Category Archives: 競業避止義務

競業避止義務17(関東工業事件)

おはようございます

さて、今日は、退職後の秘密保持義務、競業避止義務に関する裁判例を見てみましょう。

関東工業事件(東京地裁平成24年3月13日・労経速2144号23頁)

【事案の概要】

X社は、主に廃プラスチックのリサイクルを業とする会社であり、仕入先から廃プラスチック等を仕入れ、これを工場で粉砕するなどした上で、海外に輸出するのを業としていた。

Bらは、X社との間で雇用契約を締結し、営業職として勤務していた。

Y社は、平成22年3月設立された会社であり、X社と同じく廃プラスチックのリサイクルを業としている。Y社の代表取締役はBである。

X社は、Bらに対し、秘密保持義務違反、競業避止義務違反等を理由として、不法行為ないし債務不履行に基づく損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

請求棄却
→秘密保持義務違反、競業避止義務違反にはあたらない。

【判例のポイント】

1 使用者は、労働者に対し、就業規則ないし個別合意等により業務上の秘密の不正利用を禁ずることができるが、このような条項には多かれ少なかれ労働者の自由な行動を制約する側面があり、しかも本来、雇用契約上の拘束を受けないはずである退職後の行動を制約することからすれば、何をもって秘密事項というかについては、本来、就業規則ないし個別合意等により明確に定められることが望ましいというべきであるし、かつ、労働者の行為(とりわけ退職後の行為)を不当に制約することのないよう、その秘密事項の内容も、過度に広汎にわたらない合理的なものであることが求められるというべきである

2 本件において、何をもって業務上の秘密とするかについて、就業規則上も本件通知上も具体的に定めた規定は見当たらないところ、不正競争防止法上の「営業秘密」については、いわゆる(1)当該情報が秘密として管理されていること(秘密管理性)、(2)事業活動に有用な技術的又は営業上の情報であること(有用性)及び(3)公然と知られていないこと(非公知性)という3つの要件が必要であるとされている(同法2条6項)。就業規則や個別合意による企業秘密の不正利用の防止が、不正競争防止法とは関係なく、あるいは、同法による規制に上乗せしてなされるものであることにかんがみると、これらにより保護されるべき秘密情報については、必ずしも不正競争防止法上の「営業秘密」と同義に解する必要はないというべきである。しかし、他方で、当該規制により、労働者の行動を萎縮させるなどその正当な行為まで不当に制約することのないようにするには、その秘密情報の内容が客観的に明確にされている必要があり、この点で、当該情報が、当該企業において明確な形で秘密として管理されていることが最低限必要というべきであるし、また、「秘密」の本来的な語義からしても、未だ公然と知られていない情報であることは不可欠な要素であると考えられる。このような点からすれば、就業規則ないし個別合意により漏洩等が禁じられる秘密事項についても、少なくとも、上記秘密管理性及び非公知性の要件は必要であると解するのが相当である

3 これを本件についてみるに、X社が業務上の秘密として主張する廃プラスチックの仕入先に関する情報については、「秘」の印が押されたりして管理されるわけでもなく、当該情報にアクセスすることができる者が限定されているわけでもなく、従業員であれば誰でも閲覧できる状態にあったことは、当事者間に争いがない。したがって、X社において、これらの情報が秘密として管理されていなかったことは明白である。また、本件訴訟におけるX社の主張をみても、当初訴状の段階では単に「顧客情報」と主張していたのに対し、その後「客先ごとの取引の種類、仕入量、価格といった営業上の重要な情報」(第1準備書面)、「具体的な値決めについてのノウハウ、取引先の存在、取引先がどのような品を欲しがるか、取引の可能となる価格」(第2準備書面)とその内容は必ずしも一定せず、このような主張内容が変転すること自体、X社においても、これらの情報の範囲を客観的に明らかな形で定義できていないことを示すものであって、これらが秘密として管理されていないことを示すということができる。
このように、X社主張にかかる情報は、秘密管理性の要件を充たさないものであるから、これが就業規則及び本件機密保持契約で保護されるべき秘密情報に当たると解する余地はないというべきである。

4 X社は、Bらが、X社を退職した後直ちにY社を設立ないし入社しているもので、就業規則59条2項に反する旨主張する。
このような就業規則や労使間の個別合意により、雇用契約関係終了後の労働者の職業選択の自由を制約できるかについては疑義もあるところであるが、労働者は、使用者の有する営業機密を使用してその業務を遂行したり、業務遂行の過程で営業機密を知ることもあるから、そのような場合には一定の範囲、期間内において退職後の労働者の競業を禁止することが正当化される場合もあり得る。しかし、他方で、労働者の立場からすれば、本来、退職後の職業選択に関し制約を受けるべき理由がないにもかかわらず、
使用者の利益確保のためにこれを制約されることを意味するものであるから、上記のような就業規則の競業避止条項や合意による競業避止特約が有効と認められるためには、使用者が確保しようとする利益に照らして、競業禁止の内容が必要最小限度に止まっており、かつ、十分な代償措置が施されることが必要であると解される。そして、そのような条件を満たさない場合には、上記条項ないし制約は、労働者の権利を一方的かつ不当に制約するもので公序良俗に反するとして、民法90条により無効となると解される

5 本件においては、Bらは、X社での業務遂行過程において、業務上の秘密を使用する立場にあったわけではないから、そもそも競業を禁ずべき前提条件を欠くものであるし、X社は、Bらに対し、何らの代償措置も講じていないのであるから、上記競業避止条項ないし特約は、民法90条により無効と認めざるを得ない。
したがって、Bらの競業避止義務違反をいうX社の主張については理由がない。

非常に参考になる裁判例ですね。

この分野は、原告側の会社は結構ハードルが高いので、注意が必要です。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

競業避止義務16(山口工業事件)

おはようございます。

さて、今日は、退職した支社長の未払賃金請求と背任行為への損害賠償に関する裁判例を見てみましょう。

山口工業事件(東京地裁平成23年12月27日・労判1045号25頁)

【事案の概要】

Y社は、建築工事業、とび・土木工事業等を業とする会社である。

Xは、Y社の東京支社長の地位にあった者である。

Xは、Y社と取引関係にあるA社の東京支店長という肩書の名刺を作成し、A社から業務を受託して月額10万円(合計350万円)の金員を受け取っていた。

Xは、名刺の作成については、業務委託先の名刺を作成しておけば円滑に業務が進む旨を述べてY社社長の承諾を得ていたが、金員の受け取りについては、Y社社長に報告していなかった。

その後、Xは、Y社を退職した。Y社社長は、Xの退職に不明朗な点を感じ、東京支社の調査を行ったところ、上記状況が判明した。

Y社社長は、東京支社の収支に関してXに問い合わせたが、Xへの電話で感情的になって「お前は1000万円の使い込みをしたんだ。告訴する。警察にも言っている。お前の家族をがたがたにしてやる。出て来い。こら。」などと怒鳴った。

またXの仕事上の知人への電話で「Xについては在籍中、横領の事実が明らかになったため解雇した。横領金額は1700万円である。警察に告訴する。このような人とは一緒に仕事はしない方がよい。」などとXを非難する発言をした。

Xは、Y社に対して、同社を退職後に、未払いとなっていた平成21年3月分の給与を求めるとともに、Y社社長に対して、同人から脅迫的言動を受けたり、名誉を毀損する発言をされたなどとして、不法行為に基づく損害賠償を請求した。

これに対し、Y社は、Xに対し、在職中の背任行為について、不法行為に基づく損害賠償請求をする反訴を提起した。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、給与の支払うように命じた。

Y社社長はXに対し、慰謝料として20万円を支払うように命じた。

XはY社に対し、約435万円を支払うように命じた。

【判例のポイント】

1 ・・・Xは、上記金員については、Y社との間の業務委託契約以外の業務を行ったことに対するアルバイト料であると主張するが、何らの客観的な裏付けもなく、その内容も不自然というほかないものであって、信用することはできない。したがって、これは、Y社とA社との間の業務委託契約に関連して受け取ったものであると推認すべきものであるが、本来、Y社の東京支社長としてY社の利益を最大限に図るべき立場にあるXが、単に形式的、対外的な意味で他社の名刺を所持するというだけでなく、業務委託契約の相手方である業者から定期的に定額の報酬を受け取り、実質的にも当該業者の利益のために行動するというのは、明らかにY社との関係で利益相反行為であるというべきであって、背任行為に当たるというべきである

2 また、XはA社以外の取引先業者からも金員を受領しているところ、これらも、XがY社社長に秘してY社の売上の一部を自らに還元させていたと認められるもので、このような点からも、Xが背信的な意図の下に行動していたことが窺われるところである。さらに言えば、Xの退職に当たっての行動も、明らかにY社の取引先業者を、自らが立ち上げる新規事業の取引先として丸ごと奪う意図に出た行動と理解するほかはなく、この点も、XのY社に対する背信的意図を基礎付けるものである
以上のように、XがA社から月額10万円の金員を受け取っていた行為は、Y社に対する背信行為であって、不法行為に当たると認められるところ、これらの金員については、Xが、Y社とA社との間の業務委託契約の趣旨に従い、A社の在日米軍関係の入札関連業務を誠実に履行し、Y社の利益を最大限図るべく行動していれば、Y社に帰属したはずの利益であると推認するのが相当であるから、その全額がY社の損害に当たるというべきである

3 XがY社に対し背信行為を行っており、Xがそれに関してY社社長に真摯に説明しようとしなかったことは、その限度において事実ではあるものの、X及びその家族にことさら恐怖感を与える言動をすることは許されるべきではないし、仕事上の知人に対し、Xの経済的信用を損なうことを意図して、Y社の金員を横領した旨流布することは社会通念上その相当性を逸脱した行為というべきであって、Xに対する不法行為に当たるというべきである。
Y社社長の上記言動によりXが精神的苦痛を被ったことが認められるところ、その言動の態様、それに対応するXの対応、それまでのXの行状、言動が流布した範囲等を総合考慮すれば、上記精神的苦痛に対する慰謝料としては、20万円を相当と認める。

Xが訴訟を提起したわけですが、結果として、XがY社に支払う金額のほうが大きくなってしまいました。

会社に無断で取引先から定期的にお金を受け取っている行為は、本件では、会社に対する利益相反行為であり、背信行為にあたると判断されています。

自分の立場を利用して、取引先からお金を受け取ってしまうと、このようなトラブルにつながりますので、やめましょう。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

競業避止義務15(K社ほか事件)

おはようございます。

さて、今日は、在職中の守秘・競業避止義務違反等に関する裁判例を見てみましょう。

K社ほか事件(東京地裁平成23年6月15日・労判1034号29頁)

【事案の概要】

X社は、不動産賃貸借の管理受託およびこれらのコンサルタント等を業務とする会社であり、A社の100%子会社である。

A社の100%子会社のうち、X社はオーナー物件の賃貸・建物管理業務を行い、B社が区分所有建物の建物管理業務を行っていた。

Y1は、B社の従業員であった者であり、X社に出向して建物管理事業部リフレッシュ工事部に勤務していた。

Y1は、X社に出向していた間、業務上割り当てられた電子メールアドレスから、Y1が個人で使用する電子メールアドレスに添付送信する方法によって、X社の賃貸・建物管理業務に関する情報を、社外に持ち出した。

Y2社は、平成21年7月、不動産の売買・賃貸・管理およびその仲介業ならびに入居者募集に関する一切の業務等を行う会社として設立された会社であり、Y1は、Y2社の設立に伴い、その取締役に就任し、現在もY2社において取締役営業部長として勤務している。

X社は、賃貸・建物管理業務において、1物件1担当者制ではなく、分業制を採用しており、X社が取り扱う物件のオーナーの中にはX社が1物件1担当者制ではなく、分業制を採用していることに強い不満を持つ者がいた。

Y2社は、設立当初から、1物件1担当者制を採用することをY2社のコンセプトとして標榜し、E社物件のオーナーに対して、ダイレクトメールを送付し、オーナーに電話を直接かけるなどして、営業活動を行った。

X社は、Y1及びY2社に対し、在職中、X社の業務に関する情報を守秘義務に違反して持ち出したこと、競業避止義務に違反してY2社の営業を行ったことなどを理由として、労働契約または不法行為に基づき約5500万円の損害賠償等を請求した。

【裁判所の判断】

Y1及びY2に対し、連帯して約550万円の支払を命じた。

【判例のポイント】

1 Y1は、平成21年8月まではX社の従業員としての立場を有していたというべきであるから、Y1が同年7月に設立されたY2社の取締役に就任してY2社の営業に関与したことが、従業員としての競業避止義務に違反することは明らかというべきである。

2 Y1は、従業員としての守秘義務に違反して取得した本件情報(6月分)を利用して営業活動を行ったものと一応推認できるものの、その具体的な利用態様については、Y2社がE社物件に対して営業活動をかける際、本件情報に含まれたE物件のオーナーの住所・連絡先等の情報を利用したという限度において認められる。

3 上記検討によれば、Y1は、従業員としての立場において、その守秘義務に違反して本件情報を漏洩した上、その競業避止義務に違反してY2社の営業活動に関与したものであり、さらに、不正に漏洩した本件情報を、E社物件に対する営業活動において、少なくともオーナーの住所・連絡先等を利用することにより、違法な営業活動(競業活動)を行ったというべきである。Y1による上記営業活動は、従業員であった者として負っている労働契約上の付随義務に違反するのみならず、不法行為としての違法性を有する行為であることは明らかである(そうである以上、Y2社も使用者責任を負うというべきである。)。

4 不法行為による損害の有無・額について検討するに、(1)Y2社は、E物件(合計76件)のうち49物件のオーナーに対して営業活動をかえて、その際に本件情報を利用したものと推認できること、(2)Y2社は、短期間の間に14件もの物件について契約切替に成功しているが、これは極めて高確率な営業活動であったといえること、(3)X社のE社物件のうち、Y2社が関与しない形で平成21年4月以降に契約解除に至った物件は3件であること、(4)上記(1)~(3)によれば、本件情報を用いて広範囲かつ効率的な営業活動を行ったからこそ、契約切替に至ったものであると評価できることを総合考慮すれば、Y1らの不法行為による損害の発生はこれを認めることができる

請求金額と裁判所の認容金額を比較するとわかるとおり、損害額については非常に謙抑的に判断されることが多いです。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

競業避止義務14(アフラック事件)

おはようございます。

自宅で仕事をしています。

さて、今日は、生保会社の執行役員の競業避止義務に関する裁判例を見てみましょう。

アフラック事件(東京地裁平成22年9月30日・労判1024号86頁)

【事案の概要】

Y社は、生命及び疾病保険業を営む生命保険会社であり、アメリカ合唱国に本店を置いている。Y社は、特にがん保険及び医療保険については、保険業界内においてトップシェアを占めている。

Xは、Y社の執行役員であるが、平成22年9月末にY社を退職し、同年10月付けで、A生命に就職することが予定されている。

Xに係る執行役員契約書では、契約期間は1年間とされ、競業避止義務として、「Xは、執行役員の地位及び待遇に鑑み、在職中はもちろん本執行役員契約終了後2年間、Y社の業務と競業又は類似する業務を行う他社の役員、従業員にならないこと、及び、第三者をして競業又は類似する業務を行う他社を支援してはならないことに同意する。」旨の規定がある。

Y社は、Xに対して、A生命への就職を差し止める仮処分を申し立てた。

【裁判所の判断】

競業避止条項は有効であり、競業他社の取締役、執行役、執行役員の地位への就任、営業部門の業務への従事について差止請求を認めた。

【判例のポイント】

1 本件競業避止条項に係る合意は、不利益に対しては相当な代償措置が講じられており、A生命の取締役、執行役及び執行役員の業務並びに同社の営業部門の業務に関する競業行為をXが退職した日の翌日から1年間のみ禁止するものであると解する限りにおいて、その合理性を否定することはできず、Xの職業選択の自由を不当に害するものとまではいえないから、公序良俗に反して無効であるとは認められない。

2 競業行為の差止請求は、職業選択の自由を直接制限するものであり、退職した役員又は労働者に与える不利益が大きいことに加え、損害賠償請求のように現実の損害の発生、義務違反と損害との間の因果関係を要しないため、濫用のおそれがある。よって、競業行為の差止請求は、当該競業行為により使用者が営業上の利益を現に侵害され、又は侵害される具体的なおそれがあるときに限り、認められると解するのが相当である。

3 Xは、Y社の様々な営業上の秘密を把握している上、Y社の執行役員として、商品のマーケティング戦略を立て、企業系列の大規模な保険代理店などのマーケットに働きかけ、Y社に対抗し得る商品等の提案を行って営業活動を展開すれば、医療保険やがん保険等の商品について、Y社とA生命間のシェアを塗り替えることも可能となると考えられる。かかるシェアの奪取は、必ずしもX個人が単独で行い得るものではなく、A生命のマーケティング部門、営業管理企画部門及び戦略企画部門等の会社組織が一体となって行い得るものであるが、Xが保有するY社の営業上の秘密や保険代理店との高いレベルでの人的関係を利用した場合にはその効果が一段と発揮され、A生命がY社に対して優位な地位に立つことができる。これは、XがA生命に就職した後に新たに開発される保険商品等だけでなく、既存の保険商品等を利用又は改革し、営業活動を展開することによっても可能であるといえる。
よって、Xの競業行為によって、Y社の営業上の利益を侵害される具体的なおそれがあると一応認められる。

本件では、競業避止条項に対する代償措置として、Xに対して、5年間にわたって執行役員を務めたことによる退職金として、3000万円を超える金額が渡されています。

裁判所は、この点を重視しています。

5年間で3000万円オーバーです。 すごいですね。

また、Xが執行役員というポストにいた事実も、当然、重視されています。

もっとも、もし退職金がそれほど高額でなかったら、結論が変わっていたかもしれません。

会社としては、十分な代償措置を講じるという視点を持つとよいと思います。

なお、執行役員契約書では、競業避止期間は2年間と定められていましたが、裁判所は1年間に限定しています。

さすがに2年は長いということです。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

競業避止義務13(トータルサービス事件)

おはようございます。

さて、今日は、競業避止義務に関する裁判例を見てみましょう。

トータルサービス事件(平成20年11月18日・判タ1299号216頁)

【事案の概要】

Y社は、建築物・構築物内外装の清掃・補修・保守の各事業、同各事業に関わる機械・車両・器材・塗料・洗剤の輸入・販売・リース、同各事業に関わるフランチャイズチェーン店の加盟店募集及び加盟店指導業務等を目的とする会社である。

Y社は、米国会社2社との間で、これら会社が事業化している車両外装のリペア(修復)を中心とした事業及び家具・車両内装のリペアや色替えを中心とした事業について、日本国内における独占的実施契約を締結し、上記各事業をフランチャイズ商品化して加盟店募集及び加盟店指導業務を行っている。

Xは、Y社の社員としてインストラクターの地位にあり、加盟店への技術指導及び車関連事業の直営施工を担当していたが、自ら退職した。

Xは、退職後、Y社のそれと類似の事業を自ら開業して行っていた。

これに対し、Y社は、Y社就業規則並びに在職中及び退職時にXに提出させた機密保持誓約書を根拠に、Xの行っている事業の差止めと損害賠償を求めた。

【裁判所の判断】

本件競業避止義務規定は、有効であり、2年間の事業の差止めおよび674万円の損害賠償請求を認めた。

【判例のポイント】

1 一般に、従業員が退職後に同種業務に就くことを禁止することは、退職した従業員は、在職中に得た知識・経験等を生かして新たな職に就いて生活していかざるを得ないのが通常であるから、職業選択の自由に対して大きな制約となり、退職後の生活を脅かすことにもなりかねない。したがって、形式的に競業禁止特約を結んだからといって、当然にその文言どおりの効力が認められるものではない。競業禁止によって守られる利益の性質や特約を締結した従業員の地位、代償措置の有無等を考慮し、禁止行為の範囲や禁止期間が適切に限定されているかを考慮した上で、競業避止義務が認められるか否かが決せられるというべきである。

2 ところで、このうちの競業禁止によって守られる利益が、営業秘密であることにあるのであれば、営業秘密はそれ自体保護に値するから、その他の要素に関しては比較的緩やかに解し得るといえる

3 営業秘密として保護されるには、(1)秘密管理性、(2)非公知性、(3)有用性、が必要であると解される。

4 Y社の技術は、営業秘密に準じるものとしての保護を受けられるので、競業禁止によって守られる利益は、要保護性の高いものである。そして、Xの従業員としての地位も、インストラクターとしての秘密の内容を十分に知っており、かつ、Y社が多額の営業費用や多くの手間を要して上記技術を取得させたもので、秘密を守るべき高度の義務を負うものとすることが衡平に適うといえる。また、代償措置としては、独立支援制度としてフランチャイジーとなる途があること、Xが営業していることを発見した後、Y社の担当者が、Xに対し、フランチャイジーの待遇については、相談に応じ通常よりもかなり好条件とする趣旨を述べたこと等が認められ、必ずしも代償措置として不十分とはいえない。そうすると、競業を禁止する地域や期間を限定するまでもなく、XはY社に対し競業禁止義務を負うものというべきである。

5 上記競業禁止特約が効力を認められる以上、Y社の差止請求は理由がある。しかし、その範囲は、技術の陳腐化やY社の上記技術を独占できるわけではないこと等を考慮すると、本判決確定後2年間に限られるべきである

本件は、差止めまで認められた数少ないケースです。

競業避止義務違反の判断基準は、他の裁判例と同じです。

なお、損害賠償請求についは、Y社・X間の競業禁止特約に従い、損害賠償の予定として定められた、違約金としての、フランチャイズシステムの開業資金等及びロイヤリティ相当分を基準にして、Y社が上記技術を独占できるわけではないことから、このうち7割をY社の損害として認められました。

賠償金額をどのように算定するかは、難しい問題ですので、予め損害賠償額の予定をしておくと、便利ですね。

どのような損害賠償の予定を定めておくべきかは、顧問弁護士に相談してみてください。

競業避止義務12(フューチャーアーキテクト事件)

おはようございます。

さて、今日は、競業避止義務に関する裁判例を見てみましょう。

フューチャーアーキテクト事件(東京地裁平成21年1月19日・判時2049号135頁)

【事案の概要】

Y社は、企業経営・情報システムのコンサルティング業務、情報システムの設計・開発等を業とする会社である。

Xは、Y社に従業員として雇用されたが、約5年後、Y社から懲戒解雇された。

Y社とXとの間には、機密保持契約が締結されており、Xは、同契約に基づき、Y社の事業と競合し又はY社の利益と相反するいかなる事業活動にも従事、投資又は支援しない義務を負っていた。

Xは、Y社との雇用契約上の競業避止義務に違反して、Y社在職中に、Y社と競合するA社に出資し、その後、A社が株式会社に組織変更された際に株主となり、その後、A社の代表取締役に就任した。

A社は、Y社の顧客Z社から継続的に業務を請け負った。

Y社は、これにより、Y社がZ社から業務を受注する機会を喪失させたと主張し、Xに対し、損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

本件競業避止義務に関する合意は、有効である。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社在職中、A社に出資し、その後、A社が株主会社に組織変更された際にはA社の株主となり、その後、A社の代表取締役に就任し、現在も、発行済み株式200株のうち10株を保有していること、加えて、Y社は、企業経営・情報システムのコンサルティング業務、情報システムの設計・開発等を業とする会社であること、A社は、Y社からABプロジェクトの業務の一部を受託するなどY社との取引関係を有していたこと、A社は、本件各取引により、ソフトウェアプログラムの開発業務やシステムのメンテナンス業務を請け負っていたこと、Y社は、ABプロジェクト以外において開発したシステムのメンテナンス業務を請け負うこともあったことからすれば、A社は、Y社の事業と競合し、Y社の利益と相反する事業活動を行っていたものであって、Xは、A社の事業活動に従事し、A社に等し、支援していたと認められる。
そうすると、Xは、Y社の事業と競合し、Y社の利益と相反する事業活動に従事し、投資、支援したものと認められ、本件競業避止義務に違反したものというべきである

2 Xの本件競業避止義務違反の結果、Y社が本件各取引をZ社から受注する機械を喪失したと認めることはできないから、Y社のXに対する競業避止義務違反に基づく損害賠償請求は、理由がない

本件は、在職中の従業員の競業避止義務違反が問題となっています。

競業避止義務違反であることについては、あまり異論がないところだと思います。

本件のポイントは、競業避止義務違反を認めつつも、損害の立証がないとして、その部分についてのY社の請求を棄却した点です。
(なお、本件は、別の理由で、Xに対し、約880万円の支払いを命じています。)

競業避止義務違反による損害賠償請求は、その損害の立証が困難です。

会社側としては、この裁判例を参考にし、事前に適切な対策をとるべきです。

対策方法については、顧問弁護士に質問してみてください。

競業避止義務違反が認められたけれど、損害賠償請求は棄却された、では意味がありません。

競業避止義務11(エックスヴィン(ありがとうサービス)事件)

おはようございます。

さて、今日は、競業避止義務に関する裁判例を見てみましょう。

エックスヴィン(ありがとうサービス)事件(大阪地裁平成22年1月25日・労判1012号74頁)

【事案の概要】

Y社は、フランチャイズチェーンシステムによる飲食店業の加盟店の募集及び加盟店の経営指導等を行う株式会社である。

Y社は、高齢者向け宅配弁当の業界で有力な企業であり、全国に約330店舗を展開している。

Xは、Y社との間で弁当宅配に関するフランチャイズ契約を締結していた者である。

Xは、本件フランチャイズ契約を締結する以前に弁当宅配事業を営んでいた経験はない。

本件フランチャイズ契約には、責任地域に関して、「Y社は、Xがフランチャイズ営業を行う地域を岡崎市エリアと定め、この地域においては、他の同一業態によるフランチャイズ営業を認めないものとする」との規定があり、競業避止義務に関して、「Xはフランチャイジーの権利をそうしたした後は、Y社と同一若しくは類似の商標ないしサービスマークを使用し、あるいは宅配クックワン・ツゥー・スリーフランチャイズシステムと同一若しくは類似の経営システムないし営業の形態・施設を持って3年間は事業をしてはならない」「競業避止義務に違反した場合、解除日直近の12ヶ月間・・・の店舗経営の実績に基づく平均月間営業総売上・・・に対し、本部ロイヤリティー相当額の36ヶ月分を支払う」との規定があった。

その後、本件フランチャイズ契約は、期間満了により終了した。

しかし、Xは、その後も、同一場所において、屋号のみ「ありがとうサービス」に変更して、弁当宅配業を継続している。

Y社は、Xらに対し、営業差止め、損害賠償の請求をした。

【裁判所の判断】

本件競業避止義務規定は、有効であり、営業の差止めおよび914万余円の損害賠償請求を認めた。

【判例のポイント】

1 XはY社の展開するフランチャイズ事業に対する信頼・評価を基に宣伝・広報活動等を行い、顧客を獲得することができたこと、Xは本件フランチャイズ契約の締結以前に弁当宅配事業を営んだ経験がなく、Y社のフランチャイズシステムなくして容易に事業に参入できたとは考え難いこと、Y社がXの責任地域(岡崎市エリア)において他の同一業態によるフランチャイズ営業を認めないことで、Xは岡崎市内においてY社のフランチャイズシステムを利用した高齢者向けの弁当宅配事業を独占的に展開することができたことなどからすれば、本件競業避止義務規定は、XがY社のフランチャイズシステムを利用して獲得・形成した顧客・商圏をそのまま流用することを防止し、Y社のフランチャイズシステムの顧客・商圏を保全する意義を持つもので、合理性を有する

2 また、Y社は、メニューの内容や安否確認サービスなどにより、他の業者との差別化に意を用いており、Xはこのような具体的な工夫をそのまま利用することができたもので、本件の競業避止義務規定は、XがY社の有する高齢者宅配弁当事業のノウハウをそのまま流用することを防止し、営業秘密を保持する意義を持つものであり、この点からも合理性を有する。

3 他方、Xが被る営業の自由の制約等の不利益については、本件競業避止義務規定が、期間を契約終了後3年間とし、対象営業を同種の弁当宅配業等に限定していること、Y社は本件訴訟において、営業差止めの対象地域を岡崎市内に限定していることからすれば、Xの被る営業の自由の制約等の不利益は、相当程度緩和されている。したがって、本件の競業避止義務規定は、Xの営業の自由等を過度に制約するものとはいえず、公序良俗に違反し無効であるとはいえない

このケースでは、裁判所は競業避止義務規定の効力を認めました。

基本的には、競業避止義務規定の趣旨目的の合理性およびXが被る不利益の程度を総合的に検討するという判断基準です。

とても参考になりますね。

やはり事前に顧問弁護士に相談し、対策を講じることが大切ですね。

競業避止義務10(消防試験協会事件)

おはようございます。

さて、今日は、競業避止義務に関する裁判例を見てみましょう。

消防試験協会事件(東京地裁平成15年10月17日・労経速報1861号14頁)

【事案の概要】

Y社は、消防用設備等の試験検査等を目的とする会社である。

Xは、Y社に入社し、10年程勤務し、自己都合で退社した。

Y社の就業規則には、競業避止義務(退職後2年間)、機密保持義務に関する規定がある。

また、Xは、Y社に対し、退職直後に、誓約書を提出している。

誓約書の内容は、退職後5年間の競業避止義務が記載されている。

Xは、Y社退職後、約1ヶ月後に、A社を設立し、A社の取締役となった。

A社は、建物の消火設備についてのコンサルタント業務等を目的とする会社である。

Y社は、X及びA社に対し、第一時的には債務不履行、第二次的には、共同不法行為による損害賠償及び競業行為の差止めを求めた。

【裁判所の判断】

本件競業避止義務に関する合意は、公序良俗に反し無効である。

【判例のポイント】

1 本件特約は、退職後のXに対し、事後の職業選択の自由を制約する内容のものである。これに対し、Xにとっては本件特約の見返りとなるものは何もない。そうすると、本件特約は、既に退職したXに対し、Y社が新たに一方的な義務をおわせるものにほかならないところ、本件において、Xが上記のような内容の本件誓約書を真実その自由意思に基づいて作成したとみられるような状況はなく、かえって、Y社が退職金請求に必要な書類等を交付する条件と精神に照らすと、そのようにして作成された本件誓約書に法的効力を認めることはできないと解するのが相当である
したがって、本件誓約書を根拠にXが原告に対し、競業避止義務を負うということはできない。

2 就業規則改訂による退職後2年間の競業避止条項新設につき、改訂およびその内容をXを含む従業員らに示して同意を得たことを認める証拠はなく、それが合理的なものと評価しうる事情の必要を肯定できる事実関係は認められない。

3 契約に基づく競業避止義務が否定される場合であっても、社会通念上相当とされる自由競争の枠を超え、不正な手段・方法・態様等によって競業を行うなどし、同業他社の営業活動その他の権利を侵害ないし妨害した場合は、その行為者に不法行為が成立する余地がある。しかし、Xらの行為は、自由競争社会において当然容認される経済活動の範囲を逸脱するものとはいえず、その他本件において、Xらに違法な行為があったことを認めるに足りる証拠はない。

退職金の支払いと誓約書の支払いがリンクしていて、会社から「誓約書を出してもらえないなら退職金を支払わない」という形になっている場合には無効になる可能性があるということです。

会社としては、注意しなければいけません。

なお、退職金制度に、競業の場合に減額、あるいは不支給にするという制度を設けておくことで、実質的に退職後の競業避止を抑止する効果を得ることができます。

具体的な制度設計については顧問弁護士に相談しながら検討しましょう。

競業避止義務9(プロジェクトマネジメント事件)

おはようございます。

さて、今日は、競業避止義務に関する裁判例を見てみましょう。

プロジェクトマネジメント事件(東京地裁平成18年5月24日・判タ1229号256頁)

【事案の概要】

Y社は、企業、団体、個人に対してプロジェクトマネジメント(PM)に関する講座を提供することを主な業務とする会社である。

Xは、Y社に入社し、PM研修の講師と顧客に対する営業活動に従事していたが、その後、退職した。

Xは、Y社入社にあたり、雇用契約書を取り交わした。

雇用契約書には、秘密保持義務、競業禁止等が記載されている。

Xは、Y社退職時、競業禁止について約束したことを暗黙の前提にしながら、「わたしも生きていかなくちゃいけないので。」と述べ、Y社と競業する仕事に就くこともありうることを臭わす発言をした。

そこで、Y社は、Xに対し、Y社におけるPMの教育業務に関する教材及びその電子データの全部又は一部を第三者に開示及び提供してはならないこと、雇用契約に記載されている競業禁止の合意に基づき、退社から2年間、PMの教育業務及びコンサルティング業務に関する自己又は第三者の営業又は勧誘のために、Y社の顧客に対し接触してはならない、自ら又は第三者のためにPMの教育業務及びコンサルティング業務をしてはならないなどの仮の差止めを求めた。

Xは、競業禁止合意が公序良俗に違反し無効である等と主張し争った。

【裁判所の判断】

本件の競業禁止に関する合意は公序良俗に違反せず有効である。

【判例のポイント】

1 会社が、労働者を雇用するに際し、、比較的高度な情報に接する部署に勤務させる労働者との間で、退職後の競業を禁止する旨の合意をすることは世上よく見られる出来事である。このような競業禁止条項を締結する目的は、当該労働者が退職後に会社の顧客を奪うことを防止する点に狙いがあり、利益を追求することを目的とする会社にとっては、必要な防衛手段といえよう。しかし、競業禁止条項を設けることは、労働者の職業選択の自由を奪うことにつながることから、競業禁止条項を無制限に認めることはできず、無制限に認める競業禁止条項は、公序良俗に反し無効というべきである。結局、競業禁止条項が合理的な内容であれば、その範囲内でかかる条項の内容は有効と考えるのが相当であり、また、合理的内容であるか否かを判断するに当たっては、(1)競業禁止条項制定の目的、(2)労働者の従前の地位、(3)競業禁止の期間、地域、職種、(4)競業禁止に対する代償措置等を総合的に考慮し、労働者の職業選択の自由を不当に制約する結果となっているかどうか等に照らし判断するのが相当と考える。

2 競業禁止条項制定の目的は、Y社の教材等の内容やノウハウを保持し、他の競業業者の手に渡らないようにすることにあり、正当な目的であると評価できる。

3 XはY社入社前にはPMの教育業務及びコンサルティング業務に従事した経験がなく、また、当該業務のノウハウを持っておらず、退職後2年間Y社において身につけたPMの前記業務を行うことを制限することには合理的理由があり、Xの職業選択の自由を不当に制限す結果になっているとまでは言い難い。

4 競業禁止期間はY社退職後2年間であり、同業他社も同様の規定を設けており、期間が長期間でXに酷に過ぎるとまでは言い難い。

5 営業・勧誘活動を行ってはならない対象となる顧客は、これまでY社の研修を受けるなど既に取引関係が形成されている会社を指し、そうだとすると、対象範囲が余りに広すぎるとはいえない。

6 XがY社から支給された報酬の一部には退職後の競業禁止に対する代償も含まれているといえる。

本件は、競業の差止めを認める珍しいケースです。

具体的な代償措置は講じられていませんでしたが、Xの給料が約1500万円と高額であったため、その中に代償措置分も含まれていると解釈されています。

判決理由を読むと、差止めが認められた理由がよくわかります。

訴訟の是非を含め、日頃から顧問弁護士に相談しながら対応することが大切です。

競業避止義務8(新日本科学事件)

おはようございます。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、競業避止義務に関する裁判例を見てみましょう。

新日本科学事件(大阪地裁平成15年1月22日・労判846号39頁)

【事案の概要】

Y社は、医薬、農薬、食品、化粧品などの開発研究のための薬理試験、一般毒性試験などの実施を業とする会社で、製薬会社等から医薬品等の開発業務を受託する開発業務受託機関(CRO)として医薬品等の治験を行っている。

Xは、薬科大学を卒業し、薬剤師の資格取得後いくつかの製薬会社に勤務し、その後、Y社に入社したが、入社後2年弱で退職した。

Xは、Y社入社時には、競業避止義務の契約書および誓約書を、退職時には、同内容の合意書を提出した。

内容は、退職後1年以内は、Y社およびY社グループと競業関係にある会社に就職せず、これに反した場合は損害賠償義務を負うというものであった。

なお、Xには、Y社から秘密保持手当として月額4000円が支給されていた。

Xは、Y社を退職した翌日、Y社と同業のA社に入社し、新薬の開発に関する治験の実施およびモニタリング業務に従事するようになった。

Y社は、X及びA社に対し、競業行為の中止を求める内容証明郵便を送付した。

Xは、本件の競業避止義務に関する合意は、公序良俗に反して無効であるとして裁判を起こした。

【裁判所の判断】

本件の競業避止義務に関する合意は、公序良俗に反し無効である。

【判例のポイント】

1 従業員の退職後の競業避止義務を定める特約は従業員の再就職を妨げその生計の手段を制限してその生活を困難にするおそれがあるとともに、職業選択の自由に制約を課すものであるところ、一般に労働者はその立場上使用者の要求を受け入れてこのような特約を締結せざるを得ない状況にあることにかんがみると、このような特約は、これによって守られるべき使用者の利益、これによって生じる従業員の不利益の内容及び程度並びに代償措置の有無及びその内容等を総合考慮し、その制限が必要か合理的な範囲を超える場合には、公序良俗に反し無効であると解するのが相当である

2 Xが従事した治験の実施に関するノウハウについては、CROによって手続が異なるということはなく、また、Y社独自のノウハウといえるものはなかった

3 XはY社に入社したばかりで、新GCP(厚労省令の「医薬品臨床試験の実施基準」)に従った治験手続に参加した経験はなく、それぞれの治験薬ないし治験手続についてのすべての知識やノウハウを得ることができる地位にあったとはいえず秘密保持義務と競業避止義務とを課すことにより担保する必要性は低い

4 Xは、大学卒業以降Y社を退職するまでの約17年5カ月間の職業生活のうち12年近くの期間にわたって新薬の臨床開発業務に従事し、治験のモニター業務を行ってきたことに照らすとXの再就職を著しく妨げるものである

5 Xが受ける不利益が、競業避止義務によって守ろうとするY社の利益よりも極めて大きく、Xには在職中月額4000円の秘密保持手当が支払われていただけで退職金その他の代償措置は何らとられていない

6 これらの事情に鑑みると、XがY社を退職する際にした競業避止義務に関する合意は、競業回避義務の期間が1年間にとどまることを考慮しても、その制限は必要かつ合理的な範囲を超えるものであり、公序良俗に反して無効である。

妥当な結論だと思います。

総合考慮により、結論が決まるので、会社としては、「競業避止義務違反だから損害賠償請求」という形式的な判断は避けなければいけません。

競業避止義務違反に関する裁判の場合、「会社独自のノウハウや企業秘密の存否」については会社・従業員ともに十分に検討する必要があります。

競業避止義務を課す必要性に大きく関わってきます。

なお、このケースは、XがY社に対し、競業避止義務不存在確認請求をしたものです。

確認の利益の有無について争点となったのですが、この点について裁判所は以下のとおり判断しました。

Y社は、Xに対して未だ損害賠償を請求しておらず、また請求する予定もないから本件の訴えには確認の利益はないと主張するが、Y社はXおよびA社い対し競業行為の中止を求めたこと、および本件において「請求棄却の判決を求めるとともに、将来、本件訴訟の対象となっている損害賠償義務の存在を前提としてXにその履行を求める可能性があることを示唆しているから、本件の訴えには確認の利益がある

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。