競業避止義務19(第一紙業事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、競業避止義務違反を理由とする元従業員への損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

第一紙業事件(東京地裁平成28年1月15日・労経速2276号12頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、Y社の従業員であるAにおいて、Y社が実施した早期退職制度に応募して退職した後に、在職中及び退職後の競業避止義務に違反して競業行為を行ったことが発覚したと主張し、Aが在職中に競業行為を行い、あるいは退職後に競業行為を行う意図があることをY社に秘匿して退職給付を受けたことが不法行為に当たると主張して、不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき、退職給付相当額及び弁護士費用の損害金+遅延損害金の支払を求めるとともに、選択的に、Aが在職中及び退職後に競業行為を行うという早期退職制度の適用除外事由又はY社の退職金規程上の不支給事由があるにもかかわらず退職給付を受けたことが不当利得に当たると主張して、不当利得に基づく利得金返還請求権に基づき、退職給付相当額等の利得金及び利息の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

AはY社に対し、1157万1805円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Y社就業規則18条9号のうち在職中の競業避止義務を定める部分は、雇用契約に付随する義務としてその合理性が認められるから有効である。・・・他方で、Y社就業規則18条9号のうち退職後の競業避止義務を定める部分及び本件競業避止義務条項の効力を判断するに際しては、①使用者の利益(競業制限の目的)、②退職者の従前の地位、③競業制限範囲の妥当性、④代償措置の有無、内容から検討すべきである。

2 ・・・Y社は、本件商品に関する技術上の秘密、ノウハウ等を維持することを目的として、Aに対して退職後の競業避止義務を課したものと認められ、そのようなY社の利益(競業制限の目的)は、保護されるべきものであるといえる(①)。
また、AがY社における特命担当として、本件商品の開発に従事し、本件商品に関する技術上の秘密、ノウハウ等を最もよく知る立場にあり、相応の営業能力を備えていたことが認められることからすると、上記のY社の利益を保護するために、Aに対し退職後の競業避止義務を課す必要が高いものであったというべきである(②)。
そして、同条項において、競業行為が「機密情報や業務上知り得た特別な知識を利用した競業的行為」と一応限定されていることが認められ、その他の範囲についても合理的に限定し得るものであり(③)、本件早期退職制度の適用を受けたAに対し、同制度に基づき、通常退職金に加えて、割増退職金の支払等3000万円余りの優遇措置が付与されたことが認められ、Aに付与された優遇措置には、退職後の競業制限に対する代償措置の性格が含まれているものと評価することができる。

3 本件早期退職制度において、Y社が本件早期退職制度の応募者に適用除外事由がないものと信頼しているか否かは措くとして、本件早期退職制度における適用除外事由が背信的行為を行った応募者に対し、同制度上の優遇措置を享受させるべきでないとの趣旨から定められており、そのような趣旨からすると、本件早期退職制度の適用決定がされた応募者について、背信的行為が発覚した場合に、Y社がその適用を撤回することも制度上予定されているものと解されることを勘案すると、応募者の適用除外事由の有無は、Y社が調査すべきものであると解するのが相当である。加えて、応募者に適用除外事由の自己申告を期待することは不可能である。
そうすると、本件の事実関係において、本件早期退職制度の応募者が、自らに適用除外事由がある場合に、信義則上、Y社に対し、その旨を告知すべき義務を負っていると認めることはできないというべきである。

本件においては、裁判所はAの行為は不法行為に該当しないと判断しています(不当利得返還請求を認めた)。

競業避止義務をめぐる訴訟では、会社側の主張を認めてもらうのはとても大変ですが、本件では請求内容が割増退職金の返還ということもあり、一部認容してくれました。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。