Category Archives: 労働者性

労働者性24 医師の労働者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、医師の労基法上の労働者性に関する裁判例を見てみましょう。

メディカルプロジェクト事件(東京地裁平成30年9月20日・労判ジャーナル84号48頁)

【事案の概要】

本件は、美容外科等の診療科目で開設された医院で稼働していた医師Xが、医院の経営に関するコンサルタント業務等を目的とするY社に対し、雇用契約に基づき、平成27年1月分の賃金150万円、平成26年12月分の賃金として支払われるべき未払いのインセンティブ4万7557円、平成26年8月1日から平成27年1月23日までに、所定休憩時間に休憩できず1日8時間を超えて労働したことに対する時間外割増賃金約105万円の合計260万円から、既払い金74万円を控除した残額約186万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

労基法上の労働者性を肯定

【判例のポイント】

1 本件契約上、Xは、毎月末日を締日とする1か月の期間ごとに、所定の22日間の勤務を行うことが求められ、Y社は、これに対して、月額150万円の報酬を支払うことが定められており、この報酬については、医師の勤務日数が所定の日数を下回る場合には、日割り計算した分を減額されるなど、期間と勤務日数に対応した報酬という性格を有しており、また、本件各院における施術項目や診療体制等を決定していたのは、本件各院を実質的に運営していたY社であると認められ、Xは定められた施術項目や診療体制等に従って、患者の診療・施術等に当たっていたと認められるから、この限りにおいて、Y社の指揮命令に服していたと認められ、Xは、あらかじめ定められたシフトに基づき、勤務日に各院に出勤し、基本的には本件契約に基づく所定の勤務時間に従って、医療行為等の業務に従事していたと認められること等から、本件契約はXがY社に使用されて労働し、Y社がこれに対して賃金を支払うことを内容とする雇用契約(労働契約)に当たり、Xは、労基法9条の「労働者」に該当すると認めるのが相当である。

判決理由を読む限り、指揮命令下に置かれていたことは明らかですね。

もっとも、通常、労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

労働者性23 労基法116条2項の適用の可否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、労基法上の労働者性に関する裁判例を見てみましょう。

国・瀬峰労基署長事件(東京地裁平成30年5月31日・労判ジャーナル80号52頁)

【事案の概要】

本件は、外壁工事等を営む義父の下で作業に従事していたXが、作業現場で転落して負傷したことが、業務に起因したものであるとして、瀬峰労基署長に対し、労働者災害補償保険法に基づき療養補償給付、休業補償給付及び障害補償給付の各請求をしたところ、Xは同法上の労働者ではないとの理由でいずれも不支給処分を受けたことから、その取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xの本件事業主に対する家計費の支払状況やXに対する給与の支払状況、労働条件が明示されていなかったこと、X名義のローン代金等を実質的に負担していたことなどの事情を総合すると、X及びその妻子と本件事業主及びその妻とは、別個独立して生活を営んでいたとは認められず、生計を同じくする関係にあり、Xは本件事業主にとって同居の親族に当たると認められ、そして、本件事業場には常時使用されていたものはX以外におらず、業務の繁忙時期にのみ、臨時に労働者を使用していたが、その期間は、7か月間で6日であり、全く使用しない月が連続してあったことや、臨時労働者は年間で延べ30人程度であったことなどの事情を総合すると、本件事業場においてX以外の労働者を使用していた時期は一時的なものであったといえること等から、本件事業場は、本件事業主を経営者とする家族経営の事業であり、常時同居の親族以外の労働者を使用する事業には当たらないから、労働基準法116条2項の趣旨等を併せ考慮すると、同事業に従事する同居の親族であるXを労働者災害法(労働基準法)上の労働者と認めることはできない

労働基準法116条2項は「この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。」と規定されています。

あくまでこの規定の「趣旨」を考慮するとされているにすぎず、直接適用はされていません。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

労働者性22 元代表者の労働者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、元代表取締役の労働者性に関する裁判例を見てみましょう。

ネットショップN社事件(高松地裁平成29年4月18日・労判1180号147頁)

【事案の概要】

本件は、Xらが、Y社に対し、XらとY社との間の労働契約に基づき、①時間外労働等による平成25年3月から12月までの割増賃金、②労働基準法114条に基づく付加金、③平成25年の冬季賞与及び④退職金を請求し、⑤いわゆるパワーハラスメントによって精神的苦痛を受けたことを理由とする不法行為、債務不履行(安全配慮義務違反)又は会社法350条に基づく慰謝料及び弁護士費用相当額の損害賠償+遅延損害金の支払を請求した事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 X1は平成25年9月1日以降、Y社の代表取締役として経済紙のインタビューに応じ、また、政策金融公庫に自ら出向き、現に800万円の融資を受け、その連帯保証人になるなど、代表取締役として業務を行っていたと認められる。他方で、残業手当の支給があること等X1が主張する事情は、X1とY社との間の労働契約関係の存在を推認するに足りない。

2 勤怠報告書は、Y社が労働時間管理に用いていたものではなく、Xらが平成27年5月22日に本訴を提起するに先立ち、自身の記憶に基づいて作成したというのであるから、客観的な資料とは言い難く採用できない
Xらは、Y社がY社事務所の入退室記録の開示を拒み、Xらの立証活動を妨害したというが、入退室記録から直ちにXらの個々の出退勤時刻が明らかになるわけではなく、開示を拒んだことが直ちに立証活動の妨害とは評価できない。また、Y社が従業員の労働時間を管理していたとは認められないものの、Xらの時間外労働を概括的に推認させる証拠すらない以上、Xらの主張は採用できない。

ときどき代表者の労働者性が問題となることがありますが、かなりハードルは高いですね。

また、使用者が適切に労働時間の管理をしていない場合、労働者側としては、そのことを理由に概括的な認定を要求しますが、裁判所としてもある程度判断の拠り所になる資料がないといかんともしがたいと考えるのです。

ここは難しいところで、この考えを突き詰めると、結局、ちゃんと労働時間を管理している使用者の方が不利になるように思えて、正直者がバカを見る感じになります。

和解でなんらかの解決が可能であればいいのですが、判決まで行くと今回の裁判例のような判断も十分考えられるので、注意が必要です。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

労働者性21 共同設立者の労働者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、共同設立者である美容師の労働者性と賃金減額の成否に関する裁判例を見てみましょう。

美容院A事件(東京地裁平成28年10月6日・労判1154号37頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の経営する美容院において稼働していたXが、Y社に対し、Y社との間に労働契約が成立している旨を主張して、同契約に基づく賃金(平成24年7月分から平成25年2月分までの未払賃金合計255万円)及び遅延損害金(上記各月分の賃金に対する各支給日の翌日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合によるもの)の支払を求めた事案である。

これに対し、Y社は、Xが、実質的にY社代表者とY社を共同経営する代表者の一人であり、労働契約に基づく賃金請求権を有するものではないし、また、同請求権を有していたとしても賃金減額に同意しており、全ての賃金が既払いとなっている旨を反論するものである。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、105万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xが、勤務時間や場所等について、これらを自由に決定できる状況になく、自身を指名予約する顧客の有無にかかわらず、場合によっては、美容院を不在にすることの多いY社代表者を介して来店した顧客への対応も含めて、概ね週五,六日程度、出勤して美容師として稼働していたこと、そして、会計上、給与(賃金)の名目で月額報酬を支給され、雇用保険に加入していたこと、取締役又は代表取締役としての就任登記がされていないことといった事情に照らせば、原則として、Xの従業員としての地位を全く否定することは困難であって、少なからず同地位を有していたものとみるのが相当というべきである。

2 XとY社代表者との間では、費用と報酬を分け合い、二人で意見を出し合って店を切り盛りしていくといった程度の大まかな認識に基づく「共同経営」に関する合意があったところ、そのような合意に基づいて、両者の報酬がほぼ同等の額とされたほか、Xにおいても、自身が「共同経営者」であるとの認識に基づき、Y社にa社で使用していた機材を提供することに始まり、「取締役」との肩書きを付した名刺を用いて稼働し、Y社代表者に意見を述べ、また、他の美容師の指導的役割を担い、さらに、Y社の運転資金等の借入れに際して、金融機関との折衝に立ち会い、連帯保証人となったほか、店舗賃貸借契約の連帯保証人にもなり、税理士・公認会計士とY社代表者との打合せにXが参加したこともあったこと等を踏まえれば、Xは、Y社の経営に一定程度関与をする姿勢を見せており、これに事実上の影響力を及ぼし得る立場にあったものといえる。
もっとも、Y社において取締役会が開催されたことはなく、当然ながらXがこれに出席して何らかの発言等を行ったことが一切ないこと、また、これも代表取締役としての就任登記の有無の差異から当然のこととはいえ、対外的な折衝、契約をはじめとする様々なY社の業務執行行為に及んでいたのが飽くまでY社代表者のみであり、Xがこれに及んでいたものではないこと(上記各連帯保証契約を、Y社の役員という立場や肩書きを明示した上でXが締結したことを認めるに足りる証拠はない。)からすると、Xが、Y社の実質的な代表取締役であったとまでいうことは到底できない。
前記のような事情を踏まえても、Xは、実質的には、せいぜい使用人兼務役員のような立場にあったといえるにすぎないというべきであって、上記特段の事情を見出すことはできず、Xの従業員性を否定することはできない

3 Y社は、Xが、賃金減額に対して何ら異議を述べず、Y社を退職した後である平成25年10月にあっせんの申請をするまで、減額分の金員の請求をせず、これを受け入れていたものである旨を主張するところ、確かにXは、上記あっせんの申請まで何らの法的な手続に及んではいない。
しかしながら、Xの報酬のうち賃金相当額についてみると月額37万円から月額22万円への4割ほどの大幅な減額であること、Xとしては、その減額に対して少なくとも口頭で、そのような安い報酬ではやっていけない旨をY社代表者に伝えた旨を供述していること、そして、現にXはそのような処遇に納得がいかずにY社を辞めることにしたこと、また、Xは、Y社の美容院を平成25年2月末に退店した後も、同年6月ないし7月頃まで、Y社の了承の下に、Y社の美容院の片隅に間借りして別の美容院を営んでおり、そのような状況が一段落してから未払賃金の請求をしようと考え、その後間もない同年10月にあっせんの申請に及んだことからすると、Xが、Y社からの賃金減額の通告に納得していたものではないといえ、他に原告がこれについて真意に基づき同意していたことを認めるに足りる証拠はない

本件では、上記判例のポイント2のように労働者性を否定する事情がいくつか存在しますが、それでもなお、労働者性は否定されませんでした。

裁判所がこのように判断することも十分あり得るということを前提に労務管理をすることが大切です。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

労働者性20 営業支援業務従事者の労働者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、労働契約上の労働者に基づく解雇無効地位確認請求に関する裁判例を見てみましょう。

AGORA TECHNO事件(東京地裁平成28年8月19日・労判ジャーナル57号40頁)

【事案の概要】

本件は、ITソリューション事業などを行うY社と契約を締結し、営業支援等の業務を行ったXが、Y社との契約は労働契約であったが、平成26年5月29日、解雇されたものの、本件解雇は解雇権の濫用であり無効であるとして、地位確認、未払賃金等を請求した事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 XとY社は自由な意思において労働契約ではなく業務委託として本件契約を締結し、本件契約を継続したと認められ、本件契約の形式において、本件契約が労働契約であったとは認められず、そして、Y社の他の従業員が勤務表、休暇・遅刻・早退の届出、日報などにより管理されていたのに対し、Xはその提出を求められていなかったと認められ、本件契約において日々具体的な営業活動を行うことなどを求められていたとは認められないことにも照らせば、XはY社の指揮命令下にあったとは認められず、また、Y社代表者はXに対し成果が上がれば報酬の増額を考える旨供述したと認められるから、報酬はXの業務の成果に対する対価としての性質であったと認められ、労務提供の対価であったとは認められず、さらに、Xは、会社外部の事業者として報酬を請求していることなどからは、事業者性が認められること等から、本件契約の形式面、当事者の意思、指揮命令下の労働、報酬の労務対価性、事業者性などの観点から総合的に検討しても、本件契約は請負契約としての業務委託契約であったと認められ、労働契約であったとは認められない。

これだけの事情がそろえば、労働者性は否定されるでしょうね。

もっとも、一般的には、労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

労働者性19 フルコミッションの歯科医師の労働者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、歯科医師の労働契約に基づく未払退職金等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

医療法人社団市橋会事件(東京地裁平成28年8月24日・労判57号37頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の開設する歯科医院において歯科医師として勤務し、その後Y社を退職したXが、医療法人に対し、退職金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 歯科医師であるXは、Y社において、担当の患者の歯科治療の開始から終了まで継続して担当し、その間の自由診療の適否を含む治療方針、診療計画及び診療報酬の算定を自らの責任において決定の上診療業務を行っていたものであり、自身の担当患者の診療により得られた診療報酬額に比例した完全歩合制による報酬を得ていたのであるから、業務上の自由裁量を有し、成果に基づく報酬を得ていたといえること等から、本件契約は、医療法人の指揮命令の下で労務を提供し、その対価としての賃金を受領することは本質とする労働契約とは性質を異にし、請負契約ないし業務委託契約的な性質を持つ契約であると解するのが相当であり、Xも、かかる特質を理解して本件契約を締結したものと認めるのが相当であり、退職金請求権の発生要件のうち、労働契約の締結及び退職金請求権の根拠たる規範の存在の各要件を欠くから、Xの退職金請求には理由がない。

フルコミッションだからといって、それだけで労働者性が否定されるわけではありませんのでご注意を。

今回のケースでも、業務上の自由裁量の程度が高いことを労働者性否定の一理由とされています。

どこまでいってもケースバイケースの世界です。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

労働者性18(アド装飾事件)

おはようございます。

今日は、外注事業者の労働者性に関する裁判例を見てみましょう。

アド装飾事件(東京地裁平成28年3月31日・労判ジャーナル55号37頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の外注事業者の立場でインテリアコーディネーターとして稼働したXが、Y社に対し、①Xが労働契約上及び労働基準法が適用される労働者であり、X・Y社間の契約関係が労働契約である旨主張して、地位確認を求め、②時間外労働等をした旨主張して、賃金請求権に基づき当該賃金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

労働者性を肯定

未払賃金等支払請求(90万3523円)を一部認容

付加金として50万円の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 Xは、Y社から依頼される仕事を専属的に行う中で、Y社により、各営業日における勤務場所、出張先等を事前に指定され、Y社から社用のメールアドレスを付与されるなど、会社の業務の遂行上、不可欠な存在として事業組織に組み込まれ、時間的、場所的拘束がある態様を受ける中で、一般的な指揮監督を受けて業務を行っており、事実上、Y社からの仕事の依頼を拒否することができない立場にあったと認められ、さらに、Xの報酬は、事務所勤務日及び販売会勤務日を問わず、日当で支払われており、これらの事実関係を前提とすると、Xは、Y社との関係で、使用者の指揮監督下において労務の提供をする者で、労務に対する対償を支払われる者であるとの要件を充足し、労働契約法及び労働基準法が適用される労働者であったと評価するのが相当である。

2 平成24年6月17日から同年12月13日までの間のメール等の証拠がない労働日におけるXの始業時刻を午前9時30分、終業時刻を午後8時と認めるのが相当であり、平成23年5月1日から平成24年6月16日までの間のメール等の証拠がない労働日については、Xの始業時刻は午前9時30分と認定し、終業時刻は、Y社従業員の所定終業時刻である午後5時30分と認めるのが相当であり、午後8時以降に、Y社から付与されたメールアドレスを用いて、メールを送信した労働日は、当該送信時刻に10分を加えた時刻を終業時刻と認めるのが相当であり、Suicaカード利用履歴がある労働日は、外出先の最寄り駅の入場時刻から当該外出先からの所要時間を引いた時刻を終業時刻と認めるのが相当である。

労働時間に算定方法については、担当裁判官によりどこまで緩やかに解するかが異なるところですが、

今回の裁判官は、上記判例のポイント2のように緩やかに判断してくれています。

使用者側が労働時間を管理する義務を負っており、十分な管理がなされていない場合には、労働者側の立証責任を緩やかに解するという判断です。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

労働者性17 ホストの労基法上の労働者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、ホストの労働者性が争われた裁判例を見てみましょう。

甲観光事件(東京地裁平成27年3月25日・労経速2289号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社経営のホストクラブに勤務していたXが、Y社と雇用契約を締結していたとして、Y社に対し、未払賃金請求及び旅行積立金の返還請求をする事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ホストの収入は、報酬並びに指名料及びヘルプの手当で構成されるが、いずれも売上に応じて決定されるものであり、勤務時間との関連性は薄い。また、出勤時間はあるが客の都合が優先され、時間的拘束が強いとはいえない。
ホストは接客に必要な衣装等を自腹で準備している。また、ホストと従業員である内勤とは異なる扱いをしている。ミーティングは月1回行われているが、報告が主たるものである

2 以上によれば、ホストはY社から指揮命令を受ける関係にあるとはいえない。ホストは、Y社とは独立して自らの才覚・力量で客を獲得しつつ接客して収入を挙げるものであり、Y社との一定のルールに従って、本件店舗を利用して接客し、その対価を本件店舗から受け取るにすぎない。そうすると、ホストは自営業者と認めるのが相当である

3 したがって、XY社間に雇用契約締結の事実は認められない。XY社間の契約関係は、Y社主張の賃貸借契約類似の非典型契約であると考えられる。Xの場合は、客からの指名が受けられないことから、十分な収入を挙げられなかったものであるが、ホストの業務内容からすれば、ある意味やむを得ないところである

だそうですよ。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

労働者性16(Mコーポレーション事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、クラブママの契約の性質と損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

Mコーポレーション事件(東京地裁平成27年11月5日・労判1134号76頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の経営する接待飲食店(クラブ)において稼働していたXが、Y社に対し、主位的には、Y社との間に労働契約が成立しており、Y社による解雇は権利を濫用したものとして無効であって、Xは解雇後も賃金請求権を失わないと主張して、労働契約に基づき、平成26年3月1日から同年11月26日までの間の賃金+遅延損害金の支払を求め、予備的には、Y社との間に業務委託契約(準委任契約)が成立しており、Y社による解約によって損害を被ったと主張して、民法656条、651条2項に基づき、損害賠償金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、198万3079円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、あらかじめ顧客に本件クラブへの来店を勧誘し、来店の約束を取り付けた上で、本件クラブに来店した顧客を接待していたものであり、Xの顧客が来店する予定のない日には、基本的には、本件クラブに出勤する必要がないものとされていた。また、Xは、Xの顧客が来店しているときには、基本的に当該顧客の接待に従事していた上、Xの報酬は、Xの顧客に対する売上げのみに基づいて計算するものとされており、XがXの顧客以外の来店客を接待しても、報酬が増額されることはなかった。
これらの事情からすれば、本件契約において、Xが行うものとされていた主たる業務は、Xの顧客に本件クラブへの来店を勧誘し、これに応じて来店した顧客を接待することであり、Xには、何よりも、できるだけ多くの顧客を勧誘して本件クラブに来店させることが期待されていたものと認められる。
・・・Xが挨拶や接客の方法等についてY社から具体的な指示や指導を受けていたとも認められないことからすると、Xが上記の付随的業務について店長のDから一定の指示を受けていたことをもって、XがY社の指揮命令を受けて本件契約上の業務を遂行していたとまで評価することはできない

2 ・・・本件契約について、XがY社の指揮監督下において労働し、その対価として賃金の支払を受ける旨の労働契約であったと評価することは困難であり、Xは、労働基準法及び労働契約法上の労働者に該当しないというべきである。

3 Y社は、Xが、①本件契約の締結に当たり、月額300万円以上の売上げを約束していたにもかかわらず、Xが本来例外的な位置付けであったはずの安い料金システムを多用したため、上記約束を1回しか実現しなかった、②人気のあるホステスを原告の顧客に安価に飲ませている席に優先的につかせるように差配し、本件クラブ固有の来店客の不興を買うとともに、原告が本来期待できた売上げを減少させた、③クリスマスパーティなどのイベントにも非協力的な態度をみせた、④本件クラブのホステスの同伴客をY社の同意なく自己の顧客に切り替えた、⑤Bがこれらを改善するように再三注意したのに、これらの行動と態度を改めることがなく、その結果、本件クラブの他のホステスや従業員の不満も増し、店内の雰囲気は極めて悪くなったとして、本件解約が民法651条2項ただし書の「やむを得ない事由」に基づくものであると主張する。
しかしながら、上記①について、Xは、月額300万円の売上げを約束した事実及び安い料金システムを多用した事実をいずれも否認しているところ、Xが月額300万円以上の売上げを約束し、これが本件契約の内容になっていたというのであれば、本件誓約書にその旨と300万円の売上げが達成できなかった場合の取扱いが記載されてしかるべきであるが、本件誓約書にそのような記載は認められないし、Xが安い料金システムを多用したとの事実についても、客に対する請求伝票等の客観的資料を提出することで容易に裏付けることが可能であると解されるのに、そのような資料は提出されていない。そうすると、・・・上記①に係る事実を認めるには足りない。
上記②については、Xがこれを否認している上、Bも、証人尋問において、ホステスをどの席につかせるかは基本的には店の判断で決めることであり、ホステスや「クラブママ」が自らの判断で他のホステスを自分が接客する席につかせることはできないことを認める証言をしているのであって、上記②に係る事実を認めることはできないというべきである。
上記③ないし⑤についても、Xはこれらの事実を否認しているところ、Bの上記証言及び陳述書の記載を裏付けるに足りる客観的資料は提出されておらず、これらをそのまま採用することは困難であり、ほかに当該事実を認めるに足りる証拠はない。
以上によれば、Y社の上記主張に係る事実はいずれも認めるに足りず、本件解約が民法651条2項ただし書の「やむを得ない事由」に基づくものであるとは認められないというべきである。

クラブママの労働者性が否定された事例です。

また、委任契約の中途解約について「やむを得ない事由」の有無が判断されていますが、事実認定のしかたが参考になります。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

労働者性15(NHK神戸放送局(地域スタッフ)事件)

おはようございます。

今日は、労基法(労契法)上の労働者性が争われた裁判例を見てみましょう。

NHK神戸放送局(地域スタッフ)事件(大阪高裁平成27年9月11日・労判1130号22頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間においてY社の放送受信料の集金や放送受信契約の締結等を内容とする有期委託契約(本件契約)を継続して締結してきたXが、Y社から本件契約を途中解約されたことについて、本件契約は労働契約であり、上記解約(本件解約)は、労働契約法に基づかない無効な解雇であると主張して、Y社に対し、労働契約に基づき、労働者としての地位の確認、平成25年1月からの毎月27万5720円の賃金及び遅延損害金の支払を求めるとともに、不当解雇の不法行為に基づき、慰謝料等330万円の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

原判決は、本件契約は労働契約的性質を有するものであり、本件解約は労働契約法に基づかないなどの理由で無効であるものの、本件契約は平成25年3月31日の経過をもって終了しているとして、地位確認の訴えを確認の利益がないとして却下し、賃金請求を同年1月から同年4月までの分及び遅延損害金の限度で認容し、その余の請求をいずれも棄却した。このため、敗訴部分を不服とするY社が本件控訴を提起した。

【裁判所の判断】

原判決主文中訴えを却下した部分を取り消す。

被控訴人の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 本件契約により、Xは、契約開発スタッフとして、放送受信契約の新規締結や放送受信料の集金等契約上定められた業務を行うことを受託している。したがって、その定められた業務内容に関するものである限り、Xが個々の具体的な業務について個別に実施するか否かの選択ができるわけではない。もっとも、これは、包括的な仕事の依頼を受託した以上、契約上、当然のことと解される。本件では、業務の内容からして、Y社がXに対し特定の世帯や事業所を選び訪問すべき日や時間を指定して個別の仕事を依頼するなどということは、およそ予定されていないと考えられるから、Xに上記の選択権のないことを本来的な意味の諾否の自由の有無の問題ととらえるのは相当でない。

2 契約開発スタッフであるXが本件契約による受託業務を行う地域は、Y社が定期的に指定する地域であるが、ローテーション制が取られることは、本件契約の内容となっていたことであるから、業務従事地域が替わることをもって、諾否の自由がないということはできない。
また、期ごとに達成すべき目標値については、Y社において決定し、各期の当初に具体的数値として、Xらスタッフに示されることになっており、Y社とXとの協議によって決められるものではないが、これは、稼働時間に対する拘束性として検討すべきである。

3 本件契約上、1か月の稼働日数、1日の稼働時間については何も定められておらず、業務開始時刻や業務終了時刻も定められていない。
Xの1か月の稼働日数、1日の稼働時間、b放送局のスタッフの1か月の稼働日数をみても、1か月の稼働日数や1日の稼働時間は区々であり、各人によって相当幅があり、各スタッフの裁量に任されていることは明らかである。
特定の世帯等への訪問を具体的にどの日やどの時間に行うかについても、スタッフの裁量に委ねられている。
そして、目標値を達成している限りにおいては、業務計画表に記載した月間の稼働日数分働かなくても、何らY社から指導を受けることもない。
業績が不振で、その原因が稼働日数や稼働時間又は稼働時間帯に関するものであった場合には、Y社は、それに関する具体的な指導を行っていたが、その場合でも、スタッフは、その指導に従わずに目標値を達成できるのであれば、目標値の達成にこそ努めるべきであった。
目標値自体は、Y社が設定するものであるが、このようにみると、稼働時間に対する拘束性は強いものではないというべきである。
・・・このように、本件契約における場所的・時間的拘束性の程度は低いものというべきである。

4 本件契約で特徴的なことは、再委託が自由であることであり、その利用率はともかく、全国的に利用されており、現にb放送局にいるスタッフにおいても利用されていた。しかも、再委託先は、配偶者、親子にとどまらず、公募した第三者まであった
再委託に疑問を呈するスタッフの意見もあるが、このスタッフも再委託制度を利用したことには変わりはなく、再委託制度の有用性は、スタッフが自ら処理することと再委託とをどのように使い分けるかによって左右されるのであり(兼業の自由と相まって、自らの稼働は制限的に行い、第三者を利用することも考えられる。)、一概に決めつけることはできない。

5 そのほか兼業が許容されており、スタッフに就業規則は適用されず、社会保険の適用もない。

6 以上によれば、①本件契約においては、諾否の自由の問題を取り上げるのは相当でなく、②Y社のスタッフに対する助言指導は、業績の不振を契機として主として稼働日数や稼働時間等についてされるものであり、限定された場面におけるものということができる。③本件契約上、1か月の稼働日数や1日の稼働時間は、スタッフの判断で自由に決めていくことができ、実際の稼働をみても、スタッフにより、時期により様々である。目標値はY社が設定するとしても、稼働時間に対する拘束性は強いものとはいえない。場所的拘束性も、訪問対象の世帯等がその地域内にあるというだけで、訪問以外の場面ではその地域内での待機を強いられるわけではない。④本件契約の事務費は、基本給とまではいえず、そのほかの給付も出来高払の性格を失っていない。⑤本件契約においては、第三者への再委託が認められており、実際にも再委託制度を利用している者がいた。⑥兼業は許容され、就業規則や社会保険の適用はない。なお、⑦本件契約による業務を遂行する上で必要な機材等はY社によって貸与されている。
このように②から⑥まで、とりわけ、稼働日数や稼働時間が裁量に任されており、時間的な拘束性が相当低く、⑤のとおり、第三者への再委託が認められていることに着目すれば、⑦の事情を総合しても、本件契約が、労働契約的性質を有すると認めることはできない

高裁は、一審の判断を覆し、労働者性を否定しました。

判決理由でも述べられているとおり、上記判例のポイント4が大きいですね。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。