Category Archives: 競業避止義務

競業避止義務28 競業避止義務違反に基づく会社からの損害賠償請求の可否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、競業避止義務違反に基づく会社からの損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

レジェンド元従業員事件(福岡高裁令和2年11月11日・労判1241号70頁)

【事案の概要】

本件は、保険代理店業等を営むY社が、かつてY社の従業員であったXにつき、①Y社在職中に同業他社の使用人となった、②Y社在職中に、同業他社のための営業活動を行い、競業避止義務に違反した、③Y社を退職して同業他社に就職した場合にY社の顧客に営業活動を行わない旨競業避止義務を負っていたにもかかわらず、Y社を退職した後に就職した同業他社においてY社の顧客に対する営業活動を行って、競業避止義務に違反した、④Y社を退職して同業他社に就職した後に秘密保持義務に違反したという義務違反があり、これにより、Y社の顧客の一部が保険契約を更新せず、Y社は契約の更新がされていれば得られたはずの代理店手数料を得ることができず、損害を被ったと主張し、Y社に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求としてY社に生じた損害の一部である179万9386円+遅延損害金の支払を求めている事案である。

原判決は、Xについて、上記③の競業避止義務が認められると判断し、Y社の請求のうち141万2059円+遅延損害金の支払を認める限度で認容し、その余の請求を棄却した。

Xは、上記認容部分を不服として控訴した。

【裁判所の判断】

原判決中、X敗訴部分を取り消す。

前項の部分につき、Y社の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 本件競業避止特約によって課されるような退職後の競業避止義務は、労働者の営業の自由を制限するものである。このような退職後の競業避止義務については、労働者と使用者との間の合意が成立していたとしても、その合意どおりの義務を労働者が負うと直ちに認めることはできず、労働者の利益の程度、競業避止義務が課される期間、労働者への代償措置の有無等の事情を考慮し、競業避止義務に関する合意が公序良俗に反して無効であると解される場合や、合意の内容を制限的に解釈して初めて有効と解される場合があるというべきである。

2 ・・・本件競業避止特約は、その文言によれば、XがX既存顧客に対しても営業活動を行わない義務を課す内容であり、Xがこのとおりの義務を負うとすれば、Xが受ける不利益は極めて大きいものである。

3 XがY社に在職中に受領した賃金や報酬が、Xが退職後に競業避止義務を負うことの実質的な代償措置であると認めることもできない

4 こうした事情の下では、本件競業避止特約により、Xが、Y社退職後に、X既存顧客を含む全てのY社の顧客に対して営業活動を行うことを禁止されたと解することは、公序良俗に反するものであって認められない。そして、本件競業避止特約の内容を限定的に解釈することにより、その限度では公序良俗に反しないものとして有効となると解する余地があるとしても、少なくとも、XがX既存顧客に対して行う営業活動であって、XからX既存顧客に連絡を取って勧誘をしたとは認められないものについては、本件競業避止特約に基づく競業避止義務の対象に含まれないと解するのが相当である。

このように競業避止義務については、かなり限定的に解釈されることは理解しておきましょう。

従業員に独立、転職されること、それに伴い顧客が一定数減少することは、もはや雇用契約に内在するリスクと捉えるほうが現実的だと思います。

競業避止義務の考え方については顧問弁護士に相談をし、現実的な対策を講じる必要があります。

競業避止義務27 在職中の競業避止義務違反と即時解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、競業避止義務違反が疑われる従業員に対する即時解雇に関する裁判例を見てみましょう。

東京現代事件(東京地裁平成31年3月8日・労判1237号100頁)

【事案の概要】

本件は、コンピューターのソフトウェア及びハードウェア製品の製造、販売、輸出入、プログラマーやシステムエンジニアの派遣業務等を行う株式会社であるY社の従業員であったXが、平成29年6月29日に業績不良を理由として即時解雇されたことについて、解雇事由が存在せず、解雇権の濫用として無効であるとして、Y社に対し、労働契約に基づく地位の確認、解雇通知日である平成29年6月29日から解雇予告期間である30日の経過後である同年7月29日までの賃金28万6352円、不法行為に基づく損害賠償等として合計632万9612円(内訳:慰謝料及び逸失利益として合計575万4193円,弁護士費用57万5419円)の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、28万6352円+遅延損害金を支払え。

Xのその余の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 本件解雇が有効であるとしても、本件解雇は、解雇予告期間をおかず、また解雇時に解雇予告手当の支払をしないままであり、労働基準法20条に違反しているが、Y社が即時解雇に固執する趣旨でない限り、通知後に労働基準法20条所定の30日間の期間を経過するか、又は通知後に解雇予告手当の支払をした時のいずれの時から解雇の効力を生じると解される。本件では、Y社に即時解雇への固執はうかがわれないが、本件解雇後に解雇予告手当を支払っていないから、本件解雇通知後30日経過した時点で解雇の効力が発生することになる。

2 Xは、Y社に在職中、その勤務時間を含め、同業者であるa社の取締役又は業務委託の受託者として、a社の業務に従事し、しかも、Y社の親会社の会長が来訪する際にはa社の話を控えるなどして、a社としての活動を秘していたことが認められる。そして、Xがa社の業務に従事することにつき、当時のY社の代表取締役であるBは、a社の代表取締役でもあったことから、知っていたとはいえるが、それをもって被告がXの副業を許可していたとは認めがたい。したがって、Xは、会社の許可なくして他の会社の役員となり、また、Xの労働の報酬として金銭を受け取っており、就業規則第2章2条24号に反しているといえる。また、Xがa社の業務に関してY社のパソコンやメールアドレスを使用していたことが認められるところ、Xはa社の業務をY社の設備・備品を使用して行っていたから、これは、就業規則第2章2条6号に反するといえる。

3 Y社は、本件解雇時には、Xがa社の取締役だったことや同社の業務に関し報酬を受け取っていたことを知らなかったところ、本訴訟になって、兼業禁止に反したことを解雇事由として主張しているが、兼業禁止に反した事実それ自体は、本件解雇時に存在したものであって、解雇権濫用の評価障害事実として主張することは可能である。また、Y社が、本訴訟以前の労働審判において明らかにした解雇事由は整理解雇であるが、その主張は要するにY社の営業上赤字が続いたことにより、営業実績に比して給料が高額である営業部の廃止をしたとするものであるところ、このように営業実績が上がらない原因の一つには、唯一の営業部員であるXがa社の業務を行い、Y社の業務に専念していないことが影響していることは否定できない。そうすると、本件解雇時に、Y社が、兼業禁止違反の事実について認識していなかったとしても、その後の訴訟において、同事実を主張することは許されてしかるべきである。

4 Xは、弁論終結後に提出した書面において、服務規律違反である兼業禁止は就業規則上解雇事由と定められていないから、兼業禁止を理由に解雇することは認められないと主張する。しかしながら、Y社の就業規則の定めからは就業規則上に規定された解雇事由が限定列挙の趣旨であると解することはできず、例示列挙にすぎないと認められるから、Xの主張は採用しない

5 以上によれば、本件解雇は、Xに就業規則第2章2条6号及び24号に定められた兼業禁止違反に該当する事実が認められ、解雇の客観的合理的な理由があり、しかも、兼業の内容が就業時間に競業他社の業務を行うだけでなく、Y社の業務で知り得た情報を利用するというY社への背信的行為であるという内容に照らせば、本件解雇は社会通念上も相当なものである。

上記判例のポイント1は、基本知識ですのでしっかり押さえておきましょう。

本件のように、在籍中の競業避止義務違反の事案は、退職後のそれと比べて、違法と判断されることが可能性が格段に高いので注意しましょう(当たり前ですが)。

従業員の競業避止義務違反に対する対応については事前にしっかり顧問弁護士に相談をしましょう。

競業避止義務26 在職中の競業行為等が違法と判断される場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、在職中の競業行為等が自由競争の範囲を逸脱し違法とされた事案を見てみましょう。

Z社事件(名古屋地裁令和3年1月14日・労経速2443号15頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、Y社の幹部従業員であったXが在職中に別会社を設立し、平成31年2月1日には主要な取引先3社をしてY社との契約関係を終了させると同時に部下従業員とともに一斉にY社に退職届を提出した上で、当該別会社で競業行為に及んだことは労働契約上の誠実義務違反という債務不履行又は不法行為に該当すると主張して、Xに対し、損害賠償として、当該取引先3社との取引から得られたはずの逸失利益9億円+遅延損害金の支払を求めた事案であり、本判決は、その請求の原因に理由があるか否かについて判断を示すものである。

【裁判所の判断】

本訴の請求の原因は理由がある。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社の従業員であって名古屋支店長であったところ、本件暴行事件を直接の契機としてY社に対して不満を抱くようになり、平成30年12月10日、Y社からの独立を企図して、Y社の従業員でありながらY社とその目的が重複するQ2社を設立してその代表取締役に就任し、競業行為の準備を行う一方、Y社の取引先に対してY社が刑事告発を受けている旨を伝え、特にY社に大きな利益をもたらしてきた提携先3社に対し、自らが設立して代表取締役に就任しているQ2社との間で日本における取引を継続させることを前提として、平成31年2月1日のほぼ同一時刻をもって一斉にY社との契約を解除するよう働きかけてこれを成功させ、名古屋支店の部下全員に当たるP4及びP5に対し、Q2社との間で労働契約を締結することを前提として、同日のほぼ同一時刻に同月15日をもって退職する旨の退職届を一斉に提出するように働きかけてこれも成功させたばかりか、名古屋支店のサーバーや貸与パソコンに記録されていたY社の取引関係に関わる情報を削除して復旧不可能に初期化し、顧客名刺を持ち去るなどして名古屋支店の機能を喪失させたものであり、Y社退職後には、Q2社代表取締役として、ただちにP4及びP5を雇用したばかりか、Y社から奪取した取引先である提携先3社との取引を開始し、Y社在職中にY社従業員として提携先3社に依頼した見積もりの回答を、提出期限である同月28日までに第2補給処に対して提出したものと認められる。

2 Xは、Y社との間で労働契約を締結していたのであるから、当該労働契約に付随する信義則上の義務として、その存続中において使用者であるY社の利益に著しく反する行為を差し控える義務を負っていたものであるところ、上記事実のうちY社退職前の行為は、Xが代表取締役を務めるQ2社による競業行為及びその準備行為にほかならず、Y社の利益に著しく反するものであって、Y社の就業規則3条、4条1項1号、3号、5号、6号及び8号並びに39条に違反することが明らかである。
また、Y社からの退職前後を通じたXの上記行為は、Y社における地位を利用して、取引上の信義に反する大洋でY社の事業活動を積極的に妨害したものというほかなく、これを正当化すべき理由が見当たらない以上、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な行為であって、不法行為を構成するものというべきである。

退職のきっかけはさておき、その後の態様は、法律上許容される範囲を大きく逸脱していると評価されてもしかたないものと思われます。

問題は、この先の損害論ですね。裁判所は損害額については謙抑的に判断する傾向にありますので注意が必要です。

原告、被告ともに顧問弁護士に相談の上、日頃から適切に労務管理をすることが求められます。

競業避止義務25 退職後の競業避止に関する誓約書の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 

66日目の栗坊トマト。見えます?実がついているの!

今日は、退職後の一定期間における競業事業者への就職等の禁止を定める誓約書の効力を一部無効とした裁判例を見てみましょう。

アクトプラス事件(東京地裁平成31年3月25日・労経速2388号19頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が雇用していたX1及びX2がY社の就業規則の規定又はY社とX2が取り交わした誓約書における約定に反して、A社の業務執行社員に就任するとともに、Y社の登録派遣社員を引き抜き、Y社の顧客に派遣して顧客を奪ったなどと主張して、X1及びX2に対し、債務不履行、不法行為及び会社法597条に基づき、A社に対し、X1及びX2との共同不法行為に基づき、連帯して、逸失利益1385万7186円及び弁護士費用相当損害金138万5719円の合計1524万2905円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件誓約書6条は、X2に対し、Y社退職後1年間、事前の許可なく、一都三県においてY社と競業関係にある事業者に就職等をすることを禁止しているところ、かかる制限はX2の職業選択の自由を制限するものである上、Y社との間で有期労働契約を締結し、主として登録派遣社員の募集や管理等を行っていたにすぎないX2について、制限の期間や範囲は限定的であるものの、Y社の秘密情報の開示・漏洩・利用の禁止や、従業員の引き抜き行為等の禁止をする以上の制限を課すべき具体的必要性が明らかでなく、かかる制限に対する特段の代償措置も設けられていないことなどを考慮すると、本件誓約書6条は公序良俗に反し無効である。

2 派遣社員募集にWeChatを利用することは、Y社独自のノウハウということはできない上、A1グループやA2グループに登録されたメンバーの情報についても、その全てがY社の業務上形成されたものとはいえず、Y社入社前から上記情報を形成してきたX2との間で上記情報に関する権利関係も明確でない以上、X1及びX2がA社において上記情報を利用することが直ちに違法になると解することはできない
また、X2は、Y社退職の際、後任者であるDに対してA1に対する人材派遣についての引継ぎを行っており、A1から発注があれば、Dにおいて派遣社員の募集をすることが可能であったものの、Y社はX2退職後、A1から発注を断られたことが認められるところ、X2がA1のY社への発注を妨げたと認めるに足りる証拠はない。むしろ、A1からY社への発注がなくなったのは、FのY社顧問退任とA社顧問就任による影響や、A1とX1及びX2の信頼関係によるものと推認することができ、X1及びX2がY社退任後にA社においてA1グループやA社グループを利用して人材募集をしたことが理由でA1からY社への発注がなくなったと認めることもできない。
なお、Y社のA2からの人材派遣の受注がX1及びX2のA社への入社後に減少したと認めるに足りる証拠はなく、むしろ増加しているものとうかがえる。
以上によれば、X1及びX2が違法に本件引き抜き行為等を行ったことを前提とするY社のX1及びX2に対する損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

いつもながら競業避止義務や引抜き行為に関する事案は、原告側に厳しい判断が多いですね。

上記判例のポイント1のような考慮要素は理解しておく必要があります。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

競業避止義務24 競業・引抜き行為に基づく損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

58日目の栗坊トマト。さほど変化は見られませんが、もう少しで実がなりそうです!

今日は、競業及び引抜き行為等に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

ムーセン事件(東京地裁平成31年3月25日・労判ジャーナル90号50頁)

【事案の概要】

本件は、A社が雇用していたX1及びX2がA社の就業規則の規定又はA社とX1が取り交わした誓約書における約定に反して、Y社の業務執行社員に就任するとともに、A社の登録派遣社員を引き抜き、A社の顧客に派遣して顧客を奪ったなどと主張して、X1及びX2に対し、債務不履行、不法行為及び会社法597条に基づき、Y社に対し、X1及びX2との共同不法行為に基づき、連帯して、逸失利益約1386万円等の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件就業規則及び本件誓約書の効力について、本件就業規則は周知等がされておらず、X1及びX2に対して効力が及ばず、また、X1の本件誓約書については、本件誓約書6条は、X1に対し、A社退職後1年間、事前の許可なく、一都三県においてA社と競業関係にある事業者に就職等をすることを禁止しているところ、かかる制限はX1の職業選択の自由を制限するものである上、A社との間で有期労働契約を締結し、主として登録派遣社員の募集や管理等を行っていたにすぎないX1について、制限の期間や範囲は限定的であるものの、A社の秘密情報の開示・漏洩・利用の禁止や、従業員の引き抜き行為等の禁止をする以上の制限を課すべき具体的必要性が明らかでなく、かかる制限に対する特段の代償措置も設けられていないことなどを考慮すると、本件誓約書6条は公序良俗に反し無効であるから、X1及びX2に対しては本件就業規則の効力が及ばず、X1に対しては本件誓約書のうち6条1号の効力が及ばないから、これらの効力が及ぶことを前提とするA社のX1及びX2に対する損害賠償請求は、理由がない。

2 X1は、A社退職の際、後任者であるEに対してK社に対する人材派遣についての引継ぎを行っており、K社から発注があれば、Eにおいて派遣社員の募集をすることが可能であったものの、A社はX1退職後、K社から発注を断られたことが認められるところ、X1がK社のA社への発注を妨げたと認めるに足りる証拠はなく、むしろ、K社からA社への発注がなくなったのは、FのA社顧問退任とD社顧問就任による影響や、K社とX1の信頼関係によるものと推認することができ、X1及びX2がA社退職後にY社においてK社グループやY社グループを利用して人材募集をしたことが理由でK社からA社への発注がなくなったと認めることもできないこと等から、X1及びX2が違法に本件引き抜き行為等を行ったことを前提とするA社のX1及びX2に対する損害賠償請求は、理由がない。

競業避止に関する裁判例の多くは、原告会社側に厳しい判断がされています。

また、仮に責任が認められても、認容される金額は、請求金額から大幅に減額されることがよくあります。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

競業避止義務23 退職後の競業行為に基づく損害賠償請求が棄却された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、元社員に対する競業行為に基づく損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

日本圧着端子製造事件(大阪地裁平成29年11月15日・労判ジャーナル73号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社でコネクタの開発等に従事していた元従業員Xが、退職金約555万円を受給してY社を退職した後、コネクタの製造販売等を業とする別会社に就職したため、Y社が、Xに対し、主位的に、競業行為をした場合に退職金相当額を支払う旨の合意に違反したと主張して、賠償額の予定に基づく損害賠償として約555万円等の支払を求め、予備的に、競業会社に就職した場合に退職金を支給しない旨の退職金規定により、Xの退職金の受給が不当利得に当たると主張して、不当利得返還請求権に基づき、約555万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社及びA社は、いずれも自動車用のコネクタの製造及び販売を業とする点で共通するところ、自動車用のコネクタの中でも主として取り扱う部品に差異があるとしても、いずれも自動車の動力用装置に使用されるカードエッジコネクタの開発を行っていたことが認められ、少なくともこの点において、両者の業務は競業していると認めるのが相当である。そうすると、競業の程度はともかく、Xが、Y社を退職した日の翌日にA社に就職したことは、本件不支給規定における「2年以内に競業会社に就職し、もしくは競業業務に従事した」場合に当たると認めるのが相当である。

2 使用者が、退職金を不支給又は減額するには、当該退職者について、それまでの勤続の功労を抹消ないし減殺する程度の背信的行為があることを要すると解するのが相当であるところ、Xが、A社において、Y社在籍中に知り得たカードエッジコネクタの製品仕様を利用してカードエッジコネクタの開発に従事したとまでは認められず、また、Xは、A社入社後、営業担当者を同行して、B社及びC社を訪問した事実が認められるが、仮に上記訪問の際、Xが営業活動を行った可能性があるとしても、それは単に従前の取引関係により構築されたコネクションを利用してなされたものとうかがわれるのであって、Y社の取引先を奪取する意図で行われたものであるとまでは認められず、さらに、Xが、十分な引継ぎをしないまま退職したとまで認めることはできず、そして、Xが、Y社の従業員2名を引き抜いてA社に転職させたことを認めるに足りる的確な証拠は認められないこと等から、Y社主張に係るXの功労末梢行為があるとは認められない。

退職後の競業避止義務違反はいたるところで頻発しています。

一言で言えば「やりすぎ注意」ということなのですが、その線引きが問題となります。

もっとも、多くの事例では、会社側に厳しい判断がなされていますので気をつけましょう。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

競業避止義務22 元従業員に対する競業禁止の合意に基づく損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は元従業員に対する競業禁止の合意等に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

リンクスタッフ元従業員事件(大阪地裁平成28年7月14日・労判1157号85頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が元従業員であったXに対し、Y社・X間では退職後一定期間は同業他社に就職しないこと等を内容とする競業禁止の合意があったにもかかわらずXはこれに違反した、Xは他の退職従業員と共謀してY社の事業の妨害を図ったなどとして、債務不履行ないし不法行為に基づき、損害賠償を請求する事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 退職後の競業禁止の合意は、労働者の職業選択の自由を制約するから、その制限が必要かつ合理的な範囲を超える場合は公序良俗に反し、無効である。
本件についてみると、Xはいわゆる平社員にすぎないうえ、Y社への在籍期間も約1年にすぎない。他方、競業禁止義務を負う範囲は、退職の日から3年にわたって競業関係に立つ事業者への就職等を禁止するというものであり、何らの地域制限も付されていないから、相当程度に広範といわざるを得ない。
Y社は、業務手当の中には、みなし代償措置である2200円が含まれているとも主張するが、Xは、業務手当の中には、みなし代償措置が含まれているとの説明を受けたことはないと供述しているうえ、仮にこれが代償措置として設けられているとしても、その額は、Xの在籍期間全部を通じても総額で3万円ほどにすぎず、上記のような広範な競業禁止の範囲を正当化するものとは到底言えない。
そうすると、本件誓約書による競業禁止の範囲は合理的な範囲にとどまるものとはいえないから、公序良俗に反し無効であり、競業禁止の合意に基づく請求は理由がない。

このような事情であれば、訴訟を起こす前から結論は目に見えています。

訴訟をやるだけ時間とお金の無駄です。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

競業避止義務21 競業避止合意に基づく競業行為差止請求が棄却された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、競業避止合意に基づく競業行為差止等請求に関する裁判例を見てみましょう。

デジタルパワーステーション事件(東京地裁平成28年12月19日・労判ジャーナル61号21頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、元従業員Xらとの間の競業避止合意に基づき、同人らに対し、A社において使用人として稼働することの禁止を求めるとともに、上記合意における競業避止義務の不履行に基づき損害金約141万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、アダルトゲームのパッケージやキャラクターグッズの企画・製造・販売業という特殊な業界において、顧客であるゲームソフト会社との間で、受注生産しているところ、退職者に競業避止義務を負わせることにより、顧客や取引先、各種商品の仕様や製造単価などの内部情報の無断利用ないし流出を防ぎ、既存顧客を維持するなどの利益確保の必要性は認めることができ、また、Xらと顧客らとの間には強固な人的関係があり、Xらが退職後に競業行為を行うことにより、Y社に不利益が生じるおそれも大きいものと窺えるが、本件合意は、Xらに対し、退職後3年間という比較的長期にわたり、地域的な制限もなく、競合企業に雇用されたり、競合事業を企業したり、競業行為を行うこと、Y社の顧客と交渉したり、受注することを広範囲に禁止するものであり、Xらの職業選択又は営業の自由に対する制約が大きいにもかかわらず、これに対する代替措置は何ら講じられていないこと等から、本件合意は、合理的な制限の範囲を超えるものであり、Xらの職業選択又は営業の事由を不当に侵害するものであるから、公序良俗に反し無効である。

よく見かける競業避止に関する裁判例です。

この分野の裁判は、多くの場合、会社側に不利な結論で終わります。

納得はしづらいと思いますが、これが現実です。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

競業避止義務20(リンクスタッフ事件)

おはようございます。

今日は、競業禁止合意に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

リンクスタッフ事件(大阪地裁平成28年7月14日・労判ジャーナル56号31頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が元従業員に対し、両者間では退職後一定期間は同業他社に就職しないこと等を内容とする競業禁止の合意があったにもかかわらず元従業員はこれに違反した、元従業員は他の退職従業員と共謀してY社の事業の妨害を図ったなどとして、債務不履行ないし不法行為に基づき、損害賠償を請求した事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 退職後の競業禁止の合意は、労働者の職業選択の自由を制約するから、その制限が必要かつ合理的な範囲を超える場合は公序良俗に反し、無効であるところ、元従業員はいわゆる平社員にすぎないうえ、Y社への在籍期間も約1年にすぎず、他方、競業禁止義務を負う範囲は、退職の日から3年にわたって競業関係に立つ事業者への就職等を禁止するというものであり、何らの地域制限も付されていないから、相当程度に広範といわざるを得ず、Y社は、業務手当の中には、みなし代償措置である2200円が含まれているとも主張するが、元従業員は、業務手当の中には、みなし代償措置が含まれているとの説明を受けたことはないと供述しているうえ、仮にこれが代償措置として設けられているとしても、その額は、元従業員の在籍期間全部を通じても総額で3万円ほどにすぎず、上記のような広範な競業禁止の範囲を正当化するものとは到底言えず、本件誓約書による競業禁止の範囲は合理的な範囲にとどまるものとはいえないから、公序良俗に反し無効であり、競業禁止の合意に基づく請求は理由がない。

競業避止義務についての判断としてはスタンダードなものです。

この分野の裁判は、会社側に分が悪いですね。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

競業避止義務19(第一紙業事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、競業避止義務違反を理由とする元従業員への損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

第一紙業事件(東京地裁平成28年1月15日・労経速2276号12頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、Y社の従業員であるAにおいて、Y社が実施した早期退職制度に応募して退職した後に、在職中及び退職後の競業避止義務に違反して競業行為を行ったことが発覚したと主張し、Aが在職中に競業行為を行い、あるいは退職後に競業行為を行う意図があることをY社に秘匿して退職給付を受けたことが不法行為に当たると主張して、不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき、退職給付相当額及び弁護士費用の損害金+遅延損害金の支払を求めるとともに、選択的に、Aが在職中及び退職後に競業行為を行うという早期退職制度の適用除外事由又はY社の退職金規程上の不支給事由があるにもかかわらず退職給付を受けたことが不当利得に当たると主張して、不当利得に基づく利得金返還請求権に基づき、退職給付相当額等の利得金及び利息の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

AはY社に対し、1157万1805円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Y社就業規則18条9号のうち在職中の競業避止義務を定める部分は、雇用契約に付随する義務としてその合理性が認められるから有効である。・・・他方で、Y社就業規則18条9号のうち退職後の競業避止義務を定める部分及び本件競業避止義務条項の効力を判断するに際しては、①使用者の利益(競業制限の目的)、②退職者の従前の地位、③競業制限範囲の妥当性、④代償措置の有無、内容から検討すべきである。

2 ・・・Y社は、本件商品に関する技術上の秘密、ノウハウ等を維持することを目的として、Aに対して退職後の競業避止義務を課したものと認められ、そのようなY社の利益(競業制限の目的)は、保護されるべきものであるといえる(①)。
また、AがY社における特命担当として、本件商品の開発に従事し、本件商品に関する技術上の秘密、ノウハウ等を最もよく知る立場にあり、相応の営業能力を備えていたことが認められることからすると、上記のY社の利益を保護するために、Aに対し退職後の競業避止義務を課す必要が高いものであったというべきである(②)。
そして、同条項において、競業行為が「機密情報や業務上知り得た特別な知識を利用した競業的行為」と一応限定されていることが認められ、その他の範囲についても合理的に限定し得るものであり(③)、本件早期退職制度の適用を受けたAに対し、同制度に基づき、通常退職金に加えて、割増退職金の支払等3000万円余りの優遇措置が付与されたことが認められ、Aに付与された優遇措置には、退職後の競業制限に対する代償措置の性格が含まれているものと評価することができる。

3 本件早期退職制度において、Y社が本件早期退職制度の応募者に適用除外事由がないものと信頼しているか否かは措くとして、本件早期退職制度における適用除外事由が背信的行為を行った応募者に対し、同制度上の優遇措置を享受させるべきでないとの趣旨から定められており、そのような趣旨からすると、本件早期退職制度の適用決定がされた応募者について、背信的行為が発覚した場合に、Y社がその適用を撤回することも制度上予定されているものと解されることを勘案すると、応募者の適用除外事由の有無は、Y社が調査すべきものであると解するのが相当である。加えて、応募者に適用除外事由の自己申告を期待することは不可能である。
そうすると、本件の事実関係において、本件早期退職制度の応募者が、自らに適用除外事由がある場合に、信義則上、Y社に対し、その旨を告知すべき義務を負っていると認めることはできないというべきである。

本件においては、裁判所はAの行為は不法行為に該当しないと判断しています(不当利得返還請求を認めた)。

競業避止義務をめぐる訴訟では、会社側の主張を認めてもらうのはとても大変ですが、本件では請求内容が割増退職金の返還ということもあり、一部認容してくれました。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。