競業避止義務26 在職中の競業行為等が違法と判断される場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、在職中の競業行為等が自由競争の範囲を逸脱し違法とされた事案を見てみましょう。

Z社事件(名古屋地裁令和3年1月14日・労経速2443号15頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、Y社の幹部従業員であったXが在職中に別会社を設立し、平成31年2月1日には主要な取引先3社をしてY社との契約関係を終了させると同時に部下従業員とともに一斉にY社に退職届を提出した上で、当該別会社で競業行為に及んだことは労働契約上の誠実義務違反という債務不履行又は不法行為に該当すると主張して、Xに対し、損害賠償として、当該取引先3社との取引から得られたはずの逸失利益9億円+遅延損害金の支払を求めた事案であり、本判決は、その請求の原因に理由があるか否かについて判断を示すものである。

【裁判所の判断】

本訴の請求の原因は理由がある。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社の従業員であって名古屋支店長であったところ、本件暴行事件を直接の契機としてY社に対して不満を抱くようになり、平成30年12月10日、Y社からの独立を企図して、Y社の従業員でありながらY社とその目的が重複するQ2社を設立してその代表取締役に就任し、競業行為の準備を行う一方、Y社の取引先に対してY社が刑事告発を受けている旨を伝え、特にY社に大きな利益をもたらしてきた提携先3社に対し、自らが設立して代表取締役に就任しているQ2社との間で日本における取引を継続させることを前提として、平成31年2月1日のほぼ同一時刻をもって一斉にY社との契約を解除するよう働きかけてこれを成功させ、名古屋支店の部下全員に当たるP4及びP5に対し、Q2社との間で労働契約を締結することを前提として、同日のほぼ同一時刻に同月15日をもって退職する旨の退職届を一斉に提出するように働きかけてこれも成功させたばかりか、名古屋支店のサーバーや貸与パソコンに記録されていたY社の取引関係に関わる情報を削除して復旧不可能に初期化し、顧客名刺を持ち去るなどして名古屋支店の機能を喪失させたものであり、Y社退職後には、Q2社代表取締役として、ただちにP4及びP5を雇用したばかりか、Y社から奪取した取引先である提携先3社との取引を開始し、Y社在職中にY社従業員として提携先3社に依頼した見積もりの回答を、提出期限である同月28日までに第2補給処に対して提出したものと認められる。

2 Xは、Y社との間で労働契約を締結していたのであるから、当該労働契約に付随する信義則上の義務として、その存続中において使用者であるY社の利益に著しく反する行為を差し控える義務を負っていたものであるところ、上記事実のうちY社退職前の行為は、Xが代表取締役を務めるQ2社による競業行為及びその準備行為にほかならず、Y社の利益に著しく反するものであって、Y社の就業規則3条、4条1項1号、3号、5号、6号及び8号並びに39条に違反することが明らかである。
また、Y社からの退職前後を通じたXの上記行為は、Y社における地位を利用して、取引上の信義に反する大洋でY社の事業活動を積極的に妨害したものというほかなく、これを正当化すべき理由が見当たらない以上、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な行為であって、不法行為を構成するものというべきである。

退職のきっかけはさておき、その後の態様は、法律上許容される範囲を大きく逸脱していると評価されてもしかたないものと思われます。

問題は、この先の損害論ですね。裁判所は損害額については謙抑的に判断する傾向にありますので注意が必要です。

原告、被告ともに顧問弁護士に相談の上、日頃から適切に労務管理をすることが求められます。