Daily Archives: 2016年7月20日

不当労働行為145(富士美術印刷事件)

おはようございます。

今日は、組合活動による会社の信用毀損に基づく損害賠償請求が認められた裁判例を見てみましょう。

富士美術印刷事件(東京地裁平成28年2月10日・労経速2277号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、Xらに対し、ビラ等の内容が虚偽であって、Xらの行為によりY社の信用が毀損され、その結果、Y社は取引先との取引が打ち切られるなどの損害を被ったと主張して、共同不法行為に基づき、損害賠償金2200万円+遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Xらは、Y社に対し、連帯して350万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xらが所属する労働組合は、団結権及び団体交渉権が保障されており、組合員である労働者のために、その労働条件を始めとする経済的地位の維持、向上を目指して活動することが認められていることに鑑みれば、労働組合が配布したビラ等の文書、掲示した幟及び横断幕等の表現が、結果的に他者の名誉又は信用を毀損しても、表現内容の真実性、表現自体の相当性、表現活動の動機、態様、影響等一切の事情を考慮し、正当な組合活動として社会通念上許容された範囲内のものであると判断される場合には、違法性が阻却されると解すべきである。

2 ・・・以上のとおり、本件各表現の内容が重要な部分において真実であることの証明がなく、また、その内容の重要な部分を真実と信ずるにつき相当な理由があるとは認められないにもかかわらず、表現活動が行われたことからすると、その余の表現自体の相当性、表現活動の動機、態様、影響等について検討するまでもなく、本件各表現は、仮に組合活動であるとしても、正当な組合活動として社会通念上許容された範囲を超えており、違法性は阻却されないというべきである。

3 A社がY社との取引を打ち切った理由については、Y社が倒産する恐れがあると判断したことが原因であるのか、Y社において争議行為が行われていることが原因であるかが判然としないところ、他に、A社との取引中止に関する事情を裏付ける証拠はないことからすれば、Xらの行為とA社との取引中止による損害との間には、相当因果関係が認められない
・・・また、Xらの行為を見たA社以外の取引先数社から、Y社との取引を打ち切られたものの、その理由については特に告知されていないことが認められる。そうすると、上記数社がY社との取引を中止した理由については不明というほかなく、Xらの行為と上記数社との取引中止の間にも、相当因果関係が認められない。

4 本件各表現の態様及びビラ等の内容は、・・・これらの行為は約1年半の間、不特定又は多数の人が認識し得る態様で多数回にわたり繰り返されていること、現に、Y社の取引先は、Y社の本社を訪問した際に、幟、横断幕及びXらによる演説などを見て、Y社に対し、倒産したのかと問い合わせることがあり、Y社は、その度に説明に追われたことなどの諸事情を考慮すれば、本件各表現の結果としてY社の信用が毀損されたことによる損害は350万円であると認定するのが相当である。

組合活動に対する使用者側の対抗手段としては、まずは差止めの仮処分が考えられます。

それに加えて、今回の裁判例のように損害賠償請求をするということです。

ご覧のとおり、裁判所が認定してくれる金額は、それほど高額にはならないことを予め理解しておきましょう。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。