Daily Archives: 2016年6月17日

解雇206(日本放送協会事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、アナウンス業務等の担当者に対する業務委託契約の解除が無効とされた裁判例を見てみましょう。

日本放送協会事件(東京地裁平成27年11月16日・労経速2274号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社によるフランス語のラジオ放送においてアナウンス業務等を担当していたXが、主位的に、Y社との間で労働契約を締結していたところ、東日本大震災に際して業務を行わなかったことを理由に不当に解雇されたと主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに(請求1)、上記労働契約及び不法行為責任に基づき、賃金及び損害賠償金の支払を求め(請求2、3)、予備的に、Y社との間の契約が業務委託契約であったとしても、その解除及び更新拒絶は無効であるとして、上記業務委託契約及び不法行為責任に基づき、業務委託料及び損害賠償金の支払を求めた(請求2、3)事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、514万3100円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xがその業務遂行の方法等についてY社の指示・指導等を受けていたとは認められず、Xは、依頼された業務を第三者に再依頼することも許されており、また、就業する際の時間的・場所的拘束の程度も緩やかであったことからすれば、XがY社の指揮監督下で労務を提供していたとはいえない
報酬の支払方法や公租公課の負担等をみても、Xが労働基準法、労働契約法上の労働者であることの根拠となる事情は見当たらず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって、本件契約は労働契約とは認められず、前記業務の内容や業務遂行方法等におけるXの独立性の強さに照らすと、本件契約は、準委任契約としての性格を有する業務委託契約と解するのが相当である。

2 平成23年3月15日は、同月11日に福島第一原発事故が起き、いまだ事態は収束の様相を見せておらず、東日本在住の多くの者が不安を感じながら日々の暮らしを送っていたことは公知の事実に属するともいえ、駐日フランス大使館のように、日本に在留する自国民に対し国外等への避難を勧める国も少なくなく、実際に多数の在日外国人が国外へ避難していたことは証拠のとおりであって、そのような折に、Xが、Y社から受託していた業務より生命・身体の安全等を優先して国外へ避難したとしても、そのこと自体は強く責められるものではない
Xの他に少なくともフランス語担当者6名が国外等に避難し、その間Y社の業務に就かなかったところ、これらの6名のうち、Y社が契約を解除し、又は次年度の契約を締結しなかった者はいないのであって、Xが福島第一原発事故による影響等を考慮して同月15日に避難したことを捉えて、「本業務の実施内容が不十分又は不完全であり、改善の見込みがない」(本件契約書16条3項1号)又は「その他本件契約を継続し難い事由が生じた」(同条項5号)に当たるものと解するのは均衡を欠き相当でない。

3 Xが連絡した時刻が業務開始予定の直前であるという点も、当時、上記のような混乱した状況下であったことに照らすとやむを得ないところがある上、前記のとおり、Xは、Y社に連絡をする前にDに代役を依頼するなど、自分が当日の業務に就かないことについて一定の手当てをしたといえるのであって、Dが当時ニュース放送のアナウンス業務を担当していなかったことからすればXの代役として適役とはいえないものの、Y社の業務に与える影響を小さなものとするよう一定の配慮をしたと評し得るものである。
しかも、Xは、Bにかけた電話の中で、当日出局できないが、Dに代役を依頼したことを伝えたところ、Bから、「分かりました。」とだけ伝えられて電話が終わり、その後もY社から出局要請等を受けなかったことからすれば、こうしたY社側の応答を受けたXとしては、当日の申出がY社に了承されたものと考えたとしても無理からぬところがある。
こうした経緯を踏まえれば、連絡の時期等を含むXの対応は万全なものではないにせよ、無責任であるとして非難するのも酷なところがあるのであって、やはり上記解除事由に当たるとはいえないというべきである。

4 Y社は、公共放送・国際放送の重要性、取り分け東日本大震災が発生したような緊急時におけるその役割の大きさを強調し、Xが長年Y社の業務を続け、その重要性を認識しながら、突然職務を放棄したのは無責任であって、X・Y社間の信頼関係は完全に破壊されたとも主張する。
なるほど、緊急時の海外向け・フランス語聴取者向けの情報発信が極めて重要な役割を担っていることを否定するものではないが、東日本大震災及び福島第一原発事故発生当時の状況に照らすと、生命・身体の安全を危惧して国外等への避難を決断した者について、結果的に危険が生じなかったとしても、その態度を無責任であるとして非難することなど到底できない。
国際放送の重要性に思いを致し不安の中で職務を全うした者は大きな賞賛をもって報いられるべきであるが、そうした職務に対する過度の忠誠を契約上義務付けることはできないというべきである

会社としては難しい判断だったと思いますが、結論としては裁判所の判断に賛成です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。