相当とはいえない。
以上の事情を考慮すると、本件事故に対するXの過失割合は、3割を相当と認める。

会社からすると、本件製麺機の危険性は、注意喚起の表示をするまでもなく、また、教育するまでもなく、「見ればわかるでしょ」という感じかもしれません。

しかし、裁判では、会社の責任を認めつつ、そのような事情は過失割合の問題として処理することがあり得るということを認識していれば、事前の対策を講じることもできたかと思います。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働災害106 労災認定後の民事訴訟で使用者の安全配慮義務違反を否定(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、労災認定後の労災民事訴訟において、使用者の安全配慮義務違反が否定された裁判例を見てみましょう。

マツヤデンキ事件(大阪高裁令和2年11月13日・労経速2437号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、勤務中に、Y社のO店店長Y2、同店副店長Y3、同店従業員Y4及びY5から暴行を受け、傷害を負ったほか、心的外傷後ストレス障害(PTSD)又はうつ病に罹患して休職を余儀なくされたなどと主張して、Y社に対しては雇用契約の債務不履行(安全配慮義務違反)又は不法行為(使用者責任)による損害賠償請求権に基づき、①Y4及びY5に対しては不法行為による損害賠償請求権に基づき、Y社に対し、634万2310円たす遅延損害金の支払を、②Y4に対し、578万3730円+遅延損害金の支払を、③Y5に対し、Y社と連帯して、633万1890円+遅延損害金の支払をそれぞれ求める等した事案である。

【裁判所の判断】

本件各控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
Y社はXに対し、2万0700円+遅延損害金を支払え
Y4はXに対し、1万0420円+遅延損害金を支払え
Y5はXに対し、Y社と連帯して1万0280円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 平成25年6月23日より前に、上司や同僚からXに対する暴力を伴う指導があったことや、Xが、暴力を伴う指導の対象になっているとして自ら又は両親を介してY社に苦情を申し出たり、相談したりしたことがあったことをうかがわせる事情や証拠はない
また、本件不法行為1が、Xに商品券を探すよう指示した際にY4が偶発的に行ったものであり、本件不法行為2も、Xから唾をかけられるなどの対応をされるようになったY5がとっさに行ったものにすぎない。
さらに、XがY社に入社して以降、人事評価において低位の評価が続いており、注意や指導が困難な社員であると受け止められていたからといって、本件全証拠によっても、Y社において、そうしたことを理由に、Xが上司や同僚から暴力を伴うような指導や叱責等を受ける可能性があることを予見することができたとは認めるに足りない
そうすると、本件不法行為1、2当時、Y社に、Xの上司や同僚に対してXへの業務上の注意・指導を行うに当たり暴力を伴うような指導等をすることがないよう注意すべき義務があったとまでいうことはできない。

2 弁論の全趣旨によれば、P6医師は、Xあるいはこれを支援する労働組合の関係者から事情を聴いているにすぎず、職場の上司や同僚からの聴取をしていないことが認められる。そして、Xあるいはこれを支援する労働組合の関係者の陳述等は、構造化面接の際におけるXの回答を含め、次のとおり、明らかな誇張等があって到底信用できないものであるから、これらを基にした上記各意見書における意見をたやすく採用することはできない

上記判例のポイント2の視点は、労災事件や精神疾患発症事案において必須となります。

主治医の意見書に対する証拠価値をどのように評価するかは非常に重要です。

労災発生時には、顧問弁護士に速やかに相談することが大切です。

労働災害105 精神疾患未発症でも長時間労働について慰謝料請求が認められる?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、懲戒処分の適法性ならびに安全配慮義務違反の有無に関する裁判例を見てみましょう。

アクサ生命保険事件(東京地裁令和2年6月10日・労判1230号71頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、Y社に対し、①Xに対する懲戒戒告処分は無効であるとして、不法行為責任に基づく慰謝料+遅延損害金、②Xが上司から受けたパワハラや平成27年5月1日から平成29年9月30日までの間の長時間労働について、Y社が使用者として適切な対応を怠った等として、使用者責任ないし安全配慮義務違反・職場環境配慮義務違反による債務不履行責任に基づく慰謝料+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、10万円+遅延損害金を支払え。

Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Y社は、遅くとも平成29年3月から5月頃までには、三六協定を締結することもなく、Xを時間外労働に従事させていたことの認識可能性があったというべきである。しかしながら、Y社が本件期間中、Xの労働状況について注意を払い、事実関係を調査し、改善指導を行う等の措置を講じたことを認めるに足りる主張立証はない。したがって、Y社には、平成29年3月から5月頃以降、Xの長時間労働を放置したという安全配慮義務違反が認められる

2 Xが長時間労働により心身の不調を来したことについては、疲労感の蓄積を訴えるX本人の陳述書に加え、抑うつ状態と診断された旨の平成29年4月1日付け診断書があるものの、これを認めるに足りる医学的証拠は乏しい。しかし、Xが結果的に具体的な疾患を発症するに至らなかったとしても、Y社が、1年以上にわたって、ひと月当たり30時間ないし50時間以上に及ぶ心身の不調を来す可能性があるような時間外労働にXを従事させたことを踏まえると、Xには慰謝料相当額の損害賠償請求が認められるべきである。

上記判例のポイント2は注意が必要です。

金額としては大きなものではありませんが、実際、損害賠償請求が認容されていることは軽視すべきではありません。

労災発生時には、顧問弁護士に速やかに相談することが大切です。

労働災害104 長時間労働と労災(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、労働者の自殺につき業務起因性を否定した原審の判断が覆された事案を見てみましょう。

青森三菱ふそう自動車販売事件(仙台高裁令和2年1月28日・労経速2411号3頁)

【事案の概要】

本件は、Aらが、子でありY社の従業員であった亡Xが違法な長時間労働等により精神疾患を発症して自殺したとして、Y社に対し、使用者責任、不法行為又は債務不履行に基づき、損害賠償及び亡Xが自殺を図った日を起算日とする民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

原審が、Aらの請求をいずれも棄却したところ、Aらは、控訴を提起した。

【裁判所の判断】

原判決を取り消す。

Y社は、A1に対し、3681万3651円+遅延損害金を支払え

Y社は、A2に対し、3678万0062円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 亡Xは、平成28年1月上旬頃、それまでのY社八戸営業所における業務に起因して適応障害を発症したところ、その後も長時間労働が続き(平成28年1月上旬以降の労働時間についても、それまでの時期と異なる認定をすべき事情は見当たらず、むしろ、同年3月は繁忙な決算月として、他の月よりも長時間の労働を余儀なくされたと推認することができる。)、出来事に対する心因性の反応が強くなっていた中、同年4月16日、先輩従業員であるCから叱責されたことに過敏に反応して自殺を図るに至ったと認めることができる。

2 亡Xが適応障害を発症して自殺を図るに至ったことについては、Y社八戸営業所の長であるG所長及び亡Xの上司であるE課長代理において、亡Xに業務上の役割・地位の変化及び仕事量・質の大きな変化があって、その心理的負荷に特別な配慮を要すべきであったところ、亡Xの過重な長時間労働の実態を知り、又は知り得るべきであったのに、かえって、従業員が実労働時間を圧縮して申告しなければならない労働環境を作出するなどして、これを軽減しなかったことに要因があるということができ、G所長らには亡Xの指導監督者としての安全配慮義務に違反した過失がある。そうすると、Y社は、使用者責任に基づき、Aらに対し、亡Xの死亡につき同人及びAらが被った損害を賠償すべき責任がある。

長時間労働が原因となった労災は、パワハラ等と比べて、業務起因性や素因減額を争いにくいですね。会社によって繁忙期があるのはよくわかりますし、労働力不足も重なって、どうしても長時間労働になりがちです。

会社としては、労働時間を短縮するために、サービス内容を再定義するなど、できることをやっていくしかありません。

日頃から顧問弁護士に相談しながら、適切に労務管理をすることが大切です。

労働災害103 安全配慮義務違反と消滅時効(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、タイヤ製造業作業員の石綿ばく露の有無と損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

住友ゴム工業(旧オーツタイヤ・石綿ばく露)事件(神戸地裁平成30年2月14日・労判1219号34頁)

【事案の概要】

本件は、(1)甲事件原告らの被相続人らが,いずれも被告ないし被告と合併したa株式会社の従業員として,被告の神戸工場又は泉大津工場においてタイヤ製造業務等に従事していたが,その際,作業工程から発生するアスベスト及びアスベストを不純物として含有するタルクの粉じんにばく露し,悪性胸膜中皮腫ないし肺がんにより死亡したとして,甲事件原告らが,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,それぞれの相続分に応じた損害賠償金+遅延損害金の支払を求め(甲事件),(2)乙事件原告亡X22及び原告X25が被告従業員として,神戸工場においてタイヤ製造業務等に従事していたが,その際,作業工程から発生するアスベスト及びアスベストを不純物として含有するタルクの粉じんにばく露し,石綿肺及び肺がんに罹患したとして,乙事件原告らが,被告に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,損害賠償金+遅延損害金の支払を求める(乙事件)事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 雇用契約上の付随義務としての安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は10年であり(民法167条1項),この10年の時効期間は損害賠償請求権を行使できるときから進行するところ,安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権は,その損害が発生した時に成立し,同時に,その権利を行使することが法律上可能になるというべきであって,権利を行使し得ることを権利者が知らなかった等の障害は,時効の進行を妨げることにはならないというべきである。
そうすると,亡M及び亡Oの債務不履行に基づく損害賠償請求権は,亡M及び亡Oにそれぞれ客観的な損害が発生した時から進行し,遅くとも,各人が死亡した日から消滅時効期間が進行しているというべきであり,安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償請求権の起算点は,亡Mにつき平成12年4月25日,亡Oにつき平成12年1月26日で,甲事件の訴えが提起された時点でいずれも10年が経過しているから,消滅時効が完成しているというべきである。

2 民法724条は「不法行為による損害賠償の請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは,時効によって消滅する」と規定し,「損害及び加害者を知った時」とは,被害者において加害者に対する損害賠償が事実上可能な状況の下に,その可能な程度にこれを知った時を意味し,単に損害を知るにとどまらず,加害行為が不法行為を構成することをも知ったときを意味するものと解される。
本件においては,原告X6及び亡X10が,それぞれ上記アの各労災請求に至った経緯までは判然としないものの,いずれも被告での職務従事における石綿ばく露を前提に上記各請求をしていることから,遅くとも,それぞれ上記アの各労災請求をした時点では,被告における石綿ばく露を原因に疾病を発症し死亡したことを認識しているといえ,「被害者が…損害及び加害者を知った」ものと認められる。
そうすると,上記アの各労災請求をした日から消滅時効期間が進行するというべきであるから,亡M及び亡Oの不法行為に基づく損害賠償請求権の起算点は,亡Mにつき平成21年9月15日,亡Oにつき平成18年3月20日であり,甲事件の訴えが提起された時点で,いずれも3年が経過しているから,消滅時効が完成しているというべきである。

3 一般に,消滅時効制度の機能ないし目的については,①長期間継続した事実状態を維持して尊重することが法律関係の安定のため必要であること,②権利の上に眠っている者すなわち権利行使を怠った者は法の保護に値しないこと,③あまりにも古い過去の事実について立証することは困難であるから,一定期間の経過によって義務の不存在の主張を許す必要があることなどであると説明されているが,時効によって利益を受けることを欲しない場合にも,時効の効果を絶対的に生じさせることは適当でないともいえるから,民法は,永続した事実状態の保護と時効の利益を受ける者の意思の調和を図るべく,時効の援用を要するとしている(民法145条)。もっとも,時効を援用して時効の利益を受けることについては,援用する意思表示を要件とするのみで,援用する理由や動機,債権の発生原因や性格等を要件として規定してはいない。このような債権行使の保障と消滅時効の機能や援用の要件等に照らせば,時効の利益を受ける債務者は,債権者が訴え提起その他の権利行使や時効中断行為に出ることを妨害して債権者において権利行使や時効中断行為に出ることを事実上困難にしたなど,債権者が期間内に権利を行使しなかったことについて債務者に責めるべき事由があり,債権者に債権行使を保障した趣旨を没却するような特段の事情があるのでない限り,消滅時効を援用することができるというべきである。
本件においては,本件被用者らの被災状況が判然としないことから,被告に対し,原因を明らかにするように求め,また団体交渉を申し入れるに至った経過や,この種事案における遺族による訴訟追行及び損害賠償請求自体に困難が伴うことに照らすと,原告X6及び亡X10が,上記各労災請求をした時点では,被告に対する損害賠償請求権を行使することには,法的なあるいは事実上の問題点が多く,損害賠償請求権の行使が容易ではなかったというべきであり,加えて,上記アのとおり,被告に対する損害賠償請求権を行使するための準備行為を行っていたことからすれば,権利の上に眠っている者すなわち権利行使を怠った者ともいえない
さらに本件組合による団体交渉の申入れから団体交渉が実現するまでに5年以上の期間を要しているところ,このことは,被告が,本件組合からの団体交渉の申入れを拒否した結果,訴訟にまで発展し,訴訟において被告が団体交渉に応じる義務があると判断されていることなどからすると,被告側の不当な団体交渉拒否の態度に起因するものといわざるを得ない。そうすると,原告らが,被告に対する損害賠償請求権を行使することに関し,法的なあるいは事実上の問題点を解消するために長期間を要したことについては,被告に看過できない帰責事由が認められるというべきである。
以上を総合すると,被告が,積極的に,原告らの権利行使を妨げたなどの事情は認められないものの,上記のとおり,被告の看過できない帰責事由により,原告らの権利行使や時効中断行為が事実上困難になったというべきであり,債権者に債権行使を保障した趣旨を没却するような特段の事情が認められる
したがって,被告が,亡M及び亡Oの損害賠償請求権に関して消滅時効を援用することは,権利の濫用として許されないものというべきである。

少々長いですが、上記判例のポイント3は、消滅時効に関する議論としては大変参考になります。

是非、押さえておきましょう。

労災発生時には、顧問弁護士に速やかに相談することが大切です。

労働災害102 休職期間満了後の配置転換と安全配慮義務(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、配転させずに復職させたことを理由とする損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

京都市事件(大阪地裁令和元年11月27日・労判ジャーナル96号78頁)

【事案の概要】

本件は、Y市に採用され、Y市の管理運営する斎場で勤務する職員Xが、同斎場内での事故により適応障害を発症して休職となったにもかかわらず、Y市が、配置転換等の負担軽減措置をとることなくXを復職させ、同斎場で就労させ続けていることは、安全配慮義務に反する違法行為であると主張して、Y市に対し、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料500万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは最終的に予定されたリハビリ勤務を概ね完了し復職が実現しており、その経過の中で、主治医において、リハビリ勤務の計画を中止すべきであるとか、中央斎場への復職が不適当である等の判断をしておらず、Xが、中央斎場での火葬業務に従事する衛生業務員として採用され、その後、本件事故までの約12年間にわたり、同業務に従事してきたことを併せ考慮すると、復職時にXを中央斎場の勤務に復帰させることが不相当であったとまではいえず、また、Xは、復職後も、2年余りにわたり中央斎場での就労を続けており、その間、服薬等によっても中央斎場での就労継続が不可能ないし著しく困難となるような症状が現れたという事実は認められず、そして、主治医の診断書によっても、Xの症状が具体的にどう悪化したのか、その悪化の程度等は判然としない等から、Y市のXに対する安全配慮義務として、Y市がXを中央斎場以外の勤務場所に配置転換しなければならない法的義務を負っていたとは認められず、また、Y市において、勤務場所の配置転換以外の点で、本件疾病によるXの心身の負担に対する必要な配慮を欠いていたとも認められないから、安全配慮義務違反は認められない。

精神疾患と業務起因性の問題は、判断が悩ましいことがとても多いです。

とはいえ、裁判例から一定の判断傾向を探ることは可能なので、それらを踏まえて対応することが求められます。

労災発生時には、顧問弁護士に速やかに相談することが大切です。