Daily Archives: 2016年7月5日

有期労働契約65(A農協事件)

おはようございます。

今日は約17年間更新してきた季節労働者の雇止めと未払賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

A農協事件(東京高裁平成27年6月24日・労判1132号51頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が運営する営農センターにおいて、平成8年以降約17年間にわたり、いわゆる季節労働者として春、秋の育苗業務及び米の集荷業務等に従事していたXが、平成24年秋以降の労働契約締結を拒否されたことについて、不当な更新拒絶であるなどと主張して、Y社に対し、労働契約上の地位の確認並びに未払賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、Xの請求を、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに135万1378円等の支払を求める限度で認容して、その余を棄却した。

【裁判所の判断】

Xの請求をいずれも棄却する

【判例のポイント】

1 労働契約法19条2号は、期間満了後も従前の有期労働契約が継続することに対する労働者の期待と、期間満了により従前の有期労働契約を終了させる使用者の必要性との調整をはかるため、労働者が有期労働契約の契約期間の満了時にその有期労働契約が更新されて継続するものと期待することについて合理的な理由が認められる場合において、使用者が雇止めをすることが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、契約期間の満了時までに当該有期労働契約の更新の申込みをしたとき又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをしたときは、雇止めは認められず、使用者は、従前の有期労働契約と同一の労働条件で労働者による有期労働契約の更新又は締結の申込みを承諾したものとみなす旨を規定する。同号は、従前の有期労働契約を継続させる一種の法定更新を定める規定であり、法定更新の法律効果の発生を明確にするため、契約期間の満了時までに当該労働契約の更新の申込みをしたこと又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをしたことをその法定更新の要件と定めるものである。

2 労働契約法18条2項は、ある有期労働契約と他の有期労働契約との間の空白期間がある場合であっても、有期労働契約の反復更新により期間の定めのない労働契約への転換の有無を判断するについて、同期間が一定限度内であれば両契約期間を通算することを認めており、また、同法19条も、有期労働契約終了後に新たな契約締結の申込みをした場合であっても、当該契約期間満了後「遅滞なく」上記申込みをしたときは、使用者が同条所定の条件で当該申込みを承諾したものとみなす旨を規定していることからすれば、同条2号を類推適用するについて、従前の有期労働契約と同号により更新された後の有期労働契約が連続しており、各契約間に全く空白のないことまで求めているものではないと解すべきであるものの、同号の趣旨及び「当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合」という文理からすれば、同号の類推適用をするためには、上記空白期間は、各有期労働契約の契約期間との対比などから、従前の有期労働契約が法定更新によって継続されると法律上評価することができる程度のものにとどまることを要するものというべきである。しかし、本件各労働契約における各労働契約間の空白期間は、上記の程度にとどまるものとは認められないことは上記に判示するとおりである。

3 Y社は、それぞれの有期労働契約が開始される少し前にXに対して契約締結の意向を伝え、契約開始時に契約書を作成していることは前記のとおりであるところ、各有期労働契約の終了から次の有期労働契約の開始までの間に3か月ないし4か月の期間があることは前記のとおりであることからすれば、このようなY社による契約締結の意向の伝達は、直近の有期労働契約の終了時3か月ないし4か月程度経過後にされる上、上記伝達時から直ちに契約期間が開始するものでもないことに照らすと、直近の有期労働契約が更新される法律効果の発生を明確にする役割を果たしているとは認められないのであって、その他、有期労働契約の契約期間の満了時までに当該有期労働契約の更新の申込みをしたこと又は当該契約期間の満了時遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをしたことと同視し得るような事実関係も認められないことを併せ考慮すれば、Y社とXの各有期労働契約に同法19条2号を類推適用することは、同条が、その法定更新の法律効果の発生を明確にするため、「契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした」こと「又は当該契約期間の満了時遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした」ことを要する旨を規定する趣旨に反するものといわざるを得ない。

4 以上判示の点を総合すると、Xが、平成8年からほぼ毎年、春期と秋期にY社との間で本件各労働契約を締結してきたことなどの前判示の諸事情を考慮しても、本件各労働契約について、労働契約法19条2号を類推適用することはできないものというべきである。

季節労働者に対する雇止めの問題について、労働契約法18条2項との関係について解釈を示してくれています。

労働契約法18条2項は以下のとおりです。

当該使用者との間で締結された一の有期労働契約の契約期間が満了した日と当該使用者との間で締結されたその次の有期労働契約の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間(これらの契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合の当該いずれにも含まれない期間を除く。以下この項において「空白期間」という。)があり、当該空白期間が六月(当該空白期間の直前に満了した一の有期労働契約の契約期間(当該一の有期労働契約を含む二以上の有期労働契約の契約期間の間に空白期間がないときは、当該二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間。以下この項において同じ。)が一年に満たない場合にあっては、当該一の有期労働契約の契約期間に二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間)以上であるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しない

相当長期にわたり有期雇用が続いている本件においても、労働契約法19条2号の適用は否定されています。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。