Daily Archives: 2021年7月9日

競業避止義務27 在職中の競業避止義務違反と即時解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、競業避止義務違反が疑われる従業員に対する即時解雇に関する裁判例を見てみましょう。

東京現代事件(東京地裁平成31年3月8日・労判1237号100頁)

【事案の概要】

本件は、コンピューターのソフトウェア及びハードウェア製品の製造、販売、輸出入、プログラマーやシステムエンジニアの派遣業務等を行う株式会社であるY社の従業員であったXが、平成29年6月29日に業績不良を理由として即時解雇されたことについて、解雇事由が存在せず、解雇権の濫用として無効であるとして、Y社に対し、労働契約に基づく地位の確認、解雇通知日である平成29年6月29日から解雇予告期間である30日の経過後である同年7月29日までの賃金28万6352円、不法行為に基づく損害賠償等として合計632万9612円(内訳:慰謝料及び逸失利益として合計575万4193円,弁護士費用57万5419円)の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、28万6352円+遅延損害金を支払え。

Xのその余の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 本件解雇が有効であるとしても、本件解雇は、解雇予告期間をおかず、また解雇時に解雇予告手当の支払をしないままであり、労働基準法20条に違反しているが、Y社が即時解雇に固執する趣旨でない限り、通知後に労働基準法20条所定の30日間の期間を経過するか、又は通知後に解雇予告手当の支払をした時のいずれの時から解雇の効力を生じると解される。本件では、Y社に即時解雇への固執はうかがわれないが、本件解雇後に解雇予告手当を支払っていないから、本件解雇通知後30日経過した時点で解雇の効力が発生することになる。

2 Xは、Y社に在職中、その勤務時間を含め、同業者であるa社の取締役又は業務委託の受託者として、a社の業務に従事し、しかも、Y社の親会社の会長が来訪する際にはa社の話を控えるなどして、a社としての活動を秘していたことが認められる。そして、Xがa社の業務に従事することにつき、当時のY社の代表取締役であるBは、a社の代表取締役でもあったことから、知っていたとはいえるが、それをもって被告がXの副業を許可していたとは認めがたい。したがって、Xは、会社の許可なくして他の会社の役員となり、また、Xの労働の報酬として金銭を受け取っており、就業規則第2章2条24号に反しているといえる。また、Xがa社の業務に関してY社のパソコンやメールアドレスを使用していたことが認められるところ、Xはa社の業務をY社の設備・備品を使用して行っていたから、これは、就業規則第2章2条6号に反するといえる。

3 Y社は、本件解雇時には、Xがa社の取締役だったことや同社の業務に関し報酬を受け取っていたことを知らなかったところ、本訴訟になって、兼業禁止に反したことを解雇事由として主張しているが、兼業禁止に反した事実それ自体は、本件解雇時に存在したものであって、解雇権濫用の評価障害事実として主張することは可能である。また、Y社が、本訴訟以前の労働審判において明らかにした解雇事由は整理解雇であるが、その主張は要するにY社の営業上赤字が続いたことにより、営業実績に比して給料が高額である営業部の廃止をしたとするものであるところ、このように営業実績が上がらない原因の一つには、唯一の営業部員であるXがa社の業務を行い、Y社の業務に専念していないことが影響していることは否定できない。そうすると、本件解雇時に、Y社が、兼業禁止違反の事実について認識していなかったとしても、その後の訴訟において、同事実を主張することは許されてしかるべきである。

4 Xは、弁論終結後に提出した書面において、服務規律違反である兼業禁止は就業規則上解雇事由と定められていないから、兼業禁止を理由に解雇することは認められないと主張する。しかしながら、Y社の就業規則の定めからは就業規則上に規定された解雇事由が限定列挙の趣旨であると解することはできず、例示列挙にすぎないと認められるから、Xの主張は採用しない

5 以上によれば、本件解雇は、Xに就業規則第2章2条6号及び24号に定められた兼業禁止違反に該当する事実が認められ、解雇の客観的合理的な理由があり、しかも、兼業の内容が就業時間に競業他社の業務を行うだけでなく、Y社の業務で知り得た情報を利用するというY社への背信的行為であるという内容に照らせば、本件解雇は社会通念上も相当なものである。

上記判例のポイント1は、基本知識ですのでしっかり押さえておきましょう。

本件のように、在籍中の競業避止義務違反の事案は、退職後のそれと比べて、違法と判断されることが可能性が格段に高いので注意しましょう(当たり前ですが)。

従業員の競業避止義務違反に対する対応については事前にしっかり顧問弁護士に相談をしましょう。