Daily Archives: 2016年6月9日

解雇204(Y社事件)

おはようございます。

今日は、痴漢行為を理由とする諭旨解雇処分が無効とされた裁判例を見てみましょう。

Y社事件(東京地裁平成27年12月25日・労経速2273号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結したXが、XはY社から懲戒処分である諭旨解雇処分を受け、平成26年4月25日付けでY社を解雇されたところ、本件処分は無効である旨を主張して、Y社に対し、Xが本件契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め、あわせて、本件契約に基づき、上記平成26年4月25日の翌日以降の各賃金+遅延損害金の支払を請求した事案である。

【裁判所の判断】

諭旨解雇処分は無効

【判例のポイント】

1 従業員の私生活上の非行であっても、会社の企業秩序に直接の関連を有するもの及び企業の社会的評価の毀損をもたらすと客観的に認められるものについては、企業秩序維持のための懲戒の対象となり得るものというべきである
Y社は、他の鉄道会社と同様、本件行為の当時、痴漢行為の撲滅に向けた取組を積極的に行っており、また、Xは、Xが、本件行為を行った当時、Y社の駅係員として勤務していたというのである。これらの点に照らせば、本件行為は、Y社の企業秩序に直接の関連を有するものであり、かつ、Y社の社会的評価の毀損をもたらすものというべきである
したがって、本件行為は、Y社における懲戒の対象となるべきものというべきである。

2 ・・・本件行為ないし本件行為に係る刑事手続についてマスコミによる報道がされたことはなく、その他本件行為が社会的に周知されることはなかったというのである。また、本件行為に関し、Y社がY社の社外から苦情を受けたといった事実を認めるに足りる証拠も見当たらない。
以上にかんがみれば、本件行為がY社の企業秩序に対して与えた具体的な悪影響の程度は、大きなものではなかったというべきである。

3 Xが本件においてXに対する処分が決定する具体的な手続が進行していることを知らされず、このような中でXが同手続において弁明の機会を与えられなかったことについては、本件処分に至る手続に不適切ないし不十分な点があったものといわざるを得ない。この点に、本件行為はXを諭旨解雇処分とするに十分な事実とはいい難いことを合わせ考えれば、本件処分の手続の相当性には看過し難い疑義があるものというべきである。

4 自らに対する懲戒手続が進行している最中であることを具体的に認識して行う弁明と、これを具体的に認識しないで行う弁明とでは、弁明を行う者の対応等にもおのずと差違が生じ得るものというべきである・・・。以上にかんがみれば、Y社の指摘する上記事実をもって、Xに対する本件行為に係る弁明の機会が十分に与えられていたとはいい難い

懲戒処分の内容が重すぎる、手続が不十分だということです。

従業員の私生活上の非違行為に対して懲戒処分を行う際、処分内容を判断するのは本当に難しいです。

「裁判所は労働者に甘いな~」と感じる方もいると思いますが、そのようなときは、そもそも懲戒処分が使用者に認められる趣旨を考えるといいと思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。