労働者性16(Mコーポレーション事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、クラブママの契約の性質と損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

Mコーポレーション事件(東京地裁平成27年11月5日・労判1134号76頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の経営する接待飲食店(クラブ)において稼働していたXが、Y社に対し、主位的には、Y社との間に労働契約が成立しており、Y社による解雇は権利を濫用したものとして無効であって、Xは解雇後も賃金請求権を失わないと主張して、労働契約に基づき、平成26年3月1日から同年11月26日までの間の賃金+遅延損害金の支払を求め、予備的には、Y社との間に業務委託契約(準委任契約)が成立しており、Y社による解約によって損害を被ったと主張して、民法656条、651条2項に基づき、損害賠償金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、198万3079円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、あらかじめ顧客に本件クラブへの来店を勧誘し、来店の約束を取り付けた上で、本件クラブに来店した顧客を接待していたものであり、Xの顧客が来店する予定のない日には、基本的には、本件クラブに出勤する必要がないものとされていた。また、Xは、Xの顧客が来店しているときには、基本的に当該顧客の接待に従事していた上、Xの報酬は、Xの顧客に対する売上げのみに基づいて計算するものとされており、XがXの顧客以外の来店客を接待しても、報酬が増額されることはなかった。
これらの事情からすれば、本件契約において、Xが行うものとされていた主たる業務は、Xの顧客に本件クラブへの来店を勧誘し、これに応じて来店した顧客を接待することであり、Xには、何よりも、できるだけ多くの顧客を勧誘して本件クラブに来店させることが期待されていたものと認められる。
・・・Xが挨拶や接客の方法等についてY社から具体的な指示や指導を受けていたとも認められないことからすると、Xが上記の付随的業務について店長のDから一定の指示を受けていたことをもって、XがY社の指揮命令を受けて本件契約上の業務を遂行していたとまで評価することはできない

2 ・・・本件契約について、XがY社の指揮監督下において労働し、その対価として賃金の支払を受ける旨の労働契約であったと評価することは困難であり、Xは、労働基準法及び労働契約法上の労働者に該当しないというべきである。

3 Y社は、Xが、①本件契約の締結に当たり、月額300万円以上の売上げを約束していたにもかかわらず、Xが本来例外的な位置付けであったはずの安い料金システムを多用したため、上記約束を1回しか実現しなかった、②人気のあるホステスを原告の顧客に安価に飲ませている席に優先的につかせるように差配し、本件クラブ固有の来店客の不興を買うとともに、原告が本来期待できた売上げを減少させた、③クリスマスパーティなどのイベントにも非協力的な態度をみせた、④本件クラブのホステスの同伴客をY社の同意なく自己の顧客に切り替えた、⑤Bがこれらを改善するように再三注意したのに、これらの行動と態度を改めることがなく、その結果、本件クラブの他のホステスや従業員の不満も増し、店内の雰囲気は極めて悪くなったとして、本件解約が民法651条2項ただし書の「やむを得ない事由」に基づくものであると主張する。
しかしながら、上記①について、Xは、月額300万円の売上げを約束した事実及び安い料金システムを多用した事実をいずれも否認しているところ、Xが月額300万円以上の売上げを約束し、これが本件契約の内容になっていたというのであれば、本件誓約書にその旨と300万円の売上げが達成できなかった場合の取扱いが記載されてしかるべきであるが、本件誓約書にそのような記載は認められないし、Xが安い料金システムを多用したとの事実についても、客に対する請求伝票等の客観的資料を提出することで容易に裏付けることが可能であると解されるのに、そのような資料は提出されていない。そうすると、・・・上記①に係る事実を認めるには足りない。
上記②については、Xがこれを否認している上、Bも、証人尋問において、ホステスをどの席につかせるかは基本的には店の判断で決めることであり、ホステスや「クラブママ」が自らの判断で他のホステスを自分が接客する席につかせることはできないことを認める証言をしているのであって、上記②に係る事実を認めることはできないというべきである。
上記③ないし⑤についても、Xはこれらの事実を否認しているところ、Bの上記証言及び陳述書の記載を裏付けるに足りる客観的資料は提出されておらず、これらをそのまま採用することは困難であり、ほかに当該事実を認めるに足りる証拠はない。
以上によれば、Y社の上記主張に係る事実はいずれも認めるに足りず、本件解約が民法651条2項ただし書の「やむを得ない事由」に基づくものであるとは認められないというべきである。

クラブママの労働者性が否定された事例です。

また、委任契約の中途解約について「やむを得ない事由」の有無が判断されていますが、事実認定のしかたが参考になります。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。